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51.ヴェルタの男
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ソマ王国は南大陸の中央に位置し、温暖な気候で、背の高い草花が生い茂った自然豊かな国である。この国の民の服装は、温暖な気候ゆえ肌の露出が多い踊り子の様な服装だった。
緑豊かな王都には、人口の滝や池に囲まれた水の王宮と呼びれる真っ白な石造りの王宮があり、この国の女性の正装を身に纏ったセルマ寡妃が髪を靡かせながら、侍女たちを従えて王宮内を歩いている。
扉の前でセルマ寡妃が止まり、侍女たちにさがるように促した。
セルマ寡妃は一人で扉を開けて中に入ると、部屋の中にはソマの美女たちを侍らせた、只ならぬ空気を身に纏った、体格の良い高齢の男性が座っていた。
「お待たせして申し訳ございませんでした。ヴェルタ国王陛下」
「いや、楽しい時間だった。もう少し遅くてもよかったかもしれん」
「ご冗談を。さあ、お前たちは下がって」
セルマ寡妃の視線で、美女たちは一斉に立ち上がり、部屋を出て行く。だが、ヴェルタ国王は自分の隣に座らせていた、肩に触れる位の漆黒の黒髪に、豪華な大ぶりのイヤリングやネックレスをつけ、ソマの女性民族衣装に身を包む美女だけは離さなかった。
「トマス、お前は私のそばにいなさい」
「承知いたしました。陛下」
一度は立ち上がったトマスだが、もう一度ヴェルタ国王の隣に座ろうとすれば、国王がトマスの手を引いて自らの膝の上に座らせた。
「お前は本当に可愛いなあ、トマスよ」
ヴェルタ国王はトマスの太ももを愛でるようにさすった。
トマスはにこりと微笑むが、目は笑っていない。
「その気の強そうなところは相変わらずだな」
ヴェルタ国王はトマスに夢中だった。
「ヴェルタ国王陛下、そろそろお話してもよろしいでしょうか?」
「ああ、セルマ、すまなかった。それで、お前は結局何を成したんだ?」
ヴェルタ国王の言葉には明らかに攻撃的な棘があった。セルマ寡妃はそれでも涼し気な顔をしている。
「まだその最中です」
「まあ、いいだろう。まさか、伝説のクルチザンヌに再び触れられるとは思わなかったからな」
「確認の為にお兄様が持っていた肖像画の帆布を陛下にお送りなんてしなければ良かったわ。あれで陛下がトマスを欲しいと言わなければ、とっくに息の根を止めていたのに。ちゃんと引き渡したのですから、今後もよろしくお願いしますよ」
ヴェルタ国王はトマスの顎を掴み、顔を自分に向けた。
「ククッ……聞いたかトマス? お前は私がいたから、こうして生きていられるのだぞ? サイオンにしていた以上の閨での仕事を期待しているぞ」
「陛下、私はサイオン様の閨で従事した事は一度もございません」
「なに? サイオン、あいつは馬鹿なのか? 南大陸一の男娼を手に入れておいて、本当にただの侍従として雇っていたのか?」
「サイオン様は清廉で、聡明な方です。だからこそ、私なんかに手を出すマネはされなかったのでしょう」
セルマ寡妃はトマスのセリフを聞き、大笑いした。
「ええ、お兄様は聡明です。お前のように穢れた存在などと、たとえ戦場だろうと夜を共になどするものですか」
セルマの台詞に対して笑ったのはヴェルタ国王だった。
「ははは、では私は馬鹿な老いぼれだな。だがセルマ、ヴェルタ王国は歴史的に戦争が多い国で、戦士の国だ。女がいない戦地ではトマスの様な男達が必要不可欠だったんだ。だから、彼らは穢れではなく救いであり、勝利へ導く力だ」
セルマ寡妃はトマスへの嫉妬や悔しい思いをグッと堪え、その分トマスを睨み続けた。
「ヴェルタの男は、男を抱くのが普通なのですか?」
「セルマ、当たり前だ。王族の男ともなれば、まず戦いを学び、男も女も抱いてこそ、一人前と認められる。サイオンだって例外ではないし、むしろあいつこそヴェルタの血を濃く引いているぞ。獅子の尾を踏まぬよう気を付けた方がいい。まあ、もう遅いかもしれぬが、お前の話に乗った時点でグレイル=ヴェルタ家が歯向かう可能性も想定には入れていたし、その際は容赦はしない。私はサイオンが牙を向いてくる覚悟は出来てる」
「やめてください、物騒な。私の目的はお兄様と結ばれる事。たとえ最初は無理矢理でも、お兄様はいずれきっと私への愛に気づき、これまでを感謝するはずです。フロリジアが滅びようと、グレイル=ヴェルタ家は滅びませんし、あの土地に君臨するのはお兄様と私です」
「では、フロリジアを滅ぼそう。あそこをヴェルタの地にするんだ。クジラは定期的に搬入しているのだろ?」
トマスは目を見開いて動揺した。その様子に気づいたヴェルタ国王はニヤリとほくそ笑む。
「懐かしいだろう、トマス」
「やはり、ローゼンのどこかに隠して処理をしていたのですね」
ヴェルタ国王は手を叩き、扉の外に待機していた侍従と近衛兵を呼ぶ。
「トマスをヴェルタ城に連れて帰る。逃げぬように拘束して、私の馬車に乗せておけ」
