月夜の小鳥は哀切な嘘をつく【本編完結。アナザーストーリー連載中★】

山葵トロ

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 コクン……と錠剤を咽下するのを見て、一先ず安心する。 素直な子で良かった。

 今はまだ、気力で我慢出来るだろうが、発情がピークに達すれば苦しくて堪らなくなる。 普通のΩなら、身を持って、嫌という程そのことを知っている筈だ。


 「どうして、薬持ってなかったの? 」

 確信を持ちながら、真祝は女の子に訊ねる。


 「朝、急いでいて…… 」

 「発情期が来そうなのに、薬を持ち歩いてないなんて俺には信じられない 」


 真祝は椅子から立ち上がると、言い訳しようとする女の子の側に近寄った。

 「もしかしたら、さ 」


 そして、簡易ベッドに座る女の子の横に手を付く。 瞳を覗き込めば、火照る熱で瞳が潤んでいる。
 真っ白なセーラー襟の縁に、深緑色の2本の縫い取り。 同じ色の胸元のリボンとスカート。 ここら辺では有名な、お嬢様校の制服。


 「あ、あの……?! 」

 後ずさる女の子の隣に、身を寄せて腰掛けた。


 「初めてなんだろ? 」


 秘密ごとを話すように聞くと、瞬間女の子が瞳を見開いた。 そして見ていて分かる位に顔を強張らせる。 何か変なことを言ってしまったかと、真祝は首を傾げた。


 違うのか? それなら、全て合点がいくのに。

 発情期の実際の怖さがどんなものなのかも、何も知らないΩのお嬢様が、いつ来るかも分からない爆弾を抱えながら、何らかの理由で朝の通勤電車に乗ってしまったとしたら。


 「違うの? 」

 聞くと、「そう、ですけど…… 」と、女の子の消えそうな声が聞こえる。


 「やっぱり…… 」と言い掛ければ、女の子が「わっ、私っ、そんなつもりじゃありません……っ!」と何故か怒った声を出した。


 身を守る様に胸元を押さえて、女の子がキッと睨んでくる。 


 「おっ、Ωだなんて言って安心させて、私のことを襲う気ですか……っ?! 」


 一瞬、何を言われているのか分からずにポカンとする。 けれど、真祝から決して視線を離さず、睨みながら後退る女の子の行動に、やっと意味が分かった。


 「何が可笑しいのっ?」

 「いや、ごめ…… 」

 知らずに笑っていたらしい。 しかし、気付いてしまうと、1度零れてしまった笑いは止まらない。




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