あなたはカエルの御曹司様

さくらぎしょう

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敵と味方

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 萌ちゃんは席を立ちあがり、社長に訴える。

「とにかく、この映像は私じゃありません。私に見えるように加工されてるか、似た人間を使ってるんです。むしろ……私は……」

 まさか……まさか泣くんじゃないだろうな。
 そう思いながら、私が目を見開いた瞬間、彼女の瞳からポロポロと涙が流れ始める。

「私の方こそ、先輩に陥れられた被害者ですっ!!」

 萌ちゃんは私を指差しながらそう叫ぶと、泣きながら乱暴に扉を開けて出て行ってしまった……。
 拍手喝采、名女優であった。

 人事課長も慌てて追いかけようと立ち上がり、私達に深々と頭を下げる。

「社長、東堂さん、そして藤木さん、大変申し訳ありませんでしたっ! 何とか私の方で、彼女と話してみます」

 人事課長が謝るような事ではないので、なんだか申し訳なかった。
 人事課長は彼女を追って先に部屋を後にした。

 残されたのは、社長と瑞貴と私のみ。今度は社長が私に身体を向けて頭を下げた。

「藤木君に心からお詫びする。会社の人間が不正アクセスした結果、君の家に侵入し、盗聴器を仕掛けた事は、会社の落ち度も十分にある」
「社長……いえ、むしろ私こそ申し訳ありません。間宮さんがなぜあんな事をしたのか、まだわかりませんが、今回私達の問題で、会社を巻き込むような事になり申し訳なく思っております」

 これが本当に嵯峨に関係する事であれば、会社を痴情のもつれに盛大に巻き込み、恥ずかしく、申し訳なく思う……。

「君はそう言ってくれてありがたいが、私情で簡単に個人情報を悪用できる状態が良くない。人事課とシステム課に早急に必要な措置を取らせる」
「ありがとうございます、社長」

 社長と瑞貴と私は会議室を出ると、廊下で中川課長が待っていた。

「ああ、中川君、もう時間か?」
「はい、社長。すぐに先方へ向かわないと行けません」

 社長は次の案件で外出しなくてはならない。瑞貴と二人で社長と中川課長を見送ると、やっと秘書課のフロアへ戻れた。

 だがそこで私は、名女優の声の大きさを思い知るのだった。

 秘書課のフロアに入った途端、皆がコチラを見て気まずそうにしたのがわかった。
 何だか胸騒ぎがしたが、とにかくフロアを突き進み、机に向かう。途中で咲良ちゃんとすれ違ったので、声を掛けたが、聞こえなかったのか返事はなく、スンッとした表情でそのまま私の横を通り過ぎて行った。

 席に着くと、すぐにお局阿川がやって来た。

「これ、夕方までに確認して、メールで返事しておいて」

 渡されたバインダーファイルを開くと、小さなメモが一枚だけ挟まれた状態だった。

『本日退勤後、時間があれば新橋の焼鳥屋○○まで来て欲しい。返事は私の携帯080-×××2-××88に、ショートメッセージを』

 私はそのメモを取ると、すぐに四つ折りにしてポケットにしまい、トイレに行くふりをして、返事を打ちに行った。

『本日行きます。藤木』

 そしてフロアに戻れば、ヒソヒソ声が気になった。何を言っているかは聞こえないが、咲良ちゃんを中心に、若手の女の子達が集まってこちらを一瞥しながら何かを話している気がする。
 実際、私が近づくと、みんな揃いも揃って私と目を合わせないようにして、スンッとした表情に変わり、黙り込む。
 
 居心地の悪い一日だった。

「じゃあ皆さんお疲れ~」
「「「阿川さん、お疲れ様でした~」」」

 お局様が最初にフロアを退勤すると、続くように続々と退勤して行く。あっという間に瑞貴と二人きりになり、小声で声を掛けられた。

「何だか今日の女性陣、怖かったですね……」

 瑞貴も気がついていたようだ。

「実はね、今日阿川さんに初めて食事誘われて、この後新橋に行かなきゃいけないの。だから、今日は先に寝ててね」
「あ、うん。一人で大丈夫?」
「やだ、子供じゃあるまいし。大丈夫に決まってるでしょ」

 そう言って瑞貴の肩をパンッと軽く叩いたが、実は心臓が飛び出るほど怖い。

 痩せてから、ランニングは仕事のない日だけに切り替えた瑞貴とは、東京駅の構内で別れた。

 お局様の待つ、新橋の焼鳥屋に向かって店に入れば、お局様はカウンターの端っこで既にビールを飲んでいた。

「お待たせして申し訳ありません」
「いえ、ビールも今来たところだったから丁度良かったわ。」

 お局様は私の分もビールと焼鳥を既に頼んでくれていた。

 
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