11 / 30
男と女と男
しおりを挟む
「警察に突き出しますよ?」
瑞貴が淡々と嵯峨に言うと、嵯峨はスーツについた汚れをはたきながら立ち上がった。
そしてその顔を上げると、まさかの反省ゼロの茶目っ気たっぷりの笑顔を見せた。
「これは、お恥ずかしいところを見せてしまい、すいません。実は僕たち付き合ってて、さっきはいつもの痴話ゲンカの最中だったんです」
嵯峨の言い分に驚き、私は慌てて訂正する。
「もう別れたでしょっ」
「もうその焦らしはいいって」
こちらを見る嵯峨の目は本気で、とても怖かった。
瑞貴は察してくれたのか、私を守るように、私の前に立ってくれた。
「広報課の嵯峨さんですよね? 綾さんはあなたと別れたと言ってますし、いい加減諦めてください」
「違いますって。綾は別れるって言って、愛情を確かめてるんです。そういう子、たまにいるでしょ? でも、さすがは社長の息子さんです。平社員のために、ここまで親身になって間に入ろうとしてくれるなんて。でも本当に綾と僕は大丈夫なので、どうぞ気にせず行ってください」
嵯峨は遠くの方向に向かって手を差し出し、瑞貴に消えるように促した。
「いえ、あなたが帰るまで、帰れません」
「社員のプライベートに、あまり口出しするのは良くないですよ。これ以上掻き回すなら、コンプラ窓口に上げますから」
私は本当に嵯峨が怖くなってきた。このままいけば、この男はストーカーにならないだろうか……。
堪えきれない不安から、前に立つ瑞貴のTシャツを思わずキュッと掴むと、瑞貴は意を決した様子で嵯峨に爆弾を投下した。
「別に会社の人間としてあなたに言ってるわけではなく、綾ちゃんは、今は僕の彼女だから言ってるんです」
「え」
「はあ?」
私も嵯峨も、呆気にとられた。
だが、嵯峨は次第にクスクスと嫌味たっぷりの笑い声を出し始める。
「いやいや、そのなりで……信じるわけないでしょ。どうせ嘘つくなら、もっと真実味ある嘘考えるだろ」
ちょうど通行人の女性二人組が私達の様子に気づき、ひそひそと話しながら、遠巻きに通り過ぎていく。
「うわっ、羨ましい」
え? 羨ましい???
「きっとあの女の人、変な男に付きまとわれてたところを、イケメンが助けてくれてるんだよ」
「イヤー! あんなことされたら、胸キュンしちゃう!! しかもスーツ姿のイケメンとか」
ええ!? もしかして傍から見たら、瑞貴が悪者!?
その声は嵯峨と瑞貴にも聞こえていたようで、嵯峨が堪えていた笑いをブッと吹き出した。
瑞貴を見れば、さすがに恥ずかしそうにしていて、その様子に胸が締め付けられた。
「ほら、このままこんなことしてたら、通報されて捕まるのは東堂さんですよ。それは立場的にも困りますよね?」
嵯峨は私の方を見て、子供の駄々を諫めるような物言いで話し出す。
「ほら綾も、東堂さんに謝って。君が勘違いさせるような事をするから、東堂さんは一生懸命になってくれて、こんな状況になってしまったんだよ?」
嵯峨は瑞貴に向き直し、広報課の期待の星らしい、人当たりの良い仮面を被った。
「東堂さんの優しさに感動しました。次期社長が東堂さんのような方なら、会社の今後が期待できます。この度は私事に巻き込んでしまい、申し訳ありませんでした」
掴んだTシャツから指先を通って、瑞貴の焦りを感じた。
このままでは、私を助けようとしてくれている瑞貴が、嵯峨に恥をかかされただけで終わってしまう。
私は瑞貴のTシャツを力一杯引っ張って、後ろに振り向かせると、そのまま彼に抱きつき、彼の唇にキスをする。
瑞貴は目を見開いて驚き、それは嵯峨も同じだった。
私は瑞貴から唇を離すと、これでもかといった甘い猫なで声を出し、瑞貴をベタベタと触りまくった。
「みっきー、大丈夫ぅ? 元カレがしつこくてごめんね。アレとはとっくに終わってるし、私にはみっきーしかいないよっ! 信じてね!」
そして瑞貴の両頬をぱちんと挟み、もう一度、ぶちゅーっとキスをした。
これは彼女というより、ちょっとお水っぽかったかな? 演技が下手でごめんなさい。
「おいおい……嘘だろ? 相手はトドだろ?」
私は振り返って嵯峨を睨みつける。
「トド? あんたなんて見た目と下半身だけでしょ? 私のみっきーは、優しくて、思いやりがあって、気遣いがあって、女性の扱いはあんたなんかとは比べ物にならない程上手くて、頭も良くて、所作も綺麗で、育ちも良くて……」
「あ、あの、綾ちゃん、もうその辺でいいかな……」
顔を真っ赤にして私を止めようとする瑞貴を振り切って、私は嵯峨に言い切った。
「私のみっきーは、超絶ハイスぺックスーパーダーリンのイケてるメンズなんだからっ!!」
嵯峨は呆れたように私を見ていた。
「バカじゃないの? トドだよ? 信じるわけないだろ? とりあえず、もう今日は帰るわ」
嵯峨はそう言って、振り返りもせず駅へと向かって歩いて行った。
瑞貴が淡々と嵯峨に言うと、嵯峨はスーツについた汚れをはたきながら立ち上がった。
そしてその顔を上げると、まさかの反省ゼロの茶目っ気たっぷりの笑顔を見せた。
「これは、お恥ずかしいところを見せてしまい、すいません。実は僕たち付き合ってて、さっきはいつもの痴話ゲンカの最中だったんです」
嵯峨の言い分に驚き、私は慌てて訂正する。
「もう別れたでしょっ」
「もうその焦らしはいいって」
こちらを見る嵯峨の目は本気で、とても怖かった。
瑞貴は察してくれたのか、私を守るように、私の前に立ってくれた。
「広報課の嵯峨さんですよね? 綾さんはあなたと別れたと言ってますし、いい加減諦めてください」
「違いますって。綾は別れるって言って、愛情を確かめてるんです。そういう子、たまにいるでしょ? でも、さすがは社長の息子さんです。平社員のために、ここまで親身になって間に入ろうとしてくれるなんて。でも本当に綾と僕は大丈夫なので、どうぞ気にせず行ってください」
嵯峨は遠くの方向に向かって手を差し出し、瑞貴に消えるように促した。
「いえ、あなたが帰るまで、帰れません」
