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ヒロインの心情
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翌日はサークルの練習日だった。美紗は、そわそわと部室棟に向かった。
練習用の部屋から、ギターの音が聞こえてきた。中をのぞく。いつかと同じように、史朗が一人でギターを弾いていた。
美紗の心は複雑だった。史朗と英利花の関係を知りたくて仕方がない。聞かずにいたい。史朗の顔を、見たい。見たくない。
美紗は扉を開けた。
「ああ、お疲れ」
史朗は普段と変わらなかった。美紗は居場所に困った。
「お疲れさま」
史朗に近寄ろうとして、ためらった。
「どうかした?」
史朗が不思議そうに問いかけた。美紗は弾みで聞いてしまった。
「ううん……そう言えば、英利花とはどんな感じ?」
「どんなっていうか、うん」
史朗の返答は曖昧だった。
二人の間には、はぐらかすべき何かがある。つまり、二人は付き合っている。
美紗は決め付けた。ショックを受けている自分に気付いた。落胆が、もうひとつの確信を形作った。
やっぱり私、史朗くんが好きだったんだ。
史朗が、ぴぃん、と弦を弾いた。音が消えると、ぽつりと言った。
「振られた」
「えっ?」
「告白したんだけどさ、昨日。友達としか思えないって」
史朗は、ぼそぼそと打ち明けた。照れ隠しに少し笑ったようだ。
美紗は、笑えなかった。英利花と史朗は、付き合っていたわけではなかった。
不思議と、嬉しいとは思わなかった。それどころか、当てが外れた気さえした。
英利花に、どうして史朗に恋をしなかったのかと問いたかった。
美紗がレモンイエローのスカートを手に入れたとき、それは英利花には、もはや特別なものではなくなっていた。美紗が史朗に対する恋心に気付いたとき、英利花は彼への恋を否定した。
いつだって英利花は、美紗の持っていないものを持っている。美紗が欲しくて手にできないそれを、簡単に手放しさえしてしまう。
美紗はずっと、英利花に羨望の眼差しを向けてきた。その英利花から、憧れられてみたかった。憧れられる自分を持ちたかった。
英利花はなにも、美紗に憧れられるためではなく、自分の信念に従って生きているだけである。そんな当たり前のことさえ、美紗は知ったことではない。
英利花はいつだって、私の欲しいものを持っている。持っていない私に見せつけて、華やかなヒロインを演じている。
これが、美紗にとっての真実だった。
相変わらず、美紗の人生には英利花というヒロインがいる。そして目の前には、ヒロインに失恋した男がいる。
「そうだったんだ、ごめん、全然知らなくって」
気の毒そうに、あくまで女友達らしく、美紗は振る舞った。
「史朗くん、いい人なのに、英利花ももったいないことするよ」
つかつかと史朗に近づいて、顔をのぞき込む。にこっと笑って見せた。史朗は慌てて顔を離した。
英利花もこうやって、史朗に恋をさせたのだろうか。
美紗は、史朗の好意が欲しくなった。手に入れて、英利花に報告したかった。
英利花は何と言うだろう。おめでとう、と喜んで見せるだろうか? 英利花に向いていた情熱が、あっという間に美紗のものになってしまっては、心の中では少しは悔しく思うはずだ。
美紗は、史朗との未来をも想像した。
デートに誘われたら、何を着て行こう。衣装ケースの奥に眠らせた、レモンイエローのスカート? それとも……。
こんなデートを思い描く。ある日曜日、二人はCDショップの洋楽コーナーで、仲良く肩を並べている。史朗の隣で美紗は、ベージュのワンピースに身を包んでいる。
練習用の部屋から、ギターの音が聞こえてきた。中をのぞく。いつかと同じように、史朗が一人でギターを弾いていた。
美紗の心は複雑だった。史朗と英利花の関係を知りたくて仕方がない。聞かずにいたい。史朗の顔を、見たい。見たくない。
美紗は扉を開けた。
「ああ、お疲れ」
史朗は普段と変わらなかった。美紗は居場所に困った。
「お疲れさま」
史朗に近寄ろうとして、ためらった。
「どうかした?」
史朗が不思議そうに問いかけた。美紗は弾みで聞いてしまった。
「ううん……そう言えば、英利花とはどんな感じ?」
「どんなっていうか、うん」
史朗の返答は曖昧だった。
二人の間には、はぐらかすべき何かがある。つまり、二人は付き合っている。
美紗は決め付けた。ショックを受けている自分に気付いた。落胆が、もうひとつの確信を形作った。
やっぱり私、史朗くんが好きだったんだ。
史朗が、ぴぃん、と弦を弾いた。音が消えると、ぽつりと言った。
「振られた」
「えっ?」
「告白したんだけどさ、昨日。友達としか思えないって」
史朗は、ぼそぼそと打ち明けた。照れ隠しに少し笑ったようだ。
美紗は、笑えなかった。英利花と史朗は、付き合っていたわけではなかった。
不思議と、嬉しいとは思わなかった。それどころか、当てが外れた気さえした。
英利花に、どうして史朗に恋をしなかったのかと問いたかった。
美紗がレモンイエローのスカートを手に入れたとき、それは英利花には、もはや特別なものではなくなっていた。美紗が史朗に対する恋心に気付いたとき、英利花は彼への恋を否定した。
いつだって英利花は、美紗の持っていないものを持っている。美紗が欲しくて手にできないそれを、簡単に手放しさえしてしまう。
美紗はずっと、英利花に羨望の眼差しを向けてきた。その英利花から、憧れられてみたかった。憧れられる自分を持ちたかった。
英利花はなにも、美紗に憧れられるためではなく、自分の信念に従って生きているだけである。そんな当たり前のことさえ、美紗は知ったことではない。
英利花はいつだって、私の欲しいものを持っている。持っていない私に見せつけて、華やかなヒロインを演じている。
これが、美紗にとっての真実だった。
相変わらず、美紗の人生には英利花というヒロインがいる。そして目の前には、ヒロインに失恋した男がいる。
「そうだったんだ、ごめん、全然知らなくって」
気の毒そうに、あくまで女友達らしく、美紗は振る舞った。
「史朗くん、いい人なのに、英利花ももったいないことするよ」
つかつかと史朗に近づいて、顔をのぞき込む。にこっと笑って見せた。史朗は慌てて顔を離した。
英利花もこうやって、史朗に恋をさせたのだろうか。
美紗は、史朗の好意が欲しくなった。手に入れて、英利花に報告したかった。
英利花は何と言うだろう。おめでとう、と喜んで見せるだろうか? 英利花に向いていた情熱が、あっという間に美紗のものになってしまっては、心の中では少しは悔しく思うはずだ。
美紗は、史朗との未来をも想像した。
デートに誘われたら、何を着て行こう。衣装ケースの奥に眠らせた、レモンイエローのスカート? それとも……。
こんなデートを思い描く。ある日曜日、二人はCDショップの洋楽コーナーで、仲良く肩を並べている。史朗の隣で美紗は、ベージュのワンピースに身を包んでいる。
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