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指名手配編
恩人義理堅し
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眼を開けると、知らない天井であった。そもそも、天井に知り合いはいないのだが。
大きな欠伸をしながらも身体を起こす。
腕は軽く、鎖は外されている。服も今まで来ていた制服ではなく、Vネックの洋風な民族衣裳に変わっている。
周りを見回すが、ディアメルの家ではない。見た感じでは質素で宿屋のようだ。五感で感じる限りで、人の気配は感じられない。しかしディアメルのような例外もいるわけで、油断してはいけないと肝に銘じる。
ふと、階段を上がる音がする。彼方が疑問に思うと、ご都合主義のように答えが自らやって来たのだ。
この家の主人が帰ってきたのか、と彼方は寝ている布団の端をギュッと握る。
覚えている最後の光景は、狂人仮面がこちらを嘱目しているところであった。
怖いわけではない。布団の中で脚が震えているが、これは気のせいなのだ。
「お、おっ、落ち着け俺」
彼方が自分を抑えようとしていると、部屋のドアが開き、二人の男女が入って来る。
男性は無償髭に、服からはみ出しかけのまんまると膨れたお腹で低身長。彼方が見た狂人仮面とは遠くかけ離れている。
女性はモチモチしていそうな白い肌、眼は引き込まれそうな|藍の瞳(ブルーアイ)。少し幼さを残しているが、彼方と同年代か年上だろう。
ここで、仮面の中身がこの人なら殺されてもいい、と考えられる彼方はいつか背中を刺されるだろう。
彼方が起きていることに気づいた二人は、血相を変えてこちらに駆け寄る。
「良かった生きてたんだね?!君はかれこれ三日も寝てたんだよ!」
髭を揺らしながら早口で喋る男性は、彼方の身体を見回して異常がないかチェックする。横では女性が、彼方が起きたことにホッと息をついている。
この二人が自分を助けてくれたのであろう、と彼方は礼を言うべく二人を見つめる。
「あんたらが助けてくれたのか。急死なところ助けてくれて本当にありがとう」
彼方は気まぐれな性格でしっかりしていないが、恩だけは必ず報いる男である。その決意は義理堅く、親友達も認める程だ。
彼方がいきなり頭を下げるので、見かねた女性が中断させる。
曰く、
「子どもが死にかけなのを見過ごしたら、大人失格だよ!気にしないで」
女性は艶のある声で彼方を励ます。見た目通りの甲高い声を持つ女性はニコリと微笑むと、彼方の頭を優しく撫でる。
「痛いの~痛いの~飛んでけ!これでもう大丈夫だよ」
天然な発言に彼方は、この世界でもその呪文があったのかと少し驚く。
この年にもなって、と羞恥心を湧きあがらせる彼方は、視線をそらすように辺りを見回す。
彼方の視線に気づいた男性が気前よく説明し始める。
「ここは宿だよ。大体が冒険者が泊まっているね。それで、僕はここの宿主さ。ドワーフ族のナックルというんだ、よろしくね」
出された右手はゴツゴツとして、漢の中の漢といった風貌である。さすがはドワーフだ。
彼方はモノホンのドワーフを見るのは初めてなのだ(マリーは加算しない)。
自分の手を差し出すのを戸惑っていると、何を勘違いしたのか、
「握りつぶさないから安心してよ」
「そんな心配してないからな?!ほらよ」
投げやりに手を出すと、ナックルは両手でガッチリと掴み、名残惜しそうにその手を握る。
ちらりと女性を見ると、自分も仲良しこよしをしたそうに腕をウズウズさせている。
そちらに手を出すと、彼方をマジマジと見ながら嬉しそうに手を伸ばす。
「私はね、キルラって言うの!貴方は・・・名前なんだっけ?」
「キルラ、彼はまだ名前を言ってないよ。済まないね。キルラは少し抜けてるとこがあるんだよ」
ナックルが頭を下げてくる。最初から小さい身長がもっと縮んでしまった。
キルラのど天然っぷりに苦笑いしながらも、彼方は少しだけ疑義の念を抱く。
