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5話 協力
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そんな馬鹿な……!
空太は思わず口に出しそうになる。
現れた少女は恨めしそうに空太を睨む。
とりあえずどうにかしなければ。
なぜならこの少女、服を一切着ていないのである。
空太は不格好に刀を構えた。
「やるではないか……余の姿を見られる事、光栄に思うといい!」
「いやどうして全裸なんだよ……ッ!」
ツッコミ所が多すぎて思わず叫んでしまった。
この銀髪お下げロリはただのロリではないのか。
話し方的にはロリババアだぞ!
いや、何を考えているんだ俺は!
今は戦いの最中だろ……!
荒ぶる思考を無理矢理止め刀をロリ、いや、少女に向ける。
「余とて好んで裸体を晒しておるわけではないわ!無いのじゃ服が!服がぁぁぁッ!」
「えぇ……やりずらいな……」
「関係あるかッ!服があろうと無かろうとお主は余の敵に変わりはない、そうじゃろう!」
「話し合いで解決出来るなら、戦いたくないんだけどな」
「戯言を……ッ!」
少女が両手を地面に叩きつける。
パンッと乾いた音と同時に、再び大量の石が浮遊した。
恐らく能力は『石を操作する能力』。
しかし、マニューバーは男性だけのはず。
例外なんて今まで聞いたことも無い。
いや、今までが間違っていたのかもしれない。
この国は、この世界は何か隠してる。
前の常識など当てにならないのではないか。
ならばこの少女は女性ながらマニューバーである特異体質。
容赦して勝てる相手ではなさそうだ。
少女が手を振るった。
同時に無数の石が空太に殺到する。
全方位からの攻撃を逃れることは出来ない。
ならばこの身体、どうなったって構わない。
狙うは操作している人間。
あのロリを……ッ!
空太は石に打たれる覚悟を決めた。
そして右手に握る刀を少女に向けて投擲した。
実際のところ、敵の能力の限界を試したのだが。
能力には当然ながら限界がある。
ジェネレーターなら生成する量に限界が。
マニューバーなら操作する量、操作の幅に限界が。
今のこの少女は恐らく冷静ではない。
だから能力の限界で空太を攻撃してきたと考えられる。
ならこの刀を防ぐことは出来ないだろ……ッ!
これは空太にとって頭をも用いた渾身の一撃。
だが、甘かった。
かなりの速度、それも腕に当たれば腕が吹き飛ぶ様な威力で投げた刀が少女の目の前で動きを停止したのだ。
「『石を操作する能力』じゃない……ッ!」
「フハハ!じゃが良い判断よ。ならば余も石などではなく本気で相手をしてやろう」
「まだ先があるのかよ……ッ!」
「見せてやろうッ!これが余の『空間を操作する能力』ッ!」
「く、空間操作だぁ!?」
空太を打たんとしていた石が地面に落下する。
そして『空間を操作する能力』が発動した。
まず始めに空太を囲うようにして洞窟の床から天井にかけて柱が突き出た。
次に空太に尋常じゃない重力が乗せられる。
全く身動きが取れず、呼吸もままならない。
そこにどこから現れたのか、剣が数本、空太に刃を向けて空中に静止していた。
普通の能力者なら『土を操作する能力』『重力を操作する能力』『剣を操作する能力』の3つ合わさった効果だと感じるだろう。
だが断言出来る。
この能力全て、目の前の少女1人が使用している。
「ぐ……ぅぅぅッ!」
「お主は能力は使わんのか?ここまで見せて舐められたものじゃ。それとも条件を満たしてない、とかか?」
「残念だけど……無能力だから……な……ッ!」
空太の無能力宣言に、少女は声を上げて笑い出した。
今更無能力を笑われても何とも思わないが、空太は目を見開いて驚いた。
空太を囲う牢獄の様な土柱、押し潰す重力、刺し殺さんとする剣が全て消失したからだ。
空太は不思議に思いながらゆっくりと立ち上がった。
更に少女は空太に刀を返した。
少女の顔は満足そうだ。
「何のつもりだよ」
「フハハ、気まぐれよ。余はお主が気に入った!名乗れ」
「は……?白河空太だけど……」
「そうか空太か。余の名はメア。メア様と呼ぶがよい。そら、ついてこい」
メアと名乗った銀髪お下げロリは手招きして奥へ歩いて行く。
空太は呆然とそれを見つめた。
こいつはいったい何を考えてやがる……
俺では土俵にも立てていないって言いたいのか……?
