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後悔
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眠れぬまま朝を迎えた翌日、美姫は大学に行く気にはどうしてもなれず、秀一のスケジュールに合わせて行動することとなった。美姫が心配していた通り、やはり昨日秀一はリサイタルが夕方に入っていたにも関わらずキャンセルしていたのだった。その埋め合わせの為に翌日である今日に急遽もう一つリサイタルを無理やり組み込むこととなり、秀一は朝から晩まで忙しそうだった。
そんな中、美姫は朝から秀一の仕事に同行し、リサイタルのリハーサルから本番までの間、演奏を幕の端から見守り、打ち合わせの際は居所なく端の方に座らせてもらい、寄り添うようにして次の現場へと移動した。仕事の邪魔だということは痛いほど分かっていたが、美姫は一秒たりとも一人になりたくなくて、秀一の傍をついて回った。
結局美姫は、その翌日もまた次の日も大学に行くことなく、まるで幼い子供が母親の傍を離れたくなくて必死にしがみつくかのように、美姫は秀一から片時も離れようとはしなかった。そんな気持ちを秀一は理解し、汲み取ってくれ、秀一もまた美姫が傍にいられるように気を配った。
だがやはり、どうしても秀一が傍にいてやれない時もある。事務所の人間やコンサートスタッフは秀一の息がかかっている為、余計な詮索はしないが、雑誌のインタビューに来た雑誌の編集者や撮影スタッフとのやり取りの時等は、美姫は席を外さなければならなかった。
秀一が傍にいないということが美姫にパニックを起こさせ、不安を増大させた。突然全身を震えさせ、泣き喚き、暴れる時もあれば、控え室で何も言葉を発さず、人形のように無気力に座っている時もあった。秀一が傍にいてやれない間、秀一のマネージャーの上條 智子(かみじょう ともこ)が美姫の保護者として付き添った。智子は秀一がピアニストとしてデビューした時から彼の元で働いているため、美姫もよく知っている。他人を信用することのない秀一でも、彼女になら美姫を預けることができた。
洗面所に行く時ですら、智子は美姫の傍を離れようとしなかった。秀一に、そうするようきつく言われているのだろう。それは、保護者というよりも監視者という方がふさわしいのかもしれなかった。
秀一は仕事が終わるとすぐに美姫の元へと駆けつけ、美姫は秀一に会えるとようやく緊張を解き、深く息を吐くのだった。
夜、眠る時は一緒のベッドで寝た。幼い頃みたいに……ただ隣に寄り添って眠る。
秀一は、電気を消し、シーツに潜り込むと「おやすみなさい、美姫……」。額に口づけて後ろから美姫を抱き締め、優しく頭を撫でた。安心して、眠りに落ちるまで……
そうして、美姫が眠りに落ちると、静かにそっと部屋を出て行き、仕事に戻るのだった。
秀一に寝たふりなど出来る筈もなく、美姫に浅い微睡みが訪れた頃、秀一の温もりが美姫の躰を離れ……その冷たさに目が覚めてしまうのだった。ひとりにされた恐怖を感じながらも、扉の下から漏れる薄明かりに秀一の存在を感じて耐え忍び、一刻も早く、自分の元へと戻ってきてくれるよう、美姫はひたすら祈るのだった。たまに浅い微睡みが訪れても、悪夢に魘(うな)され、発狂したように金切り声を上げて目を覚ます。そんな時は秀一が矢のように飛んできて、泣き喚き、暴れる美姫を強く背中から抱き締めた。
その存在を知らしめるかのように……
泣き疲れた美姫は秀一の鼓動を背中に感じながら、微睡みの中に堕ちていった。
そんな中、美姫は朝から秀一の仕事に同行し、リサイタルのリハーサルから本番までの間、演奏を幕の端から見守り、打ち合わせの際は居所なく端の方に座らせてもらい、寄り添うようにして次の現場へと移動した。仕事の邪魔だということは痛いほど分かっていたが、美姫は一秒たりとも一人になりたくなくて、秀一の傍をついて回った。
結局美姫は、その翌日もまた次の日も大学に行くことなく、まるで幼い子供が母親の傍を離れたくなくて必死にしがみつくかのように、美姫は秀一から片時も離れようとはしなかった。そんな気持ちを秀一は理解し、汲み取ってくれ、秀一もまた美姫が傍にいられるように気を配った。
だがやはり、どうしても秀一が傍にいてやれない時もある。事務所の人間やコンサートスタッフは秀一の息がかかっている為、余計な詮索はしないが、雑誌のインタビューに来た雑誌の編集者や撮影スタッフとのやり取りの時等は、美姫は席を外さなければならなかった。
秀一が傍にいないということが美姫にパニックを起こさせ、不安を増大させた。突然全身を震えさせ、泣き喚き、暴れる時もあれば、控え室で何も言葉を発さず、人形のように無気力に座っている時もあった。秀一が傍にいてやれない間、秀一のマネージャーの上條 智子(かみじょう ともこ)が美姫の保護者として付き添った。智子は秀一がピアニストとしてデビューした時から彼の元で働いているため、美姫もよく知っている。他人を信用することのない秀一でも、彼女になら美姫を預けることができた。
洗面所に行く時ですら、智子は美姫の傍を離れようとしなかった。秀一に、そうするようきつく言われているのだろう。それは、保護者というよりも監視者という方がふさわしいのかもしれなかった。
秀一は仕事が終わるとすぐに美姫の元へと駆けつけ、美姫は秀一に会えるとようやく緊張を解き、深く息を吐くのだった。
夜、眠る時は一緒のベッドで寝た。幼い頃みたいに……ただ隣に寄り添って眠る。
秀一は、電気を消し、シーツに潜り込むと「おやすみなさい、美姫……」。額に口づけて後ろから美姫を抱き締め、優しく頭を撫でた。安心して、眠りに落ちるまで……
そうして、美姫が眠りに落ちると、静かにそっと部屋を出て行き、仕事に戻るのだった。
秀一に寝たふりなど出来る筈もなく、美姫に浅い微睡みが訪れた頃、秀一の温もりが美姫の躰を離れ……その冷たさに目が覚めてしまうのだった。ひとりにされた恐怖を感じながらも、扉の下から漏れる薄明かりに秀一の存在を感じて耐え忍び、一刻も早く、自分の元へと戻ってきてくれるよう、美姫はひたすら祈るのだった。たまに浅い微睡みが訪れても、悪夢に魘(うな)され、発狂したように金切り声を上げて目を覚ます。そんな時は秀一が矢のように飛んできて、泣き喚き、暴れる美姫を強く背中から抱き締めた。
その存在を知らしめるかのように……
泣き疲れた美姫は秀一の鼓動を背中に感じながら、微睡みの中に堕ちていった。
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