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9話 探求する者
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「まさかそこまで干渉しておるとはな……」
「どういう事だよ……」
「忘れたのか?余の敵は『秩序を生み出す能力』を持つ者。ヤツの能力は余の想像の範疇を越えていたらしい。よもや世界のルールにすら干渉するとは……して、それを無効化すると言ったな?ヤツの能力に対抗する術がある、そういう事じゃな?」
「まさか。完全に対抗する事はワシには不可能じゃ。だが、そのほんと一部を単体に対してなら話は変わる。ワシの力……と言っても能力ではないが、技術でその束縛から解き放つ事が出来る」
この世界において、能力の使用には代償が必要である。
操作能力なら己の体力を。
生成能力なら空間の魔力を。
だが、それが後付けされたルールであると言うのか。
それほどまでに強い力を持った能力者と戦わなければならないのか。
今の空太には到底勝てる未来が見えない。
ゆっくりと立ち上がった五十嵐は、すぐ近くにあった筒状の巨大装置に手を触れた。
人が入れる程の透明なガラスで出来た筒の先端には様々なコードが取り付けられていた。
土台にも夥しい数のコードが見える。
いかにも人体実験に使用されそうな装置だ。
五十嵐はその装置に手を触れながらメアを見た。
「この装置はワシが生み出した秩序を破る為の鍵じゃ。メア王女、貴方はこれに入る覚悟があるか?」
「戯け、余はヤツを殺す為なら何だって犠牲にする。この命すらもな」
「その心意気や良し。お前はいいのか?無能力者白河空太」
「俺は……」
「構わん、余だけで良い。一時の協力関係じゃ、無駄なデメリットを背負う必要は無い」
メアはそう言って装置の中に入った。
万が一にでも嫌な感覚を覚えれば、即座にこの装置を破壊出来る。
無能力者の空太にはこの役は不可能だろう。
もっとも、空太はただの協力者。
メアが死ねば共に死ぬとはいえ、これ以上無駄死にさせる訳にはいかない。
駒としか考えていないが、後々に悔いを残したくはない。
利用するだけして使い捨てる。
けれど、その時は無傷で。
少し手遅れだが、何のしがらみも無く解き放ってやりたい。
ほんの少し共に戦っただけだというのに、ここまで踏み込んでしまうとは。
我ながら、酷く人に飢えていたのだろう。
メアは装置の中でゆっくりと目を閉じた。
「マスクを着けるんじゃ」
「着けたぞ。始めてくれ」
「分かった」
メアの合図により、五十嵐が装置のスイッチを押し込んだ。
同時に、装置の中が青色の液体で満たされる。
しかし、メアは一切動じない。
マスクから酸素を供給されているので、溺死の可能性は無いだろう。
メアは装置の中でプカプカと浮かんでいる状態だ。
五十嵐は装置を見つめながら指を動かしている。
恐らく情報を処理しているのだろう。
一通りの作業を終えた五十嵐は空太に声をかけた。
「メア王女はしばらくこのままじゃ。さて、空太と言ったな。次はお前の番じゃ」
「俺の番……?」
「いかにも。お前は相当鍛錬を積んできた様じゃがまだまだ甘い。今のお前ではヤツには勝てん」
「ヤツってメアの指すヤツと同じ秩序を操作する能力者のことか?」
「そうじゃ。ヤツの強さは能力だけではない。武術、剣術、弓術、銃術、あらゆる点において恐ろしい程の技術を身につけておる」
五十嵐はそう言いながら奥の部屋へと空太を呼び寄せた。
空太は話を聞きながら案内された部屋へと足を踏み入れた。
1辺100メートルはある巨大な部屋には何ひとつ物が無く、また1部の扉とガラスがある面を除いて全面真っ白で目がチカチカする。
空太が部屋を観察していると、突如部屋の扉が閉じられた。
五十嵐は部屋の外、ガラスの先で立っていた。
部屋の中には空太1人。
まさか……罠……!?
発するより先に身体が動いていた。
扉に勢いよく回し蹴りを叩き込む。
が、ビクともしない。
ガラスなら……!
強度の劣るガラスなら破壊出来ると踏んだ空太はガラスに全力の右正拳突きを放った。
しかし、特殊な加工が施されているのかこれまたビクともしない。
空太の暴れっぷりにガラスの外で観察していた五十嵐も苦笑いを浮かべる。
「落ち着け。別に監禁するつもりは無い」
「じゃあなんだこれはッ!監禁するつもりが無いならここまでの強度は必要無いだろッ!」
「落ち着けと言っておろう?この部屋はシュミレーションルーム。お前が先程戦ったゴーレムがおったじゃろう?あれに指定した戦闘スタイルをインプットしてお前の訓練相手にするんじゃよ」
「あのゴーレム、やっぱりお前が作ったのかッ!」
「その件については悪かったと思っておる。じゃが、あれも必要な試練の1つじゃったから勘弁してくれ」
さっきからこの男、自分だけ全て知っている様な口で気に食わない。
試練だの秩序だの、全く理解出来ていないというのに話を勝手に進めやがって。
空太の不満を他所に、五十嵐は目の前のタブレット端末を操作している。
こんな地下のどこに電気や電波が通っているのか不思議でならない。
そんなくだらない事を考えている隙に、空太の目の前に人型のゴーレムが現れた。
腰には木刀をぶら下げている。
そしてどこか見覚えのある立ち姿。
空太はそのゴーレムを見てつい思った事を口に出してしまった。
「し、師匠……?」
「ほう?お前、あの雷鬼に教えを乞うた事があるのか。なるほど、ここに辿り着けた事にも納得がいく」
「お前、雷鬼の事知ってるのか!?」
「知っているも何も、お前こそ知らんのか。アイツはアルタイル共和国所属ガーディアンの一員にして隊長。アルタイル最強の男じゃ」
「そ、そんな馬鹿なァァァッ!?」
空太の悲鳴にも似た絶叫が何も無い部屋に反響する。
自分が無能力者と知った時以上に驚いた。
まさかあの自堕落な男が最強の男?
冗談でも笑えない。
だって雷鬼だぞ?
いやいやいやいや、有り得ない。
空太が頭の中で全力否定している内に、シュミレーションの用意が出来たらしい。
空太の腰にも木刀が現れた。
握って構えてみる。
何の違和感も無い、いつも通りの感触。
雷鬼ゴーレムもゆっくりと木刀を構えた。
まだ頭の中はゴチャゴチャしているが、そんなもの刀を振って吹き飛ばしてやる。
対峙する2人は同じ流派故に全く同じ型で睨み合っている。
そこに五十嵐がタブレット端末片手にスイッチを押した。
「シュミレーション開始!」
「はぁ……ッ!」
「……ッ!」
合図と同時に空太とゴーレムの木刀がぶつかった。
そのあまりの威力に空気が震える。
そのまま鍔迫り合いに持ち込む。
が、流石は雷鬼をコピーしたゴーレム。
パワーが空太とは段違いだ。
負けじと押し返そうとするが、そもそも空太はただの人間である。
鬼族の怪力に敵う道理が無い。
そんなこと空太が1番よく分かっていた。
何せその鬼族に戦う術を教えられてきたのだから。
空太の木刀が少しだけ角度を変えた。
力強く押し込んでいたゴーレムの木刀はいとも容易く向かって左に受け流される。
これが空太が生み出した対亜人用剣術、受け流し。
人間には届かない圧倒的な力を巧みに操り受け流す技だ。
簡単そうに見えるが、実はなかなか難しい。
少しでも角度の調節を間違えると、刀が折れたり受け流し損ねて斬られる可能性もあるのだ。
受け流されたゴーレムの木刀は勢い良く地面を叩いた。
空太はその隙を逃さず、全力の一撃をゴーレムにお見舞いする。