一気に頭に血が上る。
すぐ目の前に落ちていた雷切を拾い上げた。
今は完全に無防備。
空太の速度なら殺れる。
いや、だが、しかし……!
メアを殺す必要は無……ッ!?
ゾッとした。
背筋が凍る様な殺気。
前方のメアから触れただけで死を予感する殺気が放たれた。
空太は殺気に慣れていない。
当然だ。
普通の人間が本当の殺気を浴びることなんて無い。
だから空太も、あまりの恐怖にその場に膝を着いた。
「滅多な事をするな。お主は余に勝てん」
「あ……ぁぁ……」
無理だ……こいつには勝てない……本能がそう言ってる……決して挑んではいけない、と……
空太はメアに黙ってついていくことにした。
いや、ついていくことことしか出来なかった。
ランプが点々と灯る洞窟の道が永遠に続くように感じる。
裸足のメアのぺたぺたという足音と空太の雷鬼譲りの下駄のカツカツという足音がやけに大きく聞こえる。
呼吸すら聞こえてきそうな静寂。
空太の緊張はピークに達していた。
この少女、見かけとは裏腹にくぐってきた修羅場の数が違う。
しばらく歩くとメアが足を止め、右側の大扉を指さした。
メアはその扉をゆっくりと開き、中へ入っていく。
「とりあえず入れ、ほれ」
「あ、あぁ……」
「取って食ったりはせん。そこに座るといい」
扉の先には清潔感のある部屋が広がっていた。
先程までの洞窟とは別世界の様だ。
空太はメアが指さした長椅子に腰を下ろす。
メアは親切にも紅茶を入れて空太に出した。
いったい何を考えているんだ……
メアは空太の考えを読んだのか、自らも空太の正面の長椅子に腰を下ろして足を組んだ。
「お主に相談がある」
「俺に?」
「うむ。余と共にある者を倒して欲しいのじゃ。拒否権はないがな」
「だろうと思ったよ。で、ある者って?」
「やけにすんなり受け入れるんじゃな。良いじゃろう、話そう」
メアはそう言うと、紅茶を飲んで立ち上がった。
その青い瞳と表情は空太と敵対した時より遥かに真剣だ。
空太が2つ返事で話を聞いたのは、明らかな実力差、断れば間違いなく殺されるという恐怖があったからである。
突然、メアの右腕に赤いラインが浮かび上がった。
これは操作能力が発動する証。
空太は咄嗟に腰の刀の柄に手を伸ばす。
が、それより早くメアの左手が空太に向かって伸ばされた。
待て、何もするな。という意味だったのか、メアの能力の対象は本棚の一角にある1冊の本だった。
空太は少し怯えながら、刀から手を遠ざける。
メアはその本を手に取り、黙読しながら話を続けた。
「そう警戒するでない。今後余は相当の事が無い限りお主に手は出さん。敵意を向けるのであれば即殺すがな」
「わ、分かった。少し驚いただけだ。話を続けてくれ」
「悪くない反応じゃ。
では、どこから話そうか……まず余がこんな 洞窟の奥にいる理由を説明するとしよう。
余はかつて一国の王であった。
かなりの領土と戦力を持っておったが、ある敵国のたった1人の人間に全てを奪われた。
要するに、滅ぼされたのじゃ。
恐ろしかったよ、目の前で築き上げてきた物を壊されるという事は……余は数人の護衛と共に国を脱出、アルタイル共和国に辿り着いた。
既に体力は限界、食料も底をついていた。
護衛達はこの洞窟に魔物がいるという噂に目をつけ、食料を探して探索に出た。
食料を分け与えて貰えば良かっただと?
