十七歳の春、不本意ながら魔法使いの妻になる

さくらぎしょう

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20. 陛下降臨 ※改稿26.2.12

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「まさか……シテないよね?」

 目覚めると、私達の顔をのぞき込む伊勢さんの顔が目に飛び込んできた。

 口から心臓が飛び出そうになるほどの勢いで私も飛び起きると、セラもびっくりして飛び起きた。

 リビングの窓の外は、昨晩の悪天候が嘘みたいにカンカンと太陽が照りつけて晴れあがっているのに、伊勢さんの顔色はかなり悪かった。

 私達は抱き合った状態で、リビングのラグの上で寝てしまっていた。

「シテないです」「しました」

 同時に出た異なる答えに、目をむいて隣のセラを睨みつけた。

「はあぁぁぁあ!? キスしかしてないでしょーが!!」

 セラは伊勢さんと真剣な表情で目を合わせたまま、こちらに振り向かなかった。

「したんだね」

「はい。しました。透子は僕の聖配です」

 予想以上に事態が深刻なのか、二人の空気はピリついていた。

「伊勢さん、私も同意したんです。だから、セラだけの責任じゃ——」

 言葉の途中で、テーブルの上に置かれていたセラのスマホがブルブルと震え出し、異様な震え方に三人とも会話を止めて視線を向ければ、目が開けられなくなるほど、ありえない光を放った。
 段々と光が弱まりだし、薄っすらと目を開けることが出来れば、ヒトのようなシルエットが見え始めた。

「セラドナイト、大事はないか?」

 突然現れた女性の姿に、思考が停止した。

 艶やかな銀色の長い髪は、フェミニンな色っぽいうねりがあり、しかし気の強そうな眉と、鋭い瞳。女性としては低い声で、言葉遣いは男性のよう。

 服装はまるで貴族の部屋着かのように、ピッチリとタイトな黒いズボンと、フリルのついた白シャツを、紳士顔負けに着こなしていた。

 リアル……オ◯カル様が現れた。

「フロー……ライトか?」

 声を振るわせて、驚いた顔をしている伊勢さんがその女性に聞いた。セラもその女性を見るなり、慌てて指をパチンと鳴らしてTシャツを身につけ、服装を整えた。

「やっと……カイリに辿り着けた」

 案外女性らしい笑顔も見せるようで、フローライトと呼ばれる女性は伊勢さんにふんわりと頬を染めて微笑んだ。

 が、

 女性が手をパンッと叩くと、次の瞬間にはレイピアのような細い青白く光る剣が右手に握られていた。

 その光の剣の剣先を、シュッと伊勢さんの喉元にあてると、身震いするほどドスの効いた声を出す。

「貴様……無様にも二十年以上も異世界に飛ばされていたとは……」

 伊勢さんは両手をあげてたじろいだ。

「ま、待て、フローライト。私は君と違って魔法は使えない。帰るすべがなかったんだ」

「だから私が見つけてやって、こうしてセラドナイトまで迎えにやらせたのだろうがっっつ!!」

「まてまてまてまて、早まるなフローライト」

「それを……お前は……帰らないだと?」

 目がやべぇくらい、フローライトさんはお怒りのようだ。

「それにも理由があってだな」

「セラドナイトから報告は受けてるわっ!! 異世界人の娘を一人こちらに残せないという話だろうが!」

「え」

 私は驚いて伊勢さんを見た。

「だから、セラドナイトが危険を冒してまで娘を聖配にした。私の大切な弟子が異世界で死んでいたら、お前を呪い殺してやったからな。その娘を連れて帰るぞ」

 頭が真っ白になったまま、視線をゆっくりとセラに向けた。

 セラは八の字に下げた眉の眉間に皺を寄せながら、私に一度だけ弱々しく首を振った。

「よく聞けフローライト。透子ちゃんはこの世界の人間だ。こちらの生活があるんだよ。透子ちゃんが私から巣立って家庭を築いたあとか、もしくは彼女自身がマギアシア大陸へ行くことを納得しない限りは、私は帰れないとセラドナイトに言ったんだ。彼も、よく理解していた」

 伊勢さんはセラに視線を移すと、肩を落とした。

「そう……思ってたよ」

 告げられた時の悲痛なセラの表情を見ると、同情なんてしたくないのに胸が締め付けられた。
 セラに恋をしたと自覚したあとじゃ、突き放すこともできないじゃない。

 フローライトさんは剣先の平らな部分を伊勢さんの頬にあて、ゆっくりと自分の方へ顔の向きを戻させた。

「娘は魔法使いと聖配の契約をしたんだ。二人はもう離れられない。セラドナイトがこちらに戻れば、必然的にこちらについてくる。娘の決心が着くまで、むしろ待ってやった方だ。今すぐ帰るぞ」

「待ってください」

 声を出してはみたものの、威圧感のあるフローライトさんと目が合えば、心臓がキュッとなり震えた。

「なんだ」

「う……海に」

「海?」

「セラは友達と海に行く約束があるんです。だから、それまで待って貰えませんか?」

「セラドナイトに友達?」

 怖すぎて、もう言葉が出ず、頷くしかなかった。

 フローライトさんの圧迫感が薄らぐと、彼女は私からセラに視線を移した。

「本当か?」

「……………………はい」

 緊張の沈黙が続いた後、フローライトさんの手から剣が消えた。

「よかろう。それまで、私もここに滞在する」



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