しかし、咄嗟に木刀から離した左手で受け止められてしまった。
こんな荒業、雷鬼以外に実行する馬鹿はいないだろう。
流石は雷鬼をコピーしているだけあって、馬鹿さ加減も完璧だ。
次はカウンターが来る。
想像通り、左下からの斬り上げ。
しかし木刀を握る右手は使えない。
かと言ってゴーレムの様に左手で受け止めるなんて馬鹿な事不可能だ。
雷鬼のパワーを再現しているゴーレムの攻撃を素手で受け止めれば、確実に腕の骨を木っ端微塵に砕かれる。
これ以上考えている暇も無い。
一か八かだ。
「これで……ッ!」
空太はその場で跳躍した。
ひたすら鍛え上げられた脚力により、1メートル弱跳ね上がる。
そして、襲いかかる木刀に自らの両足を触れさせた。
決して足を捨てたわけではない。
れっきとした作戦である。
そのまま振り抜かれる木刀。
空太はそのタイミングを寸分違わず見抜き、木刀の威力を殺す様に両足で受け流した。
大きく横に1回転する。
空太は木刀を握り続けていた為、これを受け止めていた雷鬼の左腕が曲がってはいけない方向に強引に曲げられた。
流石のゴーレムも痛みを感じたらしく、空太の木刀を手放す。
恐らくこれが最善の手だっただろう。
全くの無傷とはいかなかったが。
証拠に、しばらく思い切った踏み込みは出来ないであろう。
完璧のタイミングだったにも関わらず、木刀と足が触れ合ったほんの一瞬の衝撃で両脚の骨にヒビが入った。
正直、今立っているだけでも激痛が走っている。
痛みを堪えるため、唇を強く噛む。
血が流れ始めるが、気にせずにもう一度構える。
同じ手はもう使えない。
攻撃1回につき身体のどこかを壊していては命がいくらあっても足りないというものだ。
いくらコピーと言えど、やはり雷鬼は強い。
今の空太では到底敵う相手ではない。
あの時だって、雷鬼は本気なんて出していなかった。
それでもギリギリの勝負だった。
恐らくこのゴーレムは雷鬼の実力の4分の3程度しか体現出来ていない。
1度打ち合ったから分かる。
雷鬼の全力はもっと重い。
「せやぁッ!」
痛む両脚に鞭打って、間合いまでゴーレムに接近する。
そして右下から左上への斬り上げ。
脚を痛めているとはいえ、速度、威力共に過去最高の一撃を放てた感覚が確かにあった。
しかし、空太の一撃はゴーレムの木刀がいとも容易く受け止めた。
再び衝撃で空気が震える。
そこからは両者1歩も譲らない激しい打ち合いが始まった。
木刀同士がけたたましくぶつかり合う。
ゴーレムは雷鬼由来の一撃一撃が必殺の攻撃を。
空太はそれを全て受け流し、隙を見て攻撃を返すカウンターを。
激戦を観察している五十嵐は興奮していた。
方や自らが生み出したコピー性能を有した高性能ゴーレム。
方やアルタイル最強の男を師とする無能力の人間。
この1人と1体の組み合わせは五十嵐にとってとてつもなく参考になるデータなのだ。
いずれ起こるであろう他国との戦争において活躍するであろうゴーレムのデータと、この世界の不条理に立ち向かう希望ある少年のデータ。
恐らくこの少年は世界を変えるだけの素質を持っている。
無能力者とは思えない実力を持つ少年は他の研究者にとっても喉から手が出るほど欲しい研究材料だ。
だが、この少年はただ材料で使い潰すには惜しすぎる。
彼はこんなくだらないルールに縛られた狭い世界を、あるべき方向へ導く力がある。
そう思うと今からでも興奮が止まらない。
知識の柱・第5柱、五十嵐。
《探究者》の2つ名を持つ彼は今一度タブレット端末に目を光らせた。
「どういう事だよ……」