「社員のプライベートに、あまり口出しするのは良くないですよ。これ以上掻き回すなら、コンプラ窓口に上げますから」
私は本当に嵯峨が怖くなってきた。このままいけば、この男はストーカーにならないだろうか……。
堪えきれない不安から、前に立つ瑞貴のTシャツを思わずキュッと掴むと、瑞貴は意を決した様子で嵯峨に爆弾を投下した。
「別に会社の人間としてあなたに言ってるわけではなく、綾ちゃんは、今は僕の彼女だから言ってるんです」
「え」
「はあ?」
私も嵯峨も、呆気にとられた。
だが、嵯峨は次第にクスクスと嫌味たっぷりの笑い声を出し始める。
「いやいや、そのなりで……信じるわけないでしょ。どうせ嘘つくなら、もっと真実味ある嘘考えるだろ」
ちょうど通行人の女性二人組が私達の様子に気づき、ひそひそと話しながら、遠巻きに通り過ぎていく。
「うわっ、羨ましい」
え? 羨ましい???
「きっとあの女の人、変な男に付きまとわれてたところを、イケメンが助けてくれてるんだよ」
「イヤー! あんなことされたら、胸キュンしちゃう!! しかもスーツ姿のイケメンとか」
ええ!? もしかして傍から見たら、瑞貴が悪者!?
その声は嵯峨と瑞貴にも聞こえていたようで、嵯峨が堪えていた笑いをブッと吹き出した。
瑞貴を見れば、さすがに恥ずかしそうにしていて、その様子に胸が締め付けられた。
「ほら、このままこんなことしてたら、通報されて捕まるのは東堂さんですよ。それは立場的にも困りますよね?」
嵯峨は私の方を見て、子供の駄々を諫めるような物言いで話し出す。
「ほら綾も、東堂さんに謝って。君が勘違いさせるような事をするから、東堂さんは一生懸命になってくれて、こんな状況になってしまったんだよ?」
嵯峨は瑞貴に向き直し、広報課の期待の星らしい、人当たりの良い仮面を被った。
「東堂さんの優しさに感動しました。次期社長が東堂さんのような方なら、会社の今後が期待できます。この度は私事に巻き込んでしまい、申し訳ありませんでした」
掴んだTシャツから指先を通って、瑞貴の焦りを感じた。
このままでは、私を助けようとしてくれている瑞貴が、嵯峨に恥をかかされただけで終わってしまう。
私は瑞貴のTシャツを力一杯引っ張って、後ろに振り向かせると、そのまま彼に抱きつき、彼の唇にキスをする。
瑞貴は目を見開いて驚き、それは嵯峨も同じだった。
私は瑞貴から唇を離すと、これでもかといった甘い猫なで声を出し、瑞貴をベタベタと触りまくった。
「みっきー、大丈夫ぅ? 元カレがしつこくてごめんね。アレとはとっくに終わってるし、私にはみっきーしかいないよっ! 信じてね!」
そして瑞貴の両頬をぱちんと挟み、もう一度、ぶちゅーっとキスをした。
これは彼女というより、ちょっとお水っぽかったかな? 演技が下手でごめんなさい。
「おいおい……嘘だろ? 相手はトドだろ?」
私は振り返って嵯峨を睨みつける。
「トド? あんたなんて見た目と下半身だけでしょ? 私のみっきーは、優しくて、思いやりがあって、気遣いがあって、女性の扱いはあんたなんかとは比べ物にならない程上手くて、頭も良くて、所作も綺麗で、育ちも良くて……」
「あ、あの、綾ちゃん、もうその辺でいいかな……」
顔を真っ赤にして私を止めようとする瑞貴を振り切って、私は嵯峨に言い切った。
「私のみっきーは、超絶ハイスぺックスーパーダーリンのイケてるメンズなんだからっ!!」
嵯峨は呆れたように私を見ていた。
「バカじゃないの? トドだよ? 信じるわけないだろ? とりあえず、もう今日は帰るわ」
嵯峨はそう言って、振り返りもせず駅へと向かって歩いて行った。
15
あなたにおすすめの小説
それは、ホントに不可抗力で。
樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。
「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」
その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。
恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。
まさにいま、開始のゴングが鳴った。
まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。
甘い束縛
はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。
※小説家なろうサイト様にも載せています。
溺婚
明日葉
恋愛
香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。
以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。
イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。
「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。
何がどうしてこうなった?
平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
Good day !
葉月 まい
恋愛
『Good day !』シリーズ Vol.1
人一倍真面目で努力家のコーパイと
イケメンのエリートキャプテン
そんな二人の
恋と仕事と、飛行機の物語…
꙳⋆ ˖𓂃܀✈* 登場人物 *☆܀𓂃˖ ⋆꙳
日本ウイング航空(Japan Wing Airline)
副操縦士
藤崎 恵真(27歳) Fujisaki Ema
機長
佐倉 大和(35歳) Sakura Yamato
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる