4 / 37
第4話
しおりを挟む
目を覚ますと、見慣れないピンク色の天井が視界に入った。重い体をなんとか起こして周囲を見渡す。隣には、裸のまま穏やかに眠る歩夢の姿があった。その光景に一瞬言葉を失い、目線を自分に向けると、俺も同じく何も身に着けていないことに気づく。
その瞬間、昨夜の出来事が鮮明に蘇った。
「俺…後輩と…してしまったんだ…」
胸の奥にざわつく感情が広がる中、混乱と後悔、そしてほんの少しの温かさが交錯していた。
「先輩?」
歩夢が眠たそうに目をこすりながらゆっくりと起き上がった。しばらく俺の顔をじっと見つめていたが、次第に目を大きく見開き、彼も昨日のことを思い出したのだろう。瞬間的に布団を跳ねのけ、その場で深々と頭を下げて土下座を始めた。
「ごめんなさい!俺…先輩が既婚者だって知ってたのに…」
「やめて、謝らないで。俺のヒートのせいだし、歩夢くんが悪いわけじゃないから」
そう言いながらも、胸の奥に言いようのない罪悪感が湧いてくる。だが次の彼の言葉に、全身が固まった。
「でも…俺、先輩と…生でしてしまったんです」
彼の視線が一瞬、俺の下腹部へと向けられる。それに気づくと、お尻に微かに残る違和感と生温かい感触が鮮明に蘇り、昨夜の記憶が頭の中でフラッシュバックした。急に恥ずかしさが込み上げ、俺は思わず顔を布団で覆った。
(なにやってるんだ、俺たち…)
心臓が早鐘を打つ音だけが、静かな部屋に響いていた。
「もう…朝の8時か。朝帰りなんて、旦那に殴られるかもな…。しかも後輩とエッチしてるし…」
自嘲気味に呟いた言葉に、隣の歩夢が申し訳なさそうに俯いた。
「先輩…全部俺のせいです。俺が…」
「違うよ、歩夢くん。」
俺は布団をゆっくりと下げ、彼の真剣な表情を見つめた。
「歩夢くんは何も悪くない。これは俺自身の問題だから、気にしないで。むしろ…巻き込んじゃってごめんね。」
彼の不安そうな瞳に少しでも安心してほしくて、無理に笑顔を作りながら続けた。
「それに…正直、すごく気持ちよかったよ。ありがとう。」
俺の言葉に、歩夢の表情が驚きに変わる。
「…いつか本当に番になれる相手ができたら、その人をたくさん愛してあげて。俺のことは、もう気にしなくていいから。」
少し切なくなる自分の声が部屋に響いたが、これ以上彼に負担をかけるわけにはいかなかった。
俺はシャワーを浴びて急いで部屋を出た。
息を切らしながら家にたどり着いた俺は、玄関の扉を恐る恐る開けた。
すると、そこに光が立っていた。
彼の表情は無表情。怒っているのか、冷静でいるのか、全く読めない。だけど、その沈黙がかえって不気味で、背筋が冷たくなる。
光は一歩、また一歩と、静かに俺に向かって歩み寄ってくる。その姿に息苦しさを覚え、俺は慌てて口を開いた。
「ご、ごめん。朝帰りしてしまっ――」
言葉を最後まで言い切る前に、彼の手が俺の首を掴んだ。
「っ――!?」
抵抗する間もなく、彼の力強い手が俺を壁に押し付ける。喉にかかる圧力が増し、呼吸ができない。
「約束、破ったな」
低く抑えた声。けれど、その声には明らかに怒りがにじんでいる。
「朝帰りはしないって決めてたよな?なんで破った?」
彼の顔が俺の目の前まで近づき、その目が鋭く俺を射抜く。恐怖で身体が硬直する。
「浮気か?お前、浮気したんだろ?」
光の手の力がさらに強まり、視界が滲む。
「俺のものだって…何度も言ったよな?」
彼の声は冷たく鋭い。それに反して、俺の体温は急速に冷えていくように感じた。
「ひ、かる…待って、俺…違う、浮気じゃ…」
必死に声を絞り出そうとするも、喉を締め付けられているせいで言葉がうまく出てこない。
「俺に隠し事するんじゃねえよ」
その言葉が胸に突き刺さり、全身が恐怖で震えた。
次の瞬間、彼の手が俺の頬を鋭く叩いた。乾いた音が玄関に響き、顔に焼けるような痛みが広がる。
「やっぱり、お前を呑みに行かせるんじゃなかった。俺が間違ってた。」
光の声は低く冷たい。けれど、その中に抑えきれない怒りが滲んでいる。
「お前には何も必要ない。呑み会も、友達も、仕事も全部だ。お前に必要なのは俺だけだ。それで十分だろう?」
光の言葉はまるで逃げ場を塞ぐようで、俺の胸を締め付けた。
「明日、辞表を出せ。」
その一言には、揺るぎない命令の響きがあった。
「お前に仕事なんていらない。俺のそばにいればそれでいいんだ。」
彼の目は冷たく、けれどどこか狂気を孕んでいるように感じられた。
胸の奥で何かが砕ける音がしたような気がした。
その瞬間、昨夜の出来事が鮮明に蘇った。
「俺…後輩と…してしまったんだ…」
胸の奥にざわつく感情が広がる中、混乱と後悔、そしてほんの少しの温かさが交錯していた。
「先輩?」
歩夢が眠たそうに目をこすりながらゆっくりと起き上がった。しばらく俺の顔をじっと見つめていたが、次第に目を大きく見開き、彼も昨日のことを思い出したのだろう。瞬間的に布団を跳ねのけ、その場で深々と頭を下げて土下座を始めた。
