Anti Breve~アンチ・ブレイヴ~

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2話目 厄災の騎士

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「肩を貸してくださいませんか?」



俺は数秒ポカンと口を開けていた後、我に帰る。

「えっ、私の決め台詞はスルーなの?!」 

「すみません。俺とミリアのトークを見てなかったラミファ様は知らないと思うんですけど、すんごい勢いで殴られたんで早く休憩したいんです」 

「うわっ。真顔で返されると、僕のハートは傷ついちゃうよ。その調子で喋れるなら大丈夫だねっ!」

「……俺の話、聞いてました?」

「銀次の英雄譚だろ?実はしっかりと見ていたよ!まさかあそこまで協力的になってくれるなんて、これは凄い掘出し物だね」

肩を支えてもらいながら、駄弁る俺とラミファ様。

「そう言えば、なんでここに居るんですか?」

「最重要のことは一番最初に聞いておくもんなんだよ!!」

「そんなに怒らなくても良いじゃないですか。オモチャでも買ったあげるので許してくださいよ」

「うわーい、オモチャだー!」

両手を万歳させる神々しい存在の少女。

何だこの茶番は?

「ってぇ!今、僕の事を子ども扱いしたな?!」

「子どもじゃないんですか?」

「立派な大人だよ!老人でも過言ではないよ?!君とは年がエベレスト二個分は離れているからね!」

「分かりにくい言い方しないでください。そもそも神様ってエベレスト知ってるんだ……」

「話を逸らすんじゃない!」

「あーはいはいそれじゃあ老人のラミファ様には入れ歯でも買ってあげますよ」

「バカにするなって話だぁ!!」

「すみませんでしたって」

弄られることに慣れてないのか、怒りは収まってないようだ。
横からラミファ様の肘が脇腹を刳っている。
……痛い。

しかし、どうにも引っ掛かりを感じる。どこか、神の威厳というか覇気がない気がする。喋り方も前は説明好きみたいな、俺の嫌いなタイプであったはずだったのだったが、今はもう普通の少女にしか思えない。演じているのだろうか?

結局、ラミファ様が何故ここに居るかは聞けなかった。落ち着いてから聞くことにしよう。今聞くのは怒られそうなのでこの話題は今度にする。

「そうだ、銀次。僕のこ「今更強請ったって入れ歯は買わないですよ」……そろそろ怒るよ?!入れ歯は入らないから。それよりもだ。銀次は僕のことを様付けで呼んでいるが、それはこれからなしだ。今は勇者とメイドの関係なんだよ。それを様付けなんてしたら僕の印象が悪くなっちゃうじゃないか。だから敬語も無しだ、いいかい?」

ラミファ様は腕を振り上げ、怒りのポーズをとる。
小動物みたいで可愛らしいと思う俺の心はロリコンであったのだろうか?ポイント的にはメイド服というのも中々のチョイスだ。

「分かりまし……分かった、ラミファ。これから宜しく」

「あぁ、宜しくだね!」

そんな感じでなんやかんやと喋っていると、ホールにはいつの間にか人が少なくなっていた。居るのは殆どが騎士だ。
俺はそちらと顔を合わせないようにホールの扉へ歩いていく。理由は勿論、ミリアとの邂逅トークについて難癖つけられたくないからだ。
ラミファ様改め、ラミファと共に出口へ向かうと、一人の騎士が待ち構えていた。

俺はきっと、嫌な反応をしていただろう。

「うげっ」

現に声に出てしまっている。
その騎士は、会話の途中で俺を殴り飛ばした甲冑の騎士であった。男か女かも分からないフル装備に俺は少し引き気味に対応する。

「何か……用か?」

すると、バッとヘルムを曲げ、篭った声が甲冑の奥から聞こえてくる。

「私の攻撃に即座に反応、その身のこなしによる受け身、異世界人ということを考慮すると五十八点です」

「あぁ?」

「その綺麗な銀髪に、鋭い眼差し、それに似合う背丈、中々の容姿です八十九点」

「バカにしてんのか?」

「その口調、マイナス五点です」

なんだこいつは?やり難い相手だ。
てっきり忠告でもされるのかと思っていた。

「口調が悪いのは悪かった。お前何なんだ?」

「相手のが何者か尋ねる時はまず自分からでしょう?減点です」

「あぁぁうざいし、もういいわ!」

ラミファを連れて、ホールの扉を潜ろうとすると、

「話を聞い中断するのは感心しませんね。減点です」
 
張本人によってやられた、腫れ上がった腕を握られる。

「痛い痛い痛い!!」

「ちょっ、ちょっと!騎士様、やり過ぎではありませんか?!」

ここではメイドの設定であるのだろうか?
横についていたラミファが礼儀正しくも強みのある声色で、騎士を止めにかかる。

「私は彼と会話をしたいだけです。それを止めるのですか?減点しますよ」

「点数がなんですか?!そんなことよりも銀次を離してあげてください!痛がっているでしょう?」

「確かにやりすぎてしまいましたね。申し訳ございません、減点ですね。しかし私はまだ彼に先程の弁解と謝罪をしていません。どうか少しの会話を許してはもらえないでしょうか?」

