66 / 152
8.
12-8
しおりを挟む首を傾げる二海人に、「嘘だ!」と真祝が口を尖らせる。
「……嘘、俺に気ぃ使ってんでしょ? 」
「は? 俺がなんでお前に気を使わなきゃならないんだ? 」
「だって! ……二海人は、優しいから 」
優しいから……と、もう一度言うと、二海人がふっと口唇の片端を持ち上げる様に笑った。
「優しい……か 」
「二海人? 」
「そう思って貰えるなんて、ありがたいね 」
そう言うと、「よいしょ 」と荷物を持つみたいに、真祝を肩に担ぎ上げた。
「ちょっ、二海人っ 」
「お前、ぐだぐだ煩いから、とっとと風呂に連れていくことにする 」
「ぐだぐだって、うるさいって。なんだよ、それっ 」
「言葉通り、そのままだが? 」
しれっとのたまう二海人の背中を、真祝はぽかぽかと叩く。
「もう、さいてー! お前、最低だー! 俺はお前と違って、ちゃんと気ぃ使ってんだよ! 」
「分かった、分かった 」
あやすみたいな物言いが、また気持ちを逆撫でする。しかも、笑うのを堪えているのか、乗っけられている肩が小刻みに揺れているのが分かるから……。
「適当なこと言うな! もういいから、降ろせって! 」
「我慢すんな、歩けないくせに 」
「歩けますよーだ。だから、降ろせって! 着いちゃうだ…… 」「着いたぞ 」
言葉が重なって、トンと下に降ろされる。けれど、悔しいことに足に力が入らなくて、真祝はペタンと脱衣室の床に座り込んでしまった。
「ほら、みろ 」
二海人の腕にしがみ付く手が、ずるりと滑って離れる。
「まほは、自分のことなのに、自分を1番分かってないからな 」
「何だよ。じゃあ、二海人は俺のこと全部分かるっていうの? 」
言い返した真祝に、二海人が何か言いたそうな表情をした。けれど、それは一瞬で消え、代わりにその端正な顔に苦い微笑みを浮かべると、ぷくっと膨らんでいる真祝の頬を軽く摘まんだ。
「ちょっ……!」
「ばーか 」
思わず顔を背けてしまった真祝に、揶揄い混じりの声が聞こえる。反射的に、誤魔化されたのだと感じた。
「二、海人……ッ 」
そうはさせまいと名前を呼ぶが、「……これ、使えよ 」と、既に次の行動に移っていた二海人に、棚から取り出したバスタオルを渡される。
「あ、ありがと 」
「勝手は知ってるな? 何でも使っていいから 」
そう言って、そのまま脱衣室を出て行こうとするから、慌てて「行っちゃうの? 」と呼び止めた。「居て欲しいのか? 」と二海人が振り向きながら聞いてくる。
「うん…… 」
恥ずかしいけれどそうだと頷けば、「だが、そうもいかないだろう? 」とため息を吐かれた。その言葉に、ギクリとする。
まさか、知ってる……?
鼓動が早鐘のように打つ。まだ、まだ知られたくない。
すると、二海人が「そんな顔するな 」と、中腰になって頭に触れた。
「まだ飯を食っていないんだ、少しコンビニに行ってくる。まほは、何か欲しいものはあるか? 」
俯いたまま、ふるふると首を振ったら、「そうか 」と手の温もりが消える。
「すぐに帰ってくる。無理するなよ 」
もう、頷くことしか出来ない。
パタンと扉を閉める音と共に、「……匂いなんか、全くしねぇんだよ 」と苦し気に吐き捨てた二海人の声は、真祝には聞こえてはいなかった。
33
あなたにおすすめの小説
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
8/16番外編出しました!!!!!
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
4/29 3000❤️ありがとうございます😭
8/13 4000❤️ありがとうございます😭
12/10 5000❤️ありがとうございます😭
わたし5は好きな数字です💕
お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話
降魔 鬼灯
BL
ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。
両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。
しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。
コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。
僕たちの世界は、こんなにも眩しかったんだね
舞々
BL
「お前以外にも番がいるんだ」
Ωである花村蒼汰(はなむらそうた)は、よりにもよって二十歳の誕生日に恋人からそう告げられる。一人になることに強い不安を感じたものの、「αのたった一人の番」になりたいと願う蒼汰は、恋人との別れを決意した。
恋人を失った悲しみから、蒼汰はカーテンを閉め切り、自分の殻へと引き籠ってしまう。そんな彼の前に、ある日突然イケメンのαが押しかけてきた。彼の名前は神木怜音(かみきれお)。
蒼汰と怜音は幼い頃に「お互いが二十歳の誕生日を迎えたら番になろう」と約束をしていたのだった。
そんな怜音に溺愛され、少しずつ失恋から立ち直っていく蒼汰。いつからか、優しくて頼りになる怜音に惹かれていくが、引きこもり生活からはなかなか抜け出せないでいて…。
《一時完結》僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ
MITARASI_
BL
彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。
「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。
揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。
不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。
すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。
切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。
続編執筆中
【完結】番になれなくても
加賀ユカリ
BL
アルファに溺愛されるベータの話。
新木貴斗と天橋和樹は中学時代からの友人である。高校生となりアルファである貴斗とベータである和樹は、それぞれ別のクラスになったが、交流は続いていた。
和樹はこれまで貴斗から何度も告白されてきたが、その度に「自分はふさわしくない」と断ってきた。それでも貴斗からのアプローチは止まらなかった。
和樹が自分の気持ちに向き合おうとした時、二人の前に貴斗の運命の番が現れた──
新木貴斗(あらき たかと):アルファ。高校2年
天橋和樹(あまはし かずき):ベータ。高校2年
・オメガバースの独自設定があります
・ビッチング(ベータ→オメガ)はありません
・最終話まで執筆済みです(全12話)
・19時更新
※なろう、カクヨムにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる