僕がそばにいる理由

腐男子ミルク

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第6話

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「はぁ…はぁ…」

熱が全身を駆け巡り、体中が疼いている。俺は専業主婦になってから、仕事に費やしていた時間を家事に当てる生活を送っている。今は皿洗いをしていたはずだったが、手元が震え、意識がぼんやりと遠のきそうだ。

Ωである俺にとって、ヒートを抑える方法は抑制剤だけだ。しかし、先日の出来事が頭をよぎり、夫に助けを求めることさえできない。

「くっ…熱い…耐えられない…」

熱に浮かされ、理性がどんどん削られていく。服の中で汗がじっとりと肌に張り付き、心臓が爆発しそうなほど鼓動を速める。全身が求めているのはただひとつ――触れられること、埋められること。

「誰でもいい…抱かれたい…」

声にならない声が漏れ、膝が力を失った。俺はその場に崩れ落ち、皿が床に転がる音も遠くに聞こえるだけだ。身体の芯が灼けるような熱さに支配され、求める想いが抑えきれずに溢れ出していく。

それでも誰も助けてくれない。閉ざされた世界の中で、俺はひとり熱に焼かれ続ける。


「体…溶けそう…」

俺は皿を放り出し、手を洗ってそのまま布団に潜り込んだ。全身がじっとりと汗ばみ、下着の中がじんわりと湿っていくのが分かる。ヒートの症状はこれまで経験した中でも最悪で、自慰でどうにかなるような次元をとうに越えていた。

「誰か…助けて…こんなに辛いなら…いっそ、消えてしまいたい…」

一度溢れた涙は止まることを知らず、声にならない嗚咽が喉から漏れる。引き攣るような声で、俺はただ、何度も何度も泣き叫んだ。それでもこの体を支配する熱は、決して収まることはないのだと分かっていた。

スマートフォンが震え、歩夢からの着信が画面に表示される。こんな状態の俺が出てもいいのかと迷ったが、鳴り続ける音に負けて電話を取った。

「……もしもし?」

「先輩、なんで電話出るの遅いんですか!ていうか、仕事辞めたって本当なんですか?」

電話越しの歩夢の声はいつもと違い、どこか焦りが混じっていた。その言葉に胸が少し痛む。

「うん…辞めたよ…」

か細い声で答えた瞬間、歩夢が息を呑む音が聞こえた。

「先輩、今…大丈夫ですか?」

「え?」

「声が変だし、息も荒い。もしかして…ヒート、来てるんじゃないですか?」

鋭い指摘に、一瞬で全身が固まった。何かをごまかそうとするより先に、体が反応してしまう。

「そ、そんなことないよ…ただ疲れてるだけで…」

無理に平静を装うが、歩夢には通じなかった。

「先輩、隠さなくていいです。俺、今からそっち行きます」

「だ、駄目だよ!光に見つかったら…」

「そんなの気にしません。ヒートなのに一人なんて放っておけないです」

歩夢の声は強い決意に満ちていた。電話越しのその真剣さに、俺は言葉を失ってしまった。

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