馬鹿を言うでない、余所者に食料を分け与えられるほどこの付近は富んでおらぬ。
結果、数日経っても護衛達は帰ってこなかった。
余は1人この洞窟に潜り込み見つけたのじゃ、魔物に食い殺された護衛達を。
震えたよ……この先1人で生きていかなければならないと思うとな。
じゃが、余は諦めなかった。
必ず国を滅ぼしたヤツに復讐するためにな。
それからずっと……ずっとこの洞窟で力を溜め込んでおるのじゃ。
今ではこの洞窟の8割を攻略したんじゃが、まだヤツには届きそうにない……」
空太はあまりの壮絶さに言葉を挟む余裕すらなかった。
途中、考えていた事が読まれたが。
おそらくメアのいうずっとは数ヶ月などというものでは無い。
何年、何十年だ。
それこそ、文明を再現する程に。
メアの目的は復讐。
メアの祖国を滅ぼした、たった1人の人間に。
話し終えたメアは視線を本から空太に移した。
その瞳に、先程までの押し潰さんとする圧は存在しなかった。
そしてメアは深々と頭を下げる。
懇願するように。
「ヤツの能力は『秩序を生み出す能力』。ヤツと目を合わせた者は、ヤツの生み出したルールに永遠に縛り付けられる恐ろしい力じゃ。既にヤツは余の手の届かない域に達しておる。そこでお主に頼みがある。余と協力してヤツを討ってほしい。先程拒否権は無いと言ったが、取り消そう。自分勝手である事は自覚しておる。じゃが余は……余は……殺された愛する民達の仇を……無念を晴らしたいのじゃ……!」
「どうして俺なんだ……どうして無能を頼る……ッ!」
「お主の目指す所と一致するからじゃ。ヤツはこの世界を影で操る者、お主の求める平和に立ちはだかる1番の敵だからじゃ」
「ッ!どうして俺の目的を……!」
「何となくじゃよ……お主は余と似た目をしておったからの……」
空太の脳内は混乱していた。
空太の目的は世界を平和にする事。
その障害となりうる者がメアの指すヤツならば、共闘した方が手っ取り早いだろう。
だが信用出来るのか?
そこが1番の問題であった。
まだ頭を上げないメアを見ると、その頬に涙が一筋流れていた。
信じる信じないじゃない。
目の前の少女は困っている。
力を持っているが、中身は幼い子供の様に感じてしまう。
困っている人を助けるのがヒーローだろう。
空太は立ち上がり、顔を上げるように促した。
涙を拭いながら顔を上げたメアはひどい顔をしていた。
そんなメアに空太は言葉を詰まらせながらも言い放った。
「俺は……協力する。俺の目的の為に。お前は復讐の為に。俺はこの世界を平和にするために。お前の言葉を……信用した訳じゃない。お前と方針が違えば、俺は別の道を進む。それでいいなら」
「随分と偉そうじゃないか……ますます気に入ったぞ。これからお主と余は仲間じゃ。メアと呼ぶ事を許そう。余はお主を空太と呼ぶ」
「あぁ。しばらくよろしく頼むよ、メア」
ここに空太とメアの協力関係が成立した。
目的はメアの言うヤツを殺し、平和な世界を作ること。
この関係が今後世界を狂わせていくとは知らずに。
----------------------------------------------------------
空太の所持していた予備の着物と交換する事を条件に、空いていた部屋を1つ提供した。
空太をそこへ案内し、貰った着物を纏いながらメアは呟いた。
「空太……か……恐ろしい男よ。余の『呪い』の影響を受けぬとは……存分に利用させてもらうぞ……クハハハハッ!」
メアの高笑いは空太の耳に入ることは無かったが、洞窟内に響き渡ったのだった。
空太は思わず口に出しそうになる。
現れた少女は恨めしそうに空太を睨む。
とりあえずどうにかしなければ。
なぜならこの少女、服を一切着ていないのである。
空太は不格好に刀を構えた。
「やるではないか……余の姿を見られる事、光栄に思うといい!」
「いやどうして全裸なんだよ……ッ!」
ツッコミ所が多すぎて思わず叫んでしまった。
この銀髪お下げロリはただのロリではないのか。
話し方的にはロリババアだぞ!
いや、何を考えているんだ俺は!
今は戦いの最中だろ……!
荒ぶる思考を無理矢理止め刀をロリ、いや、少女に向ける。
「余とて好んで裸体を晒しておるわけではないわ!無いのじゃ服が!服がぁぁぁッ!」
「えぇ……やりずらいな……」
「関係あるかッ!服があろうと無かろうとお主は余の敵に変わりはない、そうじゃろう!」
「話し合いで解決出来るなら、戦いたくないんだけどな」
「戯言を……ッ!」
少女が両手を地面に叩きつける。
パンッと乾いた音と同時に、再び大量の石が浮遊した。
恐らく能力は『石を操作する能力』。
しかし、マニューバーは男性だけのはず。
例外なんて今まで聞いたことも無い。
いや、今までが間違っていたのかもしれない。
この国は、この世界は何か隠してる。
前の常識など当てにならないのではないか。
ならばこの少女は女性ながらマニューバーである特異体質。
容赦して勝てる相手ではなさそうだ。
少女が手を振るった。
同時に無数の石が空太に殺到する。
全方位からの攻撃を逃れることは出来ない。
ならばこの身体、どうなったって構わない。
狙うは操作している人間。
あのロリを……ッ!
空太は石に打たれる覚悟を決めた。
そして右手に握る刀を少女に向けて投擲した。
実際のところ、敵の能力の限界を試したのだが。
能力には当然ながら限界がある。
ジェネレーターなら生成する量に限界が。
マニューバーなら操作する量、操作の幅に限界が。
今のこの少女は恐らく冷静ではない。
だから能力の限界で空太を攻撃してきたと考えられる。
ならこの刀を防ぐことは出来ないだろ……ッ!
これは空太にとって頭をも用いた渾身の一撃。
だが、甘かった。
かなりの速度、それも腕に当たれば腕が吹き飛ぶ様な威力で投げた刀が少女の目の前で動きを停止したのだ。
「『石を操作する能力』じゃない……ッ!」
「フハハ!じゃが良い判断よ。ならば余も石などではなく本気で相手をしてやろう」
「まだ先があるのかよ……ッ!」
「見せてやろうッ!これが余の『空間を操作する能力』ッ!」
「く、空間操作だぁ!?」
空太を打たんとしていた石が地面に落下する。
そして『空間を操作する能力』が発動した。
まず始めに空太を囲うようにして洞窟の床から天井にかけて柱が突き出た。
次に空太に尋常じゃない重力が乗せられる。
全く身動きが取れず、呼吸もままならない。
そこにどこから現れたのか、剣が数本、空太に刃を向けて空中に静止していた。
普通の能力者なら『土を操作する能力』『重力を操作する能力』『剣を操作する能力』の3つ合わさった効果だと感じるだろう。
だが断言出来る。
この能力全て、目の前の少女1人が使用している。
「ぐ……ぅぅぅッ!」
「お主は能力は使わんのか?ここまで見せて舐められたものじゃ。それとも条件を満たしてない、とかか?」
「残念だけど……無能力だから……な……ッ!」
空太の無能力宣言に、少女は声を上げて笑い出した。
今更無能力を笑われても何とも思わないが、空太は目を見開いて驚いた。
空太を囲う牢獄の様な土柱、押し潰す重力、刺し殺さんとする剣が全て消失したからだ。
空太は不思議に思いながらゆっくりと立ち上がった。
更に少女は空太に刀を返した。
少女の顔は満足そうだ。
「何のつもりだよ」
「フハハ、気まぐれよ。余はお主が気に入った!名乗れ」
「は……?白河空太だけど……」
「そうか空太か。余の名はメア。メア様と呼ぶがよい。そら、ついてこい」
メアと名乗った銀髪お下げロリは手招きして奥へ歩いて行く。
空太は呆然とそれを見つめた。
こいつはいったい何を考えてやがる……
俺では土俵にも立てていないって言いたいのか……?
一気に頭に血が上る。
すぐ目の前に落ちていた雷切を拾い上げた。
今は完全に無防備。
空太の速度なら殺れる。
いや、だが、しかし……!
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ゾッとした。
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前方のメアから触れただけで死を予感する殺気が放たれた。
空太は殺気に慣れていない。
当然だ。
普通の人間が本当の殺気を浴びることなんて無い。
だから空太も、あまりの恐怖にその場に膝を着いた。
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「あ……ぁぁ……」
無理だ……こいつには勝てない……本能がそう言ってる……決して挑んではいけない、と……
空太はメアに黙ってついていくことにした。
いや、ついていくことことしか出来なかった。
ランプが点々と灯る洞窟の道が永遠に続くように感じる。
裸足のメアのぺたぺたという足音と空太の雷鬼譲りの下駄のカツカツという足音がやけに大きく聞こえる。
呼吸すら聞こえてきそうな静寂。
空太の緊張はピークに達していた。
この少女、見かけとは裏腹にくぐってきた修羅場の数が違う。
しばらく歩くとメアが足を止め、右側の大扉を指さした。
メアはその扉をゆっくりと開き、中へ入っていく。
「とりあえず入れ、ほれ」
「あ、あぁ……」
「取って食ったりはせん。そこに座るといい」
扉の先には清潔感のある部屋が広がっていた。
先程までの洞窟とは別世界の様だ。
空太はメアが指さした長椅子に腰を下ろす。
メアは親切にも紅茶を入れて空太に出した。
いったい何を考えているんだ……
メアは空太の考えを読んだのか、自らも空太の正面の長椅子に腰を下ろして足を組んだ。
「お主に相談がある」
「俺に?」
「うむ。余と共にある者を倒して欲しいのじゃ。拒否権はないがな」
「だろうと思ったよ。で、ある者って?」
「やけにすんなり受け入れるんじゃな。良いじゃろう、話そう」
メアはそう言うと、紅茶を飲んで立ち上がった。
その青い瞳と表情は空太と敵対した時より遥かに真剣だ。
空太が2つ返事で話を聞いたのは、明らかな実力差、断れば間違いなく殺されるという恐怖があったからである。
突然、メアの右腕に赤いラインが浮かび上がった。
これは操作能力が発動する証。
空太は咄嗟に腰の刀の柄に手を伸ばす。
が、それより早くメアの左手が空太に向かって伸ばされた。
待て、何もするな。という意味だったのか、メアの能力の対象は本棚の一角にある1冊の本だった。
空太は少し怯えながら、刀から手を遠ざける。
メアはその本を手に取り、黙読しながら話を続けた。
「そう警戒するでない。今後余は相当の事が無い限りお主に手は出さん。敵意を向けるのであれば即殺すがな」
「わ、分かった。少し驚いただけだ。話を続けてくれ」
「悪くない反応じゃ。
では、どこから話そうか……まず余がこんな 洞窟の奥にいる理由を説明するとしよう。
余はかつて一国の王であった。
かなりの領土と戦力を持っておったが、ある敵国のたった1人の人間に全てを奪われた。
要するに、滅ぼされたのじゃ。
恐ろしかったよ、目の前で築き上げてきた物を壊されるという事は……余は数人の護衛と共に国を脱出、アルタイル共和国に辿り着いた。
既に体力は限界、食料も底をついていた。
護衛達はこの洞窟に魔物がいるという噂に目をつけ、食料を探して探索に出た。
食料を分け与えて貰えば良かっただと?
