僕がそばにいる理由

腐男子ミルク

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第8話    

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その日、嫁が帰ってくることはなかった。

俺の名前は佐藤光、25歳。21歳のΩ、裕貴と結婚して4ヶ月が経つが、彼は俺を裏切った。相手の名前も素性も分からないが、他の男に抱かれてきたらしい。その事実に激しく腹を立てた俺は、彼に「お仕置き」としてヒート状態のまま体を拘束し、放置するというΩにとって耐えがたい拷問を与えた。

だが、それでも彼は懲りることはなかった。昨日、家に帰ると、そこはもぬけの殻だったのだ。

俺は、嫁が帰ってくるのをただひたすら待っていた。視線は一点を見つめたまま、庭の花壇に咲く黒百合に釘付けになっている。暗闇に揺れるその花の姿は、どこか不吉な気配を漂わせていた。

――ピンポーン。

不意にインターホンの音が響く。胸がざわつき、期待と不安が入り混じる中、俺は恐る恐る玄関へ向かった。ドアを開けると、そこには配達員が立っていた。

「すみません、佐藤さん宛ての書留郵便です。」

「……あ、ありがとうございます。」

震える手でサインをし、封筒を受け取る。何の配達だろう、と首を傾げながら裏を確認すると、そこには見覚えのある名前が書かれていた。

「裕貴――」

心臓が一気に跳ね上がる。嫌な予感が胸を締め付け、手が震えた。急いで封を切ると、中から二枚の紙が滑り出てきた。その一枚は手紙だった。

光へ。
もう、貴方との結婚生活に疲れました。
どうか別れてください。

たった二行。短すぎるその言葉が、まるで刃のように胸を切り裂いた。視線をもう一枚の紙に移すと、それは――離婚届だった。
目の前がぐらつく。何か叫びたくても声にならない。あの黒百合が、まるで俺を嘲笑っているように揺れている気がした。

「裕貴…お前と離婚なんて死んでもさせねぇから…そして浮気相手もぶっ殺して…お前の心めちゃくちゃにぶっ壊してやる。…そしてお前には俺しかいないって証明してやる」

俺は離婚届と手紙を握り潰し腹いせに近くにあったコップを思いっきり叩きつけた。
破片が床に散らばり、鋭い音が耳に響き渡る。俺の中で抑えきれなかった怒りと絶望が形になって爆発した。

「裕貴、お前は俺のものだ。誰にも渡さない……絶対に。」

そう吐き捨てると、俺は握り潰した離婚届と手紙を乱暴にテーブルへ叩きつけた。裕貴が家を出た理由は分かっている。俺がしたことが原因だ。だけど、それは俺の愛の形だ。歪んでいたとしても、裕貴を手放すなんてありえない。

浮気相手の男の顔が思い浮かぶたび、怒りで頭が真っ白になる。誰だ、裕貴に触れたのは。俺以外の誰かが裕貴に近づくなんて許せない。

「浮気相手の野郎……絶対に見つけ出してやる。」

俺はスマホを手に取り、裕貴の行動履歴や交友関係を片っ端から調べ始めた。SNS、メッセージ、職場の情報――裕貴が逃げた痕跡を必死で追う。浮気相手の男の存在を突き止めるまで、絶対に諦めない。

その時、ふと目に留まったのは裕貴のスマホの予備機だった。以前、一緒に機種変更をしたときに予備として持たせたものだ。パスワードは覚えている。裕貴が信用してくれていたからだ。

電源を入れると、そこには未読のメッセージがいくつも並んでいた。

「歩夢、ありがとう。君といると心が軽くなるよ。」

――歩夢。こいつか……!

その名前を見た瞬間、血が沸騰するような感覚に襲われた。冷静でいられるはずがない。俺はスマホを手に握りしめ、次の行動を決める。

「待ってろ、裕貴……絶対に取り戻してやる。」

俺は行方を追うために動き出した。裕貴も、その浮気相手も、逃がしはしない。
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