「忘れたのか?余の敵は『秩序を生み出す能力』を持つ者。ヤツの能力は余の想像の範疇を越えていたらしい。よもや世界のルールにすら干渉するとは……して、それを無効化すると言ったな?ヤツの能力に対抗する術がある、そういう事じゃな?」
「まさか。完全に対抗する事はワシには不可能じゃ。だが、そのほんと一部を単体に対してなら話は変わる。ワシの力……と言っても能力ではないが、技術でその束縛から解き放つ事が出来る」
この世界において、能力の使用には代償が必要である。
操作能力なら己の体力を。
生成能力なら空間の魔力を。
だが、それが後付けされたルールであると言うのか。
それほどまでに強い力を持った能力者と戦わなければならないのか。
今の空太には到底勝てる未来が見えない。
ゆっくりと立ち上がった五十嵐は、すぐ近くにあった筒状の巨大装置に手を触れた。
人が入れる程の透明なガラスで出来た筒の先端には様々なコードが取り付けられていた。
土台にも夥しい数のコードが見える。
いかにも人体実験に使用されそうな装置だ。
五十嵐はその装置に手を触れながらメアを見た。
「この装置はワシが生み出した秩序を破る為の鍵じゃ。メア王女、貴方はこれに入る覚悟があるか?」
「戯け、余はヤツを殺す為なら何だって犠牲にする。この命すらもな」
「その心意気や良し。お前はいいのか?無能力者白河空太」
「俺は……」
「構わん、余だけで良い。一時の協力関係じゃ、無駄なデメリットを背負う必要は無い」
メアはそう言って装置の中に入った。
万が一にでも嫌な感覚を覚えれば、即座にこの装置を破壊出来る。
無能力者の空太にはこの役は不可能だろう。
もっとも、空太はただの協力者。
メアが死ねば共に死ぬとはいえ、これ以上無駄死にさせる訳にはいかない。
駒としか考えていないが、後々に悔いを残したくはない。
利用するだけして使い捨てる。
けれど、その時は無傷で。
少し手遅れだが、何のしがらみも無く解き放ってやりたい。
ほんの少し共に戦っただけだというのに、ここまで踏み込んでしまうとは。
我ながら、酷く人に飢えていたのだろう。
メアは装置の中でゆっくりと目を閉じた。
「マスクを着けるんじゃ」
「着けたぞ。始めてくれ」
「分かった」
メアの合図により、五十嵐が装置のスイッチを押し込んだ。
同時に、装置の中が青色の液体で満たされる。
しかし、メアは一切動じない。
マスクから酸素を供給されているので、溺死の可能性は無いだろう。
メアは装置の中でプカプカと浮かんでいる状態だ。
五十嵐は装置を見つめながら指を動かしている。
恐らく情報を処理しているのだろう。
一通りの作業を終えた五十嵐は空太に声をかけた。
「メア王女はしばらくこのままじゃ。さて、空太と言ったな。次はお前の番じゃ」
「俺の番……?」
「いかにも。お前は相当鍛錬を積んできた様じゃがまだまだ甘い。今のお前ではヤツには勝てん」
「ヤツってメアの指すヤツと同じ秩序を操作する能力者のことか?」
「そうじゃ。ヤツの強さは能力だけではない。武術、剣術、弓術、銃術、あらゆる点において恐ろしい程の技術を身につけておる」
五十嵐はそう言いながら奥の部屋へと空太を呼び寄せた。
空太は話を聞きながら案内された部屋へと足を踏み入れた。
1辺100メートルはある巨大な部屋には何ひとつ物が無く、また1部の扉とガラスがある面を除いて全面真っ白で目がチカチカする。
空太が部屋を観察していると、突如部屋の扉が閉じられた。
五十嵐は部屋の外、ガラスの先で立っていた。
部屋の中には空太1人。
まさか……罠……!?
