裏切りの魔男

takupon

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異世界漂流編

死人の足跡

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「そならほんまに彼方を殺したってことかいなっ!!」

カレナの怒鳴り声が城に木霊する。
場所は城内の二階にある騎士団の会議室。いるのは全騎士団の団長、副団長。
円卓を団長が囲み、それぞれの副団長が後ろに控えている。ラピスに乗り、古都に向かった副団長のミラは欠席しているので、替わりの者が控えている。ミラの他にも欠席している者がいるのか、人数が欠けている。
事が起こったのは団長が一人ずつ現状報告をしていた時だ。ビースト、スピリット、メイデン、セイントときて、ナイトの報告に差し掛かったところで、

「報告します。僕のとこの団員が龍に乗り逃げるとこを一人撃ち抜きました。上空から振り落とされたので、生きている確率はすくないでしょう。・・・見たところ彼方のようだったです。僕が助けにむかった時には、遺体もありませんでした」

悲しげに語る青年はそこまで喋ると元いた席に着く。
報告したのは勇者の一人、西川 嘉だ。彼方との面識もあり、良き先輩でもあった。

「団長褒めてくれよ。俺が一発で撃ち抜いたんだぜ」

嘉の感情をいざ知らず口を出したのは、背後でどっかりと座り込んでいる騎士だ。
そこで、釈放されて間もないカレナが凄まじき剣幕で男の胸倉を掴んだのだ。
男は清々しそうにヘラヘラと笑っている。

「騎士として当たり前のことしただけだつーの。お前らジョーカーの尻拭いしてやったんだぜ。もっと感謝しろや」

男は彼方を矢で撃ち抜いた張本人だ。ここにいるということは副団長なのだろう。
嘉は喜ぶどころか、男をキツく睨んでいる。
彼方が死んだことに少なからずも良い印象ではないのだろう。

「団長見っとも無いので止めてください」

カレナの脇に控えていたラミルが、今にも殴りかかりそうな拳を治めさせる。カレナは行き所を無くすと、俯き涙を流す。ラミルもどこかうつろな目をしている。今にも泣いてしまいそうな瞳を隠し、

「すいません、話が脱線してしまいましたね。どうぞ続けてください」

カレナを下がらせ、報告を催促させる。今は一刻も早く彼方を探しに行かなければならなないのだ。こんなところで油を売っている暇は無い。
報告が終わると、一人の騎士が立ち上がる。
彼は全騎士団の長である騎士団長だ。そして、初代勇者でもある。

「これからの動きを説明するよ。まずは抜けた戦力の補充だ。みんなは階級が上がるから喜ぶだろうね。騎士の刃ナイトブレイドの期待の新人だったカットくん、何故か逃亡を助けた十字架の魔術師クロスウィザードの副団長ちゃんと獣の王冠ビーストクラウンの狼くん、それと彼方くんの死に引きこもっちゃった飛鳥ちゃん。被害が大きすぎるね。
次にミミとモノクルが逃したカットくん基【断罪の魔男】の捜索だ。これはもう遅い気がするけどね。
それと最後に、彼方くんの遺体回収だ。責めて墓は建ててやりたいからね。
配置はそうだね ー。魔男の捜索はセイントとウィザード。遺体回収はナイトとメイデン。
そして大失敗をしでかしてしまったビーストとジョーカーは別の仕事をしてもらう。ジョーカーは少しの間活動禁止。これも立派な仕事だよ。ビーストはギルドに行って遺体が見つけられてないか確認してほしい。ない場合は、彼方くんに懸賞金を賭けてきてほしい。極秘でね。
条件は何でもいい。捕獲でもそれ以外でもね」

その発言に静まり返ったカレナが激昂する。

「あぁぁん!なんやそれ?彼方に懸賞金賭けるなんてうちが許さんで!それになんで謹慎
なんてせなあかんねん!あかんわ、うちらはうちらで行動させてもらうで!」

カレナは惚けて口を半開きにしているラミルを連れて部屋を出て行く。
カレナの鬼の形相に誰も止める者は出なかった。

「騎士団長、僕もカレナさんの意見に賛成です。責めて生け捕りにしていただきませんか?」

礼儀正しく挙手し、嘉は自分の意見を述べる。後ろでは彼方を撃った男が嘉の心意に気づいたのか、先程の発言に対してバツの悪そうな顔をしている。

「却下だね。理由はまぁー王様が殴られたことを気にしてて、打首しか許さないらしいからなんだけどね。だから考慮してほしいなら、あの頑固な王様に言うと良いよ」

騎士団長の王様という言葉を聞き、嘉は厳しい表情になる。
一端の騎士が口を出して良い相手ではないのだ。それが団長であっても。この国は帝都程ではないが、王権主義である。王の一言でそれなりのことは叶ってしまうのだ。

「ほら、みんな解散だ。しっかりして来てね。僕は王様のご機嫌取りに行ってくるから」

それだけ伝えると騎士団長はスキップのような足取りで、会議室を飛び出して行く。

「あ、それとジョーカー見つけたら牽制しておいてね。僕の言うこと聞かない奴らは要らないから」

顔を覗かし、爽やかな笑顔でそう告げる。今のが本音であろう。最に会議室の皆に重みをかけ、騎士団長は去って行った。





※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※





場所は変わって六階、第一王女の寝室。
一人すすり泣くソフィアの涙が絨毯を濡らす。この涙はあらゆることに対しての悲しみだろう。
この部屋にいるのはソフィアだけではない。
魁斗に話があると呼ばれたソフィアは、盗聴されないようにこの部屋を選んだのだ。
部屋にいるのは、先程会議が終わりやって来たカレナとラミル。彼方の姉の飛鳥。話し合いの切っ掛けである魁斗達。
他のジョーカーの団員は外で待機している。
盗聴防止の為だ。
ソフィアが泣き止むのを確認すると、魁斗が話を切り出す。

「ここに集まってもらったのは他でもない、彼方についてだ」

彼方と聞き、部屋の空気が変わる。カレナの報告では死んだことになっているからだ。今更死人を生き返らせることなど出来ないのだ。

「俺は彼方の報復をしてやりたいんだ」

魁斗の語調に各々は何事かと顔を見合わせる。

「これは先刻のことなんだがな、俺と愛梨と立夏は魔人と遭遇したんだよ」

魔人、そのフレーズに空気が揺らぐ。威圧的な反応を示したのは飛鳥だ。

「ごめんなさい。魔人に嫌な思い出がありまして。どうぞ、続けてください」

険しい表情の飛鳥は首を垂れ、落ち着かせるように胸を撫でる。

「取り敢えず最後まで喋るぞ。俺らが魔人と会ったのは魔獣事件の日で、彼方を探していた時だ。書庫で密会してるとこを見つけて、最後はこのことは話すなと忠告されたんだけどな。後から知ったが、彼方の逃走を手助けしたってのがその魔人だったんだ。だから、その魔人共を探し出して何があったのか教えてもらうんだ。その魔人は彼方が自分達と同じ魔人とか魔王とか言ってたしな。場合によってはその魔人が彼方を誑かした可能性もある。だから余計会いに行かなきゃいけないんだ。このままじゃ彼方が浮かばれない」

魁斗の決意に皆は様々な反応を見せる。
しかし、不承しようとする者は一人として居なかった。

「起点が見つかって良かったです。私一人だと心細いと思っていましたので」

「かなたんの為なら一肌でも二肌でも脱ぐよ!!」

「うん、僕も頑張るよ!!」

「わ、私も頑張ります!!」

「彼方に変わって私が報復してやる」

「私も初めての友達です。力添えしましょう」

「死んでまで迷惑を掛けるとは彼方はなんて傍迷惑なんでしょう」

唯一人浮かばれない顔をする者が居た。カレナだ。
会議が終わってからはずっと萎れた状態だ。
一人曇った顔をしていては、皆に伝染すると分かっていても、悲しみは早々取れるものじゃないのだ。
部屋の隅で膝を抱えてぼそりと呟く。

「・・・そないなこと、したって、彼方は、帰って、こないんやで・・・」

震えた声は落涙を我慢しているのであろう。
彼方はもう帰ってこないという事実に、やる気を出していた者も血が出るくらいの勢いで歯噛みする。










「うざいです、心の底から腹が立って仕方がありません」










蹲るカレナを、飛鳥が殴り飛ばす。



「なに勝手に彼方を殺しているんですか?!なに勝手に死んだことを決めつけているんですか?!ふざけないでください!!その腐りきった心では想いやられる彼方が可哀想です!!そもそもあなたなんですか?!彼方のなんなんですか?!!」



飛鳥がカレナに本音をぶつける。
カレナは手で噴き出した鼻血を無造作に拭き取る。



「お前に何が分かんねん?!うちはな!!彼方が好きやってんで!!それやのに助ける前に居なくなって撃ち抜かれてんで!!うちの気持ちをほったらかしにしてやで!!」



カレナは血で濡れた拳を握り締め、殴り返す。空気を切り裂き飛鳥の頬にヒットする。
飛鳥は伸びきった腕を掴み、





「それがうざったいって言ってんだよっっ!!!」





カレナを背負い上げ、地面に叩きつける。近くにある、さも高価そうな椅子が軋み上げ潰れる。
一本背負いだ。
勢い切らせたカレナは、天井を見上げながら大粒の涙を流す。

「そんなん言うたって、かなたは、帰ってこうへん、ねんで!」

鼻を啜りながら彼方にでも言いつけるように嘆く。カレナは泣くのを隠すように、片手で眼を覆い隠している。
飛鳥はカレナの横に座り込むと、





「あなたは女で、彼方は男でしょ。女は肝は太くして男待つのが務めなんでしょうよ。彼方が好きなんでしょ?私も同じよ。それなら好きな男を信じてやりなさい。この世界だったら尚更でしょ」





子どもにお伽話でも言い聞かせるようなんでしょう口振りでカレナに言い聞かせる。
側では、荒事が無事に終わったのか、と魁斗達は息を吐いてる。ソフィアは私物を壊されたことに頬を膨らませ抗議ししに近づこうとし、立夏と愛梨に羽交い締めされている。

「彼方は未だに見つかっていないんですよ。諦めるのはもう少し後でも充分です」

カレナをあやすように、頭を撫でる。

「あの感動な場面に入っているところすいませんけど、これからのことって具体的にどうするんですか?」

ラミルが申し訳なさそうに手を挙げ、

「「「あっ」」」

全員の反応が一致する。
これでカレナ達の方針は決定した。
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