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乾いていく蜜

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 7月に入り、参議院選挙が行われた。

 大瀧はそれまでの引退宣言を翻して任期続行を決めて参院選に出馬し、当選を果たした。のうのうと政界に居座り続ける大瀧の姿に、大和は歯軋りした。

 大地を救うことが出来なかったという無念の思いは、いつまでも大和の心を支配続け、苦しめ続けた。

 羽鳥家とも絶縁した今、大和には来栖家の養父母、そして美姫だけが家族だった。大和は自分を救ってくれた来栖家に恩返ししたいと、今まで以上に仕事に打ち込むようになった。

 だがそれは、美姫と過ごす時間が少なくなることを意味し、皮肉な事に美姫との距離がさらに深まる原因ともなっていった。

 大和は同じベッドで寝ても、美姫に愛撫することすらなくなった。美姫が触れようとするとビクッと躰を震わせ、避けるような仕草を見せたりする。その度に、美姫の心はナイフで抉られるように痛んだ。

 美姫はそれを必死に隠し、気づかないふりをし、笑顔で大和に接した。

 大和の心の痛みを少しでも和らげてあげたい。
 癒したい。
 役に立ちたい。

 いつかまた大和が心から笑い、また以前のような夫婦関係になれることを願っていた。

 けれどその一方で、美姫の心は悲しみで曇り、冷たい雨に濡れていた。

 考えたくなくても、どうしても考えてしまう。

 私の、何がいけないの?
 もう大和は私のことは好きじゃないの?

 たとえお兄さんの死から立ち直れていないとしても、どうして私に、触れることさえしないの?
 なぜそこまで避けようとするの?

 そう思う度に、美姫は唇を噛み締めて涙を堪えた。

 もう自分には魅力がない。
 女として見られていない。

 そんな風にどうしても感じてしまう。

 美姫は、女性としての自信を失いかけていた。

 ある晩、美姫は勇気を振り絞り、寝ている大和の背中を抱き締めた。大和の背中がビクッと震える。

「やまと......」

 声が、震える。

 お願い。
 こっちを見て。

 私を、見て。

 ---私を、愛して......

 大和が美姫の方へと向き直ると、頭を撫でた。

「ごめんな、疲れてんだ......
 今日は、自分の部屋で寝る」

 大和が躰を起こし、立ち上がって部屋を出て行く。

 もう......
 もう、ダメ......

 美姫は大和の出て行った部屋で、布団に顔を押し付けて泣いた。

 それから、大和は自分の部屋で寝るようになり、美姫の寝室で眠ることはなくなった。以前も別々の寝室で寝ることはあったが、まだあの時には性行為があったし、そういった日には同じベッドで寝ていた。けれど、今はそういった行為もなく、完全に別室なのだ。

 美姫からどうしてなのか聞けず、大和ももうそれが普通のことであるかのように振舞っていた。

 だからと言って、大和が冷たくなったわけではなかった。会えば普通に会話はするし、冗談を言ったりもするし、優しく接してくれる。だからこそ、美姫は大和を嫌いにはなれないし、愛したいと思っていた。

 そして、心から......自分のことを愛して欲しいと切実に願っていた。
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