発するより先に身体が動いていた。
扉に勢いよく回し蹴りを叩き込む。
が、ビクともしない。
ガラスなら……!
強度の劣るガラスなら破壊出来ると踏んだ空太はガラスに全力の右正拳突きを放った。
しかし、特殊な加工が施されているのかこれまたビクともしない。
空太の暴れっぷりにガラスの外で観察していた五十嵐も苦笑いを浮かべる。
「落ち着け。別に監禁するつもりは無い」
「じゃあなんだこれはッ!監禁するつもりが無いならここまでの強度は必要無いだろッ!」
「落ち着けと言っておろう?この部屋はシュミレーションルーム。お前が先程戦ったゴーレムがおったじゃろう?あれに指定した戦闘スタイルをインプットしてお前の訓練相手にするんじゃよ」
「あのゴーレム、やっぱりお前が作ったのかッ!」
「その件については悪かったと思っておる。じゃが、あれも必要な試練の1つじゃったから勘弁してくれ」
さっきからこの男、自分だけ全て知っている様な口で気に食わない。
試練だの秩序だの、全く理解出来ていないというのに話を勝手に進めやがって。
空太の不満を他所に、五十嵐は目の前のタブレット端末を操作している。
こんな地下のどこに電気や電波が通っているのか不思議でならない。
そんなくだらない事を考えている隙に、空太の目の前に人型のゴーレムが現れた。
腰には木刀をぶら下げている。
そしてどこか見覚えのある立ち姿。
空太はそのゴーレムを見てつい思った事を口に出してしまった。
「し、師匠……?」
「ほう?お前、あの雷鬼に教えを乞うた事があるのか。なるほど、ここに辿り着けた事にも納得がいく」
「お前、雷鬼の事知ってるのか!?」
「知っているも何も、お前こそ知らんのか。アイツはアルタイル共和国所属ガーディアンの一員にして隊長。アルタイル最強の男じゃ」
「そ、そんな馬鹿なァァァッ!?」
空太の悲鳴にも似た絶叫が何も無い部屋に反響する。
自分が無能力者と知った時以上に驚いた。
まさかあの自堕落な男が最強の男?
冗談でも笑えない。
だって雷鬼だぞ?
いやいやいやいや、有り得ない。
空太が頭の中で全力否定している内に、シュミレーションの用意が出来たらしい。
空太の腰にも木刀が現れた。
握って構えてみる。
何の違和感も無い、いつも通りの感触。
雷鬼ゴーレムもゆっくりと木刀を構えた。
まだ頭の中はゴチャゴチャしているが、そんなもの刀を振って吹き飛ばしてやる。
対峙する2人は同じ流派故に全く同じ型で睨み合っている。
そこに五十嵐がタブレット端末片手にスイッチを押した。
「シュミレーション開始!」
「はぁ……ッ!」
「……ッ!」
合図と同時に空太とゴーレムの木刀がぶつかった。
そのあまりの威力に空気が震える。
そのまま鍔迫り合いに持ち込む。
が、流石は雷鬼をコピーしたゴーレム。
パワーが空太とは段違いだ。
負けじと押し返そうとするが、そもそも空太はただの人間である。
鬼族の怪力に敵う道理が無い。
そんなこと空太が1番よく分かっていた。
何せその鬼族に戦う術を教えられてきたのだから。
空太の木刀が少しだけ角度を変えた。
力強く押し込んでいたゴーレムの木刀はいとも容易く向かって左に受け流される。
これが空太が生み出した対亜人用剣術、受け流し。
人間には届かない圧倒的な力を巧みに操り受け流す技だ。
簡単そうに見えるが、実はなかなか難しい。
少しでも角度の調節を間違えると、刀が折れたり受け流し損ねて斬られる可能性もあるのだ。
受け流されたゴーレムの木刀は勢い良く地面を叩いた。
空太はその隙を逃さず、全力の一撃をゴーレムにお見舞いする。
しかし、咄嗟に木刀から離した左手で受け止められてしまった。
こんな荒業、雷鬼以外に実行する馬鹿はいないだろう。
流石は雷鬼をコピーしているだけあって、馬鹿さ加減も完璧だ。
次はカウンターが来る。
想像通り、左下からの斬り上げ。
しかし木刀を握る右手は使えない。
かと言ってゴーレムの様に左手で受け止めるなんて馬鹿な事不可能だ。
雷鬼のパワーを再現しているゴーレムの攻撃を素手で受け止めれば、確実に腕の骨を木っ端微塵に砕かれる。
これ以上考えている暇も無い。
一か八かだ。
「これで……ッ!」
空太はその場で跳躍した。
ひたすら鍛え上げられた脚力により、1メートル弱跳ね上がる。
そして、襲いかかる木刀に自らの両足を触れさせた。
決して足を捨てたわけではない。
れっきとした作戦である。
そのまま振り抜かれる木刀。
空太はそのタイミングを寸分違わず見抜き、木刀の威力を殺す様に両足で受け流した。
大きく横に1回転する。
空太は木刀を握り続けていた為、これを受け止めていた雷鬼の左腕が曲がってはいけない方向に強引に曲げられた。
流石のゴーレムも痛みを感じたらしく、空太の木刀を手放す。
恐らくこれが最善の手だっただろう。
全くの無傷とはいかなかったが。
証拠に、しばらく思い切った踏み込みは出来ないであろう。
完璧のタイミングだったにも関わらず、木刀と足が触れ合ったほんの一瞬の衝撃で両脚の骨にヒビが入った。
正直、今立っているだけでも激痛が走っている。
痛みを堪えるため、唇を強く噛む。
血が流れ始めるが、気にせずにもう一度構える。
同じ手はもう使えない。
攻撃1回につき身体のどこかを壊していては命がいくらあっても足りないというものだ。
いくらコピーと言えど、やはり雷鬼は強い。
今の空太では到底敵う相手ではない。
あの時だって、雷鬼は本気なんて出していなかった。
それでもギリギリの勝負だった。
恐らくこのゴーレムは雷鬼の実力の4分の3程度しか体現出来ていない。
1度打ち合ったから分かる。
雷鬼の全力はもっと重い。
「せやぁッ!」
痛む両脚に鞭打って、間合いまでゴーレムに接近する。
そして右下から左上への斬り上げ。
脚を痛めているとはいえ、速度、威力共に過去最高の一撃を放てた感覚が確かにあった。
しかし、空太の一撃はゴーレムの木刀がいとも容易く受け止めた。
再び衝撃で空気が震える。
そこからは両者1歩も譲らない激しい打ち合いが始まった。
木刀同士がけたたましくぶつかり合う。
ゴーレムは雷鬼由来の一撃一撃が必殺の攻撃を。
空太はそれを全て受け流し、隙を見て攻撃を返すカウンターを。
激戦を観察している五十嵐は興奮していた。
方や自らが生み出したコピー性能を有した高性能ゴーレム。
方やアルタイル最強の男を師とする無能力の人間。
この1人と1体の組み合わせは五十嵐にとってとてつもなく参考になるデータなのだ。
いずれ起こるであろう他国との戦争において活躍するであろうゴーレムのデータと、この世界の不条理に立ち向かう希望ある少年のデータ。
恐らくこの少年は世界を変えるだけの素質を持っている。
無能力者とは思えない実力を持つ少年は他の研究者にとっても喉から手が出るほど欲しい研究材料だ。
だが、この少年はただ材料で使い潰すには惜しすぎる。
彼はこんなくだらないルールに縛られた狭い世界を、あるべき方向へ導く力がある。
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転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
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