Anti Breve~アンチ・ブレイヴ~

takupon

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3話目 リセット

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城の中であろう部屋に通された俺は、ラミファからここにいる経緯を話してもらった。

端的に訳すと、俺を補助する為にわざわざ天界から降り立ったらしい。
地上に着いた当初は、神様としての力が弱まっていることで、あらゆることに苦戦していたらしいが、今では逆に地上の生活に慣れてしまったのだ。

……なんとも愉快な話だ。一つの神話が生まれてしまいそうである。

そんな神話の主人公は、部屋の主人を放ったらかしにし、ベッドの柔らかさに感動している。
ここの描写だけ映せば、何とも言えない程平和であるが、現実逃避ばかりしていても何も始まらない。

俺はラミファとこれからについて話そうとする為に、ベットに脚を向ける。
そんな矢先に、客人が部屋を訪れてくる。部屋を揺るがす程のノックでドアの箍が外れそうだ。
俺は慌てて、眠ってしまったラミファを布団に包め、何事もないように隠す。
我ながら気休め程度にもならない案だ。
そもそも、ラミファはここではメイドという設定があるのだから、隠す必要はさらさらないのだ。
自分の不可解な行動にため息をつき、今も聞こえる騒がしいノック音に対応する。

俺はドアの隙間から、眼だけを覗かせ、妙に嫌な雰囲気を醸し出させる。
それを異もせず、凛とした声が、



「……開けろ」



その一言で俺の行動は決まった。

全力でドアを閉める。
しかし、運は俺を見放してしまった。
ドアが閉まる寸前で、外側から伸びてきた腕が待ったを掛ける、物理的に。
怖いったらありゃしない。
ゴリ押しで開けようとするその腕と耐久勝負をしていると、ドアの僅かな隙間から雷生、龝、劔が入って来る。
どうやら、この腕は亜蓮のようだ。諦めたようにドアを開けると、頗る機嫌の悪そうな顔をした亜蓮が居た。
機嫌を害したのは俺なのだが、それだけではなさそうだ。

「お前、なんであんなこと言ったんだ?」

聞かれていることは数時間前にあった、俺の演説染みた怒涛の会話のことであろう。
怒涛とは言うが演技なので気にしないでくれ。
それは勿論世界を守る為だ、とかお前らを危険に巻き込ませるわけにはいかないからだ、とか言えたらかっこいいのだが、現実はもっと深刻で複雑だ。……それを一語一句訂正せず告げるわけにはいかない。
正直に言えば、こいつらとの関係なんて上っ面だけの薄っぺらいものだ。もしも緊急事態に遭遇したなら俺はこいつらを置いて先に行く自信がある。それも全速力で。
同じ人間なら助け合うのは当然だとほざく奴がいるが、それなら殺し合うのは人間が多いではないないか?
所詮、戯言だ。

それなら俺はなんでこんな無法な願いを聞き入れたのか?そんなの決まっている。流れに合わせただけだ。
ラミファの願いを承諾すれば、何か自分が変わるのではないか、そんな淡い期待があったからだ。
俺の方からも行動に移した。
その結果がこのザマだ。何も変わったことはない。兆しが見えてくるわけでも、悪い方向に転がるわけでもない。流れはそのままだ。まるで自分が起こしたこと全てが流れに乗ったみたいではないか。

「あんなタイミングで突っかかるようなこと言っちまったら、黙らせられるに決まってんのによ」

自己嫌悪……今の俺にピッタリな言葉。
自分の性格に嫌気がさしているのではない、自分の不甲斐なさに嫌気がさしているのだ。
相手の顔色を見ては、見放されないように意見に合わせる。多数決で多い方に合わせて手を上げる。
腐っている。精魂から腐りきっている。

「おい、聞いてんのか?!」

肩を揺らされ、ハッと我に返る。眼の前には曇った顔の亜蓮が居た。

「……ちょっと調子が悪いみたいだから今日は帰ってくれないか?」

気分が悪い見たく、片腕で頭を押さえる。
俺の意思表示に、ヤンキー共は直ぐに行動に移そうとせず、

「あれか、やっぱ騎士に殴られたせいか?」

「凄い勢いで飛んで行ったから、みんな怖がっていたんだよ!」

「うちら、心配したんだよ~?」

「俺が後でやり返しといてやる。仇討ちだ!」

好き勝手に喋り出す。まるで生まれたての雛みたいだ。……言い過ぎか。
そもそも仇討ちというが俺は腕が腫れたぐらいで、死んでもいないし、大怪我もしていないわけで。

「そういえば、お前のメイドって何処に居んだ?」

ベッドに端に座り込んだ、雷生。ここに居座るつもりであろうか?
メイドならお前のすぐ後ろで寝ているぞ、と言ってやりたいがぐっと我慢する。

「ねぇ~調子良くないの?顔色悪いよ~」

立ち尽くす俺に、劔が聞いてくる。

「それにしてもどうしちゃったの、さっきは銀らしくなかったよ?」

穐が後ろから腰をコチョコチョと弄る。

「熱でもあるのか?」

俺と視線が同じ高さにある亜蓮が、額を合わせる。

ここでも彼らに好き勝手やられている。自分の空間が好き勝手されている。こんなことに怒るのは齟齬だ。しかし怒りが抑えられなかった。
どうしようもない俺に対してか、ここにいる奴らに対してか、口は無造作に動いていた。



