記憶の穴

春薇-Harura-

文字の大きさ
1 / 4

僕の記憶

しおりを挟む
走った、僕はただ走り続けた。

「どうして…どうして…っ」

涙で目が見えづらくても、足が絡まり転けても、息苦しくても、ただただ走り続ける。

たどり着いた路地、そこは薄暗く風が何もかもを冷やすのように冷たい。
僕はそこに倒れるように座り込んだ。
朦朧とする意識の中、小さく呟く

「…ママ…パパ…」

手足の感覚が無くなり、何故か睡魔が来て瞼が重くなる。

助けを呼ぶにも声は出なく、口すら半開きのまま動かない。

これが死ぬって事かな…

重い瞼を閉じ、僕は眠りについた___…。




































「…~…~、~…~…。~…?」

「…~、~…~~、~…~。」

誰かの、声が聞こえる…

話し声が聞こえた。
はっきりとは聞こえないけど会話だ。
その声が誰の声か知りたくて、僕はゆっくりと目を開けた。

「目が覚めたよ…!」

「本当だ…おはよう」

そこには見知らぬ40代くらいの男女。
どうやらここは家のようだ、柔らかい感覚、僕はベッドの上にいる。
2人の顔を交互に見て、誰かと聞こうとするが…

「…だ…ぁ、あ…っ」

上手く声が出ず喋れなかった。

「無理に喋らなくてもいい…ほら、暖かいミルクだ」

柔らかく微笑む男は優しく僕に声をかけ、真っ白なコップに湯気が立ち、ほのかに甘い香りのするホットミルクを飲ませてくれた。

…美味しい。もっと飲みたい、自分で…

でも、まだ手は動かない
重い石が乗っているかのようにずしりと手に重みを感じた。

僕が少し飲みコップから顔を離すと男はコップを近くのテーブルの上に置き

「君、大丈夫か?せめて名前が分かれば…」

と、僕に優しく問いかけ、重く動かない手に男の手を重ねてきた。

「…ぼ…ぼ、くは…」

まだ出づらいが、少し声を発する事ができた。

「…君の、名前は?」

「ぼ、くは…僕、は…僕は…?」


ー分からない、自分の名前が。ー


頭の中が真っ白だ。
覚えているのは、ついさっき目覚めた時からの出来事だけ。

「僕は…誰…?誰…なの…?」

思い出そうとするが分からない、何も。
自分の名前、歳、生まれた日、家族や友達の名前と顔、全部、全部。

「…分からない…僕は…誰…だ、れ…ダ…レ…ッ、ぁ…ぁあぁっ…!」

急に何かで殴られたかのような痛みが頭全体に走り、僕は両手で頭を抑え蹲った。

「君もしかして…記憶がないのかい?」

「記憶…き、おく…分から、ない…僕は、誰…僕は…?記憶、が…ない…?」

僕は目覚めたこの日、これまでの事、全てを忘れていた。


僕は、記憶を無くした___…。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語

kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。 率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。 一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。 己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。 が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。 志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。 遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。 その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。 しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...