破談九十九回目を迎えたイケメン令嬢は道で拾った異国の男に溺愛される

さくらぎしょう

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15.結末

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「アマル……皆……無事で良かった」

「遅くなってすまなかった。アンセルムの雇った奴らが、海を渡った大陸の激戦地で戦うような傭兵だったんだ。かなり手強くて、逃げながら王都に向かってきた」

「それはアンセルムは随分大金を積んだな」

「だが、ジェインが配備してくれたスクードベリーの兵達のおかげで、ついに王都に辿り着けた。ありがとう」

 突如カルミアの金切り声が広場に響き渡る。

「その異国人と反逆者ジェインをすぐに捕まえなさい!!」

 ジェインとアマルは王族の座る席の方に顔を向ければ、カルミアが立ち上がってこちらに扇子の先を向けて睨んでいた。

「さあ、早く!! あいつらが逃げ出す前に!」

 だが、王族席の者達がまったく指示を出す気配がないので、近衛も警備兵もどうしてよいかわからず狼狽えている。

「……座るんだ、カルミア」

 アンセルムが顔色を悪くしてカルミアのドレスを引っ張る。

「アンセルム様? あいつはあなたを殺そうとしたのよ? 隣にいる男は反逆者を逃がそうとする野蛮人。早く、捕まえないと」

「いいから黙って座れっ! このバカ女がっ!!」

 アンセルムの怒鳴り声にカルミアは肩をすくませて静かに座った。

 国王陛下が王妃に支えられながら立ち上がった。よろよろとおぼつかない足取りで前に歩みを進め、アマルの愛馬の方へと歩いて行く。

 国王の為に人々は道を譲り、開かれた道の先にはアマルの愛馬が佇んでおり、その隣には白馬にまたがるローブをすっぽりと被った男がいた。

 国王はローブの男をのぞき込んで確認すると、嬉しそうに破顔した。

「……やっと来てくれた。待ちくたびれて死ぬところだったぞ」

「邪魔が多くて何度も入国に失敗したんだ」

「ああ、迎えにやった近衛隊も一つ潰されたんだ。苦労を掛けてすまなかった」

 男がバサリと頭のローブを脱げば、アマルにそっくりな褐色肌の中年男性が現れた。

「アレクサンドル、我がいとこ。我が後継者」

 国王の言葉を聞いた人々は騒然とした。

 アレクサンドルは手のひらでアマルを指し示し、国王に紹介する。

「紹介してもいいか? 私の息子、アマル・アレックスだ」

「ああ、ずっと会える日を心待ちにしていた。母は会っていたようだが、私が彼に会うのは初めてだから」

 国王は処刑台を見上げ、感慨深そうな目で台の上に立つアマルを見つめた。
 アマルは右手を胸にあて挨拶する。

「アレクサンドル・シュヴァルザの長男、アマル・アレックス・シュヴァルザです。そしてこの女性が……」

 アマルはジェインの腰に手を添えて、前に一歩進ませた。

「私の婚約者で、ジェイン・バーヴェイト。婚姻許可証はすでに取っております」

「いつ!?」

 ジェインは驚いて国王に挨拶をする前にアマルに振り返ってしまった。

「言ったろ。準備して戻ると。許可証を取るのにかなり金を積んだんだ」

 アマルはそう言ってジェインにウインクした。

「国王陛下、少し急ぐことがあるので、少々お時間を頂いてもよろしいですか?」

「私も先が短い。だから何事も手短に済ませてくれ」

「承知しました」

 アマルは陛下に一礼をすると、ジェインを自分の方へ身体ごと向かせる。

「生涯ジェインだけを愛し支える事を神に誓う。ジェインも俺を生涯愛し支え合うと神に誓えるか?」

「え?」

「ほら早く、誓え。社交界のしがらみとやらが飛び出す前に」

「誓います」

 アマルはジェインを抱き寄せてキスをしてきた。
 民衆からは驚きの声と、ちらほら溜息交じりの浮かれた声も聞こえる。

 アマルはキスを終えると、断頭台に立つ司祭に声を掛けた。

「司祭、見届けたな?」

「え? は、はあ……」

「結婚した。スクードベリー伯第一継承者のジェインが王の盾だ」

 アレクサンドルが国王陛下に向かって催促する。二人は気心知れた仲のようで、おそらくずっと交流があったのだ。

「先が短いのなら、すぐに爵位の承認をした方がいいんじゃないか」

「そうだな。生きているうちに、この場で爵位継承を認めよう」

 ジェインは立ち尽くし動けなくなっていた。
 アマルは、そんなジェインの顔に残る涙の跡を拭い去る。

「安心しろ。後日盛大な式を挙げるから」

 そして、自分の腰に携えていた剣を引き抜き、ジェインに渡した。

「さあ、王の盾」

 ジェインは剣を受け取ると、呆然としていた頭を振り払い、アマルを見て頷いた。

 鋭い視線に変わったジェインが向かうのは、王族席、アンセルムの元。

 アンセルムは立ち上がり、逃げようとするが、真後ろにはすでにスクードベリーの軍が取り囲んで逃げられないようにしていた。

 ジェインはアンセルムの前まで来ると堂々と立ち止まり、刃の先を向けた。

「我が名はジェイン・バーヴェイト。スクードベリー伯爵位を有する。王族の暴走を止める事の出来る唯一の権限、王の盾を所有する者。ポルトベリー公爵子息アンセルム・ルートリンゲン、お前は傭兵を雇い王位継承権第一位から三位までの人間の暗殺を目論見、継承権第二位のアマル・アレックス・シュヴァルザには命に関わる傷を負わせた。これは、内乱を意味し、王族の暴走を止める役目である王の盾の権限をもって断罪する」

 カルミアは訳が分からない様子でアンセルムとジェインを見ている。

「なに? 王の盾ってそんな権限があるの? 王を守る者じゃないの?」

 カルミアは振り返り、断頭台で待つアマルを見上げた。

「あっちが継承権第二位の次期王太子? どういう事?」

 ポルトベリー公爵が慌ててアンセルムの前に飛び出し、膝を折ってジェインに懇願する。

「どうか、どうか、命だけは見逃してくれ。罪はちゃんと償わせる。だから、どうか……」

「アンセルムが生きている限り、シュヴァルザ家の命が狙われる」

「そんな事は私がもうさせない! 息子はポルトベリー公爵家から除籍する。そうすればシュヴァルザ家の命を狙ってももう王位継承は不可能だ。諦めるだろう」

「恨みで殺害を企てることもあるだろう」

「息子夫婦は王都から遠く離れた場所で平民として生きて貰う。王都に戻れるほどの資金も持たせない。これでどうだろうか」

 ジェインが返事をする前にカルミアが大騒ぎする。

「ちょっと待って、私もなの!? いやよ、王都から離れるなんて!! なんで私が平民と」

 ジェインは呆れて額に手を当てる。

「カルミア、お前はすでにアンセルムと結婚したのだろ」

「離婚よ。離婚するわ!!」

「つい最近ジョージと離婚したばかりだろ」

「あなたが私の夫と不貞を働いたからよ」

「私はジョージとやましい関係ではない!!」

 カルミアはアマルに向かって瞳を潤ませて叫ぶ。

「アマル様! 彼女は私の元夫と不貞を働いていた女ですよ? 一緒に目撃したじゃないですか!」

 アマルは「ハッ」と声を上げて鼻で笑った。

「ああ、目撃したのは、ジョージが妻のいる身でありながら、当時私の恋人であったジェインに言い寄り、襲い掛かっていたところ。ジェインは必死で抵抗していた。
 そしてお前も言い放ったんだ。すべて範疇の内と。お前は自分の夫がジェインに言い寄るのを待っていたんだろ」

 民衆はカルミアを疑いの目で見始めた。
 アマルは断頭台から降りて行き、カルミアのもとまで歩み寄る。そしてカルミアにしか聞こえない小さな声で耳打ちした。

「かわいそうに。お前のせいではない。ジェインよりお前が劣っているのは」

 カルミアは興奮して思わずアマルの頬を引っ掻いた。アマルはニヤリと笑う。

「あばよ」

 近衛兵とスクードベリーの兵たちがカルミアを捕らえ広場から引きずり出して行った。

「おい、いとこ」

 アマルはアンセルムに向かって睨みつける。アンセルムは不貞腐れた顔でアマルを見た。

「とりあえず牢の中で嫁とお幸せにな」

「くそっ、アレッサンドラは駆け落ちしたなら王族である事も捨てるべきだったんだ」

「捨てた。だが、姉王女が許さなかったんだ。恨むなら前女王陛下を恨め」

 アマルはジェインを見る。

「とりあえず、牢に入れておけばいい。どうせもう俺達を殺す力はない」

「そうか……では。王の盾の兵士達、アンセルムを地下牢へ」

 スクードベリー兵がアンセルムを地下牢へ連れて行った。

 広場の方から悲鳴が聞こえ、アマルとジェインは振り返る。
 国王陛下の容態が悪化し、アマルの父にもたれかかっていた。

「陛下!」

 国王の近衛兵達が一斉に国王のもとへ駆けつける。

「大丈夫だ! 民衆に私の声を届けろ! 私の子供達は皆もう天の国に昇っている。私亡きあとは、私の伯母であるアレッサンドラ王女の息子、このアレクサンドル・シュヴァルザが王位に就く。彼は正真正銘の王族で、前女王時代から継承権を有していた。何も心配はいらない。ウェルランド王国は私亡きあとも繁栄を続ける」

 民衆はその声に歓喜する。至る所から国王万歳! アレクサンドル様万歳! と声が響いた。

 国王は力が尽きてその場で倒れ、大急ぎで馬車に乗せられ、王宮へと戻って行く。

 翌日、国王崩御の鐘が王都に響いた。
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