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第1話
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俺は朝から今日の入院患者や退院患者の人数を確認しながら、どのように業務を進めるか頭の中で段取りを組んでいた。
名前は佐藤裕貴。急性期病棟で補助看護師として働き始めて、もうすぐ2年が経つ。
「先輩!おはようございます!」
元気な声が背後から飛んできた。振り返ると、新人看護師の宮野歩夢が笑顔で手を振っている。
「おはよう、歩夢くん」
彼は今年入職したばかりの新人で、170センチほどの身長に、眠たげな目が特徴的な男の子だ。どこか優しげな雰囲気を漂わせているが、右耳につけた小さなピアスが少しだけ彼の個性を主張している。
「今日も忙しいね。退院患者さんが多いよ」
「えぇ?マジっすか?今日も残業確定ですかね~」
歩夢は大げさに肩を落とし、ため息をついてみせた。その仕草が少しおかしくて、思わず苦笑する。
「できることは手伝うから、なんとか定時に帰れるように頑張ろう?」
「ういっす!よろしくお願いします!」
元気よく返事をした歩夢の笑顔に、少しだけ疲れが和らぐのを感じた。
午前中の地獄のような忙しさをなんとか乗り越え、気づけば俺を含めた看護師たちは皆疲れ切っていた。それでもどうやら今日は全員定時で帰れそうだ。俺も帰る準備を進めていると、背後から聞き慣れた声が飛んできた。
「先輩!今日、2人で飲みませんか?」
振り返ると、宮野歩夢がにこにことした笑顔を浮かべている。
「あー…どうしようかな。今日帰ったら、やらなきゃいけないことがあってさ」
そう答えると、彼は途端にしょんぼりした顔を見せた。
「えぇ~、俺、先輩と飲みたいですけど…」
寂しそうな表情に、なんだか罪悪感を覚える。俺はため息をつきながら、彼の頭に軽く手を乗せてぽんっと叩いた。
「じゃあさ、明日飲もうか?」
「マジっすか!?絶対ですよ?明日それ楽しみに仕事頑張ります!」
満面の笑顔でそう言う彼に、思わず笑みがこぼれる。
「可愛いな、お前は。まったく」
「俺、先輩のために仕事来てるんですよ?」
不意打ちの言葉に、俺は思わず目を瞬かせた。
「…え?俺のため?」
「そうですよ。先輩がいなきゃ、こんなブラックな職場、とっくに辞めてますって。先輩が俺を応援してくれるし、『頑張れ』って言ってくれるから、続けてるんです」
真剣な目でそう言う歩夢に、胸がきゅっと締め付けられるような思いがした。
「もう、あんまり先輩をからかわないの」
「はーい」
「またね?」
「明日!絶対に!お酒飲みましょう!」
彼が勢いよく手を振るのに応え、俺も軽く手を振り返してその場を離れた。そのまま急いで家へ向かう途中、スーパーに寄って夕飯の食材を買い込む。玄関の扉を開けると、リビングの入り口に一人の男が立っていた。
俺の夫、光だ。
「おかえり、遅かったね」
「遅いって、まだ18時だよ。それに、買い物してたからさ」
「うん、それは分かるけど。仕事終わったらすぐ連絡してって言ったよね?何かあったかと心配するじゃん」
「…忘れてたよ」
「忘れないでよ。ねぇ、ただいまのチューは?」
光が軽く笑いながら顔を近づけてくる。俺は仕方なく荷物を床に置き、彼を軽く抱きしめてから唇に触れるだけのキスをした。
「ねぇ、なんでそんな軽いキスなの?」
「…分かったよ」
渋々ながらも、もう一度彼の顔に向き直った。
彼の背中に手を回し唇を重ねると彼は俺を壁に押さえつけ口の中に舌を突っ込んできた。
ぐちゃぐちゃと嫌らしい音が部屋に響き渡る。俺は呼吸が苦しなり、磨くように背中に爪を立てるが彼はさらに奥まで舌を突っ込み口の中を搔き回した。
「ふぅ、満足満足。」
「ったく…もう。」
光が満足げに椅子に座り込む姿を横目で見ながら、俺は床に置いていた買い物袋を拾い、冷蔵庫に中身をしまい始めた。
「ねぇ、ご飯は?」
「今から作るよ~」
「じゃあ、お風呂洗った?入りたいんだけど」
食材を片手で仕分けながら振り返ると、光がソファに座ったまま俺を見ている。
「少し待っててよ。俺、仕事から帰ってきたばかりなんだから」
少し苛立ちを抑えきれない声色になったのが自分でもわかった。すると、光は不満そうに頬を膨らませ、拗ねたような口調で言った。
「そんな強く言わなくてもいいじゃん。俺はただ、お風呂が沸いてるかどうか聞きたかっただけなのに」
「あのね?ご飯作ってって言われたあとに『お風呂掃除は?』なんて聞かれても、すぐにはできないんだよ。少し待ってて。」
「はーい。」
光は一応返事をしたが、どう見ても納得していない様子でソファに深く座り込む。その姿に軽くため息をつきながら、俺は手早く夕飯の支度を始めた。
野菜を刻んでいる最中、また部屋の奥から声が響いてくる。
「ねー、裕貴ー、俺の服はどこ?」
「え?タンスに入ってるんじゃないの?」
「ねー、裕貴ー、リモコンは?」
「分からないよ。」
リモコンなんて俺が使った覚えもない。思わず眉間を押さえながら、(お願いだから料理に集中させてよ…)と心の中で呟いた。それでも、何とか気を取り直して手際よく料理を仕上げた。
食事の準備を整えたあと、俺はそのままお風呂掃除へと向かう。浴室に入り、洗剤を手にしてスポンジでタイルを擦り始めたところで、また光の声が聞こえた。
「裕貴ー、ご飯食べよう?」
「今、お風呂掃除してるから先に食べてて?」
「えーーー、裕貴と一緒に食べたい。」
光の甘えたような声に、俺は眉をひそめながらスポンジをタイルに押し付けた。(ったく、本当に…イライラするな)
浴槽を磨く手を止め、軽く深呼吸して自分の感情を鎮める。こんな調子じゃ、今日もゆっくり休める気がしない。
ご飯を食べ終え、お風呂も済ませたあと、俺は洗い物を片付けようとキッチンへ向かおうとした。すると、光が後ろから俺を強く抱きしめた。
「少し休もう?」
「いや、洗い物やらないと。」
「俺がやるからさ。」
「……いつ?」
「明日、仕事から帰ってきたら。」
その言葉に、俺はため息をつきながら振り返った。
「光、帰ってくるの18時過ぎるでしょ?仕事から帰ってきて洗い物なんてできるわけないじゃん。」
彼の腕をそっとほどき、俺はまたキッチンへ向かった。冷たい真冬の流水と戦いながら、30分ほどかけてようやく皿洗いを終える。疲れた体を引きずりながらリビングに戻ろうとすると、光の鞄のそばに空の弁当箱と水筒が置いてあるのが目に入った。
(……嘘だろ。これも洗わなきゃいけないの?)
呆れと苛立ちを感じながら顔を上げると、光が申し訳なさそうに頭をかいて言った。
「あ!ごめん!裕貴、お弁当と水筒出すの忘れてた。」
「もう何回目?俺、帰ったらすぐ出してって言ってるよね?これで十回目だよ?」
自分でも声が少し強くなったのを感じたが、イライラを抑えられなかった。光はシュンとした顔で小さく答える。
「そんなに怒らなくても……。」
「……もういい。洗うから弁当箱、こっちに出して。」
俺は光が差し出した弁当箱と水筒を持ち、再び冷たい流水の前に立った。皿洗いを終えたばかりの手がまた冷え切る感覚に耐えながら、ようやくそれらも洗い終えた。
「もう、0時か。」
「裕貴!隣に来てよ!」
「うん。」
俺は返事をし、光の隣に潜り込んだ。布団にくるまりながら、しばらく二人で天井を眺める。光はスマホを弄っているようだ。俺は無意識に彼の体を強く抱きしめた。
「ねぇ……俺……したい。」
少し震える声で伝えると、光は一瞬動きを止めた。
「あ……えっと。明日、仕事だし……次の休みにしよ?」
少し焦ったような声でそう言われた。俺は黙って彼を見つめるが、光はそのまま視線をスマホに戻してしまう。
「……うん。」
返事をするのが精一杯だった。
何回目だろう。彼が俺を断るのは。付き合って1年、結婚してからまだ4ヶ月。それなのに、俺たちはまだ一度も身体を重ねたことがない。
