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しおりを挟む薄暗がりの中、真祝はベッドから身体を起こした。少し、眠ってしまったらしい。
日はとっくに暮れ、外の喧騒はもう聞こえない。
最寄り駅から徒歩圏と言えど、通りを一本入った立地にあるこのアパートは思いの外静かで、子ども達の遊ぶ声の代わりに、時折、建物の前を通る車の音が聞こえるくらいだ。
けほ……と、小さな咳が出る。酷く喉が乾いてはいるが身体の辛さは余り無くて、二海人が優しく丁寧に抱いてくれたからかなと思う。
番以外に触れられることの拒否反応がどんなに激しくても、子を産む性のΩにとって体のナカに放たれた精液の効能は、然程変わらないのかも知れない。
実際、抑制剤の効かない発情過多のΩの治療に、受精能力のない精子を用いると聞いたことがある。それでも効かなければ、発情が生命に関わる場合、本物の精子を使うとも。本人の命か、何処の誰か分からない人間の子どもを孕む可能性があることを知っても治療を受けるか。それ程までに、有効なものなのだから。
本来なら愛を伴う行為の筈なのに、Ωというのはつくづく厄介な性なのだと思う。
「……行くのか? 」
不意に腕を掴まれて、ドキリとした。けれどその手は、「悪い……」と言う声とともに直ぐに離れる。
二海人が伸ばした手を持て余している姿が可笑しくて、真祝はくすっと笑った。
「それ位、大丈夫だよ 」
「……嘘つけ。ビク付いてたくせに 」
「嘘じゃ、ないよ。今のは驚いただけ 」
そう言って、真祝は躊躇う二海人の手を取った。節が高く少し骨張った、大きくて優しい手。
「二海人、大好きだよ。ありがとう 」
「戻るのか? 」
少しだけ悩んで、「うん 」と真祝は答えた。央翔の元に戻ることを二海人は望んでいるのだから、そう言えばきっと安心する。
「そうか…… 」
その時、二海人の表情が、淋しそうに見えたのは何故だろう。
「何かあったら連絡しろよ? 」
「うん、分かった 」
「迷惑だなんて思うな。俺は待ってるからな、絶対だぞ? 」
最後まで、すごく優しい男だ。「分かったよ、分かったってば 」と言いながら、鼻の奥がキンと痛む。
もう二度と会えなくなるけれど、僕は二海人の幸せを誰よりも祈ってるから。
神様、願わくば、僕の愛する人の想いが好きな人に届きますように。心から愛してやまない人と結ばれますように。
「本当にありがとう。俺は、これで自分に正直に生きていける 」
真祝は淡く微笑みながら、二海人にそう言った。
「まほ、俺は…… 」
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