あなたはカエルの御曹司様

さくらぎしょう

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あっちもこっちも

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「適当に頼んじゃってたけど大丈夫だった?」
「はい。どれも好きなものばかりです」
「あ、そ」

 お局様は素っ気ない返事をしたが、喜んでいるのが何となくわかった。

「あの、それで今日は……」

 恐る恐る、お局様の顔を覗き込むと、とても渋い顔をしていた。

「アンタさ、間宮にボロクソに噂撒かれてるよ」
「あー、皆様子おかしいなとは思ったんですよねー」

 お局様は身振り手振り入れながら、私と瑞貴が帰るまでの話を教えてくれた。

「間宮、泣きながらフロア入って来て、喚き出したの。人事課長に呼ばれて行ったら、そこには社長と瑞貴君とアンタがいて、犯罪者の濡れ衣を着せられて、脅されたって。嵯峨と自分の関係を知って嫉妬したアンタが、嫌がらせをしてくるんだって」
「はあぁぁ!?」
「私は信じてないわよ」
「あの……なんで阿川さんは私の味方になってくれるんですか?」

 お局様は持っているビールジョッキをダンッとカウンターに叩き置いた。

「間宮の口から嵯峨の名前が出て来たからよ……あのクソ野郎……」

 お局様の握るジョッキの柄が、今にも割れてしまいそうだ。

「阿川さんと嵯峨さんって、あまり喋ってるところ見たことないんですが、犬猿の仲だったんですか???」
「藤木が入社してくる以前に、嵯峨と関係持って痛い目みたのよ」
「え!?」

 まさか嵯峨はお局阿川にまで手を出していたとは……掘り起こしたら秘書課全員に手をだしてたりして……。

 お局様改め阿川さんは、昔を懐かしむように語り出す。

「当時私は三十歳手前で、嵯峨とは結婚まで考えてたけど、結局アイツが別の社員にも手を出してるのがわかったし、どうやら私は彼女ですらなかったようだから、すぐにお別れした」
「はは、どこかで聞いたことがあるような話ですね~……。あの、その後嵯峨さんとはすんなりお別れ出来ましたか?」
「私は出来たわ。でも、当時嵯峨の一軍だった子が別れを切り出したら、執拗に追いかけてくるようになって大変だったのよ。だからアンタを心配して呼んだんでしょ。嵯峨と付き合ってるんじゃない?」
「いえ、もう別れましたし、付き合ってたのも春前のほんの三ヶ月程度です。……ていうか、一軍って何ですか?」
「あいつ、手を出す女性達を一軍二軍三軍に振り分けてるの。ちなみに私は三軍」
「クソだな……」
「たぶん間宮は二軍あたりだと思う。それで、一軍のアンタに嫉妬して、何かしようとしたんじゃない? 間宮も実は前科あって、それで社長のご子息が来る前に、課を浄化させる為に異動させられてるから」
「え!? そうなんですか?」
「先に言っておくけど、別に人事課は左遷先になるような場所じゃないからね! 次期社長が配属される課に、トラブルメーカーの間宮を置いておけなかっただけ」
「それは勿論。それで、萌ちゃんの前科って何したんです?」

 阿川さんは持っていたジョッキをテーブルに置き、一点を見つめていた。

「総務の友人が教えてくれたんだけど、間宮は入社して最初の配属だった総務で、不倫して相手の奥さんに嫌がらせしてたのよ。奥さんからの連絡で発覚した時、間宮は大泣きして、全部の罪を男になすりつけたの。自分は新入社員で、断ったら退職させられると思って断れなかったって言い出して。パワハラ、セクハラ、不貞行為で男は発展途上国の支社へ出向。強姦に問われなかっただけマシだけど、あれじゃ右も左もわからない海外に、栄転じゃなく断罪として一緒に行かされた奥さんが浮かばれないわよ」
「そんな子だったとは……」
「間宮が秘書課に異動が決まった時に、総務の友人からあの子に注意するように言われてたのよね。秘書課とか、あの子が男漁るには絶好の場所だからって。別に私も友人も、職場恋愛に反対じゃないのよ。ただ、ああいうタイプの子が職場恋愛したら、必ずブラックホールになって周りがどんどん巻き込まれていくのよ」
「はは……ブラックホール……」
「そんな間宮と、嵯峨の名前が出て来て、素直に話を信じられますかって。むしろ逆だと思ったのよ」
「さすが阿川さん……」
「それで、一体どんなもつれかたしてんの?」
「はあ……実は……」

 阿川さんにはこれまでの経緯を全て話、その流れで瑞貴との交際を打ち明けざるを得ず、素直に伝えた。

「誰かしら社長の息子ってだけで近づくとは思ってたけど、まさか藤木がくっつくとは思わなかったわ……」
「すいません……がっつり職場恋愛で、阿川さんの言いつけに反して社長令息に手を出しました……」
「社長の息子だからって浮かれて狙いに行くとか、遊び相手でもいいとか、ゴシップになる関係はやめとけってだけ。惹かれあってしまったなら仕方ないし、二人とも仕事は熱心にしてくれてるし、結婚前提の真剣交際なんでしょ? 私が言う事なんてないわよ。それにしても、彼がイケメンに変身した理由は藤木だったのねぇ~……」
「はは……あの、それで、嵯峨さんに執拗に追いかけられたって方は、結局どうやって振り切ったんですか?」
「どうもこうも、会社辞めてしまったからわからない。行方をくらませたって事かな」
「そんなぁ……泣き寝入りじゃないですかぁ……」
「悔しいでしょ? だから、今回は絶対私はあなたの力になるって決めたの」

 そう言うと、お局様はカバンの中から何やらゴソゴソと取り出した。

「これ」
「これは……」
「嵯峨の強力な盾であり、弱点でもある。これは私に渡されたって言えばいいから」
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