(俺だって……したいのに。)
心の中でぽつりとつぶやく。けれど、それ以上は何も言えなかった。ただ静かに目を閉じ、光の体温を感じながら眠りに落ちるのを待つしかなかった。
名前は佐藤裕貴。急性期病棟で補助看護師として働き始めて、もうすぐ2年が経つ。
「先輩!おはようございます!」
元気な声が背後から飛んできた。振り返ると、新人看護師の宮野歩夢が笑顔で手を振っている。
「おはよう、歩夢くん」
彼は今年入職したばかりの新人で、170センチほどの身長に、眠たげな目が特徴的な男の子だ。どこか優しげな雰囲気を漂わせているが、右耳につけた小さなピアスが少しだけ彼の個性を主張している。
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歩夢は大げさに肩を落とし、ため息をついてみせた。その仕草が少しおかしくて、思わず苦笑する。
「できることは手伝うから、なんとか定時に帰れるように頑張ろう?」
「ういっす!よろしくお願いします!」
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午前中の地獄のような忙しさをなんとか乗り越え、気づけば俺を含めた看護師たちは皆疲れ切っていた。それでもどうやら今日は全員定時で帰れそうだ。俺も帰る準備を進めていると、背後から聞き慣れた声が飛んできた。
「先輩!今日、2人で飲みませんか?」
振り返ると、宮野歩夢がにこにことした笑顔を浮かべている。
「あー…どうしようかな。今日帰ったら、やらなきゃいけないことがあってさ」
そう答えると、彼は途端にしょんぼりした顔を見せた。
「えぇ~、俺、先輩と飲みたいですけど…」
寂しそうな表情に、なんだか罪悪感を覚える。俺はため息をつきながら、彼の頭に軽く手を乗せてぽんっと叩いた。
「じゃあさ、明日飲もうか?」
「マジっすか!?絶対ですよ?明日それ楽しみに仕事頑張ります!」
満面の笑顔でそう言う彼に、思わず笑みがこぼれる。
「可愛いな、お前は。まったく」
「俺、先輩のために仕事来てるんですよ?」
不意打ちの言葉に、俺は思わず目を瞬かせた。
「…え?俺のため?」
「そうですよ。先輩がいなきゃ、こんなブラックな職場、とっくに辞めてますって。先輩が俺を応援してくれるし、『頑張れ』って言ってくれるから、続けてるんです」
真剣な目でそう言う歩夢に、胸がきゅっと締め付けられるような思いがした。
「もう、あんまり先輩をからかわないの」
「はーい」
「またね?」
「明日!絶対に!お酒飲みましょう!」
彼が勢いよく手を振るのに応え、俺も軽く手を振り返してその場を離れた。そのまま急いで家へ向かう途中、スーパーに寄って夕飯の食材を買い込む。玄関の扉を開けると、リビングの入り口に一人の男が立っていた。
俺の夫、光だ。
「おかえり、遅かったね」
「遅いって、まだ18時だよ。それに、買い物してたからさ」
「うん、それは分かるけど。仕事終わったらすぐ連絡してって言ったよね?何かあったかと心配するじゃん」
「…忘れてたよ」
「忘れないでよ。ねぇ、ただいまのチューは?」
光が軽く笑いながら顔を近づけてくる。俺は仕方なく荷物を床に置き、彼を軽く抱きしめてから唇に触れるだけのキスをした。
「ねぇ、なんでそんな軽いキスなの?」
「…分かったよ」
渋々ながらも、もう一度彼の顔に向き直った。
彼の背中に手を回し唇を重ねると彼は俺を壁に押さえつけ口の中に舌を突っ込んできた。
ぐちゃぐちゃと嫌らしい音が部屋に響き渡る。俺は呼吸が苦しなり、磨くように背中に爪を立てるが彼はさらに奥まで舌を突っ込み口の中を搔き回した。
「ふぅ、満足満足。」
「ったく…もう。」
光が満足げに椅子に座り込む姿を横目で見ながら、俺は床に置いていた買い物袋を拾い、冷蔵庫に中身をしまい始めた。
「ねぇ、ご飯は?」
「今から作るよ~」
「じゃあ、お風呂洗った?入りたいんだけど」
