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4話 アルタイルの守護者
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深緑色の長髪が風でたなびく。
やはり何度見ても耐えられるものでは無い。
燃える街とけたたましい悲鳴の数々。
天音の所属するガーディアンは今日も異形の出現した現場にいた。
所属してからもう3ヶ月になる。
赴いた現場は5つ。
どこも地獄だった。
見渡す限りの炎と異形に食い殺された無残な死体。
ふと、思い返している内に全ての異形を討伐し終えたらしい。
同じ支援班に所属する薬袋治夜が天音の袖を引っ張った。
「あのね天音ちゃん、終わったよ?」
「ち、治夜さん!ごめんなさい、考え事してました……」
「よしよし!大丈夫だよ!天音ちゃんには治夜がいるからね!」
信じられるだろうか。
天音の頭を背伸びして撫でるこの少女が成人済みだと。
大人なのだと。
天音は治夜の手を握ってガーディアン専用の小型飛行機に乗り込んだ。
この小型飛行機はガーディアンの移動手段の1つであり、速度はかなりのもの。
他にも車や船、潜水艦などもあるらしいが、ここしばらく小型飛行機ばかりなのだそうだ。
小型飛行機には既に他のガーディアン達が搭乗しており、顔に疲労の色を浮かべていた。
国内最強戦力と言えども彼らも人の子。
無限に戦える兵器ではないということだ。
ましてやほとんどが能力使用に体力を必要とするマニューバーで構成されているのだからこうなってしまうのも仕方が無い。
だが、底無しの体力を持つ例外も存在する。
実はリーダーではなくサブリーダーであった市ヶ谷衛。
「白川君に治夜!やっと帰ってきたね!」
「お、お待たせしました市ヶ谷さん」
「ただいまー!」
1番働いていた衛が1番元気なのは彼の凄さだろう。
本当のリーダーが不在である今のガーディアンは彼の元気さで支えられている。
ちなみに衛は御歳25歳の若手である。
それでもサブリーダーに抜擢されたのはその元気さと戦闘センスだとか。
天音と治夜が壁に取り付けられている椅子に座ると、衛は更に詰め寄ってきた。
「そうだ白川君!知ってるかな?我々《アルタイル共和国》の最強戦力の事を!」
「ガーディアンでは無いのですか……?」
「半分正解で半分間違いだ!その人はガーディアンに所属しているからね!」
「は、はぁ……」
いつもこの調子だ。
帰りは脈絡の無い話をしてくれる。
噂によれば、メンバー全員にしているらしい。
衛は心が病んでも不思議ではないこの遠征に出向くメンバーのメンタルを少しでも癒そうてしているのだが、気付いているのは数人程度。
実際に衛が居なければガーディアンは瓦解しているだろう。
で、今回の話は天音達の住むアルタイル共和国内の最強戦力について。
天音はガーディアンの事だと思い込んでいたのだが、実はそうではない。
もちろん最強は雷鬼の事である。
彼はガーディアンに所属し、リーダーであるのだが、ほとんど顔を出さない。
縛られるのが嫌いな雷鬼らしいと言える。
「『能力等級』は知ってるよね?能力の成長を等級化したものだよ」
「は、はい。ガーディアンに加入してから知りました。確か私はグレード8でした」
「凄いね……俺はグレード9。ガーディアンの平均はグレード7だね。アルタイル最強戦力はグレード12。圧倒的だよ」
グレード12……!?
