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夢の国
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電車が走り出して、しばらくすれば夢の国が見え始める。
僅かに見えるトドの横顔が、キラキラと輝き出したのがわかった。まるで、楽しみにしている遊園地に今から向かう子供のようだ。
『ご乗車ありがとうございました~——』
「え」
まさかの夢の国の入口で、浮足立ったトドが降りて行く。
私は思わず立ち上がって同じ駅で飛び降り、気づかれないようトドの後をつけてしまった。
まさかあいつは、あんな風貌で、あんな性格で、夢の国へ一緒に向かうプリンセスがいたのか!?
いや、まさか……あの性格の悪さでプリンセスがいるはずがない。むしろ財産狙いの悪い女や、プロ女性にお客さんとして騙されているのではないか?
大丈夫なのか、トド!?
「くっ……私のトレーニーを危険にさらすわけにはいかないわ……」
トドは夢の国へと続く橋を渡り始める。
私も少し距離をあけて後を追う。
どこだ、どこで待ち合わせてるんだ? このまま突き進んで夢の国に入られたらお終いだ。なぜなら私はその先には進めない……。
トドは橋を渡り切ったところで、急に立ち止まった。
そしてくるりと振り返ると、真っ直ぐに私を見た。後をつけてたのは全然バレていた。
「綾さん、僕になにか?」
「ぐっ……偶然ね! 私も帰り道がこっちなのよ」
「こっち?」
トドは夢の国の入口を指差しながら首を傾げた。
「そ……そうよ」
「ふーん」
トドは、ただでさえ肉の切れ込みのような細い目を、さらに細めて私を見つめる。その視線に私はただ目を泳がせるしかなかった。
トドはまたくるりと背を向け、スマホをいじりながら歩き出す。
一緒に行く相手と連絡を取り合っているのか?
もうこの隙に退散しよう。
そう思ってゆっくりと後ずさり始めた瞬間、またもトドが振り返った。
そしてなぜか私に向かってスマホの画面を見せてくる。
「良かったですね。チケット買えましたよ」
「え?」
「ほら、決済ボタン押しちゃったんで、行きますよ」
「ええええー!?」
私は人生初の夢の国へ、トドと一緒に入国してしまった……。
「何乗ります? それともパレード待ちします?」
「え? ええ、そうね……」
初めて足を踏み入れた憧れの場所に、私はただ茫然としており、正直右も左も何があるのかもわからない。
「まさかとは思いますが……初めて?」
「ええ、初めて」
「あれ? 綾さんって出身どちらでしたっけ?」
「埼玉」
「それで、初めて???」
確かに夢の国近郊で育った子供の多くは一度や二度くらいは足を踏み入れたことがあるだろう。だけど私は本当になかったのだ。
「家が貧乏だったし、シングルファザーの父は多忙で家を空ける事も多かったから、家族で旅行とかもなかったのよ」
「それでも、高校や大学で友達や彼氏と行かなかったんですか?」
「大学まではバイトと勉強の両立で忙しかったし、面倒見ていた弟が独り立ちしたのも数年前だし、先月まで付き合ってた彼氏とは、彼の家かファミレス行くだけで終わったわ。というか、そもそも付き合ってると思ってたのは私だけだったし」
「あー……なるほど」
トドの抑揚のない声が胸に突き刺さる。
私は社会人になってからはキラキラした人生を歩んでいると自負していたが、急に自分の人生が虚しくなった。
「じゃあ、パレードは今度観る事にして、今日はアトラクションをせめましょう」
「え?」
トドはスマホをスクロールして各アトラクションの待ち時間を調べながら歩き出した。私はただ彼について行くしかなかった。
最初は絶叫系のアトラクションから始まり、ツアー形式のアトラクションを体験したり、空飛ぶゾウにも乗った。
相手は不愛想なトドだというのが信じられないくらい、とにかく笑ってしまい、人生で初めてといっていいほど楽しかった。
お城の近くで座らされて、どこかに行ってしまったトドを待っていたら、トドは何かを買って戻って来た。
トドはお土産用の袋の中をゴソゴソして中身を取り出すと、それは何度も遠くから、指をくわえて見ていたカチューシャだった。
トドはそのカチューシャを私の頭につけてくれる。
「お、いい感じですね」
そう言って、袋からもう一つカチューシャを取り出して、自分の頭にもつけた。
「え? あなたもつけるの?」
「当たり前じゃないですか」
急にパーンッと大きな音が鳴り、トドの後ろに綺麗な花火が打ちあがる。
趣向を凝らして造られた美しい園内と、夜空に輝く大輪の花。流れている音楽もロマンチックで高揚感を高めていく。
そして、それらを背景にして立ち、こちらを見つめる背の高い男性。
スーツ姿にリュックを高い位置で背負い、夢の国のカチューシャを戴冠したトド……。
ああ……人生初の夢の国を、なぜ私はトドと来てしまったのだろう……。
「瑞貴……ありがとう。さあ、明日も仕事があるし、帰りましょう」
「せっかく来たのにもう帰るんですか? まあいいや。意外と楽しかったです。ありがとうございました」
そうね。私も意外と楽しかったわ……。
虚しい思いも入り混じりながら、そう心の中で呟いた。
僅かに見えるトドの横顔が、キラキラと輝き出したのがわかった。まるで、楽しみにしている遊園地に今から向かう子供のようだ。
『ご乗車ありがとうございました~——』
「え」
まさかの夢の国の入口で、浮足立ったトドが降りて行く。
私は思わず立ち上がって同じ駅で飛び降り、気づかれないようトドの後をつけてしまった。
まさかあいつは、あんな風貌で、あんな性格で、夢の国へ一緒に向かうプリンセスがいたのか!?