食材を片手で仕分けながら振り返ると、光がソファに座ったまま俺を見ている。
「少し待っててよ。俺、仕事から帰ってきたばかりなんだから」
少し苛立ちを抑えきれない声色になったのが自分でもわかった。すると、光は不満そうに頬を膨らませ、拗ねたような口調で言った。
「そんな強く言わなくてもいいじゃん。俺はただ、お風呂が沸いてるかどうか聞きたかっただけなのに」
「あのね?ご飯作ってって言われたあとに『お風呂掃除は?』なんて聞かれても、すぐにはできないんだよ。少し待ってて。」
「はーい。」
光は一応返事をしたが、どう見ても納得していない様子でソファに深く座り込む。その姿に軽くため息をつきながら、俺は手早く夕飯の支度を始めた。
野菜を刻んでいる最中、また部屋の奥から声が響いてくる。
「ねー、裕貴ー、俺の服はどこ?」
「え?タンスに入ってるんじゃないの?」
「ねー、裕貴ー、リモコンは?」
「分からないよ。」
リモコンなんて俺が使った覚えもない。思わず眉間を押さえながら、(お願いだから料理に集中させてよ…)と心の中で呟いた。それでも、何とか気を取り直して手際よく料理を仕上げた。
食事の準備を整えたあと、俺はそのままお風呂掃除へと向かう。浴室に入り、洗剤を手にしてスポンジでタイルを擦り始めたところで、また光の声が聞こえた。
「裕貴ー、ご飯食べよう?」
「今、お風呂掃除してるから先に食べてて?」
「えーーー、裕貴と一緒に食べたい。」
光の甘えたような声に、俺は眉をひそめながらスポンジをタイルに押し付けた。(ったく、本当に…イライラするな)
浴槽を磨く手を止め、軽く深呼吸して自分の感情を鎮める。こんな調子じゃ、今日もゆっくり休める気がしない。
ご飯を食べ終え、お風呂も済ませたあと、俺は洗い物を片付けようとキッチンへ向かおうとした。すると、光が後ろから俺を強く抱きしめた。
「少し休もう?」
「いや、洗い物やらないと。」
「俺がやるからさ。」
「……いつ?」
「明日、仕事から帰ってきたら。」
その言葉に、俺はため息をつきながら振り返った。
「光、帰ってくるの18時過ぎるでしょ?仕事から帰ってきて洗い物なんてできるわけないじゃん。」
彼の腕をそっとほどき、俺はまたキッチンへ向かった。冷たい真冬の流水と戦いながら、30分ほどかけてようやく皿洗いを終える。疲れた体を引きずりながらリビングに戻ろうとすると、光の鞄のそばに空の弁当箱と水筒が置いてあるのが目に入った。
(……嘘だろ。これも洗わなきゃいけないの?)
呆れと苛立ちを感じながら顔を上げると、光が申し訳なさそうに頭をかいて言った。
「あ!ごめん!裕貴、お弁当と水筒出すの忘れてた。」
「もう何回目?俺、帰ったらすぐ出してって言ってるよね?これで十回目だよ?」
自分でも声が少し強くなったのを感じたが、イライラを抑えられなかった。光はシュンとした顔で小さく答える。
「そんなに怒らなくても……。」
「……もういい。洗うから弁当箱、こっちに出して。」
俺は光が差し出した弁当箱と水筒を持ち、再び冷たい流水の前に立った。皿洗いを終えたばかりの手がまた冷え切る感覚に耐えながら、ようやくそれらも洗い終えた。
「もう、0時か。」
「裕貴!隣に来てよ!」
「うん。」
俺は返事をし、光の隣に潜り込んだ。布団にくるまりながら、しばらく二人で天井を眺める。光はスマホを弄っているようだ。俺は無意識に彼の体を強く抱きしめた。
「ねぇ……俺……したい。」
少し震える声で伝えると、光は一瞬動きを止めた。
「あ……えっと。明日、仕事だし……次の休みにしよ?」
少し焦ったような声でそう言われた。俺は黙って彼を見つめるが、光はそのまま視線をスマホに戻してしまう。
「……うん。」
返事をするのが精一杯だった。
何回目だろう。彼が俺を断るのは。付き合って1年、結婚してからまだ4ヶ月。それなのに、俺たちはまだ一度も身体を重ねたことがない。
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