無能は超能力世界で生き延びられますか?

遠山ハルヒ

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3話 旅立ち

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 雷鬼との修行は体術を含め3ヶ月で終了した。
 空太は可能な限り全ての技術を師から盗み取り、雷鬼から「オレから教えられる事はもう無ぇ」と言われたからだ。
 そして、旅立ちの日を迎えた。
 別れの場は雷鬼のアジトではなく、巨大な洞窟の入口だった。

「その……雷鬼……今までありがとう……」
「ダハハッ!何照れてんだよテメェ!」
「お前のおかげで分かった気がするんだ……能力が全てじゃないって。俺はこの世界を変えたい。無能力者でも平等に扱われる世界に作り変える」
「そりゃ大層な目的だなァ!応援しといてやるよッ!」

 空太は雷鬼に預けられたリュックをもう一度背負い直した。
 リュックの中には数日分の食料とポーション、簡易テントなど旅に必要なものが入っている。
 何を隠そう、空太は旅に出ることにしたのだ。
 空太は雷鬼に貰った和服の腰にぶら下がる真っ黒な鞘に納まる刀の柄を握り締めた。

「覚悟は出来た。戦える強さも得た。怖いもの無しだな!」
「馬鹿野郎、雑魚がしゃしゃり出てんじゃねぇぞ。ほらこれやるよ。この先何があるか分かんねぇからな」
「これって……ペンダント……?オシャレも忘れるなって事か?意外と気にするんだな雷鬼も」
「馬鹿言えッ!あーぁ、やったの後悔してきたわ。鬼族に伝わる御守りだ。テメェを守ってくれる」

 雷鬼はそこまで言うとそのペンダントを空太の首に巻き付けた。
 すると、不思議な感覚が空太を包み込む。
 雷鬼は満足気に頷くと、空太を洞窟の中に蹴り飛ばした。
 転げそうになる空太を見て雷鬼は豪快に笑う。

「危ねぇだろ!」
「ダハハッ!オラ、行ってこいッ!その洞窟の先に次の国がある。テメェなら余裕で越えられるだろぉよ」
「あぁ!行ってくるッ!」

 空太の目指すものは遥か先にある。
 無能力者も平等な世界。
 実現するのはかなり難しいだろうが不可能だとは思わない。
 そのための旅なのだから。
 空太は雷鬼に拳を突き出した。
 雷鬼は少し顔を綻ばせながら、自分の拳を空太の拳に合わせる。
 その間に会話は無かった。
 だが、そこには確かな意思疎通があった。
 空太が洞窟に入って行くのを雷鬼は無言で見つめる。
 そして、空太の姿が見えなくなったのを確認して、大きなため息を吐いた。



 空太と別れてから数十分後、家に帰っていた雷鬼を1本の電話が呼び出した。
 無視を決め込もうと悩んだが、雷鬼は電話に応える。
 電話の向こう側の男は雷鬼に対して疲労を感じさせる声で話した。

「どうしたァ?」
『雷鬼さん!いつまで有給とってんすか!早く帰ってきてくださいよぉ……俺がまとめるのにも限界ってものがですね……!』
「チッ!分かったよ、戻ればいいんだろ!戻ればッ!」
『本当ですか!?助かりますよぉ……雷鬼さんがいないと俺達の戦力ガタ落ちするんですから……!』
「市ヶ谷……テメェもガーディアンのリーダー代理ならオレと引き分けるくらいにはなれよな……ガキに負けるぜ?」
『え?どういうことですか!雷鬼さ……』

 ブツリ。
 続きを無視して電話を切った。
 そして、普段着兼戦闘着である和服に着替えて鞘を腰に吊るす。
 ガーディアンの真のリーダーにして世界最強の男・雷鬼は真剣な表情でアジトを出発した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 洞窟の中は想像以上に静かな所だった。
 空太の推測では、この洞窟を住処にしているという魔物の声で賑やかだったというのに。
 聞こえるのはコウモリが羽ばたく音のみ。

「鬼が居たんだから魔物もおとぎ話の中だけの生き物ってわけでもないんだろうな……」

 18歳まで生きてきて魔物なんて単語、聞いたことが無い。
 だが、雷鬼はいると断言した。
 雷鬼の事だから冗談の可能性は捨て切れないけれど。
 雷鬼と生活した3ヶ月で空太はこの国、いや、この世界に疑問を覚えた。
 この世界は空太達人類に隠蔽している事が多すぎる。
 雷鬼という鬼族にしてもそう。
 鬼族以外にも多種多様な亜人が存在するという。
 一体何を考えて隠蔽しているのか。
 それも明らかにしなければ平和にはならないか……
 考えながら道なりに歩いていると、突然視線を感じた。
 雷鬼との修行の中で、視線を感じ取る練習をしたのが生きたらしい。
 空太の右手は即座に左腰に吊るされている刀の柄を握り締める。
 空太の敵意を感じ取ったのか、視線の主はゆっくりと影から姿を現した。
 猿の顔に虎の胴体、そして尾は蛇。
 雷鬼のアジトで読んだ本に登場する妖怪ヌエと完全に一致する。
 空太が腰を低く構えると、ヌエは戦闘開始の合図なのか、絶叫した。