「……いい加減にしろ」



慌てて口を塞いだが、もう遅かった。
部屋に居た皆(ラミファ以外)が眼を丸くしてこちらを見つめる。

その視線が胸にチックときた。
でも、もうどうでも良かった。こんな友達ごっこなんて。

「帰ってくんない?」

銀の髪を掻きむしり、客人をぞんざいに扱う。相手と顔を合わせたくないのか、下を向いてしまう。

「いきなりどうしたんだ?ホントにいつもの銀次らしくないぞ」

雷生は俺の沸々湧き出ている怒りに気づかず、俯いた顔を覗く。
その行動に俺が何をしたのかはよく分からない。
だが、雷生は俺の顔を見ると、





「――――ッッ!!」





恐怖で身体を引きつらせる。
自分の顔を見ることは出来ない、しかし、とても酷い表情をしていたのだろう。

強い畏怖の念を抱くいているのか、雷生は一ミリも動こうとしない。
そんな銅像野郎の横を通り過ぎ、ドアに手を掛ける。

「ん、帰れ」

顎で外を指す。
八つ当たりだ。自分は最低なことをしていると自覚した。分かっていても気持ちは変わらなかった。

「ちょ、ちょっと~、まだうちら来たばかりだよ~」

皆の意見を代表し、劔が間のある声で抗議する。横ではウンウンと穐がうなづいている。
その動作一つ一つに腹が立ってしまう。今は誰とも話したくないのだ。

「銀次は疲れているようだし、帰るぞ」

そこで動きが止まってた雷生が、スムーズに出口へ向かう。

「お、おいっ」

雷生の奇怪な行動に、戸惑った亜蓮が呼び止めるように外へ出ていく。
それに続いて穐と劔も出ていく。帰り際に俺を不安そうに見つめたが、眼を合わせることはしなかった。

五月蠅い輩が消えた部屋にはラミファの寝息が微かに聞こえるだけで、静かなものだった。
俺は眼を隠すように手で押さえ、天井を仰いだ。部屋全体を照らすシャンデリアが、今の俺には眩しすぎた。
悲しくなった。
こんなことで怒っている自分に。何も変わることが出来ない自分に。変わりたくないと思ってしまった自分に。
所詮、俺は小物であったのだ。
今だって、雷生達に怒鳴り散らして友達として扱われていた縁を切っても良かったのだ。それをしてしまわないのは、この関係を築き上げたままでいたいという心があったからだ。

反吐が出る。
この世界に何の未練も無い。それならいっそ逃げ出してしまえばいいではないか。

どうしてラミファの願いなんか引き受けたんだ。
そんな流れが出来てたからだ。

どうしてこんなグループに入っているんだ。
皆に見放されないようにする為だ。誰でも良かったのだ。

ヤンキーやギャルは毛嫌いしている癖して自分も似たようなものではないか。
学校でも立ち位置を悪くしない為だ。

どうして些細なことで悩んでいるんだ。
分からない。

なんで終わりにしないんだ。
こんな俺と接してくれる人がいるからだ。

上っ面だけと言っていたのは自分じゃないか。
それでもいい。もう疲れた。

本当にそうなのか?
……えっ。




「偽りの自分に嫌気がさして癇癪起こしたのに、それを辞めたくないのは矛盾じゃないか。
そんなことで悩んでいるだぁ~。知るか!僕は君に決めてしまったんだ。それとも選んだのは間違えだったのかい?こんな情けない男だとは思っていなかったよ!
闘いの流れを変えようとして失敗したから疲れた?今のどうしようもない友情をやめたい?笑わせるな!!僕が出来なかったことを君が直ぐに出来てたまるか!友情なんてそんな簡単に出来るもんじゃない!
外面的問題は捨てるんだ。君が今から敵対するのはそんな甘いもんじゃないんだ!
異世界なんだもっと楽しめ!異世界なんだもっと喜べ!銀次!君にはONとOFFの切り替えがなってない。難しいことなんて後回し!
自分が嫌になったんならその自分を上書きすればいい。人間関係なんて蹴り倒せ。友達ごっこなんてぶち壊せ。君は君にしか創れないんだ。選ぶ権利は君にしかないんだよ」





それを言ったのは十中八九でラミファである。

「それじゃ、どうすればいいんだよ?」

「そんなの自分で考えろ!僕は天使でも神でもないんだ!」

「……時々忘れるかもしれないから言っておくが、お前は一応神様だぞ」

「今はメイドだ!!」

どうしようもない会話に、俺は口の端が吊り上がってしまう。ホントどうしようもない。

俺はベッドに倒れ込む。ラミファの呻き声が聞こえてくるが、今はもう寝てしまいたい気分であったのだ。

「おやすみ」

「おっ、おい待ってくれ!重い、重いから!!」

そんな悲鳴を他所に、俺の視界は途切れた。
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