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戸惑いの初夜
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部屋の片隅には、披露宴会場に届けられたお祝いの花や品物が並べられ、大きな3つの袋の中には祝電がぎっしりと詰まっていた。
挙式や披露宴の際に持ち込んだ私物や披露宴の為に購入した物や余った引出物等は凛子に引き取ってもらったが、これらのお祝いの品は新婚旅行に行く前に全て目を通しておきたいからと、運んでもらっていたのだ。
浴室へ向かう美姫の足が、胡蝶蘭の鉢植えを見て止まった。視線の先が、そこから祝電の入った紙袋へと向けられる。
確かめる、だけ......
紙袋からごっそり祝電を出し、素早くひとつひとつ確認する。
どこ......どこなの?
大量の祝電からたった一つを探すのは困難で、一つの袋が終わると次の袋へ、美姫は焦りながら次々に手を伸ばしていった。最後の袋に手をつけてもまだ見つからず、紙袋にある残りの祝電を絨毯の上にぶち撒けた。
残り少なくなった祝電の束から、鶴と亀の刺繍がほどこされた金糸と銀糸の祝電を手に取り、開く。
あった......!
メッセージの下に「来栖秀一」の文字を見つけた。
そこには、長岡が読み上げたのと一言一句違わぬ言葉が印字されていた。秀一本人からのものであると示すようなものは、どこにも見当たらない。
分かってた、ことなのに。
祝電を確認したって、秀一さんからのものなのかなんて、分からないってことは。
それでも、確かめずにいられなかった......
美姫は、もう一度祝電の文章に目を通した。
『ご結婚おめでとうございます。
ザルツブルク音楽祭の為に出席出来ず、美姫さんの綺麗な花嫁姿を見ることが出来ないのがとても残念です。お二人の新生活の門出を心より祝福申し上げます。
来栖秀一』
ここには、秀一の本当の気持ちが込められているようには思えなかった。
たとえ秀一さんが私との別れを受け入れ、ピアニストしての道を歩むと決めたとしても......大和との結婚を祝福するなんて、ありえない。
誰か別の人が送ったとしか、考えられない。
電報だから、筆跡を調べることも出来ないし、本当に秀一さんが送ってきたものなのか確認する手段もない。
もし、秀一さんじゃないとしたら......一体、誰が用意したの?
お母様なら事前に知らせてくれるはずだし、大和のお母様のサプライズ演出だとしても、それなら披露宴が終わった後に種明かししてくるはず。
考えてみれば、祝電なんて誰でも秀一さんの名前を語って送ることは可能だもの。タチの悪い悪戯かもしれない。
けれど、まだ美姫の奥底の不安は拭いきれなかった。
それとも......本当に、秀一さんからなの?
「ック......」
もう、心を掻き乱されたくない!
感情のまま、美姫は祝電を引き裂こうと指に力を入れた。だが、厚みのある台紙はどんなに力を入れてもびくともしない。指が赤くなるほどぷるぷると震わせながら力を込めた後、それが無理だと分かり、脱力した。
力なく息を吐く。
何をしてるの、私は......
力が抜けた指から祝電がすり抜け、絨毯の上に落ちた。
美姫は散乱する祝電を色のない瞳で暫く眺めた後、ゆっくりと紙袋に戻していった。
挙式や披露宴の際に持ち込んだ私物や披露宴の為に購入した物や余った引出物等は凛子に引き取ってもらったが、これらのお祝いの品は新婚旅行に行く前に全て目を通しておきたいからと、運んでもらっていたのだ。
浴室へ向かう美姫の足が、胡蝶蘭の鉢植えを見て止まった。視線の先が、そこから祝電の入った紙袋へと向けられる。
確かめる、だけ......
紙袋からごっそり祝電を出し、素早くひとつひとつ確認する。
どこ......どこなの?
大量の祝電からたった一つを探すのは困難で、一つの袋が終わると次の袋へ、美姫は焦りながら次々に手を伸ばしていった。最後の袋に手をつけてもまだ見つからず、紙袋にある残りの祝電を絨毯の上にぶち撒けた。
残り少なくなった祝電の束から、鶴と亀の刺繍がほどこされた金糸と銀糸の祝電を手に取り、開く。
あった......!
メッセージの下に「来栖秀一」の文字を見つけた。
そこには、長岡が読み上げたのと一言一句違わぬ言葉が印字されていた。秀一本人からのものであると示すようなものは、どこにも見当たらない。
分かってた、ことなのに。
祝電を確認したって、秀一さんからのものなのかなんて、分からないってことは。
それでも、確かめずにいられなかった......
美姫は、もう一度祝電の文章に目を通した。
『ご結婚おめでとうございます。
ザルツブルク音楽祭の為に出席出来ず、美姫さんの綺麗な花嫁姿を見ることが出来ないのがとても残念です。お二人の新生活の門出を心より祝福申し上げます。
来栖秀一』
ここには、秀一の本当の気持ちが込められているようには思えなかった。
たとえ秀一さんが私との別れを受け入れ、ピアニストしての道を歩むと決めたとしても......大和との結婚を祝福するなんて、ありえない。
誰か別の人が送ったとしか、考えられない。
電報だから、筆跡を調べることも出来ないし、本当に秀一さんが送ってきたものなのか確認する手段もない。
もし、秀一さんじゃないとしたら......一体、誰が用意したの?
お母様なら事前に知らせてくれるはずだし、大和のお母様のサプライズ演出だとしても、それなら披露宴が終わった後に種明かししてくるはず。
考えてみれば、祝電なんて誰でも秀一さんの名前を語って送ることは可能だもの。タチの悪い悪戯かもしれない。
けれど、まだ美姫の奥底の不安は拭いきれなかった。
それとも......本当に、秀一さんからなの?
「ック......」
もう、心を掻き乱されたくない!
感情のまま、美姫は祝電を引き裂こうと指に力を入れた。だが、厚みのある台紙はどんなに力を入れてもびくともしない。指が赤くなるほどぷるぷると震わせながら力を込めた後、それが無理だと分かり、脱力した。
力なく息を吐く。
何をしてるの、私は......
力が抜けた指から祝電がすり抜け、絨毯の上に落ちた。
美姫は散乱する祝電を色のない瞳で暫く眺めた後、ゆっくりと紙袋に戻していった。
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