本当に圧倒的だ。
一体どれほどの実力なのだろうか。
機会があれば是非見たいと思う。
天音が平均よりグレードが高いのは昔からの練習の賜物である。
グレードを審査してくれるのは国の専門機関。
血液からグレードを判定する機械があるらしい。
基本的にはガーディアンと1部傭兵しか使用しないのだが。
「で、その最強戦力がガーディアンに帰ってくるんだよ!」
「なるほど……それでこの話を」
「そういうこと!」
その最強戦力がもしあの場に来ていたら……兄は助かったのだろうか。
天音の頭にくだらない考えが過ぎる。
いや、まだ諦めてはいけない。
たった3ヶ月。
探し始めたばかりなのだから。
衛は天音と話し終えた後も他のメンバーと会話して回っていた。
治夜は疲労が溜まっていたのか爆睡し、天音もそれにつられてウトウトしている。
そんな時、劈くようなアラームの音が機内に響き渡った。
ガーディアンに入ってから聞き慣れてしまった音だ。
衛がコックピットへ向かう。
操縦者の隣には情報を請け負う役目の女性が座っていた。
「どうした!」
「アルタイル北東部の集落付近にて異形確認!数は……1000!?過去最大規模です!」
「1000……とりあえず急行してくれ。クソッ!まだ疲れが取れてないメンバーも多いのにッ!」
衛達が戦ってきた異形は1度の襲撃で多くても100体程度だった。
その10倍となるといよいよ分からない。
ガーディアンの中から犠牲が出る可能性も考えなけらばならない。
衛は急いで部隊を編成した。
疲労の蓄積が多い者と少ない者とで分けることにより、被害を最小限に抑える。
他のガーディアン達も動かない身体を鞭打って準備に取り掛かった。
運が良いのか悪いのか、目的地はすぐそこだ。
到着には10分もかからなかった。
全員、上空10000メートルを飛行する小型飛行機から飛び降りる。
誰もパラシュートは装着していなかった。
だが、全員の表情に恐怖は無い。
今のガーディアンには風のスペシャリスト、天音がいるのだから。
最後に飛び降りた天音は瞬時に風を生成。
散り散りにならない様に考え抜いた方向への送風により、塊になって地上へ落ちる。
着地の瞬間、下から上へ強烈な風を生み出す。
それにより、着地の衝撃を最低限に抑えたのだ。
既に辺りは火の海。
衛が1歩前に出て高らかに叫んだ。
「我々は国家戦力ガーディアンですッ!異形は我々が請け負いますので皆様は指示通り避難してくださいッ!」
そして状況は動き始めた。
天音と治夜は集落に向かい、怪我人の処置と避難誘導。
衛と攻撃的な能力を持ったガーディアン達は空を覆い尽くす異形へ立ち向かっていく。
天音は集落を覆う炎を風で吹き飛ばしながら先へ先へと進んだ。
空太を探す為に行っているのだが、今回ばかりは運が悪かった。
1人で進む天音の目の前に見たことの無い異形が村人を捕食していた。
「何……こいつ……?」
「グルルル……」
四足歩行のゴリラのような見た目。
だが、猿の様な頭部と鋭利な牙、他の異形と同じ先端に針のついた尻尾がその雰囲気を壊していた。
サイズは3メートル程。
周りに助けを呼べる様な人はいない。
勝てるか……1人で……
不思議と覚悟は決まった。
或いはガーディアンに入った時から決まっていたのかもしれない。
天音は左腰に装着されたホルスターから銀色に輝く拳銃を抜き取って構えた。
天音専用武器サイクロン。
これは前の様にイメージして撃つのでは効率が悪いと考えたガーディアン専属の武器職人が製作した天音に最適化された武器である。
放つ風をこの拳銃に送り込む事で、拳銃内で最適化、弾丸のような風を放つことが出来るのだ。
「覚悟して……ッ!」
異形の頭部に狙いを定めて引き金を引く。
空気の破裂する様な本物の銃さながらの爆音と共に強烈な風の弾丸が放たれた。
速度は銃弾にも劣らない。
しかし、異形は元々軌道が見えていたかのように簡単に回避した。
もう1度放つが、これも回避される。
流石の天音も唇を噛んだ。
これ以上無駄に空間魔力を消費する訳にはいかない。
治夜の能力『薬を生み出す能力』には魔力が必要だ。
怪我人が多いであろう今回は大量の魔力が必要になるだろう。
だから、最小限の攻撃でこいつを倒さねばならない。
天音はこれまでほとんど操作していると言っても過言ではない技術で戦ってきた。
もちろん操作は出来ない。
可能なのは出来る限りの知識を用いて生み出すことのみ。
長期戦には出来ない。
ならば次の一撃でトドメを刺す。
「出来るかどうかじゃない……やるんだッ!」
再び銃口を異形に向ける。
異形は余裕そうな雰囲気を醸し出しながら天音の方へ1歩、また1歩と近づいている。
殺しを楽しんでいるのか。
だが天音も甘んじて殺される人間ではない。
ギリギリまで引き付ける。
近くで見れば見るほど恐ろしい見た目だ。
でも今は屈しない。
戦え……ッ!
「はぁぁぁッ!」
「グルルァァァッ!!」
異形が勢いよく突撃してくる。
天音の予想通りの動きだ。
問題はここから。
どういう訳か天音の攻撃を回避し続ける異形。
天音の出した答えはとても簡単なものだった。
回避されるのなら回避させなければいい……ッ!
天音の右腕に青いラインが現れた。
同時に左腕にもラインが現れる。
これから行う事は天音自身初めての試みだ。
だが成功させなければならない。
勝つために。
先に発動したのは左腕の能力。
異形に全方位から強烈な風を叩きつける。
力が強い異形に対抗する為、風力は天音の限界まで高めてある。
これにより、異形は身動きが取れなくなる。
そこに右腕の能力が発動。
生成された風はサイクロンに送り込まれ濃縮される。
そしてトリガーを引く。
他の生物にも言えることだが、大抵の異形は頭部を吹き飛ばせば絶命する。
ならば狙いは頭部。
一撃で仕留めるにはこれしかない。
トリガーを引いてからほぼタイムラグ無しで風の弾丸は放たれた。
しかし……
「きゃっ!」
威力を最大まで引き出したサイクロンは、発砲と同時に銃身を勢いよく跳ね上げた。
その勢いのまま天音はその場に尻もちをつく。
そして放たれた弾丸は異形の頭部に当たることなく、遥か上空へと消えた。
失敗した。
そこまで頭が及んでいなかった。
見上げた異形の顔が喜びで歪む。
私……ここで死ぬんだ……
呆気ない、実に呆気ない。
空間魔力を無駄にし、敵の1体も倒せない。
やっぱり兄さんみたいにはなれないんだ……
3か月前と何も変わってはいない。
目の前の敵を、成さねばならない事にも手が届かないだなんて……
あまりにも無能ではないか。
天音の頬を涙が伝う。
ふと、視界の先に人影が見えた。
それも幼い子供の。
「逃げて……ッ!」
たまらず叫ぶ。
しかし、ここから逃げることなど出来ない。
そんなこと、自分が一番よく分かっているではないか。
目の前の異形を倒さない限り、逃げられないことくらい。
ならどうする……自らの命を犠牲にして時間を稼ぐか?
その場しのぎにしかならないだろう。
いったいどうすれば……!
異形は天音から狙いを変えて子供の方へ歩いていく。
その時、視界にいた子供が天音に手を伸ばした。
「お姉ちゃん……助けて……!」
「ッ!!」
違うだろ天音……!
何がなんでもこの子供を救うのが最優先だろ……!
身体は勝手に動いていた。
護身用に後ろ腰に装備していたナイフを抜き取る。
自分の後ろに風を生成し、飛び起きる。
もう1度。
再び生成された風に押され、海老反りになりながらも異形へと突進する。
ナイフを両手で逆手に持つ。
「やぁぁぁッ!」
3度目。
生成された風によって、勢いよくナイフを振り下ろす。
ナイフは子供の方から振り向いた異形の頭部を完全に捉えた。
生暖かい鮮血が天音に降り掛かる。
倒したのだ、異形を。
天音はそのまま子供のところへ行き、強く抱き締めた。
子供は一瞬困惑したような表情を浮かべたが、すぐに笑顔になって抱き返してくれた。
「良かった……無事で……」
「へへっ、お姉ちゃんのおかげだよ!かっこよかった!ありがとう!」
「本当に……良か……った……」
「お姉ちゃん?お姉ちゃん大丈夫?」
能力の酷使。
ジェネレーターもマニューバーも例外無く、不慣れな能力の使用は身体を壊す原因となる。
天音はこれまで複数の風を同時に生み出すことはしてこなかった。
それが原因で気を失ってしまったのだ。
子供が力無く倒れた天音を揺するが、目を覚ますことは無い。
他のガーディアンは未だ来ない。
天音と子供は完全に孤立していた。
そこを異形達は見逃さなかった。
「ひっ!お姉ちゃん!お姉ちゃんッ!」
上空に数十匹の異形。
天音達を囲うようにしてホバリングしている。
この場にいる戦力は0。
異形のエサに他ならない状況だ。
再び子供の目に涙が浮かぶ。
しかし、天音達の運は尽きていなかった。
囲んでいた異形達が一瞬にして塵と化す。
そして刀を肩に当てながら、現れた男は呟いた。
「やっぱ手応えねぇわ……空太の方が強ぇな」
「おじさん……凄い……!」
「あァ?ガキかよ!あと嬢ちゃんもいんのか。とりあえず嬢ちゃん連れて逃げろガキ、ここはオレ1人で片付ける」
「う、うん!僕頑張るよ!」
アルタイル最強のグレード12。
雷鬼はそう言い残すとその場から掻き消えた。
やはり何度見ても耐えられるものでは無い。
燃える街とけたたましい悲鳴の数々。
天音の所属するガーディアンは今日も異形の出現した現場にいた。
所属してからもう3ヶ月になる。
赴いた現場は5つ。
どこも地獄だった。
見渡す限りの炎と異形に食い殺された無残な死体。
ふと、思い返している内に全ての異形を討伐し終えたらしい。
同じ支援班に所属する薬袋治夜が天音の袖を引っ張った。
「あのね天音ちゃん、終わったよ?」
「ち、治夜さん!ごめんなさい、考え事してました……」
「よしよし!大丈夫だよ!天音ちゃんには治夜がいるからね!」
信じられるだろうか。
天音の頭を背伸びして撫でるこの少女が成人済みだと。
大人なのだと。
天音は治夜の手を握ってガーディアン専用の小型飛行機に乗り込んだ。
この小型飛行機はガーディアンの移動手段の1つであり、速度はかなりのもの。
他にも車や船、潜水艦などもあるらしいが、ここしばらく小型飛行機ばかりなのだそうだ。
小型飛行機には既に他のガーディアン達が搭乗しており、顔に疲労の色を浮かべていた。
国内最強戦力と言えども彼らも人の子。
無限に戦える兵器ではないということだ。
ましてやほとんどが能力使用に体力を必要とするマニューバーで構成されているのだからこうなってしまうのも仕方が無い。
だが、底無しの体力を持つ例外も存在する。
実はリーダーではなくサブリーダーであった市ヶ谷衛。
「白川君に治夜!やっと帰ってきたね!」
「お、お待たせしました市ヶ谷さん」
「ただいまー!」
1番働いていた衛が1番元気なのは彼の凄さだろう。
本当のリーダーが不在である今のガーディアンは彼の元気さで支えられている。
ちなみに衛は御歳25歳の若手である。
それでもサブリーダーに抜擢されたのはその元気さと戦闘センスだとか。
天音と治夜が壁に取り付けられている椅子に座ると、衛は更に詰め寄ってきた。
「そうだ白川君!知ってるかな?我々《アルタイル共和国》の最強戦力の事を!」
「ガーディアンでは無いのですか……?」
「半分正解で半分間違いだ!その人はガーディアンに所属しているからね!」
「は、はぁ……」
いつもこの調子だ。
帰りは脈絡の無い話をしてくれる。
噂によれば、メンバー全員にしているらしい。
衛は心が病んでも不思議ではないこの遠征に出向くメンバーのメンタルを少しでも癒そうてしているのだが、気付いているのは数人程度。
実際に衛が居なければガーディアンは瓦解しているだろう。
で、今回の話は天音達の住むアルタイル共和国内の最強戦力について。
天音はガーディアンの事だと思い込んでいたのだが、実はそうではない。
もちろん最強は雷鬼の事である。
彼はガーディアンに所属し、リーダーであるのだが、ほとんど顔を出さない。
縛られるのが嫌いな雷鬼らしいと言える。
「『能力等級』は知ってるよね?能力の成長を等級化したものだよ」
「は、はい。ガーディアンに加入してから知りました。確か私はグレード8でした」
「凄いね……俺はグレード9。ガーディアンの平均はグレード7だね。アルタイル最強戦力はグレード12。圧倒的だよ」
グレード12……!?
