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23. セラドナイトの希望(中編)
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「セラドナイトは私の弟子だが、息子でもある」
「え……」
嬉しい言葉だと言うのに、淡々と話すフローライトの心情が読めず、セラドナイトもどう反応して良いかわからなかった。
「だから、保護者は私だ。よくわからない異世界の者にお前を預けたくない。今すぐセラドナイトをそそのかした者をここに連れて来い」
フローライトの怒気を含んだ目がカッと開き、やっとこの場の全員が理解する。彼女は淡々と話していたわけではなく、怒りを自制していた。
彼女はマギアシア大陸でも随一の魔法使い。伊勢が彼女の怒りを鎮めるように背中をさすった。
「落ち着いてフローライト。ポーションないから」
「セラドナイトからその報告は受けていた。ちゃんとポーション調合用の植物を持ってきている。それに、私の魔力は簡単に枯渇などしない」
「いや、だからと言ってこの世界で魔法はあまり使わないでくれ。セラドナイト、私からスカウトマンに連絡するから、名刺を見せてもらえるかい?」
「あ……はい」
セラドナイトは指をパチンと鳴らすと、一枚の名刺が伊勢の目の前に現れ、ふわふわと浮いていた。
「こら、セラドナイトも安易に魔法を使わないこと」
ちくりとセラドナイトに注意しつつ、伊勢が名刺を手に取り電話をすると、小一時間もしないうちにIGAMエンターテイメントの男性がやって来た。
玄関モニターに映る男性は、社会人としてはどこか初々しさのある青年で、リクルートスーツに黒ぶち眼鏡を掛けていた。
透子はそのIGAMの男性の姿に見覚えがあり、モニターに映るIGAMの社員を凝視して記憶をたどれば、以前おにぎり屋塩結びの前でセラを熱心にスカウトしていた男性だと気づいた。
「あ、あの時の」
「透子ちゃんの知り合い?」
伊勢が透子に聞くが、別に知り合いではない。
「以前、あの人にセラがスカウトされていたのを見たことがあるだけ。断ったって言ってたのに」
「いや、その時は断ったんだと思うよ。
私もね、透子ちゃんのお父さんにスカウトされた時は断ったんだけど、名刺を握らされてね……。
しばらく経ってから、偶然スカウトされた場所に行ったら、また透吾さんに会って。どうやら私に会うために、あの日から毎日あのスカウトしてくれた場所で私に会えるのを願って通っていたそうなんだ」
「え……お父さんって、ストーカーだったの」
「ははは、紙一重かもしれないけど、私がこうしてこの世界で生きて行けたのは透子ちゃんのお父さんのおかげだよ」
マンションエントランスまで迎えに行っていたセラが、IGAMの男性を連れて玄関に入ってきたので、伊勢はリビングから出て行き出迎えた。
IGAMの男性が伊勢の前まで歩み出ると、恭しく頭を下げて名刺を差し出した。
「私、IGAMエンターテイメント、マネージメント部の磯部一路と申します。この度はこのような場を設けていただき、しかもあの伊勢櫂さんのご自宅でだなんて、恐悦至極でございますっ!」
「初めまして。瀬楽の保護者の――」
伊勢がそう言いかけた時、リビングの方からフローライトの咳払いが聞こえた。
「あー……セラの保護者は私と、リビングにいる女性なんだけど……まあ、とにかく中にどうぞ」
磯部をリビングに通し、セラと並んでダイニングの椅子に座ってもらうと、対面には伊勢とフローライトが座った。
透子は螺旋階段の上で三角座りで身を隠しながら聞き耳を立てていた。
「まさか、瀬楽さんが、あの伊勢櫂さんのご子息だったとは思わず、本当に驚いています。もちろん、私も業界人ですので、このことは他言いたしませんのでご安心ください」
伊勢は隣に座るフローライトをちらりと見て様子をうかがった。息子の設定でもいいのだが、そうするとフローライトが納得しないかもしれず、何が無難か悩んだ。
「えっと、瀬楽は」
「セラは私の息子だ。私達はこの男の世話になっているだけ。親戚だと思ってくれたらいい」
ほぼ同時に言葉が出た伊勢とフローライトに、磯部は一瞬話が呑み込めずに固まったが、すぐに手をポンと叩き納得した。
「あー、なるほど、私てっきり櫂さんはこちらの綺麗な方と極秘で結婚されているのだと勘違いしていました。ご親戚だったんですね。あー確かに皆さん似ていますよね。じゃじゃ、早速ご説明を――」
伊勢はフローライトを見つめるが、彼女は両腕を組み、ツンと澄ました表情で視線は前だけを見ていた。
一通り説明が終われば、磯部がやり切った安堵の一息をつき、言葉を続けた。
「瀬楽さんのお写真と、すでに瀬楽さんを獲得しようと各事務所が動いていた評判もあり、社内審査ではすでに合格しています。弊社は瀬楽さんを預けて頂くのに信頼に足る会社だと自負しておりますので、どうかこのまま弊社とご契約いただけますよう、お願いいたします」
「初対面の者を即座に信用できるわけないだろ」
フローライトの言葉を受け、空気が一瞬強張った。
しかし、終始顔色を窺いつつ遠慮気味に話していた磯部が、初めて芯の通った声を出した。
「私は、瀬楽さんの人生を預かる覚悟でマネージメントをさせていただきます。この気持ちは、亡くなられた白高下透吾さんをご存じの伊勢櫂さんには、誰よりもよく理解していただけると思っています」
螺旋階段の上で少し退屈になってきていた透子は、突然出てきた父の名に驚いて首を上げた。
「まだお若いのに、透吾さんをご存じなんですか?」
伊勢が聞くと、磯部は目を輝かせて頷いた。
「はい」
「え……」
嬉しい言葉だと言うのに、淡々と話すフローライトの心情が読めず、セラドナイトもどう反応して良いかわからなかった。
「だから、保護者は私だ。よくわからない異世界の者にお前を預けたくない。今すぐセラドナイトをそそのかした者をここに連れて来い」
フローライトの怒気を含んだ目がカッと開き、やっとこの場の全員が理解する。彼女は淡々と話していたわけではなく、怒りを自制していた。
彼女はマギアシア大陸でも随一の魔法使い。伊勢が彼女の怒りを鎮めるように背中をさすった。
「落ち着いてフローライト。ポーションないから」
「セラドナイトからその報告は受けていた。ちゃんとポーション調合用の植物を持ってきている。それに、私の魔力は簡単に枯渇などしない」
「いや、だからと言ってこの世界で魔法はあまり使わないでくれ。セラドナイト、私からスカウトマンに連絡するから、名刺を見せてもらえるかい?」
「あ……はい」
セラドナイトは指をパチンと鳴らすと、一枚の名刺が伊勢の目の前に現れ、ふわふわと浮いていた。
「こら、セラドナイトも安易に魔法を使わないこと」
ちくりとセラドナイトに注意しつつ、伊勢が名刺を手に取り電話をすると、小一時間もしないうちにIGAMエンターテイメントの男性がやって来た。
玄関モニターに映る男性は、社会人としてはどこか初々しさのある青年で、リクルートスーツに黒ぶち眼鏡を掛けていた。
透子はそのIGAMの男性の姿に見覚えがあり、モニターに映るIGAMの社員を凝視して記憶をたどれば、以前おにぎり屋塩結びの前でセラを熱心にスカウトしていた男性だと気づいた。
「あ、あの時の」
「透子ちゃんの知り合い?」
伊勢が透子に聞くが、別に知り合いではない。
「以前、あの人にセラがスカウトされていたのを見たことがあるだけ。断ったって言ってたのに」
「いや、その時は断ったんだと思うよ。
私もね、透子ちゃんのお父さんにスカウトされた時は断ったんだけど、名刺を握らされてね……。
しばらく経ってから、偶然スカウトされた場所に行ったら、また透吾さんに会って。どうやら私に会うために、あの日から毎日あのスカウトしてくれた場所で私に会えるのを願って通っていたそうなんだ」
「え……お父さんって、ストーカーだったの」
「ははは、紙一重かもしれないけど、私がこうしてこの世界で生きて行けたのは透子ちゃんのお父さんのおかげだよ」
マンションエントランスまで迎えに行っていたセラが、IGAMの男性を連れて玄関に入ってきたので、伊勢はリビングから出て行き出迎えた。
IGAMの男性が伊勢の前まで歩み出ると、恭しく頭を下げて名刺を差し出した。
「私、IGAMエンターテイメント、マネージメント部の磯部一路と申します。この度はこのような場を設けていただき、しかもあの伊勢櫂さんのご自宅でだなんて、恐悦至極でございますっ!」
「初めまして。瀬楽の保護者の――」
伊勢がそう言いかけた時、リビングの方からフローライトの咳払いが聞こえた。
「あー……セラの保護者は私と、リビングにいる女性なんだけど……まあ、とにかく中にどうぞ」
磯部をリビングに通し、セラと並んでダイニングの椅子に座ってもらうと、対面には伊勢とフローライトが座った。
透子は螺旋階段の上で三角座りで身を隠しながら聞き耳を立てていた。
「まさか、瀬楽さんが、あの伊勢櫂さんのご子息だったとは思わず、本当に驚いています。もちろん、私も業界人ですので、このことは他言いたしませんのでご安心ください」
伊勢は隣に座るフローライトをちらりと見て様子をうかがった。息子の設定でもいいのだが、そうするとフローライトが納得しないかもしれず、何が無難か悩んだ。
「えっと、瀬楽は」
「セラは私の息子だ。私達はこの男の世話になっているだけ。親戚だと思ってくれたらいい」
ほぼ同時に言葉が出た伊勢とフローライトに、磯部は一瞬話が呑み込めずに固まったが、すぐに手をポンと叩き納得した。
「あー、なるほど、私てっきり櫂さんはこちらの綺麗な方と極秘で結婚されているのだと勘違いしていました。ご親戚だったんですね。あー確かに皆さん似ていますよね。じゃじゃ、早速ご説明を――」
伊勢はフローライトを見つめるが、彼女は両腕を組み、ツンと澄ました表情で視線は前だけを見ていた。
一通り説明が終われば、磯部がやり切った安堵の一息をつき、言葉を続けた。
「瀬楽さんのお写真と、すでに瀬楽さんを獲得しようと各事務所が動いていた評判もあり、社内審査ではすでに合格しています。弊社は瀬楽さんを預けて頂くのに信頼に足る会社だと自負しておりますので、どうかこのまま弊社とご契約いただけますよう、お願いいたします」
「初対面の者を即座に信用できるわけないだろ」
フローライトの言葉を受け、空気が一瞬強張った。
しかし、終始顔色を窺いつつ遠慮気味に話していた磯部が、初めて芯の通った声を出した。
「私は、瀬楽さんの人生を預かる覚悟でマネージメントをさせていただきます。この気持ちは、亡くなられた白高下透吾さんをご存じの伊勢櫂さんには、誰よりもよく理解していただけると思っています」
螺旋階段の上で少し退屈になってきていた透子は、突然出てきた父の名に驚いて首を上げた。
「まだお若いのに、透吾さんをご存じなんですか?」
伊勢が聞くと、磯部は目を輝かせて頷いた。
「はい」
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