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諦めきれない思い
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智子は、正面を向いていた躰を美姫に向けた。
「あの時......私は美姫さんに『来栖さんを支えていく』と約束したのに、それを守ることができませんでした。ごめんなさい。
私では......あの人を支えるなんて、無理だったんです。私は何もかも嫌になり、全て捨てて逃げ出したんです」
苦しげに表情を歪める智子に、美姫の瞳が一気に熱くなった。
「逃げたのは、私の方です。
何もかも智子さんに任せて、逃げ出してしまった。あなたに全ての責任を押し付けて、苦しい思いをさせてしまって......本当に、ごめんなさい」
お互い耐え切れなくなって俯くと、沈黙だけがそこに残った。遠くで、誰かがコーヒーを買っている自販機の音がやけに高く響いてきた。
智子は鞄からハンカチを取り出すと、目尻を拭って仕舞った。
「帰国してしばらくは、両親の実家にいました。田舎でのんびり過ごして、疲れた心を癒したかったんです。
自分のやりたいことの為に勝手に上京し、ウィーンにまで行ったのに突然戻って来た私に両親はいい顔をしませんでした。でも、私の様子を見るうちに、もう結婚したらと見合いを勧めてくれました。そのまま親の言う通り、結婚して、子供を産んで、平凡でも幸せに思える人生を歩めたらそれでいいって思うようになってました。
でも......やっぱり、ダメだったんです。私の中で消しきれない思いが燻ってて、そのお見合い相手の方とはうまくいきませんでした。
それで、上京して以前の事務所にお願いして、またそこで働かせてもらうことになりました。今は青柳に出会い、育てることの楽しみを見出せて幸せを感じてるんです」
智子は穏やかな表情を浮かべた。美姫は、そんな気持ちで語れる智子が羨ましかった。
「そうでしたか……よかったですね」
智子は、美姫もまた自分と同じ立場だと思い、気軽な調子で話しかけた。
「来栖さんの行方が未だ分からないのはもちろん心配ですけど、美姫さんは今は素敵な旦那さんだっているし、ファッションブランドまで立ち上げて成功されている。
来栖さんには申し訳ないけど、あの人のことは忘れて前に進むしかないですよ。それが、一番いいんです」
それはまるで、自分に話しかけているかのようでもあった。
智子は腕時計に目を落とすと、小さく「ぁ」と言った。ペットボトルの蓋を閉め、鞄に戻す。
「それじゃ、私はそろそろ行かないといけないので。また」
立ち上がった智子を見上げ、美姫は微笑んだ。
「えぇ」
「お話できて、よかったです。美姫さん、お仕事で活躍されていて忙しいと思いますが、頑張ってくださいね。
私も、頑張ります」
智子はすっきりした顔で、ホールへと戻って行った。
残された美姫は、そこから動くことが出来なかった。
もし秀一の現状を知らず、大和と夫婦関係がうまくいってたら、智子の話も笑って受け止められていたかもしれない。前に、進めていたかもしれない。
けれど、美姫には無理だった。
智子は何も聞かされていないが、美姫は秀一が欲望の島で自暴自棄な生活を送っていることを知っている。
未だ秀一を思い出に出来ず、彼への想いは色褪せていくどころか色濃くなるばかり。
罪悪感と後悔が、美姫の胸に重く伸し掛かる。
許されるはずない。
もう、会うことも……叶わない。
だから、せめて祈ることだけは許して下さい。
貴方が、無事に生きていることを。
どこかで、幸せに暮らしていることを。
傲慢で、自分勝手と分かっていても、
どうか......
肩を細かく震わせ、呻いた。
「あの時......私は美姫さんに『来栖さんを支えていく』と約束したのに、それを守ることができませんでした。ごめんなさい。
私では......あの人を支えるなんて、無理だったんです。私は何もかも嫌になり、全て捨てて逃げ出したんです」
苦しげに表情を歪める智子に、美姫の瞳が一気に熱くなった。
「逃げたのは、私の方です。
何もかも智子さんに任せて、逃げ出してしまった。あなたに全ての責任を押し付けて、苦しい思いをさせてしまって......本当に、ごめんなさい」
お互い耐え切れなくなって俯くと、沈黙だけがそこに残った。遠くで、誰かがコーヒーを買っている自販機の音がやけに高く響いてきた。
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自分のやりたいことの為に勝手に上京し、ウィーンにまで行ったのに突然戻って来た私に両親はいい顔をしませんでした。でも、私の様子を見るうちに、もう結婚したらと見合いを勧めてくれました。そのまま親の言う通り、結婚して、子供を産んで、平凡でも幸せに思える人生を歩めたらそれでいいって思うようになってました。
でも......やっぱり、ダメだったんです。私の中で消しきれない思いが燻ってて、そのお見合い相手の方とはうまくいきませんでした。
それで、上京して以前の事務所にお願いして、またそこで働かせてもらうことになりました。今は青柳に出会い、育てることの楽しみを見出せて幸せを感じてるんです」
智子は穏やかな表情を浮かべた。美姫は、そんな気持ちで語れる智子が羨ましかった。
「そうでしたか……よかったですね」
智子は、美姫もまた自分と同じ立場だと思い、気軽な調子で話しかけた。
「来栖さんの行方が未だ分からないのはもちろん心配ですけど、美姫さんは今は素敵な旦那さんだっているし、ファッションブランドまで立ち上げて成功されている。
来栖さんには申し訳ないけど、あの人のことは忘れて前に進むしかないですよ。それが、一番いいんです」
それはまるで、自分に話しかけているかのようでもあった。
智子は腕時計に目を落とすと、小さく「ぁ」と言った。ペットボトルの蓋を閉め、鞄に戻す。
「それじゃ、私はそろそろ行かないといけないので。また」
立ち上がった智子を見上げ、美姫は微笑んだ。
「えぇ」
「お話できて、よかったです。美姫さん、お仕事で活躍されていて忙しいと思いますが、頑張ってくださいね。
私も、頑張ります」
智子はすっきりした顔で、ホールへと戻って行った。
残された美姫は、そこから動くことが出来なかった。
もし秀一の現状を知らず、大和と夫婦関係がうまくいってたら、智子の話も笑って受け止められていたかもしれない。前に、進めていたかもしれない。
けれど、美姫には無理だった。
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だから、せめて祈ることだけは許して下さい。
貴方が、無事に生きていることを。
どこかで、幸せに暮らしていることを。
傲慢で、自分勝手と分かっていても、
どうか......
肩を細かく震わせ、呻いた。
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