馬鹿を言うでない、余所者に食料を分け与えられるほどこの付近は富んでおらぬ。
結果、数日経っても護衛達は帰ってこなかった。
余は1人この洞窟に潜り込み見つけたのじゃ、魔物に食い殺された護衛達を。
震えたよ……この先1人で生きていかなければならないと思うとな。
じゃが、余は諦めなかった。
必ず国を滅ぼしたヤツに復讐するためにな。
それからずっと……ずっとこの洞窟で力を溜め込んでおるのじゃ。
今ではこの洞窟の8割を攻略したんじゃが、まだヤツには届きそうにない……」
空太はあまりの壮絶さに言葉を挟む余裕すらなかった。
途中、考えていた事が読まれたが。
おそらくメアのいうずっとは数ヶ月などというものでは無い。
何年、何十年だ。
それこそ、文明を再現する程に。
メアの目的は復讐。
メアの祖国を滅ぼした、たった1人の人間に。
話し終えたメアは視線を本から空太に移した。
その瞳に、先程までの押し潰さんとする圧は存在しなかった。
そしてメアは深々と頭を下げる。
懇願するように。
「ヤツの能力は『秩序を生み出す能力』。ヤツと目を合わせた者は、ヤツの生み出したルールに永遠に縛り付けられる恐ろしい力じゃ。既にヤツは余の手の届かない域に達しておる。そこでお主に頼みがある。余と協力してヤツを討ってほしい。先程拒否権は無いと言ったが、取り消そう。自分勝手である事は自覚しておる。じゃが余は……余は……殺された愛する民達の仇を……無念を晴らしたいのじゃ……!」
「どうして俺なんだ……どうして無能を頼る……ッ!」
「お主の目指す所と一致するからじゃ。ヤツはこの世界を影で操る者、お主の求める平和に立ちはだかる1番の敵だからじゃ」
「ッ!どうして俺の目的を……!」
「何となくじゃよ……お主は余と似た目をしておったからの……」
空太の脳内は混乱していた。
空太の目的は世界を平和にする事。
その障害となりうる者がメアの指すヤツならば、共闘した方が手っ取り早いだろう。
だが信用出来るのか?
そこが1番の問題であった。
まだ頭を上げないメアを見ると、その頬に涙が一筋流れていた。
信じる信じないじゃない。
目の前の少女は困っている。
力を持っているが、中身は幼い子供の様に感じてしまう。
困っている人を助けるのがヒーローだろう。
空太は立ち上がり、顔を上げるように促した。
涙を拭いながら顔を上げたメアはひどい顔をしていた。
そんなメアに空太は言葉を詰まらせながらも言い放った。
「俺は……協力する。俺の目的の為に。お前は復讐の為に。俺はこの世界を平和にするために。お前の言葉を……信用した訳じゃない。お前と方針が違えば、俺は別の道を進む。それでいいなら」
「随分と偉そうじゃないか……ますます気に入ったぞ。これからお主と余は仲間じゃ。メアと呼ぶ事を許そう。余はお主を空太と呼ぶ」
「あぁ。しばらくよろしく頼むよ、メア」
ここに空太とメアの協力関係が成立した。
目的はメアの言うヤツを殺し、平和な世界を作ること。
この関係が今後世界を狂わせていくとは知らずに。
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空太の所持していた予備の着物と交換する事を条件に、空いていた部屋を1つ提供した。
空太をそこへ案内し、貰った着物を纏いながらメアは呟いた。
「空太……か……恐ろしい男よ。余の『呪い』の影響を受けぬとは……存分に利用させてもらうぞ……クハハハハッ!」
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身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
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つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
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・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
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※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
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