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もう、離れたくない
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ハイヤーが成田空港の第2旅客ターミナルビル横の南オペレーションセンターにある、ビジネスアビエーションターミナル プレミアゲートの前で停車した。
運転手が降りて、扉を開ける。秀一が先に降りると、美姫に手を差し伸べた。
「では、行きましょうか」
「はい」
秀一の手を受け止め、美姫は微笑んだ。
すると、後ろでバイクが急停車する音が響き、ヘルメットを外した男が追いかけてきた。
「毎夜新聞の者ですが、離婚にいたった経緯を詳しく教えてくれませんか?」
そう言いながら、不躾にカメラを構え、シャッターを切る。
「急いで!」
秀一に手を引かれ、ゲートまで走った。
ゲートに着くと、すぐに出国手続きをするよう案内された。
「パスポートとAufenthaltstitel(定住許可証)を貸して下さい」
秀一に言われ、美姫は鞄からパスポートと定住許可証を渡した。
日本とオーストリアは2国間協定により、1年間(1/1から12/31)の内6ヶ月間は査証免除滞在が認められる。だが、美姫の場合は6ヶ月以上に当たるため、定住許可証が必要なのだ。
この定住許可証を取得するには、オーストリアで学生であるか、許可を持っている人と家族であるか、オーストリアで一定額以上の給与を受け取って生活をしていることが条件となる。もちろん、秀一は後者に当たる。美姫は皮肉にも秀一と姪で家族であるために、申請が難しくなかったのだ。
ただ、定住許可に付随する家族用の定住許可であったとしても、ドイツ語のA1の証明書が必要になる為、大学と凛子の元でドイツ語を勉強していたことが役立った。
申請から取得までには、だいたい3ヶ月掛かると言われている。大和と離婚を決めて申請したのが11月だったので間に合うかヒヤヒヤしたが、ウィーンに発つ直前に許可証を取得することが出来た。
美姫は、緊張で、そわそわと落ち着かない。きょろきょろと周りを見渡していると、秀一にクスッと笑われる。
「大丈夫ですよ、取材陣もここまでは入って来られませんから」
「そ、そうですよね。すみません……」
美姫はパスポートと許可証を受け取り、恥ずかしそうに顔を赤らめた。
専用車に乗り、ジェット機へと向かう車中、美姫は静かに車窓からの景色を眺めた。
今日、ウィーンへ発ったら私は……ここに、二度と戻ってくることはないんだ。
美姫の脳裏に、薫子の顔が浮かんだ。あまりにも辛すぎて旅立ち前に薫子に直接会うことが出来ず、手紙だけを送った。
薫子が離婚記者会見を観てどう思ったのだろうかと考えると、美姫の胸が苦しいほどに締め付けられた。
悠も、あんなに優しい言葉を掛けてくれたのに……
きっと、二人して心配してくれているんだろうな。
全てを捨て……
家族も、友人も、家も、仕事も、地位も、財産も、そして、住み慣れた日本という国まで捨て……
私はこれから、秀一さんと新たな人生を歩み出すんだ。
ウィーンに着いたところで、叔父と姪という禁忌の関係は変わらない。
秀一はウィーンにいても、有名人だ。向こうでもマスコミに追いかけ回され、ネタにされるかもしれない。
モルテッソーニや秀一さんの兄弟弟子は、私がウィーンに行ったらどんな反応をするだろう。レナードのことを思い、美姫の胸が苦しくなった。
レナードは秀一さんを救おうと必死だったのに、私は秀一さんを救うことが出来ず、見捨てた。それなのに、私を救う為に迎えに来てくれた秀一さんと一緒になり、ウィーンに行くのだ。
非難されて、当然だ。
苦しくても、辛くても……受け止めなければいけない。
それが、自分の選んだ道なのだから。
秀一が、じっと考え込む美姫の肩を抱いた。
「恐いですか?」
美姫は秀一を見上げ、左手で彼の頬を包み込んだ。
「秀一さんがいる場所が、私の居場所です。
もう、何も恐れません。愛する人が、いるから……」