「承知致しました」
近衛兵がヴェルタ国王の膝に座るトマスの腕を拘束する。
「トマス、ここから先はセルマと二人きりで話したい。だから先に馬車で待っていておくれ」
ヴェルタ国王がそういうと、トマスは背後から国王の侍従に睡眠作用のある薬を塗布した布を鼻に当てられ、そのまま眠ってしまった。
緑豊かな王都には、人口の滝や池に囲まれた水の王宮と呼びれる真っ白な石造りの王宮があり、この国の女性の正装を身に纏ったセルマ寡妃が髪を靡かせながら、侍女たちを従えて王宮内を歩いている。
扉の前でセルマ寡妃が止まり、侍女たちにさがるように促した。
セルマ寡妃は一人で扉を開けて中に入ると、部屋の中にはソマの美女たちを侍らせた、只ならぬ空気を身に纏った、体格の良い高齢の男性が座っていた。
「お待たせして申し訳ございませんでした。ヴェルタ国王陛下」
「いや、楽しい時間だった。もう少し遅くてもよかったかもしれん」
「ご冗談を。さあ、お前たちは下がって」
セルマ寡妃の視線で、美女たちは一斉に立ち上がり、部屋を出て行く。だが、ヴェルタ国王は自分の隣に座らせていた、肩に触れる位の漆黒の黒髪に、豪華な大ぶりのイヤリングやネックレスをつけ、ソマの女性民族衣装に身を包む美女だけは離さなかった。
「トマス、お前は私のそばにいなさい」
「承知いたしました。陛下」
一度は立ち上がったトマスだが、もう一度ヴェルタ国王の隣に座ろうとすれば、国王がトマスの手を引いて自らの膝の上に座らせた。
「お前は本当に可愛いなあ、トマスよ」
ヴェルタ国王はトマスの太ももを愛でるようにさすった。
トマスはにこりと微笑むが、目は笑っていない。
「その気の強そうなところは相変わらずだな」
ヴェルタ国王はトマスに夢中だった。
「ヴェルタ国王陛下、そろそろお話してもよろしいでしょうか?」
「ああ、セルマ、すまなかった。それで、お前は結局何を成したんだ?」
ヴェルタ国王の言葉には明らかに攻撃的な棘があった。セルマ寡妃はそれでも涼し気な顔をしている。
「まだその最中です」
「まあ、いいだろう。まさか、伝説のクルチザンヌに再び触れられるとは思わなかったからな」
「確認の為にお兄様が持っていた肖像画の帆布を陛下にお送りなんてしなければ良かったわ。あれで陛下がトマスを欲しいと言わなければ、とっくに息の根を止めていたのに。ちゃんと引き渡したのですから、今後もよろしくお願いしますよ」
ヴェルタ国王はトマスの顎を掴み、顔を自分に向けた。
「ククッ……聞いたかトマス? お前は私がいたから、こうして生きていられるのだぞ? サイオンにしていた以上の閨での仕事を期待しているぞ」
「陛下、私はサイオン様の閨で従事した事は一度もございません」
「なに? サイオン、あいつは馬鹿なのか? 南大陸一の男娼を手に入れておいて、本当にただの侍従として雇っていたのか?」
「サイオン様は清廉で、聡明な方です。だからこそ、私なんかに手を出すマネはされなかったのでしょう」
セルマ寡妃はトマスのセリフを聞き、大笑いした。
「ええ、お兄様は聡明です。お前のように穢れた存在などと、たとえ戦場だろうと夜を共になどするものですか」
セルマの台詞に対して笑ったのはヴェルタ国王だった。
「ははは、では私は馬鹿な老いぼれだな。だがセルマ、ヴェルタ王国は歴史的に戦争が多い国で、戦士の国だ。女がいない戦地ではトマスの様な男達が必要不可欠だったんだ。だから、彼らは穢れではなく救いであり、勝利へ導く力だ」
セルマ寡妃はトマスへの嫉妬や悔しい思いをグッと堪え、その分トマスを睨み続けた。
「ヴェルタの男は、男を抱くのが普通なのですか?」
「セルマ、当たり前だ。王族の男ともなれば、まず戦いを学び、男も女も抱いてこそ、一人前と認められる。サイオンだって例外ではないし、むしろあいつこそヴェルタの血を濃く引いているぞ。獅子の尾を踏まぬよう気を付けた方がいい。まあ、もう遅いかもしれぬが、お前の話に乗った時点でグレイル=ヴェルタ家が歯向かう可能性も想定には入れていたし、その際は容赦はしない。私はサイオンが牙を向いてくる覚悟は出来てる」
「やめてください、物騒な。私の目的はお兄様と結ばれる事。たとえ最初は無理矢理でも、お兄様はいずれきっと私への愛に気づき、これまでを感謝するはずです。フロリジアが滅びようと、グレイル=ヴェルタ家は滅びませんし、あの土地に君臨するのはお兄様と私です」
「では、フロリジアを滅ぼそう。あそこをヴェルタの地にするんだ。クジラは定期的に搬入しているのだろ?」
トマスは目を見開いて動揺した。その様子に気づいたヴェルタ国王はニヤリとほくそ笑む。
「懐かしいだろう、トマス」
「やはり、ローゼンのどこかに隠して処理をしていたのですね」
ヴェルタ国王は手を叩き、扉の外に待機していた侍従と近衛兵を呼ぶ。
「トマスをヴェルタ城に連れて帰る。逃げぬように拘束して、私の馬車に乗せておけ」
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