月夜の小鳥は哀切な嘘をつく【本編完結。アナザーストーリー連載中★】

８.

１２-２

　真祝の家の前に立った時から、嫌な予感はしていた。

　もういい時間なのに真っ暗な部屋。ドアノブに手を掛けると、玄関ドアはあっさりと開いた。


　「真祝、さん……？　」

　部屋の中に入ると、手探りで電気を付けた。蛍光灯の冷たい明かりが照らす、しんとした部屋に、背筋が冷える。


　「真祝さん！　真祝さん……っ！」

　慌てて、部屋中にその姿を探す。一人暮らしの1Kだ、大して広くはない。バスルームやトイレも含めて、あっという間に探し終わったが、真祝は居ない。

　「真祝さん 」

　部屋は荒らされた形跡はない。強盗や誘拐、事件ではないだろう。ということは、真祝は自分の意思でこの部屋を出たということだ。
　一体何処へ行ったというのか。いくら番契約をしたといっても、身体自体は発情期で辛いだろうに。


　真祝の行き場所を、必死で考える。しかし、これといって思い浮かぶ場所もない。
 こんなことだったら、身上調査ぐらい、しっかりとしておくべきだった。そんなことをしなくても、何があっても、あの人を選ぶという自信からか、敢えてしなかったことを、今更ながらに後悔している。
 
　俺は真祝さんの事を何も知らない……。



　央翔は自分の不甲斐なさに、キリッと親指を噛んだ。


　やっぱり、傍に居るべきだった。突然番にされて情緒不安定になっていることは分かっていたのだから、離れるべきでは無かった。しかし、あの人にも落ち着いて考える時間が必要だと思ったのだ。これから、自分と、『久我　央翔』という人間と共に生きていくということを理解し納得するために。


　何処だ、一体何処に居る？　

　意味も無く、部屋を歩き回る。心配でどうにかなりそうだ。


　その時ふと、1つだけ、真祝の行く場所を思い付いた。それは央翔にとって１番あっては欲しくないことだった。だから気付かなかった。

　まさか、でも……。


　同時にスーツの胸ポケットに入っているスマホが鳴る。


　いや、きっとそうだ。それは確信だった。