本当に圧倒的だ。
一体どれほどの実力なのだろうか。
機会があれば是非見たいと思う。
天音が平均よりグレードが高いのは昔からの練習の賜物である。
グレードを審査してくれるのは国の専門機関。
血液からグレードを判定する機械があるらしい。
基本的にはガーディアンと1部傭兵しか使用しないのだが。
「で、その最強戦力がガーディアンに帰ってくるんだよ!」
「なるほど……それでこの話を」
「そういうこと!」
その最強戦力がもしあの場に来ていたら……兄は助かったのだろうか。
天音の頭にくだらない考えが過ぎる。
いや、まだ諦めてはいけない。
たった3ヶ月。
探し始めたばかりなのだから。
衛は天音と話し終えた後も他のメンバーと会話して回っていた。
治夜は疲労が溜まっていたのか爆睡し、天音もそれにつられてウトウトしている。
そんな時、劈くようなアラームの音が機内に響き渡った。
ガーディアンに入ってから聞き慣れてしまった音だ。
衛がコックピットへ向かう。
操縦者の隣には情報を請け負う役目の女性が座っていた。
「どうした!」
「アルタイル北東部の集落付近にて異形確認!数は……1000!?過去最大規模です!」
「1000……とりあえず急行してくれ。クソッ!まだ疲れが取れてないメンバーも多いのにッ!」
衛達が戦ってきた異形は1度の襲撃で多くても100体程度だった。
その10倍となるといよいよ分からない。
ガーディアンの中から犠牲が出る可能性も考えなけらばならない。
衛は急いで部隊を編成した。
疲労の蓄積が多い者と少ない者とで分けることにより、被害を最小限に抑える。
他のガーディアン達も動かない身体を鞭打って準備に取り掛かった。
運が良いのか悪いのか、目的地はすぐそこだ。
到着には10分もかからなかった。
全員、上空10000メートルを飛行する小型飛行機から飛び降りる。
誰もパラシュートは装着していなかった。
だが、全員の表情に恐怖は無い。
今のガーディアンには風のスペシャリスト、天音がいるのだから。
最後に飛び降りた天音は瞬時に風を生成。
散り散りにならない様に考え抜いた方向への送風により、塊になって地上へ落ちる。
着地の瞬間、下から上へ強烈な風を生み出す。
それにより、着地の衝撃を最低限に抑えたのだ。
既に辺りは火の海。
衛が1歩前に出て高らかに叫んだ。
「我々は国家戦力ガーディアンですッ!異形は我々が請け負いますので皆様は指示通り避難してくださいッ!」
そして状況は動き始めた。
天音と治夜は集落に向かい、怪我人の処置と避難誘導。
衛と攻撃的な能力を持ったガーディアン達は空を覆い尽くす異形へ立ち向かっていく。
天音は集落を覆う炎を風で吹き飛ばしながら先へ先へと進んだ。
空太を探す為に行っているのだが、今回ばかりは運が悪かった。
1人で進む天音の目の前に見たことの無い異形が村人を捕食していた。
「何……こいつ……?」
「グルルル……」
四足歩行のゴリラのような見た目。
だが、猿の様な頭部と鋭利な牙、他の異形と同じ先端に針のついた尻尾がその雰囲気を壊していた。
サイズは3メートル程。
周りに助けを呼べる様な人はいない。
勝てるか……1人で……
不思議と覚悟は決まった。
或いはガーディアンに入った時から決まっていたのかもしれない。
天音は左腰に装着されたホルスターから銀色に輝く拳銃を抜き取って構えた。
天音専用武器サイクロン。
これは前の様にイメージして撃つのでは効率が悪いと考えたガーディアン専属の武器職人が製作した天音に最適化された武器である。
放つ風をこの拳銃に送り込む事で、拳銃内で最適化、弾丸のような風を放つことが出来るのだ。
「覚悟して……ッ!」
異形の頭部に狙いを定めて引き金を引く。
空気の破裂する様な本物の銃さながらの爆音と共に強烈な風の弾丸が放たれた。
速度は銃弾にも劣らない。
しかし、異形は元々軌道が見えていたかのように簡単に回避した。
もう1度放つが、これも回避される。
流石の天音も唇を噛んだ。
これ以上無駄に空間魔力を消費する訳にはいかない。
治夜の能力『薬を生み出す能力』には魔力が必要だ。
怪我人が多いであろう今回は大量の魔力が必要になるだろう。
だから、最小限の攻撃でこいつを倒さねばならない。
天音はこれまでほとんど操作していると言っても過言ではない技術で戦ってきた。
もちろん操作は出来ない。
可能なのは出来る限りの知識を用いて生み出すことのみ。
長期戦には出来ない。
ならば次の一撃でトドメを刺す。
「出来るかどうかじゃない……やるんだッ!」
再び銃口を異形に向ける。
異形は余裕そうな雰囲気を醸し出しながら天音の方へ1歩、また1歩と近づいている。
殺しを楽しんでいるのか。
だが天音も甘んじて殺される人間ではない。
ギリギリまで引き付ける。
近くで見れば見るほど恐ろしい見た目だ。
でも今は屈しない。
戦え……ッ!
「はぁぁぁッ!」
「グルルァァァッ!!」
異形が勢いよく突撃してくる。
天音の予想通りの動きだ。
問題はここから。
どういう訳か天音の攻撃を回避し続ける異形。
天音の出した答えはとても簡単なものだった。
回避されるのなら回避させなければいい……ッ!
天音の右腕に青いラインが現れた。
同時に左腕にもラインが現れる。
これから行う事は天音自身初めての試みだ。
だが成功させなければならない。
勝つために。
先に発動したのは左腕の能力。
異形に全方位から強烈な風を叩きつける。
力が強い異形に対抗する為、風力は天音の限界まで高めてある。
これにより、異形は身動きが取れなくなる。
そこに右腕の能力が発動。
生成された風はサイクロンに送り込まれ濃縮される。
そしてトリガーを引く。
他の生物にも言えることだが、大抵の異形は頭部を吹き飛ばせば絶命する。
ならば狙いは頭部。
一撃で仕留めるにはこれしかない。
トリガーを引いてからほぼタイムラグ無しで風の弾丸は放たれた。
しかし……
「きゃっ!」
威力を最大まで引き出したサイクロンは、発砲と同時に銃身を勢いよく跳ね上げた。
その勢いのまま天音はその場に尻もちをつく。
そして放たれた弾丸は異形の頭部に当たることなく、遥か上空へと消えた。
失敗した。
そこまで頭が及んでいなかった。
見上げた異形の顔が喜びで歪む。
私……ここで死ぬんだ……
呆気ない、実に呆気ない。
空間魔力を無駄にし、敵の1体も倒せない。
やっぱり兄さんみたいにはなれないんだ……
3か月前と何も変わってはいない。
目の前の敵を、成さねばならない事にも手が届かないだなんて……
あまりにも無能ではないか。
天音の頬を涙が伝う。
ふと、視界の先に人影が見えた。
それも幼い子供の。
「逃げて……ッ!」
たまらず叫ぶ。
しかし、ここから逃げることなど出来ない。
そんなこと、自分が一番よく分かっているではないか。
目の前の異形を倒さない限り、逃げられないことくらい。
ならどうする……自らの命を犠牲にして時間を稼ぐか?
その場しのぎにしかならないだろう。
いったいどうすれば……!
異形は天音から狙いを変えて子供の方へ歩いていく。
その時、視界にいた子供が天音に手を伸ばした。
「お姉ちゃん……助けて……!」
「ッ!!」
違うだろ天音……!
何がなんでもこの子供を救うのが最優先だろ……!
身体は勝手に動いていた。
護身用に後ろ腰に装備していたナイフを抜き取る。
自分の後ろに風を生成し、飛び起きる。
もう1度。
再び生成された風に押され、海老反りになりながらも異形へと突進する。
ナイフを両手で逆手に持つ。
「やぁぁぁッ!」
3度目。
生成された風によって、勢いよくナイフを振り下ろす。
ナイフは子供の方から振り向いた異形の頭部を完全に捉えた。
生暖かい鮮血が天音に降り掛かる。
倒したのだ、異形を。
天音はそのまま子供のところへ行き、強く抱き締めた。
子供は一瞬困惑したような表情を浮かべたが、すぐに笑顔になって抱き返してくれた。
「良かった……無事で……」
「へへっ、お姉ちゃんのおかげだよ!かっこよかった!ありがとう!」
「本当に……良か……った……」
「お姉ちゃん?お姉ちゃん大丈夫?」
能力の酷使。
ジェネレーターもマニューバーも例外無く、不慣れな能力の使用は身体を壊す原因となる。
天音はこれまで複数の風を同時に生み出すことはしてこなかった。
それが原因で気を失ってしまったのだ。
子供が力無く倒れた天音を揺するが、目を覚ますことは無い。
他のガーディアンは未だ来ない。
天音と子供は完全に孤立していた。
そこを異形達は見逃さなかった。
「ひっ!お姉ちゃん!お姉ちゃんッ!」
上空に数十匹の異形。
天音達を囲うようにしてホバリングしている。
この場にいる戦力は0。
異形のエサに他ならない状況だ。
再び子供の目に涙が浮かぶ。
しかし、天音達の運は尽きていなかった。
囲んでいた異形達が一瞬にして塵と化す。
そして刀を肩に当てながら、現れた男は呟いた。
「やっぱ手応えねぇわ……空太の方が強ぇな」
「おじさん……凄い……!」
「あァ?ガキかよ!あと嬢ちゃんもいんのか。とりあえず嬢ちゃん連れて逃げろガキ、ここはオレ1人で片付ける」
「う、うん!僕頑張るよ!」
アルタイル最強のグレード12。
雷鬼はそう言い残すとその場から掻き消えた。
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そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。
要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。
曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。
その額なんと、50億円。
あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。
だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。
だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。
無能なので辞めさせていただきます!
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ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
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