いや、まさか……あの性格の悪さでプリンセスがいるはずがない。むしろ財産狙いの悪い女や、プロ女性にお客さんとして騙されているのではないか?
大丈夫なのか、トド!?
「くっ……私のトレーニーを危険にさらすわけにはいかないわ……」
トドは夢の国へと続く橋を渡り始める。
私も少し距離をあけて後を追う。
どこだ、どこで待ち合わせてるんだ? このまま突き進んで夢の国に入られたらお終いだ。なぜなら私はその先には進めない……。
トドは橋を渡り切ったところで、急に立ち止まった。
そしてくるりと振り返ると、真っ直ぐに私を見た。後をつけてたのは全然バレていた。
「綾さん、僕になにか?」
「ぐっ……偶然ね! 私も帰り道がこっちなのよ」
「こっち?」
トドは夢の国の入口を指差しながら首を傾げた。
「そ……そうよ」
「ふーん」
トドは、ただでさえ肉の切れ込みのような細い目を、さらに細めて私を見つめる。その視線に私はただ目を泳がせるしかなかった。
トドはまたくるりと背を向け、スマホをいじりながら歩き出す。
一緒に行く相手と連絡を取り合っているのか?
もうこの隙に退散しよう。
そう思ってゆっくりと後ずさり始めた瞬間、またもトドが振り返った。
そしてなぜか私に向かってスマホの画面を見せてくる。
「良かったですね。チケット買えましたよ」
「え?」
「ほら、決済ボタン押しちゃったんで、行きますよ」
「ええええー!?」
私は人生初の夢の国へ、トドと一緒に入国してしまった……。
「何乗ります? それともパレード待ちします?」
「え? ええ、そうね……」
初めて足を踏み入れた憧れの場所に、私はただ茫然としており、正直右も左も何があるのかもわからない。
「まさかとは思いますが……初めて?」
「ええ、初めて」
「あれ? 綾さんって出身どちらでしたっけ?」
「埼玉」
「それで、初めて???」
確かに夢の国近郊で育った子供の多くは一度や二度くらいは足を踏み入れたことがあるだろう。だけど私は本当になかったのだ。
「家が貧乏だったし、シングルファザーの父は多忙で家を空ける事も多かったから、家族で旅行とかもなかったのよ」
「それでも、高校や大学で友達や彼氏と行かなかったんですか?」
「大学まではバイトと勉強の両立で忙しかったし、面倒見ていた弟が独り立ちしたのも数年前だし、先月まで付き合ってた彼氏とは、彼の家かファミレス行くだけで終わったわ。というか、そもそも付き合ってると思ってたのは私だけだったし」
「あー……なるほど」
トドの抑揚のない声が胸に突き刺さる。
私は社会人になってからはキラキラした人生を歩んでいると自負していたが、急に自分の人生が虚しくなった。
「じゃあ、パレードは今度観る事にして、今日はアトラクションをせめましょう」
「え?」
トドはスマホをスクロールして各アトラクションの待ち時間を調べながら歩き出した。私はただ彼について行くしかなかった。
最初は絶叫系のアトラクションから始まり、ツアー形式のアトラクションを体験したり、空飛ぶゾウにも乗った。
相手は不愛想なトドだというのが信じられないくらい、とにかく笑ってしまい、人生で初めてといっていいほど楽しかった。
お城の近くで座らされて、どこかに行ってしまったトドを待っていたら、トドは何かを買って戻って来た。
トドはお土産用の袋の中をゴソゴソして中身を取り出すと、それは何度も遠くから、指をくわえて見ていたカチューシャだった。
トドはそのカチューシャを私の頭につけてくれる。
「お、いい感じですね」
そう言って、袋からもう一つカチューシャを取り出して、自分の頭にもつけた。
「え? あなたもつけるの?」
「当たり前じゃないですか」
急にパーンッと大きな音が鳴り、トドの後ろに綺麗な花火が打ちあがる。
趣向を凝らして造られた美しい園内と、夜空に輝く大輪の花。流れている音楽もロマンチックで高揚感を高めていく。
そして、それらを背景にして立ち、こちらを見つめる背の高い男性。
スーツ姿にリュックを高い位置で背負い、夢の国のカチューシャを戴冠したトド……。
ああ……人生初の夢の国を、なぜ私はトドと来てしまったのだろう……。
「瑞貴……ありがとう。さあ、明日も仕事があるし、帰りましょう」
「せっかく来たのにもう帰るんですか? まあいいや。意外と楽しかったです。ありがとうございました」
そうね。私も意外と楽しかったわ……。
虚しい思いも入り混じりながら、そう心の中で呟いた。
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