「ナックルさんとキルラさんは騎士の知り合いとかいるか?」
「キルラで良いよ。さんづけだと、なんかむず痒くなるからね!それに敬語も禁止だっ!」
「恩人には丁寧にするもんなんだよ」
顔を近づけ、強制させてくるのを押し退ける。
「それじゃあー、恩人の命令だ!キルラって呼ばないと宿から放り投げちゃうぞ!」
「横暴だな!分かったよ。キルラで良いんだろ?宜しく。それで、さっきの質問。騎士の知り合いとかいるのか?」
彼方は今では立派なお尋ね者なのだ。自身の情報は出来るだけ隠しといた方が良いに決まってる。
そんなこと知らない二人は疑いもせず首を横に振る。
心の内で安堵する彼方は自己紹介を始める。
「俺の名前は桜井 彼方。繰り返しになるが、この度は助けてくれてありがとうございます。俺は恩を仇で返すような物騒な真似しない。だから、怪我が治るまで世話になっても良いか?」
おこがましい頼みであることは重々承知でベッドの上で、身体を整え頭垂れる。
「それなんだがねぇ・・・」
ナックルの濁らした声に、彼方は不安に駆られる。
それを見かねたキルラは、微笑ましそうにこっちを眺め肩をゆっくりと叩く。
「残念ながらー、もう一ヶ月分宿代払っちゃったから桜は強制的にここに住まなくちゃ行けないんだよ。ゴメンね?」
キルラの横を見れば、ナックルも嬉しそうにこちらを眺めている。
一ヶ月分と聞き、彼方は躊躇いガチになる。
「え、けど」
「いいんだよ。彼方くんは見たところ無一文なんだろ?それなら大人の言うことは聞いときなさい」
「そうだそうだ!桜が謝る必要なんか何処にもないんだよ!」
どこまでもお人好しな二人の優しさに触れて、心の底から湧き出る歓喜に泣いてしまう。
今まで冴えないどころの話では無かったのだ、仕方がない。
「ご、めん、ありがとゔ、ございまず」
彼方の行動に大きく目を見開くキルラは、あらあらと困ったような声を出し、泣きじゃくる彼方の頭部を優しく包む。
泣き疲れた彼方は人心地をつくように眠ってしまう。
キルラが嬉しそうに彼方の頬を撫でる。
「お休み」
後に、この出会いが運命を左右されるのだが、彼方の知ったことではない。
大きな欠伸をしながらも身体を起こす。
腕は軽く、鎖は外されている。服も今まで来ていた制服ではなく、Vネックの洋風な民族衣裳に変わっている。
周りを見回すが、ディアメルの家ではない。見た感じでは質素で宿屋のようだ。五感で感じる限りで、人の気配は感じられない。しかしディアメルのような例外もいるわけで、油断してはいけないと肝に銘じる。
ふと、階段を上がる音がする。彼方が疑問に思うと、ご都合主義のように答えが自らやって来たのだ。
この家の主人が帰ってきたのか、と彼方は寝ている布団の端をギュッと握る。
覚えている最後の光景は、狂人仮面がこちらを嘱目しているところであった。
怖いわけではない。布団の中で脚が震えているが、これは気のせいなのだ。
「お、おっ、落ち着け俺」
彼方が自分を抑えようとしていると、部屋のドアが開き、二人の男女が入って来る。
男性は無償髭に、服からはみ出しかけのまんまると膨れたお腹で低身長。彼方が見た狂人仮面とは遠くかけ離れている。
女性はモチモチしていそうな白い肌、眼は引き込まれそうな|藍の瞳(ブルーアイ)。少し幼さを残しているが、彼方と同年代か年上だろう。
ここで、仮面の中身がこの人なら殺されてもいい、と考えられる彼方はいつか背中を刺されるだろう。
彼方が起きていることに気づいた二人は、血相を変えてこちらに駆け寄る。
「良かった生きてたんだね?!君はかれこれ三日も寝てたんだよ!」
髭を揺らしながら早口で喋る男性は、彼方の身体を見回して異常がないかチェックする。横では女性が、彼方が起きたことにホッと息をついている。
この二人が自分を助けてくれたのであろう、と彼方は礼を言うべく二人を見つめる。
「あんたらが助けてくれたのか。急死なところ助けてくれて本当にありがとう」
彼方は気まぐれな性格でしっかりしていないが、恩だけは必ず報いる男である。その決意は義理堅く、親友達も認める程だ。
