月夜の小鳥は哀切な嘘をつく【本編完結。アナザーストーリー連載中★】

山葵トロ

文字の大きさ
93 / 152
9.

13-20

しおりを挟む








 薄暗がりの中、真祝はベッドから身体を起こした。少し、眠ってしまったらしい。

 日はとっくに暮れ、外の喧騒はもう聞こえない。
 最寄り駅から徒歩圏と言えど、通りを一本入った立地にあるこのアパートは思いのほか静かで、子ども達の遊ぶ声の代わりに、時折、建物の前を通る車の音が聞こえるくらいだ。

 けほ……と、小さな咳が出る。酷く喉が乾いてはいるが身体の辛さは余り無くて、二海人が優しく丁寧に抱いてくれたからかなと思う。

 番以外に触れられることの拒否反応がどんなに激しくても、子を産む性のΩにとって体のナカに放たれた精液の効能は、然程さほど変わらないのかも知れない。 
 実際、抑制剤の効かない発情過多のΩの治療に、受精能力のない精子を用いると聞いたことがある。それでも効かなければ、発情が生命に関わる場合、本物の精子を使うとも。本人の命か、何処の誰か分からない人間の子どもを孕む可能性があることを知っても治療を受けるか。それ程までに、有効なものなのだから。
 本来なら愛を伴う行為の筈なのに、Ωというのはつくづく厄介な性なのだと思う。

 
  「……行くのか? 」

  不意に腕を掴まれて、ドキリとした。けれどその手は、「悪い……」と言う声とともに直ぐに離れる。

 二海人が伸ばした手を持て余している姿が可笑しくて、真祝はくすっと笑った。


 「それ位、大丈夫だよ 」

 「……嘘つけ。ビク付いてたくせに 」 

 「嘘じゃ、ないよ。今のは驚いただけ 」

 そう言って、真祝は躊躇う二海人の手を取った。節が高く少し骨張った、大きくて優しい手。


 「二海人、大好きだよ。ありがとう 」

 「戻るのか? 」

 少しだけ悩んで、「うん 」と真祝は答えた。央翔の元に戻ることを二海人は望んでいるのだから、そう言えばきっと安心する。


 「そうか…… 」

 その時、二海人の表情かおが、淋しそうに見えたのは何故だろう。


 「何かあったら連絡しろよ? 」

 「うん、分かった 」

 「迷惑だなんて思うな。俺は待ってるからな、絶対だぞ? 」


 最後まで、すごく優しい男だ。「分かったよ、分かったってば 」と言いながら、鼻の奥がキンと痛む。

 もう二度と会えなくなるけれど、僕は二海人の幸せを誰よりも祈ってるから。
 神様、願わくば、僕の愛する人の想いが好きな人に届きますように。心から愛してやまない人と結ばれますように。


 「本当にありがとう。俺は、これで自分に正直に生きていける 」

 真祝は淡く微笑みながら、二海人にそう言った。

 
 「まほ、俺は…… 」





しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 8/16番外編出しました!!!!! 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭 3/6 2000❤️ありがとうございます😭 4/29 3000❤️ありがとうございます😭 8/13 4000❤️ありがとうございます😭 12/10 5000❤️ありがとうございます😭 わたし5は好きな数字です💕 お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭

逃げた先に、運命

夢鴉
BL
周囲の過度な期待に耐えられなくなったアルファーー暁月凛(あかつき りん)は、知らない電車に乗り込み、逃避行を計った。 見知らぬ風景。 見知らぬ土地。 見知らぬ海で出会ったのは、宵月蜜希(よいつき みつき)――番持ちの、オメガだった。 「あははは、暁月くんは面白いなぁ」 「ありがとうね、暁月くん」 「生意気だなぁ」 オメガとは思えないほど真っすぐ立つ蜜希。 大人としての余裕を持つ彼に、凛は自分がアルファであることを忘れるほど、穏やかな気持ちで日々を過ごしていく。 しかし、蜜希の初めての発情期を見た凛は、全身を駆け巡る欲に自分がアルファであることを思い出す。 蜜希と自分が”運命の番”だと知った凛は、恋を自覚した瞬間失恋していたことを知る。 「あの人の番は、どんな人なんだろう」 愛された蜜希は、きっと甘くて可愛らしい。 凛は蜜希への秘めた想いを抱えながら、蜜希を支えることを決意する。 しかし、蜜希の番が訳ありだと知った凛は、怒り、震え――同時に、自分がアルファである事を現実は無情にも突き付けて来る。 「凛さん。遊びは終わりです。帰りますよ」 強引に蜜希と引き剥がされる凛。 その凛の姿と、彼の想いを聞いていた蜜希の心は揺れ――。 オメガバースの世界で生きる、運命の二人の逃避行。 ※お気に入り10突破、ありがとうございます!すごく励みになります…!!

【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話

降魔 鬼灯
BL
 ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。  両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。  しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。  コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。  

《一時完結》僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ

MITARASI_
BL
彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。 「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。 揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。 不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。 すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。 切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。 続編執筆中

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

処理中です...