裏切りの魔男

takupon

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異世界漂流編

生も死も紙一重

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「何処にも無いよー?」

「口じゃなくて、手を動かせ」

ミミの張りのない調しらべに彼方の集中力が途切れる。

「それよりさ、なんで僕達がこんなことしてるんだっけ?」

「魔獣であるラピスさんの娘さんを助ける為ですよ。あ、お嬢、こちらはもう探しましたよ」

「そっちじゃなくて、彼方くんを捕まえなくていいのかって話だよ」

「我らの団長であるお嬢が動かないようなので、優秀な部下はその決定に従うまでですよ」

ウルファの疑問に、懸命に宝石ジュエルを探すモノクルが答える。
側から見れば泥棒と変わりない五人組は、会話を交わしながらも宝石探しに精を出す。

「それで、彼方くんの娘さんになる哀れな宝石ジュエルはどんな色でしたっけ?」

「語弊ありすぎでしょ!」

「確かー、黒みがかった紺色らしいよー」

そこで彼方が挙手しながら、



「そういえば、さ。あのムカつく王様が紺色の宝石ジュエルの王冠被ってたよな。ここに無いならそれじゃね?」



彼方の言葉に全員が顔を合わせる。遅れて気づいた彼方も緊急事態に気づいたのか、顔を真っ青にさせる。

「王様捕まえるぞ!!」

彼方の号令に皆が宝物庫を走り出す。

「で、王様って何処だっけ?」

「そんなことも知らないんですか。王は戦時はいつもホールで報告を待っているのです」

モノクルが丁寧に答える。宝物庫からホールまではそこまで遠くはない。
螺旋階段を五人が横に並びながら走る。そこへ、階段を登り切ったとこに人影が一人分見えてくる。
近づくにつれシルエットがはっきりする。その影は長身で長髪、長舌。なんか長い男だった。

「ゲゲゲッ、良くぞおいでになったな、反逆者共が。この騎士の刃ナイトブレイド切っての騎士、カット様がお前らを成敗してやるわ!」

「うわー、言ってることは正しいのになんだろこの小物感。笑い声からして敵役にしか見えないんだが。あいつ誰?」

「邪教徒の魔人よ。【断罪の魔男】って呼ばれているわ。・・・本名は初めて聞いたけど、ありふれた名前ね」

彼方がカットの宣言に口を押さえて笑いを堪える。

「さっきからバカにしすぎだ!お前らはここで大人しくこの俺様に斬られるんだな。ゲゲゲ」

「というかさー、騎士団に魔人多過ぎるよー!王国を護るどころかー、王国を脅かしてるねー!」

「ペチャクチャ五月蝿い兎人ラパンだな!!俺の話を聞けよ!!ちっ、俺の方から行くぞ」

彼方達に告げ終わると階段を早々に下り、腰に下げている剣を抜く。



「俺の剣に斬り裂かれる妙なる一番目のお客さんは~、お前だっ!!」



狙われたのは、一番動きが鈍い彼方。
劔が彼方の髄に振り降ろされ、





「私がお相手致しましょう」





寸前でモノクルの胸元から取り出した分厚い本と交わる。
空かさずミミがカットに蹴りを入れる。
クリーンヒットした脚はカットの脳を揺さぶる。

「彼方くん達はー、先に行ってー。魔人と共闘してるなんて聞かれたらー、私達首になっちゃうよー」

「その通りです。次に会う時は敵同士。その時には、この本の代償を払ってもらいましょう」

ミミとモノクルの腑抜けた会話に彼方は安堵する。
彼方では強敵になるであろう【断罪の魔男】を率先して相手してくれるというのだ。

「すまねぇ、ありがとう。次に会ったら手加減してやるよ、ミラとウルファがなっ!!」

「何身勝手なことを言っているんですか?!
やる時はいつでも本気ですよ!しかも相手は上司ですよ!鬱憤が溜まっているんですよ?!」

「それ関係ないわよ。けどそうね。次に会ったら魔女の恐ろしさ見してやるわ」

カットの隙を生じて魔人軍二人と彼方は駆け上る。

「なぁ、ここまで来てあれなんだけどさぁ。中に入れないとかないよな?」

「大丈夫なはずだよ。鍵なんて無かったし」

彼方の不安に、ウルファが気軽るく答える。

「俺らって魔人だけどさ、ミミやモノクル以外にはバレてないのか?」

「ディアメル様の魔法のお陰で大丈夫よ。けど一定以上の力を使ったり、魔力暴走が起こったりしたら魔紋の封印は解けてしまうの」

「あれって魔紋って言うのか?てか、不穏なワードが満載だったな。魔力暴走ってどうやったらなんだ?」

「それはね、感情が身体を支配して死を招くほどの大量な魔力が溢れ出すんだよ」

雑談をしながらもホールの門前に立つ。目的はもう其処だ。彼方が切り出し、

「簡単だけど作戦だけ伝えておくわ――」




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※





「闇魔法の小童はまだ捕まらんのか!!」

王の怒声にホール全体が揺れる。拳を振り上げ肘置きを殴り、怒りを抑えている。
ここには騎士が三人控えているだけで、他は外に出払っている。
騎士の一人が焦りながら王に近づく。

「た、只今観て参ります!少々お待ちください!」

速攻で挨拶がわりの忠誠を終わらせ、扉に近づく。扉には鍵が掛かっており、外から入ることは出来ない。
つまりこの時にこそ、騎士は厳重注意しなければならないのだ。
騎士は体格の何倍もある扉を身体全体で押していく。騎士が一人、外の様子を見に行き――――王の視界から掻き消える。異変に気づいた残りの騎士二人も顔を見合わせる。
王が不可思議なことに声を発しようしたところで、

「疾れっ!!」

扉の向こう側から掛け声と共に、ミラとウルファ、そして彼方がホールを駆け抜ける。

「はっはぁー、騎士あんまいないじゃん。王様狙い目だぜ」

「そんなカッコつけてないで早くここから去ろうよ」

「そんなこと言ってー。ウルっち扉の鍵閉まってて、内心汗ってただろ?」

「そうなのウルファ?」

「な、な、何のことか分からないな?!それよりもウルっちって何だよ?!」

「明らかに動揺してるぞ。だから鍵はないとかそんな知ったかぶりしない方がいいんだぜ。ほら!お前ら、駄弁ってたら王様に失礼だろ。愛想よくしなきゃな」

先頭を走る彼方が鋭い目で、王を睨む。その顔はニッと笑っている。整った容姿が台無しになってしまっている。

「なぜ騎士がそ小童と一緒にいる?!まさか裏切ったのか?!!」

「元から国の為に騎士やってたわけじゃないよ。ここらでお別れだね」

王が血相を変え奇声を挙げるが、ウルファが冷ややかに返す。
ホールの中間まで着くと追い打ちしようと騎士が迎え撃つ。
すると、予想してたかのように彼方が横にいる二人に目配せをする。彼方の目配せを見た二人は即座に動き出す。

「私、右の奴ね」

「それじゃ僕は左だ」

両方向から迫りくる騎士に、二人は余裕の笑みを浮かべ相対する。要は時間稼ぎだ。扉をくぐる前に作戦を伝えておいた通りだ。

「お前ら騎士やれよ。俺が王様やるから」

作戦と言ってもこれだけだ。単純すぎる。目配せは彼方がぶっつけ本番でしてみるとうまくいっただけだ。奇跡に近い。
ミラとウルファが騎士二人を潰しにかかり、





「【閃光フラッシュ】ッ」





ホールが光に包まれる。
王が混乱しながらも眼を開けるとそこには――――倒れた騎士と転がる王冠に、痣が出来た頬、そして窓が割れたホールの光景だった。





※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※





今回ほどうまくいけば自分達は盗賊でもいけるのじゃないか、とそんな幻想を抱く彼方は切り替えるように広がる景色を見渡す。
ミラの魔法は便利である、この上なく。王城と城壁を行き来するのに掛かった時間は僅か三秒。目の前に広がるのは無数の宝石、そして攻防を繰り広げるラピスと騎士団。
こちらに気づいたラピスは巨大な身体を傾けて顔を寄せる。

『ギュルルルル』

不敵に笑うその様は、泣く子も黙るだろう。
傷が多数付いているラピスの頭に乗り、飛び立つ。ラピスの身体に刻み込まれている傷と流れ出す血が騎士団との交戦の激しさを主張する。
何故こんなにスムーズに行動出来るのかは彼方が仕組んだことだ。念話(テレパシー)で雑談した少し後。彼方達がラピスの娘を運ぶから、それまでここで待機。その後は、高らかと逃げ去る、という簡単な作戦をラピスに伝えていたのだ。
ミミとモノクルに魔人であることをバラした以上、ここにいては危険である。
ラピスと口約束する前から、考えていた作戦は見事に成功している。返って怖いぐらいにだ。
向かうのは三大都市である古都、ヴァベル。王にも帝にも支配されない、多数の文化が行きかう都市。ここまで来たならば、思う存分異世界を楽しむしかない。

「あれ、なんか降ってきたか?」

空からポツポツと雨が降り出す。異世界に来てからというもの、良いことなしだ。

「ねぇ、彼方様のご友人達は大丈夫なの?」

「それなら大丈夫らしいよ。副団長に聞いた話なら、貴重な戦力を失うのは好ましくないから少しの間幽閉するだけだって」

「あいつらには悪いことしちまったな。またいつか会いに行くか」

「その時は魔王として会いに行くの?」

「一般人として行くよ!!けどさこれから俺らどうすんの?ディアメルじゃなかったディアには会いに行くけど、俺魔男とか嫌だよ」

「えぇー!!駄目だよそんなの!それに他の魔人が許さないよそんなこと!」

「まぁいいや。兎に角疲れたし考え事もあるし、寝るわ」

王都の上空をゆっくり飛行するラピスの頭の上で思い耽る。
この憂鬱な世界の今後についてでも考えようとしていた、その時。

「打てっっ!!!」

怒号と共に多数の矢が、










「――――ッッ!!」











彼方の背中に突き刺さる。



「「――――えっ??」」



彼方の呻き声にウルファとミラが声を揃える。
見ると、彼方の胸から矢が数本飛び出している。貫通したのだ。

「げふゅっ!」

何事もないかのように咳き込むと、手には血がべっとりと付く。

事態に彼方の身体が気づいたのか、電池が切れたロボットのように横に崩れる。

『ギュルッッッッッ!!』

頭から落ちる彼方を捉えたラピスが、叫喚を上げながら人間の身長大はある手を伸ばす。
彼方を包み込むが、

――ツルンッ!

降り注ぐ雨により彼方はラピスの手から滑り落ちる。

『グオォォォォォォォーーン!!!!』

ラピスは諦めず翼を靡かせ滑空する。
しかし、



「ドラゴンを狙えっ!!」



騎士団の矢が行く手を阻む。

「「彼方っっ!!」」

様を付ける余裕もない二人が叫び散らす。
彼方は、

「古都で待っとけっ!」

背中に刺さる痛みを堪え、叫ぶ。
上空を雨と共に堕ちていく。下には王都が待っている。自分のスキルに悲憤慷慨するが、今更だ。

「――くっ!」

身体を出来るだけ広げ速度を緩めるが、気休めにもならない。
ここまでくると待っているのはデッドエンドしかないのだ。
眼を瞑り、その時を待つ。





※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※





破壊音がし、桑を運ぶ馬車に堕ちる。破壊音は馬車の天井を突き破る音であった。
不幸中の幸いにも死に損なった彼方は、背中の矢を抜き彼方を追いかけてくるであろう騎士団から身を潜めるべく路地裏に走る。
雨が強くなり、彼方が通った道に血だまりができる。
意識が遠のいていく。前の樹海と同じだ。あの時は、死寸前のところでディアメルが助けに来てくれた。左手の鎖が妙に疼く。
会いに行くことも困難になってしまった恩人の名前を呼ぶ。

「・・・ディ、ア」

膝をつき、雨の下垂れる音だけが響く中、コツコツと足音が近づいてくる。
ディアメルが本当に来てくれたのではないか。そんな淡い期待が胸の内にあった彼方は、力を振り絞りその名を呼ぶ。





「ディ、ア!」






薄れていく景色の中、彼方が見たのは血濡れたナイフを片手にこちらを眺める、仮面であった。
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