何故に本人に許可を求めるのではなく、メイドに許可を求めているのだろう?
ラミファの猛追に甲冑の騎士は後退するも、負けずとヘルムを揺らす。

「なるほど、そんなことだったんですか。それならお早くお済みになられください。まだ銀次に部屋を教えてあげられていませんので」

敬語の中に、俺の名前が呼び捨てで入っていると、少し引っかかるが、気づいてはいないらしい。後で注意しておこう。なんせ今はメイドと勇者の関係なのだから。
ラミファは騎士の言葉を聞くと、頭を下げ一歩下がってしまう。

騎士はラミファに一礼すると、俺の真正面に立つ。
背は百七十五センチぐらいと、俺より少し低めだ。もし甲冑の中身が女性なら、かなりの高身長になるだろう。だが、中の姿を知る術は今はないので、気にはしない。

「えっと~、邪険に扱ってすまなかったな。まさか謝罪をしてくるなんて思ってもなかったんでよ」

「気にしないでいただきたい。私は直ぐに熱くなってしまう癖がある。……マイナスポイントですね。それよりも、その腕を見してください」

「ん?ほらよ」

訳も分からず、疲れて垂れ切った腕を騎士の眼の前に差し出す。
その両腕を優しく握ると、銀次を温かい光が包む。

「【回復(ヒール)】」

この世界には魔法もあるのか?俺はその温かくも優しい光に見惚れてしまっていた。
俺にも魔法を使うことは出来るのだろうか?
魔法と剣は言わば男のロマンだ。
やはり闘うとなれば、使うことになるのだろう。

俺の心で微かな不安と熱い憧憬が混ざり合う。

「よし、これで終わりです。王の命令とは言え、貴方を傷つけてしまったことは確かです。何かしてほしいことなどはないですか?」

「剣術を教えて!!」

迷う必要もないので、即座に答えた。客観視で見ると、俺の眼はキラキラと輝いているのではないだろうか?
しかし、

「……私に剣を教わるのは止めておいたほうがいいです、すみません。その他のことなら聞きましょう」

「なんか、教えられない事情でもあるのか?」

どうやら私情があるようだ。
プライベートに立ち入るつもりはなかったが、好奇心で問い掛けてしまった。

「それは……」

甲冑騎士が歯切れ悪く声を出し、

「そいつは呪われてるから、人に気づかってんだよ」

紅いマントを羽織った、赤髪のダンディーな騎士が近づいてくる。年は三十前半といったところか。

「俺の名はアンクレット。騎士団を統率する一人さ。そんでこいつは……」

「ディザイアです」

「お、おう。俺の名前は十六夜 銀次だ。十六夜が苗字で、銀次が名前な。……んで、呪われてるってどういうことだ?」

「そのままだな。冗談でも比喩でもねーぞ」

赤髪騎士、アンクレットはその赤毛を搔きむしりながら眠たそうに言う。

俺はその言動に少しムカッとした表情になり、視線を外すと甲冑騎士、ディザイアと眼が合う。
顔が一切分からないディザイアだが、切ない表情をしているよう見えてしまった。顔は一切見えないのにだ。

どうしていいか分からない俺に、アンクレットは話を続ける。しかし、それが地雷であった。





「こいつの二つ名がな、【厄災】でな。毎回こいつ以外の仲間が全滅するんだよ」





そのセリフをここで言う必要はあったのだろうか。重みを感じないようにサラリと述べた、アンクレットは悪気も無いように欠伸をしている。

「ことの始まりがな、ある作戦で行動を共にした奴の中にディザイアのことを好きな奴が居てよ。この闘いが終わったら告白するとか言ってて、それがこのザマでな。そこから【厄災】ってついちま「やめてください!!!!!」」

琴線を突っ切ってしまったのか、ディザイアの怒号がホールを揺らす。

ディザイアは手をあた頭に付き、疲れ切ったようにため息をつきながら呟く。

「これ以上、銀次さん達を留まらせてしまっては、迷惑です。そんなことをしてしまっては減点です。行きましょう、アンクさん」

「あぁ、そうだなすまない。君には期待しているからこれから頑張ってくれや」

そう告げるとディザイアとアンクレットは背を向け歩き出す。
俺と、蚊帳の外にいるラミファも背中を向けようとし、





「……ごめんな……」





アンクレットが消え入りそうな声でぼやいた。
それは誰に伝えたかったのか、彼にしか分からない。

悲し気な後ろ顔を見せるアンクレットが、俺の心に深く刺さってしまった。





どうやらこの世界も面倒事に溢れているらしい。
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