月夜の花と竜の騎士〜研究にしか脳のない魔導省調合師の私は、恋した騎士様に惚れ薬を盛ります!〜

山葵トロ

文字の大きさ
4 / 9

4

しおりを挟む



 「はあぁっ?! ジーク、お前、何言ってんだ?! 」


 タイランの驚いた声が部屋中に響き渡る。けれど、フィーナは別の意味で驚いていた。

 何、コレ。凄い即効性。しかし、思いながらも次の瞬間には即答していた。


 「……はい 」

 きゅっと握り返した大きな手。見つめるジークハルトの瞳が見開かれる。


 「本当に? フィーナ 」

 コックリと頷くと、広い胸に抱き竦められる。後ろで、タイランの騒ぐ声がしているが、フィーナは構わず好きな男の背中に手を回した。
 だって、その為に惚れ薬を飲ませたのだもの。

 「夢みたいだ 」と、ジークハルトの声が聞こえたけれど、フィーナ自身がそう思っていた。



 ◆

 それにしても、惚れ薬の効果は凄かった。何しろ、数滴で求婚プロポーズまでしてくれるのだから。
 当日はタイランに研究室を追い出されたジークハルトは次の日、花束を持って訪ねてきてくれた。とても嬉しくて喜んだら、毎日持って来てくれる様になった。おかげで研究室は、花畑のようだ。
 そして、フィーナは、ジークハルトが来てくれる度に惚れ薬の入ったお茶を出す。

 この間、量をティースプーンひと匙分増やしたら、「愛してる 」と囁いてくれた。
 ふた匙分増やしたら、夕暮れの窓辺でキスをしてくれた。

 欲は増すばかりで、惚れ薬はどんどん減っていく。これが無くなったら、彼の愛情も消えてしまう。
 少しでも、長く愛されたい。あの人が私を愛している時間を延ばしたい。延びるなら、延ばすことが出来るなら、何だってする。

 それには、ハラヒラの花がどうしても必要だった。
 



 ◆


 『探さないでください 』

 その日、フィーナは置き手紙をして魔導省を出た。二週間程前から薬は底をついていて、フィーナの不安通り、数日前からジークハルトも研究室に訪れていなかった。
 惚れ薬に頼った愛情は、そんなにも簡単に薄れてしまうのかとフィーナは焦った。

 ハラヒラの花はもう、とうに盛りを過ぎているけれど、何とか見付けなければならない。
 けれど、フィーナは目星は付けていた。前に、回復薬を作る薬草を取りに行ったラピ・ルト岳だけで、季節外れのハラヒラの花を見かけたことがあったからだ。
ラピ・ルト岳は馬を走らせれば、半日もあれば着く。フィーナだって、魔導省調合師の端くれだ。険しい山に登ることなど、今までいくらだってあった。

 だから、油断してしまったのかも知れない。ラピ・ルト岳の三つ目のピークに着いて、白い花を見つけた時、岩場から足を滑らせてしまった。
 ツいていたのは、下の張り出した岩場に落ちたこと。
 ツいていなかったのは、落ちた時に足を挫いてしまったことだ。これでは、崖の上に登れない。

 フィーナの使える治癒魔法を施してみるが、治すには時間が掛かりそうだ。フィーナは治癒時間と自分の体力を秤に掛けて、痛みが弱くなってきたところでやめた。

 山頂に近いこの場所は、風が強いうえ、日が暮れると、気温が更に低くなる。このままでは、凍えて死んでしまうかもしれない。
 行き先も伝えていない自分が救助される可能性はどれくらいなのだろう。


 途方にくれて、手にある数本のハラヒラの花を見た。

 「こんなんじゃ、足りないなぁ 」

 呟きながら、未だそんな事を思っている自分に笑ってしまう。今はそれどころじゃないのに。

 ハラヒラの花は求婚プロポーズの花だ。惚れ薬なんて間違った使い方をしたから、罰ばちが当たってしまったのかも知れない。

 でも、それでもあの人の心が欲しかった。
あの人の事を考えただけで、こんなに胸が痛くなる。ジークハルト様の気持ちは偽物でも、私の気持ちは本物だ。
 だから、フィーナは決心した。

 するべき事をしよう。断られてもいいから、もし生きて次に会えたら、この花を贈ってあなたが好きだって伝えよう。私から結婚してくださいって言おう。
 私は惚れ薬に頼り過ぎて、好きな人に想いを伝えるという当たり前のことさえしていなかった。

 そう心の中で誓った時、ケーンと竜の鳴き声が聞こえた気がした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳 ロミオ王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

円満離婚に持ち込むはずが。~『冷酷皇帝の最愛妃』

みこと。
恋愛
「あなたと子を作るつもりはない」 皇帝シュテファンに嫁いだエリザは、初夜に夫から宣言されて首をかしげる。 (これは"愛することのない"の亜種?) 前世を思い出したばかりの彼女は、ここが小説『冷酷皇帝の最愛妃』の中だと気づき、冷静に状況を分析していた。 エリザの役どころは、公爵家が皇帝に押し付けた花嫁で、彼の恋路の邪魔をするモブ皇妃。小説のシュテファンは、最終的には運命の恋人アンネと結ばれる。 それは確かに、子どもが出来たら困るだろう。 速やかな"円満離婚"を前提にシュテファンと契約を結んだエリザだったが、とあるキッカケで彼の子を身ごもることになってしまい──? シュテファンとの契約違反におののき、思わず逃走したエリザに「やっと見つけた」と追いすがる夫。 どうやら彼はエリザ一筋だったらしく。あれ? あなたの恋人アンネはどうしたの? ※小説家になろう様でも掲載しています ※表紙イラスト:あさぎかな先生にコラージュアートをいただきました ※毎朝7時に更新していく予定です→2月15日からはランダム更新となります。ご了承ください

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します

冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」 結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。 私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。 そうして毎回同じように言われてきた。 逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。 だから今回は。

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

処理中です...