「ごめんなさい!俺…先輩が既婚者だって知ってたのに…」
「やめて、謝らないで。俺のヒートのせいだし、歩夢くんが悪いわけじゃないから」
そう言いながらも、胸の奥に言いようのない罪悪感が湧いてくる。だが次の彼の言葉に、全身が固まった。
「でも…俺、先輩と…生でしてしまったんです」
彼の視線が一瞬、俺の下腹部へと向けられる。それに気づくと、お尻に微かに残る違和感と生温かい感触が鮮明に蘇り、昨夜の記憶が頭の中でフラッシュバックした。急に恥ずかしさが込み上げ、俺は思わず顔を布団で覆った。
(なにやってるんだ、俺たち…)
心臓が早鐘を打つ音だけが、静かな部屋に響いていた。
「もう…朝の8時か。朝帰りなんて、旦那に殴られるかもな…。しかも後輩とエッチしてるし…」
自嘲気味に呟いた言葉に、隣の歩夢が申し訳なさそうに俯いた。
「先輩…全部俺のせいです。俺が…」
「違うよ、歩夢くん。」
俺は布団をゆっくりと下げ、彼の真剣な表情を見つめた。
「歩夢くんは何も悪くない。これは俺自身の問題だから、気にしないで。むしろ…巻き込んじゃってごめんね。」
彼の不安そうな瞳に少しでも安心してほしくて、無理に笑顔を作りながら続けた。
「それに…正直、すごく気持ちよかったよ。ありがとう。」
俺の言葉に、歩夢の表情が驚きに変わる。
「…いつか本当に番になれる相手ができたら、その人をたくさん愛してあげて。俺のことは、もう気にしなくていいから。」
少し切なくなる自分の声が部屋に響いたが、これ以上彼に負担をかけるわけにはいかなかった。
俺はシャワーを浴びて急いで部屋を出た。
息を切らしながら家にたどり着いた俺は、玄関の扉を恐る恐る開けた。
すると、そこに光が立っていた。
彼の表情は無表情。怒っているのか、冷静でいるのか、全く読めない。だけど、その沈黙がかえって不気味で、背筋が冷たくなる。
光は一歩、また一歩と、静かに俺に向かって歩み寄ってくる。その姿に息苦しさを覚え、俺は慌てて口を開いた。
「ご、ごめん。朝帰りしてしまっ――」
言葉を最後まで言い切る前に、彼の手が俺の首を掴んだ。
「っ――!?」
抵抗する間もなく、彼の力強い手が俺を壁に押し付ける。喉にかかる圧力が増し、呼吸ができない。
「約束、破ったな」
低く抑えた声。けれど、その声には明らかに怒りがにじんでいる。
「朝帰りはしないって決めてたよな?なんで破った?」
彼の顔が俺の目の前まで近づき、その目が鋭く俺を射抜く。恐怖で身体が硬直する。
「浮気か?お前、浮気したんだろ?」
光の手の力がさらに強まり、視界が滲む。
「俺のものだって…何度も言ったよな?」
彼の声は冷たく鋭い。それに反して、俺の体温は急速に冷えていくように感じた。
「ひ、かる…待って、俺…違う、浮気じゃ…」
必死に声を絞り出そうとするも、喉を締め付けられているせいで言葉がうまく出てこない。
「俺に隠し事するんじゃねえよ」
その言葉が胸に突き刺さり、全身が恐怖で震えた。
次の瞬間、彼の手が俺の頬を鋭く叩いた。乾いた音が玄関に響き、顔に焼けるような痛みが広がる。
「やっぱり、お前を呑みに行かせるんじゃなかった。俺が間違ってた。」
光の声は低く冷たい。けれど、その中に抑えきれない怒りが滲んでいる。
「お前には何も必要ない。呑み会も、友達も、仕事も全部だ。お前に必要なのは俺だけだ。それで十分だろう?」
光の言葉はまるで逃げ場を塞ぐようで、俺の胸を締め付けた。
「明日、辞表を出せ。」
その一言には、揺るぎない命令の響きがあった。
「お前に仕事なんていらない。俺のそばにいればそれでいいんだ。」
彼の目は冷たく、けれどどこか狂気を孕んでいるように感じられた。
胸の奥で何かが砕ける音がしたような気がした。
70
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話
降魔 鬼灯
BL
ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。
両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。
しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。
コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
《完結》僕が天使になるまで
MITARASI_
BL
命が尽きると知った遥は、恋人・翔太には秘密を抱えたまま「別れ」を選ぶ。
それは翔太の未来を守るため――。
料理のレシピ、小さなメモ、親友に託した願い。
遥が残した“天使の贈り物”の数々は、翔太の心を深く揺さぶり、やがて彼を未来へと導いていく。
涙と希望が交差する、切なくも温かい愛の物語。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる