傍へで果報はまどろんで ―真白の忌み仔とやさしい夜の住人たち―

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さあ、目を覚まして

「こんな、近くにいたんだね」

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 身を起こした刹貴は、才津に抱かれた仔どもを振り返る。『出来ればこんな終わりには、したくなかったが。  すまんな。辛かったろう』

 酷薄な雰囲気は薄れ、仔どもの髪を撫でる手はただ仔どもを案じていた。刹貴は自分の不甲斐なさを責めていた。

「ううん」

 仔どもは彼の言葉を否定する。彼らが気に病む必要なんてない。

 恐れは確かにあったけれど、それは刹貴らの心強さの上をいくものではなかったのだ。

 怯えるばかりの父。仔どもに対しては大きく出ていた彼だったが、そんな様子はもう微塵もない。あれだけ仔どもにとって恐怖だったにも拘らず、そして今でも変わらず恐怖にも拘わらず、むしろ彼のほうが仔どもに怯えているように叫んでいた。

 殺せと、そういうことで救われるかのように。

 でも。

 彼は、本当に、どう足掻いても仔どもを憎むのか。それだけが哀しくて淋しくて、痛い。

 鼓動の近くに凝るものを感じた。それは熱く、苛烈なもので、ともすれば破裂しそうなのを、唇を噛むことで押さえつける。

 じわりと目端に浮かぶものがあって、仔どもは乱暴にそれを振り払った。気づいた才津が仔どもを刹貴の腕のなかへ戻す。『俺には子守りはむかんようだ』

 刹貴は苦笑し、腕の中でうずくまっている仔どもに向けて、

『よくがんばったな』

 短く、けれど優しい声で、ねぎらった。

『見ろ。お前を愛そうと思って、しかし叶わなかった男だ。
 お前はこれから、たとえ父親に疎まれていたとしたってその認識の上で歩いていかねばならないけれど』

 刹貴に促されて、仔ども埋めていた顔を上げる。随分と長いあいだ会わずに来た。その間に父は老けていた。髪には白いものの割合が増え、皺も深くなった。父は変わった。仔どもも成長した。けれど永い時の隔絶は、父が仔どもを認めるまでにはならなかったらしい。それどころかより溝は深く、広くなった気がする。

 けれど。今の刹貴の言葉で、仔どもは不意に胸にひとつの火が点るのを感じた。

「父さまは、好きになって、くれようと、した」

 繰り返し、仔どもはわずかに強張った頬に笑みを乗せた。

 怖くて堪らなくて、もしかしたら、一生分かり合えないままかもしれないけれど。

「だったら。あたし、諦めないよ。がんばって、みるよ。だいじょうぶ。人間、大っ嫌いな千穿、だって。あたしを、すこしは、好きになってくれた、でしょう」

 千穿は憮然とした顔を作った。ふいと顔を背けたのを見て、おかしくなる。空と顔を見合わせて、少し笑った。

 好きになれぬでもいい、親子に戻れぬでもいい。ままならぬものはきっとある。それでも一度、彼の前に立ってみよう、逸らし続けた目を、向けてみよう。

 ひどく重たい身体を、すべて刹貴に預けてしまった。しゃべるのも面倒な作業になってきたけれど、何とか続ける。

「刹貴が、言ってたこと、も、分かった、し」

 刹貴の虚言でもなんでもなく、その人は、いたのだ。

「空の言っていたことも、ほんと、だった」

 刹貴の着物を引いて、促す。何も言わずともそのこころの内を刹貴は了解してくれていて、目的の場所に連れて行ってくれた。

「こんな、近くにいたんだね」

 昏々と眠っている自身のそばに、いてくれたひと。言葉も、こころも交わさなかった。
 けれど思い出せば思い出すほど、誰もが仔どもを認知しないなかで彼女だけは、ただ淡々とそこにいた。

「小姫、」

 見えないけれど、呼んでくれるのだ。今はまだ触れられない人に、仔どもはそっと呼びかけた。

「もうすぐ、帰るよ」

 死んだりなんてしない。
 もうあたしはそんなに弱くない。
 だからもうすこし、待っていて。



               意識が、闇の中に落ち込んだ。
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