彼方がいきなり頭を下げるので、見かねた女性が中断させる。
曰く、
「子どもが死にかけなのを見過ごしたら、大人失格だよ!気にしないで」
女性は艶のある声で彼方を励ます。見た目通りの甲高い声を持つ女性はニコリと微笑むと、彼方の頭を優しく撫でる。
「痛いの~痛いの~飛んでけ!これでもう大丈夫だよ」
天然な発言に彼方は、この世界でもその呪文があったのかと少し驚く。
この年にもなって、と羞恥心を湧きあがらせる彼方は、視線をそらすように辺りを見回す。
彼方の視線に気づいた男性が気前よく説明し始める。
「ここは宿だよ。大体が冒険者が泊まっているね。それで、僕はここの宿主さ。ドワーフ族のナックルというんだ、よろしくね」
出された右手はゴツゴツとして、漢の中の漢といった風貌である。さすがはドワーフだ。
彼方はモノホンのドワーフを見るのは初めてなのだ(マリーは加算しない)。
自分の手を差し出すのを戸惑っていると、何を勘違いしたのか、
「握りつぶさないから安心してよ」
「そんな心配してないからな?!ほらよ」
投げやりに手を出すと、ナックルは両手でガッチリと掴み、名残惜しそうにその手を握る。
ちらりと女性を見ると、自分も仲良しこよしをしたそうに腕をウズウズさせている。
そちらに手を出すと、彼方をマジマジと見ながら嬉しそうに手を伸ばす。
「私はね、キルラって言うの!貴方は・・・名前なんだっけ?」
「キルラ、彼はまだ名前を言ってないよ。済まないね。キルラは少し抜けてるとこがあるんだよ」
ナックルが頭を下げてくる。最初から小さい身長がもっと縮んでしまった。
キルラのど天然っぷりに苦笑いしながらも、彼方は少しだけ疑義の念を抱く。
「ナックルさんとキルラさんは騎士の知り合いとかいるか?」
「キルラで良いよ。さんづけだと、なんかむず痒くなるからね!それに敬語も禁止だっ!」
「恩人には丁寧にするもんなんだよ」
顔を近づけ、強制させてくるのを押し退ける。
「それじゃあー、恩人の命令だ!キルラって呼ばないと宿から放り投げちゃうぞ!」
「横暴だな!分かったよ。キルラで良いんだろ?宜しく。それで、さっきの質問。騎士の知り合いとかいるのか?」
彼方は今では立派なお尋ね者なのだ。自身の情報は出来るだけ隠しといた方が良いに決まってる。
そんなこと知らない二人は疑いもせず首を横に振る。
心の内で安堵する彼方は自己紹介を始める。
「俺の名前は桜井 彼方。繰り返しになるが、この度は助けてくれてありがとうございます。俺は恩を仇で返すような物騒な真似しない。だから、怪我が治るまで世話になっても良いか?」
おこがましい頼みであることは重々承知でベッドの上で、身体を整え頭垂れる。
「それなんだがねぇ・・・」
ナックルの濁らした声に、彼方は不安に駆られる。
それを見かねたキルラは、微笑ましそうにこっちを眺め肩をゆっくりと叩く。
「残念ながらー、もう一ヶ月分宿代払っちゃったから桜は強制的にここに住まなくちゃ行けないんだよ。ゴメンね?」
キルラの横を見れば、ナックルも嬉しそうにこちらを眺めている。
一ヶ月分と聞き、彼方は躊躇いガチになる。
「え、けど」
「いいんだよ。彼方くんは見たところ無一文なんだろ?それなら大人の言うことは聞いときなさい」
「そうだそうだ!桜が謝る必要なんか何処にもないんだよ!」
どこまでもお人好しな二人の優しさに触れて、心の底から湧き出る歓喜に泣いてしまう。
今まで冴えないどころの話では無かったのだ、仕方がない。
「ご、めん、ありがとゔ、ございまず」
彼方の行動に大きく目を見開くキルラは、あらあらと困ったような声を出し、泣きじゃくる彼方の頭部を優しく包む。
泣き疲れた彼方は人心地をつくように眠ってしまう。
キルラが嬉しそうに彼方の頬を撫でる。
「お休み」
後に、この出会いが運命を左右されるのだが、彼方の知ったことではない。
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