「ヒョォォォッ!」

 不気味な鳴き声は洞窟に響いた。
 同時にヌエの体を雷が覆い出す。
 確か読んだ本に登場したヌエは雷獣と呼ばれていた。
 こうなると空太は圧倒的に不利である。
 恐らくヌエは纏う雷を放つことが出来るだろう。
 対して空太は遠距離から攻撃する術を持たないのだ。
 だが空太は「不利な時ほど面白ぇ」という雷鬼の言葉を思い出して笑みを浮かべた。

「思い返すには早すぎるな……ッ!」

 空太は地面を蹴飛ばした。
 抜剣すらせず飛び込んでくる空太に、ヌエは容赦のない電撃を放つ。
 電撃は決して真っ直ぐには飛ばず、絶えず蛇行しながら空太へ向かっている。
 狭い道では回避出来ない必殺の一撃だ。
 空太はそれを分かっていながらも恐れない。
 勝負は一瞬だった。
 空太とヌエがすれ違う。
 それだけで戦いは終わりを告げた。
 いつの間にか抜刀していた黒刃の刀を鞘に納めながら、空太は腰に手を当てた。

「相性勝ち……!関係なくても勝ってたけどな」

 ボトリ。
 ヌエの首は美しいと言えるほど綺麗な断面を残して胴体から離れた。
 一瞬にして絶命したヌエを踏み付けながら、空太は不気味に微笑む。
 勝因は2つ。
 1つは空太の持つ刀の力だ。
 銘を雷切らいきりというこの黒刀は、雷鬼の使用する刀と同様の物である。
 この刀は蓄電しやすい特殊な金属で出来ており、周囲の電気を全て蓄える。
 鞘にも仕組みがあり、刀を納める事で刀を蓄電させることが出来るバッテリーでもあるのだ。
 要するに、空太は雷切を持っている限りほぼ絶対と言っていい雷耐性を持っている。
 雷獣であるヌエは物理攻撃でしか空太に傷を負わせることが出来なかったのである。
 そしてもう1つ。
 圧倒的な実力差だ。
 ヌエは決して弱い部類ではない。
 ガーディアンが5人で戦ってやっと勝てる程の強さなのだ。
 空太の実力はそれを圧倒していた。
 たった3ヶ月の修行の中で、空太は数十回と死んだ。
 正確には、死ぬ寸前でポーションをかけられて回復していた。
 死ぬ気で修行しろと言っていたが、まさか本当に死にかけるとは……
 死と隣り合わせの修行の結果、得たのは雷鬼と同等の実力。
 魔物の1匹程度相手にならない。
 先へ進む為進み出した空太に突然異変が現れた。

「……ッ!何だこの頭痛……ッ!」

 頭に針を刺されたかのような痛みが空太を襲う。
 あまりの痛みにその場に四肢を着いた。
 痛みに耐える修行を行ってはきたが、内側からの痛みというのは全く別物だ。
 5分間も続いた頭痛の原因は分からない。
 ようやく収まった頭痛を気にかけながらも、空太は進むことを決意した。
 進む以外道はないから。



 どれほど進んだだろうか。
 洞窟もかなり進んだ。
 初めの方は誰かが探索した跡があったが、しばらくその痕跡を見ていない。
 ちょうど魔物の強さが上がった辺りからか……
 更に奥へ進むと、洞窟とは思えない光景を見ることとなった。
 道は整えられており、天井からはランプが吊るされている。
 奥には扉のようなものも見えた。
 明らかに文明の跡だ。
 恐らく人類はここには到達していない。
 ならば知性に秀でた魔物か亜人である可能性が高い。
 空太は雷切を抜刀し、不意打ちに対応しやすい構えを取り、周囲を警戒しながら進み出した。
 気配は無い。
 だが、それは突然襲いかかってきた。

「な……ッ!」

 ほぼ反射的に雷切で受け止めた物は石だった。
 それもそこら中に転がっている石だ。
 何事だ……?
 敵は考える時間を与えてはくれなかった。
 一瞬にして空太の周りを無数の石が包囲した。
 宙に浮く小石を呆然と見上げる空太に小石が殺到する。
 全ては対応出来ない。
 ならばせめて急所だけでも。

「うぉぉッ!」

 全力の証に喉から声が出る。
 かなりの数の石を叩き落としたが、それでもやはりいくつかは直撃してしまった。
 脚と腕に当たったからか、雷切を握る両手に力が入らない。
 もう一度同じ攻撃をされたら負ける。
 いち早く敵を見つけなければ……!
 空太は雷切を地面に突き立てた。
 あまりやりたくない技だが仕方ない。
 そして柄側の鍔についてあるスイッチを押し込んだ。

「雷切・解放……ッ!」

 空太の叫びと同時に雷切から電撃が放たれた。
 放たれた電撃は地面を伝って広範囲に拡散していく。
 雷切の刀身に蓄電された電気を解放するこの技は、雷鬼が使用する分には問題無しなのだが、電気を操れない空太は放たれた電撃に巻き込まれる。
 低減出来るように靴や刀の鍔と柄に絶縁素材を使用しているが、それでも痛い。
 空太は歯を食いしばって痛みに耐えた。
 電気に耐える修行を行っていても慣れるものではない。
 その甲斐あってか敵の位置を掴むことが出来た。
 だが……

「うぁ……ッ!」
「ぐぅ……ッ!見つけた……ぞッ!」
「しまった……!」

 現れたのは銀髪のお下げ髪の少女だった。
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