秀一の瞳が、愛おしく細められた。
「可愛い人……」
唇が寄せられ、甘い吐息を交わらせた。
運転手が降りて、扉を開ける。秀一が先に降りると、美姫に手を差し伸べた。
「では、行きましょうか」
「はい」
秀一の手を受け止め、美姫は微笑んだ。
すると、後ろでバイクが急停車する音が響き、ヘルメットを外した男が追いかけてきた。
「毎夜新聞の者ですが、離婚にいたった経緯を詳しく教えてくれませんか?」
そう言いながら、不躾にカメラを構え、シャッターを切る。
「急いで!」
秀一に手を引かれ、ゲートまで走った。
ゲートに着くと、すぐに出国手続きをするよう案内された。
「パスポートとAufenthaltstitel(定住許可証)を貸して下さい」
秀一に言われ、美姫は鞄からパスポートと定住許可証を渡した。
日本とオーストリアは2国間協定により、1年間(1/1から12/31)の内6ヶ月間は査証免除滞在が認められる。だが、美姫の場合は6ヶ月以上に当たるため、定住許可証が必要なのだ。
この定住許可証を取得するには、オーストリアで学生であるか、許可を持っている人と家族であるか、オーストリアで一定額以上の給与を受け取って生活をしていることが条件となる。もちろん、秀一は後者に当たる。美姫は皮肉にも秀一と姪で家族であるために、申請が難しくなかったのだ。
ただ、定住許可に付随する家族用の定住許可であったとしても、ドイツ語のA1の証明書が必要になる為、大学と凛子の元でドイツ語を勉強していたことが役立った。
申請から取得までには、だいたい3ヶ月掛かると言われている。大和と離婚を決めて申請したのが11月だったので間に合うかヒヤヒヤしたが、ウィーンに発つ直前に許可証を取得することが出来た。
美姫は、緊張で、そわそわと落ち着かない。きょろきょろと周りを見渡していると、秀一にクスッと笑われる。
「大丈夫ですよ、取材陣もここまでは入って来られませんから」
「そ、そうですよね。すみません……」
美姫はパスポートと許可証を受け取り、恥ずかしそうに顔を赤らめた。
専用車に乗り、ジェット機へと向かう車中、美姫は静かに車窓からの景色を眺めた。
今日、ウィーンへ発ったら私は……ここに、二度と戻ってくることはないんだ。
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薫子が離婚記者会見を観てどう思ったのだろうかと考えると、美姫の胸が苦しいほどに締め付けられた。
悠も、あんなに優しい言葉を掛けてくれたのに……
きっと、二人して心配してくれているんだろうな。
全てを捨て……
家族も、友人も、家も、仕事も、地位も、財産も、そして、住み慣れた日本という国まで捨て……
私はこれから、秀一さんと新たな人生を歩み出すんだ。
ウィーンに着いたところで、叔父と姪という禁忌の関係は変わらない。
秀一はウィーンにいても、有名人だ。向こうでもマスコミに追いかけ回され、ネタにされるかもしれない。
モルテッソーニや秀一さんの兄弟弟子は、私がウィーンに行ったらどんな反応をするだろう。レナードのことを思い、美姫の胸が苦しくなった。
レナードは秀一さんを救おうと必死だったのに、私は秀一さんを救うことが出来ず、見捨てた。それなのに、私を救う為に迎えに来てくれた秀一さんと一緒になり、ウィーンに行くのだ。
非難されて、当然だ。
苦しくても、辛くても……受け止めなければいけない。
それが、自分の選んだ道なのだから。
秀一が、じっと考え込む美姫の肩を抱いた。
「恐いですか?」
美姫は秀一を見上げ、左手で彼の頬を包み込んだ。
「秀一さんがいる場所が、私の居場所です。
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秀一の瞳が、愛おしく細められた。
「可愛い人……」
唇が寄せられ、甘い吐息を交わらせた。
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