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しおりを挟む「そんな…… 」
「考えられないことじゃない。知ってるだろ、アイツは実際、君と番になった後も襲われかけたことがある 」
「で、でも、真祝さんは常に避妊には気を付けていて、いつもピルを服用していました 」
央翔の何気ない言葉に胸の奥が焼け付く。
Ωの発情を収めるのは番であるαの役目だ。分かっている、分かっていて尚、嫉妬に狂いそうになる。央翔は知らない筈なのに、まるで拒絶反応を知っている自分への意趣返しをされているようだと思った。
落ち着け、今はそんなこと考えている時じゃないだろうと、二海人は頭を振る。
「じゃあ、何かの原因でそのピルが効かなかった、あるいは飲めなかったとしたら 」
「もしそうだったら、言ってくれれば良かったんです! 方法はいくらでも 」
「簡単に言ってくれるなよ。婚約者だったお前には、1番言えないことだろうが…… 」
いや、待て。
二海人はその時、もう1つの可能性に気付いた。突然黙ってしまった二海人を、央翔が不思議そうに見る。
「嵐柴さん? 」
飲めなかったのではなく、『飲まなかった』のだとしたら?
「おい、君が真祝と別れたのはいつだ? 」
自分の身体に生命が宿ったと知った時、真祝は切り捨てられなかったのかもしれない。 さっきの推測が答えで、沢山泣いて、迷って決断したことなのかも知れない。
だが今は、ある願望にも似た考えが二海人の頭の中を巡っていた。
「3年前です 」
「3…… 」
時期は合う。もしかしたらと、それこそ憶測でしかないのに期待で感情が震えた。
焦るな。そんな都合のいいことがある訳がないと自分に言い聞かせる。
「3年前の、いつだ? 」
あれは、まだ梅雨の明けきらない、夏というには少し早い時期。断続的な雨が降り続いた後の晴れ間だった。
真祝に会えなくなって、何かの敵のように、ひたすら仕事に打ち込んでいた自分に海外勤務の打診があった頃。
期して図らずも、以前に上司に書くように言われた、当時の部署で扱っていたメタル素材の開発と応用に関する草案が上の目に止まったという。
何かと自分を目に掛けてくれていた上司は、「リーダー補佐としての赴任だそうだ。いきなりの駐在員だぞ。海外研修員を断り続けていたお前も遂に年貢の納め時だな 」と笑いながら背中を強く叩いた。
この上司が事あるごとに上に推してくれていたことは知っていたし、からかわれながらも、この海外赴任が破格の栄転であることは分かっていた。結果を出して戻ってきた暁には、それ相応のポジションが約束されているだろう。もう、海外支社への赴任を断る理由も無い。その場で上司に有り難く受けると即答した。
真祝の隣にいる限りは最上級の男でいなければならないと思っていた自分が、もう必要もないのに失ってから認められるなんて皮肉だと思った。
けれど、βである自分の抜擢は勿論、年齢的にも異例で、それだけ自分の能力が認められたのであると思えば嬉しかったのも本音だ。アイツを好きになって、努力してきたことが無駄ではないと思えた。
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