8 / 15
8話 洞窟の管理者
しおりを挟む
目を覚ました空太は頭に何やら柔らかい感覚を覚えた。
そして第1に視界に入ったのはメアの顔だった。
その目は閉じられており、眠っているようだ。
空太は一言も発さず、今の状況を整理する。
予想外のアクションでコピーゴーレムに殴り飛ばされた事は鮮明に覚えている。
その後うっすらと焦るメアの顔が……
曖昧だ、あの一撃は確実に空太を死に追いやる威力があった。
それなのにどうして生きている。
運良く急所を外した?
いや、骨と内臓がやられるような気持ち悪い感覚があった。
即効性の回復薬をメアが所持していた可能性は?
いや、そんな物があれば先に言っているはず。
ならば何だ?
何が俺を助けた……?
空太が考えにハマっている間に、メアが閉じていた目をゆっくりと開いた。
そして、空太の顔を見て表情が揺らぐ。
驚愕、困惑、羞恥、憤怒へと。
その怒りという照れはメアの能力を発動させ、膝に頭を乗せていた空太を向かいの壁まで吹き飛ばした。
「な、何故余の膝の上に頭を置いておるのじゃぁぁぁッ!」
「そんな理不尽な!?どわぁぁぁぁッ!」
空太は再び勢いよく背中を強打し、その場に倒れる。
今回は意識を失わずに済んだが、あまりの理不尽さに焦ってしまう。
メアは一瞬焦ったような表情を浮かべたが、すぐに怒りか照れかで顔を赤らめる。
俺が倒れている間に何があったんだ……
困惑する空太に構わず、メアは一度咳払いしてから真剣な表情に戻った。
「さて、状況を説明するぞ」
「今の流れで!?た、頼むよ」
「あぁ。お主を助けたのは余じゃ。何となく察している様じゃがな」
「メア以外いないしな」
「それは良いのじゃが、これによりお主に制限が出来た」
「せ、制限?」
「制約とでも言うのかな。空太、お主は余の眷属となった」
はい?
こいつ今なんて言った……?
眷属?ここはそこまでファンタジーな世界なのか?
俺が思っている以上にこの世界は未知で溢れているのか?
メアの目は至って真剣。
空太はかなり不安になりながらも、メアの話の続きを聞き入った。
「安心しろ。余の眷属になったからといっても余の命令に強制されるわけではない。ただ、余が死ねばお主も死ぬだけじゃ」
「はい……?」
「主である余が死ねば眷属たるお主が死ぬのも道理じゃろう?」
「それは道理だけどさ……なんで俺がメアの眷属にならないといけなかったんだよ!お前、俺に何をした?」
少し前まで一般人であった空太には到底理解出来なかった。
出来る方がおかしいというもの。
メアが死ねば自分も死ぬ?
そんな非科学的でオカルトな話、信じたくもない。
だが、これが事実。
空太が生きていられるのは確実にこの主従関係と繋がりがある。
この際主従関係はどうでもいい。
その他のデメリット、この先空太の目的の邪魔になり得る可能性のあるものを知らなければならない。
メアは面倒くさそうに説明を始めた。
「まず、お主はあの一撃で瀕死状態に陥った。普通の治療、ましてや余の知っている医術程度では間に合わぬほどの重症じゃったよ。じゃが、余にはまだお主に言えぬ秘密がある故、その力を使ってお主を助けたに過ぎぬ。再び言うが安心しろ。余が死ねばお主死ぬ。デメリットはそれだけじゃよ」
やはりメアにはまだ何か秘密がある。
メアはああ言っているが、他のデメリットも存在するかもしれないという事を頭の隅に入れておこう。
しかし今は素直に感謝するべきだろうか。
今しばらく目的を果たすための時間を得られたのだから。
「その……助かったよメア、ありがとう」
「気にするな。余にもお主が必要なのじゃ。1人は……寂しいからの……」
「メア……お前は……」
「待て。何者じゃッ!」
空太が続きを口に出そうとした瞬間、メアがそれを制した。
同時に部屋の中に拍手の音が響き渡った。
それも、不気味な笑い声とともに。
拍手の聞こえる方向へ視線を向ける。
そこには白衣を地面に引き摺る痩せ細った男がいた。
ただし、その見た目は貧乏な人にしか見えないのだが。
どこからともなく現れた白衣で青髪の男は、空太とメアを見つめた。
「いやはや、素晴らしいものを見せてもらっ……ゲホッゲホゲホッゲーホッ!」
「大丈夫かよこいつ……」
「先程のように油断するなよ空太」
「け、警戒せんでくれ……ワシに敵意は無い」
