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異変

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 僕の思い出の中にはいつだって、直貴がいた。

「直貴、こっちこっち!」
「え、夕ちゃん待ってよぉー」

 大人ばかりで分かんない話ばかりするつまらないパーティーから直貴を連れ出すと、僕は誰も使っていない会議室の部屋を開け、息を吐いた。

「ねぇ、僕たちがいないことが知られたら怒られちゃうよ?」
「だーいじょうぶだって。幸田には、ふたりでトイレ行ってくるって声かけといたから、フフッ」

 不安そうな顔をした直貴に、僕は笑顔を見せた。幸田は、お祖父様の執事だ。

 松ノ内コンツェルン会長の孫であり将来の後継者、そして本家の長となる僕、松ノ内夕貴。そして、分家に住む従兄弟の松ノ内直貴。本家と分家は目と鼻の先にあるから、僕たちは幼い頃からこうしてしょっちゅう遊んでいる。

 僕は我儘で奔放な性格。直貴は内気で、我慢強い性格。
 対照的な僕たちだったけど、一緒にいると楽しくて、不思議とウマがあった。

 ポケットから戦利品を出す。クッキー、マカロン、キャンディー、チョコレート……デザートビュッフェから掻っ攫ってきたものだ。

「ポケットが小さすぎて、これだけしか持ってこられなかった」
「プッ……夕ちゃん、十分過ぎるぐらいだよ。よく見つからなかったね」

 さっきまで不安な表情を浮かべていた直貴が、僕に笑顔を見せる。

「クスッ……僕が要領いいの知ってるでしょ?さ、直貴一緒に食べよ?」
「うん。チョコは食べられないから、キャンディーちょうだい?」

 直貴の笑顔が好きだ。不安で怯えた顔をしていると、僕まで悲しくなる。

 大丈夫だよ。
 僕が、ずっと傍にいてあげるから……
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