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しおりを挟む「美花ちゃん…… 」
曇る表情に、胸が痛む。
ごめんなさい、そんな顔をさせたくはないのに。でも、知られる訳にはいかないの。
「本当に大丈夫だから。振り向く時に、少し足首を捻ったみたい 」
「……ちょっと、見せて 」
「大袈裟よ、もう平気だから…… 」
「平気なんて、顔じゃなかった 」
浩峨は床にスッ……と膝を付くと、「どっち? 」と聞いた。
「こ……、こっち 」
痛くもない右足の足首を指差せば、立てている足をそっと浩峨が持ち上げる。
「痛い? 」
「……痛くない 」
長い指が、痛みを確かめながら触れてゆく。
美花に少しの苦痛も与えないよう、丹念にみていく繊細な動きに、とくんとくん……とさっきとは別の意味で心臓が騒ぎだす。
引き結んだ薄めの口唇と真剣な瞳。
本当に心配くれていることが分かって、美花は申し訳ない気持ちになった。
でも、嬉しい。 後ろめたく思いながらも、美花は思う。
人に心配されることが。 この人に心配してもらえることが。
不思議ね。 人の手は他の人を容赦なく傷付けることもするのに、こんなにも優しさを与えることも出来る……。
「……大丈夫だとは思うけど、痛むのなら念の為冷やしておこうか 」
掛けられた声に、美花はハッとする。
「あ……、はっ、はい!」
瞬間、浩峨が『ん?』という顔をしたが、すぐにいつものように柔らかく微笑った。
この人はきっと、誰にでも優しい……。自惚れてはいけない。
ふっと、胸に湧いた疑問。
「ねぇ、橘さん 」
「なぁに? 」
けれど、前からずっと、どこかで考えていた疑問が口を突く。
「……ねぇ、どうして私を家に置いてくれようと思ったの? 」
美花は自分で言ったくせに、声が震えていることに気が付いた。
私は何を聞こうとしているの? 何が聞きたいの?
言い訳をするように、言葉が溢れだす。
「だって、橘さんは、私のしたこと全部知っているんでしょう? 私は人を殺そうとしたのよ? それだけじゃない。 私は昔から璃桜ちゃんが嫌いで、大嫌いで……、朔耶さんの赤ちゃんがいるって知って、幸せそうなのが憎くて、何で璃桜ちゃんばっかりって…… 」
……そして、結局はあの男と同じことをした。
私の手は、浩峨さんとは違う。 人を傷付ける方の手。
美花は、小さく膝を抱える。
「……私なんか、放っておいてくれれば良かったのに。最初から軽蔑されていることなんて分かってる。どうせ犯罪者なんだから、あのまま刑務所に行かせてくれたら…… 」
だんだんに小さくなる語尾。
自分で言いながら、ズン……とその重みに押し潰されそうになった。
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