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1章
2話(あんぱん)
しおりを挟む休んでいた2週間分のノートは、私の友人がコピーして見せてくれた。ノートの端には、私を励ますようなメッセージやかわいい動物のイラストが描かれており、私は妙に泣きたくなった。
心配してくれる人や、大事にしてくれる人、愛してくれる人がいるときっと人間は強くなれる。と、どこかの文献で読んだことを思い出す。その言葉は間違ってはいないだろう。姉は愛される人物だった。誰にでも優しく、愛嬌のある女。平沢湊士以外にも姉に好意を持っている男子生徒は多かったのではないだろうか。
比較がなかったと言えば、嘘になる。
私はいつも姉に憧れていたし、姉のようになりたいと思っていた。艶があり枝毛ひとつすら見当たらないストレートの髪を靡かせる姉と違い、私の髪はただ黒いだけのものだ。手入れしても真っ直ぐには戻ってくれない。お互い父と母、別の人物から似たのだろう。.......容姿はともかく、私が一番姉を羨ましいと思っていたのは、美術の才能だ。
私たち.......私と、姉と、平沢湊士は美術部だった。きっと2人は、部活で出会って心を惹かれあったのだろう。姉の美しい容姿と心を写したかのような美術作品を平沢湊士はとても愛していた。私はそれを知っている。私にそんな才能があったなら平沢湊士は私を選んだのだろうか。なんとなく、それは有り得ないような気がしている。確証があるわけでもなんでもないのだが。
「ねぇ、千秋」
「……え?ごめん、なに?」
書き終わったノートを見つめながらぼうっとしていると、前の席から声を掛けられる。彼女こそ、私にノートを貸してくれた友人だ。
茶色な髪を頭のてっぺんでお団子にした、少し派手目な女の子。このクラスで出会った当初は、私と住む世界が違うなと話すこともなかったが、簡単なきっかけから仲良くなった。彼女はとても思いやりのある子だ。慈愛に満ちた笑顔は可愛く、いつも私の心を癒してくれる。今回も、わざと明るく振る舞う彼女に感謝すべきなのだ。.......けれど、やっぱりまだ、そこまで心の整理がつかない。
そんな私の心情に気づいているのか否か、私の顔を見て困ったように眉を下げながら「ごめんね」と呟いた。
「.......え?なにが、.......」
「ごめん、私、どうやって千秋と話したらいいのかまだ分かってないんだ。いつも通りにしていいのか、それとも…」
言い終わり、目を背ける友人。
私は、なんだか申し訳なくなって、友人の手を握った。
「ありがとう、そこまで考えてくれて。普通にしてくれるのが、今は…一番安心出来る、かな」
「.......そっか!分かった。そうするね」
私の手を握り返して、ほっとしたようにいつものような可愛い笑顔を向けてくれる友人。今日1日で、初めて心に柔らかいものが広がるのを感じた。
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