老人の様な話し方をする男はそう言って両手を上げた。
空太は警戒を緩めたが、メアの視線は疑いの色を隠せていない。
しかし警戒するのは当然だ。
口ではなんと言おうが、人間である以上何らかの能力を保持しているのだから。
男もそれは承知の上だろう。
両手を上げたまま1歩前に出た。
「ワシから名乗るのが道理じゃな。アルタイル共和国《知識の柱・第5柱》、五十嵐。無能力者じゃ」
「知識の柱じゃと……?それと余と話し方が被っておるぞ!」
「それは大した事じゃないんだけど、信じられないな。能力主義のこの国で大それた称号を持ってる人間が無能力者だなんて」
「別に驚くことでは無いよ。ワシは『1度見たり聞いたりしたものを絶対に忘れない体質』じゃからな。いわゆる『完全記憶能力』じゃよ」
五十嵐は当然のように口にした。
それを聞いた空太は唖然としつつも思考を巡らせていた。
この男は果たして無能力と言っていいのかどうか。
操作と生成に囚われない新たな枠組みの能力と呼べるのでは、と。
しかし、五十嵐には空太の考えはお見通しである。
表情や目の動きだけで考えを読み取る事が可能な五十嵐にとって、能力を使って隠蔽しない限り考えは筒抜けなのだ。
「確かにワシの完全記憶能力も超能力と言えるじゃろう。しかし、この世界において超能力とは操作能力と生成能力の事を指す。ワシの様な能力は超能力の枠の内に入れんのじゃよ。記憶力が超人的である、という言い方に収められるわけじゃな」
「お前は一体何なんだ……?知識の柱って何だ?」
「それも含めて、ワシの部屋で話そう。ついてきなさい」
五十嵐はそう言うと背を向けて歩いて行った。
一切の警戒が無い。
この男は今完全に油断している。
殺そうと思えば殺せる。
なるほどな……
黙って見ていたメアは確信した。
この男、自分は警戒しないからお前達もそうしろ、と言いたいのだろう。
少し癪だが乗ってやろう。
メアは空太に視線を送り、先に行くよう促した。
空太は少し渋ったが、メアの前を歩き始めた。
五十嵐は入口とは正反対の壁を右手で押し込んだ。
何かのスイッチがあったのか、ゆっくりと壁がスライドしていく。
音はほとんど無く、近くで耳を澄まさなければ聞こえない程だ。
壁の先には土壁で囲まれた下り階段が続いており、壁に掛けられたランプが微かに階段を照らしていた。
想像以上に長い階段を下り終えると、正面に現れた扉が目に入った。
異様な光景だった。
茶色で古代的な土壁の中に、白く近代的な自動扉が目の前にある光景が。
空太もメアもお互いの表情を確認する。
五十嵐は後ろを振り返って2人の存在を確認すると、扉に懐から取り出したカードキーをかざして扉を開いた。
「さあ、入ってくれ。そこの椅子に腰掛けてもらって構わない」
「これは……」
「なんとも近代的じゃのう……」
壁、床、天井ともに眩しい程の白。
電力はどこから引っ張ってきているのか分からないが、電球もある。
また、部屋の隅々に研究に使うような装置が並んでいた。
まさに現代の研究室のイメージそのものである。
空太とメアは促されるまま、これまた白い椅子に腰掛けた。
五十嵐は紅茶を入れ、2人の前に差し出す。
毒を入れるような無粋な真似はしてこないであろう。
メアは紅茶を1口飲んで五十嵐の目を見た。
「さて、話してもらうぞ。お主の事も知識の柱とやらの事もな」
「もちろんそのつもりじゃよ。ワシは元々の使命を果たさなければならないからな。これも説明するさ」
五十嵐も空太達の向かい側の椅子に腰を下ろした。
自ら淹れた紅茶を一気に飲み干し、丁寧にカップをさらに置く。
「改めて、ワシの名は五十嵐。名は語らぬ。知識の柱・第5柱にしてこの《竜王の洞窟》の管理者という立場のそこらの無能力者じゃ。この地下100階、解放の間にて選ばれし者が現れる時を500年と待っておった」
「500年!? じゃあお前は一体何歳なんだよ!」
「外見は凍結しておる故若々しいんじゃが、年齢はもうすぐ720歳になるな。この世界において最も優れた頭脳を持つ6人、知識の柱の1柱、第5柱の称号を与えられて600年と経つ」
全く理解が追いつかない。
この男は様々な意味で人間を凌駕している。
寿命だけでない、この付近に食料すら無いのだ。
飲まず食わずで500年、この場所に居座り続けてきたのか……?
