破談九十九回目を迎えたイケメン令嬢は道で拾った異国の男に溺愛される

さくらぎしょう

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14.王の盾

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 裁判などは一切行われず、王族暗殺未遂の大罪でジェインは断頭台行きが言い渡された。アマルの為に伸ばし始めていた髪は首を切り落とすために短く切られ、その日まで外から隔離された薄暗い地下牢で過ごした。

 いつもはドブ水のようなスープと干からびたパンしか与えられなかったが、今日だけは肉とワインが出された。

「アンセルム様がご結婚されたんだ。相手はもちろんお前の羨ましくて仕方ない従妹だよ。羨ましくて死にそうだろ?」

 牢の番人がゲラゲラと笑ってジェインを蔑んだが、ジェインは無視した。

(ではそろそろ刑が執行されるな……私が死ねば、カルミアの継承は保留期間満期を待たずにすぐ出来る)

「カルミア様に感謝しろよ」

 牢番の言葉にジェインは反応した。

「カルミア様が、お前にも結婚を祝って貰いたいからと、刑の執行を結婚まで延ばしてくれていたそうだ」

 ジェインはその言葉を聞き、笑ってしまう。

(あいつらしいな。冥途の土産に嫌味をくれるなんて)

「ほらよ、手紙だ」

 牢番からジェインは封蝋が押された見事な手紙を受け取る。
 開いて読めば、カルミアからだった。

 “ゆくゆくは王太子妃。ジェインから祝福して貰えたら幸せよ”

 ジェインは手紙を畳んで牢番に返した。

「おめでとうと伝えてくれ」

「直接言え」

「え?」

 牢番のもとに黒い頭巾を被った男達が現れた。
 牢の鍵は開けられ、ジェインは頭巾の男達に両腕を捕まれて外に出される。

 今日が、処刑の日であった。

 腕には重い鎖を繋がれ、市中を裸足で歩かされて処刑台のある王都広場まで向かう。
 大勢の人たちが興味本位でジェインを見に来ており、中には石を投げる者や、罵声を浴びせる者もいた。
 その過酷な人だかりの中を、ジェインは背筋を伸ばし、顔を上げ、真っ直ぐに前を見て堂々と歩いた。

 大きな断頭台の刃が見えて来た時、断頭台に近い場所には席が設けられ、国王妃、ポルトベリー公爵夫妻、アンセルムとカルミアが座っているのが見えた。そして、もっとも高い席には、顔色の悪い国王陛下の姿があった。

 断頭台に登ると、黒頭巾を被った者達と、処刑を実行する若い男、そして最後の祈りを聞き届ける司祭が待っていた。

 ジェインは処刑人の男の前に突き出される。穢れ人とされる処刑人は代々世襲で、今さら顔を隠す必要もなく、むしろ堂々とした姿で立っていた。

「お目に掛かれて光栄です、ジェイン嬢」

「最後にそんな声を掛けて貰えるとはな」

「我が家は代々処刑人の一族。産まれた時から穢れとされ、差別されて生きて来た。かたや王の盾は同じ処刑人でありながら、処刑するのは王族。王族が処刑される時に平民に殺されたとなれば不名誉極まりないという事で、爵位を与えられ、恐れ敬われた。同じ処刑人の子供として、天と地の差で育ったんだ。ずっと会って話してみたかった」

「確かに君達に比べたら、恵まれた部分が多かっただろう。だが、貴族という特殊な社会で蔑まれた存在も、中々苦しいものだ。スクードベリー伯爵家は神の使いの王家を処刑するのだから、天国には行けないと避けられていた。おかげで縁談も一苦労だったよ」

「安心していい。俺がお前を天国に送り届けるから」

「助かるよ。一気に頼む」

 ジェインは司祭の前に移動すると跪き、最期の祈りを捧げた。

 処刑人が高らかに罪状を読み上げる。

「ジェイン・バーヴェイト。前スクードベリー辺境伯の娘。罪状、王族ポルトベリー公爵子息暗殺を企てる。王家に逆らうものは、神への反逆と同義。よって、この者の処刑を執り行う」

 ジェインの手の鎖は解かれ、断頭台に腕と頭を抑えつけられ、木枠に固定され始めた。

(私が捕まってからだいぶ日数が経っている。それでもシュヴァルザ家が王宮に入っていないとすれば、すでに殺されてしまったのか……)

 そう思うとジェインは悔しくて堪らなくなってきた。

(スクードベリーの兵士達は大丈夫だろうか。シュヴァルザ家を王宮に入れる事が失敗で終わっていれば、不当な扱いを受けていて当然)

 ジェインは人前では泣かない。なのに、こんなに大勢の前で涙が零れてしまう。腕は木枠で固定されており、隠すことも拭う事も出来ない。

(皆……すまない……アマル……無事でいて欲しかった)

 だがジェインは異様な気配を感じ始めた。

 涙で濡れる顔を必死に上げて広場を見ると、観衆がジェインではなく、後ろに振り返り騒然としている。

「まさか……」

 人々の声は大量の馬の蹄の音で掻き消され始める。大勢の兵士達の雄叫びは地響きを起こし、ジェインの顔を更に涙でぐしゃぐしゃにさせた。

 王都広場はスクードベリー軍に囲まれた。

 茶色い馬が溢れる中で、一頭の真っ白な馬が断頭台に向かって走って来る。
 その鬣は銀に近い灰色。
 あの日、アマルが教えてくれた彼が探していた愛馬。

「ああ……見つけた」

 結んだ長い髪を跳ね上げながら、アマルがジェインのもとまで走って来る。断頭台の下で馬から飛び降りると、一気に階段を駆け上り断頭台に登って来た。

「ジェイン!!」

「アマル」

 アマルに続いてスクードベリーの兵士達が続々と断頭台に登って来ると、ジェインの頭と腕を木枠から外させた。

 身体が自由になったジェインは、一直線にアマルの胸に飛び込んだ。

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