月夜の花と竜の騎士〜研究にしか脳のない魔導省調合師の私は、恋した騎士様に惚れ薬を盛ります!〜

山葵トロ

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 まさか、こんな所に竜がいる訳…… 。

 けれどそれは気のせいではなかった。蒼い月を背に、黒い竜がこちらへ向かって飛んで来るのが見える。その竜に乗るのは……。

 フィーナは、思わず叫んでいた。


 「……ク様、ジーク様ぁ!! 」

 竜はあっという間に、フィーナの居る岩場まで飛んできて、バサバサとホバリングする。


 「フィーナっ! どうしてこんな所に?! 」

 それはこちらが聞きたかった。でも、会えただけで嬉しい。愛しい人の姿に涙が溢れて止まらない。


 「ジーク様、ごめんなさい。ごめんなさいぃ。 」

 トンと、岩場に降りたジークハルトが、フィーナの足に直ぐ気付く。


 「足を怪我してるじゃないか! 」

 足なんかどうでもいい。ふるふると首を振って、ジークハルトの袖を掴む。


 「どうした? 痛むんだろう? 」

 涙で喉が掠れる。しゃくり上げてしまい、上手く話せない。だけど、今言わなくてはと思った。
 ハラヒラの花を差し出しながら、フィーナはジークハルトに求婚する。


 「ジーク、ハルト様が、好きです。私と、結婚してください 」

 薬の切れたジークハルトに捨てられると分かっていても、どうしても想いを伝えたかったから。
 白い花を受け取りながら、ジークハルトが酷く驚いた表情かおをしている。
 そして何か言いたげに、暫くフィーナを見つめていたが、ふぅと一つ息を吐いて言った。


 「……聞きたいことは色々あるけど、竜の上で聞く 」

 ジークハルトは自分の上着を脱いで泣き続けるフィーナに掛けると、そのまま抱き上げて竜に騎乗した。




 ◆


 魔導省に帰ったフィーナは、先ずこっぴどくタイランに叱られた。


 「あんな置き手紙をされたら、心配するでしょうが! 」

 「…すみません 」

 「それに、こんな季節のラピ・ルト岳に、誰にも知らせずに登るなんてどういうつもりだ? 」

 「だって、反対されると思ったので 」

 「当たり前です! ジークが見付けなかったらどうなってたと思うんだ! 知ってたら絶対に許さなかったよ!! 」

 だから、黙って行ったのだ。でも、心配させてしまったのは事実なので、フィーナは素直に謝った。
 そんなフィーナを見て、怪我した足に治癒魔法をかけながらタイランは溜め息を吐つく。
 

 「俺はてっきり、ジークのヤツがしつこいから、フィナフィナが逃げたのかと思った 」
 
 「……っ、そんなことはありません! 私はジークハルト様のことを、お慕い……、して、おります、ので…… 」


 語尾が小さくなりながらもそう言ったら、タイランがアメジストの瞳を見開いた。


 「そうなの? 」

 ふと、壁際の方に視線をやる。すると、ジークハルトが腕組みをしながら、難しい顔をして立っていた。
 きっと、怒っているのだろうなとフィーナは思う。

 フィーナはジークハルトに助けられて、竜に乗せられ、ここに帰って来る時に、全てを打ち明けていた。
 彼は、フィーナの話を黙って聞いてくれた。自分の気持ちを操られた様なものだ。いい気がしないのは想像がつく。


 「そうか。じゃあ、2人で話をした方がいいかな 」

 はい、終わりと、タイランがフィーナの足首の関節を回す。もうすっかり、腫れも引き、痛みもない。


 「そうだな、そうしてくれ 」

 口を開いたのは、ジークハルトだった。慌ててフィーナがお礼を言ったら、よしよしと頭を撫でられた。それを見たジークハルトが「早くしろ」と急せかし、肩を竦めたタイランが『ハイハイ』と部屋を出て行く。

 ジークハルトと2人きりで残された部屋は、シンと静まり返っている。コクンと鳴ってしまった喉の音さえ、響いてしまう気がした。
 覚悟はしているが、やはり恐いものは恐い。


 「……怒って、ますよね? 」

 沈黙に耐えられなくて、そう聞けば、「怒ってるに決まっている 」と返された。

 「ごめんなさい 」と、もう何回言ったか分からない謝罪の言葉に、ジークハルトは、はぁと大仰に息を吐いた。


 「先に言っておく。俺にその、君の作った惚れ薬とやらは効いてはいない 」

 「は? 」

 ジロリと睨まれて、フィーナは小さくなる。


 「俺はずっと、君の事が好きだった 」

 「え? 」


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