月夜の小鳥は哀切な嘘をつく【本編完結。アナザーストーリー連載中★】

山葵トロ

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 首を傾げる二海人に、「嘘だ!」と真祝が口を尖らせる。


 「……嘘、俺に気ぃ使ってんでしょ? 」

 「は? 俺がなんでお前に気を使わなきゃならないんだ? 」 

 「だって! ……二海人は、優しいから 」

 優しいから……と、もう一度言うと、二海人がふっと口唇の片端を持ち上げる様に笑った。


 「優しい……か 」

 「二海人? 」

 「そう思って貰えるなんて、ありがたいね 」

 そう言うと、「よいしょ 」と荷物を持つみたいに、真祝を肩に担ぎ上げた。


 「ちょっ、二海人っ 」

 「お前、ぐだぐだ煩いから、とっとと風呂に連れていくことにする 」

 「ぐだぐだって、うるさいって。なんだよ、それっ 」

 「言葉通り、そのままだが? 」

 しれっとのたまう二海人の背中を、真祝はぽかぽかと叩く。


 「もう、さいてー! お前、最低だー! 俺はお前と違って、ちゃんと気ぃ使ってんだよ! 」

 「分かった、分かった 」

 あやすみたいな物言いが、また気持ちを逆撫でする。しかも、笑うのを堪えているのか、乗っけられている肩が小刻みに揺れているのが分かるから……。


 「適当なこと言うな! もういいから、降ろせって! 」

 「我慢すんな、歩けないくせに 」

 「歩けますよーだ。だから、降ろせって! 着いちゃうだ…… 」「着いたぞ 」


 言葉が重なって、トンと下に降ろされる。けれど、悔しいことに足に力が入らなくて、真祝はペタンと脱衣室の床に座り込んでしまった。


 「ほら、みろ 」

 二海人の腕にしがみ付く手が、ずるりと滑って離れる。

 「まほは、自分のことなのに、自分を1番分かってないからな 」

 「何だよ。じゃあ、二海人は俺のこと全部分かるっていうの? 」


 言い返した真祝に、二海人が何か言いたそうな表情をした。けれど、それは一瞬で消え、代わりにその端正な顔に苦い微笑みを浮かべると、ぷくっと膨らんでいる真祝の頬を軽く摘まんだ。

 「ちょっ……!」

 「ばーか 」

 思わず顔を背けてしまった真祝に、揶揄い混じりの声が聞こえる。反射的に、誤魔化されたのだと感じた。


 「二、海人……ッ 」

 そうはさせまいと名前を呼ぶが、「……これ、使えよ 」と、既に次の行動に移っていた二海人に、棚から取り出したバスタオルを渡される。

 「あ、ありがと 」

 「勝手は知ってるな? 何でも使っていいから 」

 そう言って、そのまま脱衣室を出て行こうとするから、慌てて「行っちゃうの? 」と呼び止めた。「居て欲しいのか? 」と二海人が振り向きながら聞いてくる。

 「うん…… 」

 恥ずかしいけれどそうだと頷けば、「だが、そうもいかないだろう? 」とため息を吐かれた。その言葉に、ギクリとする。


 まさか、知ってる……?

 鼓動が早鐘のように打つ。まだ、まだ知られたくない。


 すると、二海人が「そんな顔するな 」と、中腰になって頭に触れた。

 「まだ飯を食っていないんだ、少しコンビニに行ってくる。まほは、何か欲しいものはあるか? 」

 俯いたまま、ふるふると首を振ったら、「そうか 」と手の温もりが消える。


 「すぐに帰ってくる。無理するなよ 」

 もう、頷くことしか出来ない。





 パタンと扉を閉める音と共に、「……匂いなんか、全くしねぇんだよ 」と苦し気に吐き捨てた二海人の声は、真祝には聞こえてはいなかった。








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