空太は見れば誰でも分かる程動揺していた。
それは五十嵐はもちろんメアも気付いていた。
「空太、そう難しく考えるでない。大方、寿命を操作出来る能力者がいるのじゃろう。非人道的ではあるがのう?」
「その通りじゃ。ついでに言えば身体の状態も凍結されておる故、飢えも感じない。ただの人形じゃよ。して、ワシの使命について説明しようか。知識の柱は少し頭の切れる輩の集まりじゃ」
まだ理解が追いついていないというのに五十嵐は話を進めていく。
どうやらメアは理解しているらしいので、後々分からなかったところはメア先生に聞くとしよう。
この五十嵐という男が700年も生き、食糧も必要としない化け物なのはよく分かった。
後、頭が良いという事も。
「その解釈で完璧じゃよ。と、ワシの目的じゃな。ワシはこの洞窟の主《七竜・火炎竜》を破り、この解放の間に辿り着いた者に力を授ける事が使命である。と言っても、今回の君達は特殊な例じゃがな。黒いスライムによって殺害された火炎竜、のう……」
「大体は理解した。が、何故この洞窟の地下に待ち構えておる。大層な力を隠している様じゃが、何が狙いじゃ」
「えぇ、本来存在しないルールを取り払うだけじゃよ。この意味を貴方なら分かるじゃろう、メア王女?」
「ッ!ヤツが関係あるのか……ッ!」
五十嵐はメアの事を知っている……?
ヤツと言うのは、メアが追う敵の事か……?
そして、それを撃ち破る術を五十嵐は持っていると言うのか……?
メアの目の色が変わった。
あれは本気の目だ。
メアには絶好のチャンスであろう。
「教えてやろう。世界にねじ込まれた不当な理、それを破る術を。『能力には代償が必要である』という元々存在しなかったルールを無効化する方法を!」
そして第1に視界に入ったのはメアの顔だった。
その目は閉じられており、眠っているようだ。
空太は一言も発さず、今の状況を整理する。
予想外のアクションでコピーゴーレムに殴り飛ばされた事は鮮明に覚えている。
その後うっすらと焦るメアの顔が……
曖昧だ、あの一撃は確実に空太を死に追いやる威力があった。
それなのにどうして生きている。
運良く急所を外した?
いや、骨と内臓がやられるような気持ち悪い感覚があった。
即効性の回復薬をメアが所持していた可能性は?
いや、そんな物があれば先に言っているはず。
ならば何だ?
何が俺を助けた……?
空太が考えにハマっている間に、メアが閉じていた目をゆっくりと開いた。
そして、空太の顔を見て表情が揺らぐ。
驚愕、困惑、羞恥、憤怒へと。
その怒りという照れはメアの能力を発動させ、膝に頭を乗せていた空太を向かいの壁まで吹き飛ばした。
「な、何故余の膝の上に頭を置いておるのじゃぁぁぁッ!」
「そんな理不尽な!?どわぁぁぁぁッ!」
空太は再び勢いよく背中を強打し、その場に倒れる。
今回は意識を失わずに済んだが、あまりの理不尽さに焦ってしまう。
メアは一瞬焦ったような表情を浮かべたが、すぐに怒りか照れかで顔を赤らめる。
俺が倒れている間に何があったんだ……
困惑する空太に構わず、メアは一度咳払いしてから真剣な表情に戻った。
「さて、状況を説明するぞ」
「今の流れで!?た、頼むよ」
「あぁ。お主を助けたのは余じゃ。何となく察している様じゃがな」
「メア以外いないしな」
「それは良いのじゃが、これによりお主に制限が出来た」
「せ、制限?」
「制約とでも言うのかな。空太、お主は余の眷属となった」
はい?
こいつ今なんて言った……?
眷属?ここはそこまでファンタジーな世界なのか?
俺が思っている以上にこの世界は未知で溢れているのか?
メアの目は至って真剣。
空太はかなり不安になりながらも、メアの話の続きを聞き入った。
「安心しろ。余の眷属になったからといっても余の命令に強制されるわけではない。ただ、余が死ねばお主も死ぬだけじゃ」
「はい……?」
「主である余が死ねば眷属たるお主が死ぬのも道理じゃろう?」
「それは道理だけどさ……なんで俺がメアの眷属にならないといけなかったんだよ!お前、俺に何をした?」
少し前まで一般人であった空太には到底理解出来なかった。
出来る方がおかしいというもの。
メアが死ねば自分も死ぬ?
そんな非科学的でオカルトな話、信じたくもない。
だが、これが事実。
空太が生きていられるのは確実にこの主従関係と繋がりがある。
この際主従関係はどうでもいい。
その他のデメリット、この先空太の目的の邪魔になり得る可能性のあるものを知らなければならない。
メアは面倒くさそうに説明を始めた。
「まず、お主はあの一撃で瀕死状態に陥った。普通の治療、ましてや余の知っている医術程度では間に合わぬほどの重症じゃったよ。じゃが、余にはまだお主に言えぬ秘密がある故、その力を使ってお主を助けたに過ぎぬ。再び言うが安心しろ。余が死ねばお主死ぬ。デメリットはそれだけじゃよ」
やはりメアにはまだ何か秘密がある。
メアはああ言っているが、他のデメリットも存在するかもしれないという事を頭の隅に入れておこう。
しかし今は素直に感謝するべきだろうか。
今しばらく目的を果たすための時間を得られたのだから。
「その……助かったよメア、ありがとう」
「気にするな。余にもお主が必要なのじゃ。1人は……寂しいからの……」
「メア……お前は……」
「待て。何者じゃッ!」
空太が続きを口に出そうとした瞬間、メアがそれを制した。
同時に部屋の中に拍手の音が響き渡った。
それも、不気味な笑い声とともに。
拍手の聞こえる方向へ視線を向ける。
そこには白衣を地面に引き摺る痩せ細った男がいた。
ただし、その見た目は貧乏な人にしか見えないのだが。
どこからともなく現れた白衣で青髪の男は、空太とメアを見つめた。
「いやはや、素晴らしいものを見せてもらっ……ゲホッゲホゲホッゲーホッ!」
「大丈夫かよこいつ……」
「先程のように油断するなよ空太」
「け、警戒せんでくれ……ワシに敵意は無い」
老人の様な話し方をする男はそう言って両手を上げた。
空太は警戒を緩めたが、メアの視線は疑いの色を隠せていない。
しかし警戒するのは当然だ。
口ではなんと言おうが、人間である以上何らかの能力を保持しているのだから。
男もそれは承知の上だろう。
両手を上げたまま1歩前に出た。
「ワシから名乗るのが道理じゃな。アルタイル共和国《知識の柱・第5柱》、五十嵐。無能力者じゃ」
「知識の柱じゃと……?それと余と話し方が被っておるぞ!」
「それは大した事じゃないんだけど、信じられないな。能力主義のこの国で大それた称号を持ってる人間が無能力者だなんて」
「別に驚くことでは無いよ。ワシは『1度見たり聞いたりしたものを絶対に忘れない体質』じゃからな。いわゆる『完全記憶能力』じゃよ」
五十嵐は当然のように口にした。
それを聞いた空太は唖然としつつも思考を巡らせていた。
この男は果たして無能力と言っていいのかどうか。
操作と生成に囚われない新たな枠組みの能力と呼べるのでは、と。
しかし、五十嵐には空太の考えはお見通しである。
表情や目の動きだけで考えを読み取る事が可能な五十嵐にとって、能力を使って隠蔽しない限り考えは筒抜けなのだ。
「確かにワシの完全記憶能力も超能力と言えるじゃろう。しかし、この世界において超能力とは操作能力と生成能力の事を指す。ワシの様な能力は超能力の枠の内に入れんのじゃよ。記憶力が超人的である、という言い方に収められるわけじゃな」
「お前は一体何なんだ……?知識の柱って何だ?」
「それも含めて、ワシの部屋で話そう。ついてきなさい」
五十嵐はそう言うと背を向けて歩いて行った。
一切の警戒が無い。
この男は今完全に油断している。
殺そうと思えば殺せる。
なるほどな……
黙って見ていたメアは確信した。
この男、自分は警戒しないからお前達もそうしろ、と言いたいのだろう。
少し癪だが乗ってやろう。
メアは空太に視線を送り、先に行くよう促した。
空太は少し渋ったが、メアの前を歩き始めた。
五十嵐は入口とは正反対の壁を右手で押し込んだ。
何かのスイッチがあったのか、ゆっくりと壁がスライドしていく。
音はほとんど無く、近くで耳を澄まさなければ聞こえない程だ。
壁の先には土壁で囲まれた下り階段が続いており、壁に掛けられたランプが微かに階段を照らしていた。
想像以上に長い階段を下り終えると、正面に現れた扉が目に入った。
異様な光景だった。
茶色で古代的な土壁の中に、白く近代的な自動扉が目の前にある光景が。
空太もメアもお互いの表情を確認する。
五十嵐は後ろを振り返って2人の存在を確認すると、扉に懐から取り出したカードキーをかざして扉を開いた。
「さあ、入ってくれ。そこの椅子に腰掛けてもらって構わない」
「これは……」
「なんとも近代的じゃのう……」
壁、床、天井ともに眩しい程の白。
電力はどこから引っ張ってきているのか分からないが、電球もある。
また、部屋の隅々に研究に使うような装置が並んでいた。
まさに現代の研究室のイメージそのものである。
空太とメアは促されるまま、これまた白い椅子に腰掛けた。
五十嵐は紅茶を入れ、2人の前に差し出す。
毒を入れるような無粋な真似はしてこないであろう。
メアは紅茶を1口飲んで五十嵐の目を見た。
「さて、話してもらうぞ。お主の事も知識の柱とやらの事もな」
「もちろんそのつもりじゃよ。ワシは元々の使命を果たさなければならないからな。これも説明するさ」
五十嵐も空太達の向かい側の椅子に腰を下ろした。
自ら淹れた紅茶を一気に飲み干し、丁寧にカップをさらに置く。
「改めて、ワシの名は五十嵐。名は語らぬ。知識の柱・第5柱にしてこの《竜王の洞窟》の管理者という立場のそこらの無能力者じゃ。この地下100階、解放の間にて選ばれし者が現れる時を500年と待っておった」
「500年!? じゃあお前は一体何歳なんだよ!」
「外見は凍結しておる故若々しいんじゃが、年齢はもうすぐ720歳になるな。この世界において最も優れた頭脳を持つ6人、知識の柱の1柱、第5柱の称号を与えられて600年と経つ」
全く理解が追いつかない。
この男は様々な意味で人間を凌駕している。
寿命だけでない、この付近に食料すら無いのだ。
飲まず食わずで500年、この場所に居座り続けてきたのか……?
空太は見れば誰でも分かる程動揺していた。
それは五十嵐はもちろんメアも気付いていた。
「空太、そう難しく考えるでない。大方、寿命を操作出来る能力者がいるのじゃろう。非人道的ではあるがのう?」
「その通りじゃ。ついでに言えば身体の状態も凍結されておる故、飢えも感じない。ただの人形じゃよ。して、ワシの使命について説明しようか。知識の柱は少し頭の切れる輩の集まりじゃ」
まだ理解が追いついていないというのに五十嵐は話を進めていく。
どうやらメアは理解しているらしいので、後々分からなかったところはメア先生に聞くとしよう。
この五十嵐という男が700年も生き、食糧も必要としない化け物なのはよく分かった。
後、頭が良いという事も。
「その解釈で完璧じゃよ。と、ワシの目的じゃな。ワシはこの洞窟の主《七竜・火炎竜》を破り、この解放の間に辿り着いた者に力を授ける事が使命である。と言っても、今回の君達は特殊な例じゃがな。黒いスライムによって殺害された火炎竜、のう……」
「大体は理解した。が、何故この洞窟の地下に待ち構えておる。大層な力を隠している様じゃが、何が狙いじゃ」
「えぇ、本来存在しないルールを取り払うだけじゃよ。この意味を貴方なら分かるじゃろう、メア王女?」
「ッ!ヤツが関係あるのか……ッ!」
五十嵐はメアの事を知っている……?
ヤツと言うのは、メアが追う敵の事か……?
そして、それを撃ち破る術を五十嵐は持っていると言うのか……?
メアの目の色が変わった。
あれは本気の目だ。
メアには絶好のチャンスであろう。
「教えてやろう。世界にねじ込まれた不当な理、それを破る術を。『能力には代償が必要である』という元々存在しなかったルールを無効化する方法を!」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる