書庫の幽霊王妃は、貴方を愛することができない。

鈴木べにこ

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一章、終わりのはじまり編

3.失敗するとなんとなく予見はしていた

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〈ローズside〉


「うわっ!くど!」


 60年ぶりにみたクローゼットルームの中は派手でケバくてくどいデザインのドレスばかりだった。
 ここからもっと派手になるから、以前の私のセンスの悪さにドン引きする。


「(こんな服で家出なんかしたら目立つじゃない!即連れ戻されるわよ!)」


 家出の計画を考えてる途中で服装について嫌な予感がした。
 自分のクローゼットルームを開けると案の定、まともな服がなかった。
 見るからに金持ちのわがまま令嬢らしいドレスだらけ。
 しかも赤ばっか・・・。
 髪も目も紅でドレスも赤とかバカじゃないの!?
 血塗れと同じじゃない!
 

「(せめて1着ぐらい白とか黒とか落ち着いた色のドレス持っときなさいよ!)」


 白も黒も似合わないだろうけど!
 赤はもういい!赤は!


「(私のバカ!)」


 以前は大好きだったクローゼットも、書庫に監禁された人生を送っていた私にはただ懐かしいだけで、あんなに大好きだったフリルいっぱいのドレスも肌触りのいいハンカチもキラキラゴテゴテの宝石も今の私には何の魅力も感じない。
 むしろクローゼットの中身に頭を抱えたくなった。


「お嬢様どうかしましたか?」


 ニイナや他のメイド達がクローゼットで突っ立っている私の様子を伺っている。

 彼女達はまさか私が家出の計画を立ててるなんて思わないだろう。 
 悟られるわけにはいかない。
 絶対止められるから。


「なんでもないわ。」


 家出に適した、否!平民に混じっても違和感ない服を探さないと!

 
「(メイド服でも盗もうかしら?)」


 いや、そんな事をしたらメイド服の持ち主の子に迷惑をかけるかもしれないからやめた方がいいわね。


「(シンプルな子ども用の服をどうすれば・・・。)」


 思考を巡らせる私。
 でもバカで元の性格が悪いからどこかからか盗んで来る考えしか浮かばない。


「(ハッ!・・・アイリス!)」


 ふと、一つ下の異父妹のアイリスのことが頭に浮かんだ。

 アイリスは金髪とアメジストの紫の瞳で天使の様に美しいと評判の美少女だけど、中身は悪魔で私とお母様そっくりの性悪女だ。
 第一印象は良いけれど第二印象は最悪の残念美少女で、アイリスのギャップに耐えられなくて辞めて行く使用人は数知れず・・・。

 ちなみに私はお母様に瓜二つの美人とか言われているけど派手でキツめな容姿で、アイリスは父親であるお母様の愛人ベンさんにそっくりで、一見天使のような優しそうでピュアな性格に見える。
 だけど、実際のアイリスはわがままで意地悪で派手好き。
 流石は私の妹って感じよね。

 つまりアイリスは監禁される以前の私と趣味が一緒って事。

 アイリスは派手で煌びやかでゴージャスな私のクローゼットにあるようなドレスや小物を好んだの。

 お母様は私に厳しく、アイリスには優しくてとても甘かったけど、派手な物をアイリスに買い与えることだけは決してなかった。
 それは何故かというと・・・。

 アイリスに派手な物が全く似合わなかったから。

 お母様はアイリスを甘やかして贔屓していたけど、アイリスがどんなに望んで癇癪を起こして暴れたとしても、派手で華美な物を絶対に与えることはなかった。
 お母様がそうしなかった理由は、悪い意味でのギャップは何よりも評判をさらに悪くする恐れがあるかららしい。

 清楚可憐な天使に見えるアイリスが派手でゴージャスなゴテゴテした真っ赤なドレスを堂々と着ていたら?
 『え?実はわがまま令嬢タイプ?優しそうな容姿に騙されるとこだったわー!残念!』
 と思われてアイリスの性格をあまり知らなくても、容姿とドレスのギャップだけで私に抱く印象よりも悪く思われるのだ。

 ちなみに私が派手で真っ赤なドレスを着た場合『派手なドレスが容姿に合うね。見た目通り絶対性格もキツイんだろうね。』と単純に見た目通りと思われて終わり。

 そんな感じでお母様の考えにより、アイリスは趣味とは違うシンプルで綺麗で清楚な可愛い服や小物しか持つことを許されなかった。

 だからよくアイリスは私の物を欲しがって喧嘩したの。

 と言うことで、絶対シンプルな服を持っているであろうアイリスに服をもらいに行くとしますか!


「アイリス!アンタの地味な服、じゃない・・・アンタが持ってる中で1番シンプルな服を私に寄こしなさい!」

「はぁ?」


 可愛い顔を不機嫌を隠さず歪ませるアイリス。
 やっぱりまぁまぁ嫌いじゃなくて大嫌いだわー。
 実の妹だけど全く可愛くない。
 

「なんでお姉様なんかに私の服を取られなきゃいけないのよ!お母様にイジメられたって言いつけてやるっ!」

「なんでそこでお母様に言いつける必要があるのよっ!」


 アイリスは自分がお母様に贔屓されている自覚があるからそれを最大限に利用して、姉である私がお母様から怒鳴られることがしょっちゅうだった。

 お母様は自分と瓜二つの娘より、愛人にそっくりな娘が可愛かったみたいで、以前の子どもの私はそれが羨ましく思っていた。

 その思いが後に、あの男に愛されたいと空回りする要因の一端になるのだけれど・・・。


「別にパーティー用のドレスをアンタから奪おうなんて思ってなくて、ただアンタでも着ないような普段着用で尚且つシンプルなデザインの服が必要なのよ!だからお願い私に何枚か頂戴!」

「絶対にイヤ!出てってよ!お母様呼ぶわよ!」


 アイリスを引っ叩きたくなったけど私は自分を抑える。
 流石私の妹と言うべきか、自分の趣味じゃない服だとしても他人に取られるなんて嫌みたい。
 粘りたいとこだけど、お母様を呼ばれてめんどくさくなるのは困る。
 だけど、早くこの家から出てあの男と関わらない人生を送りたい。


「(アイリスは私のクローゼットにあるような服が好きなのよね?)」


 ある案が浮かびダメ元で言ってみる事にした。


「交換なんてどう?」

「は?」

「私の服とアンタの服を交換するのよ。アンタの好きなドレスでも小物でもなんでも選んでいいから。どう?」


 私達姉妹は常に奪うか奪われるかの関係だったから、アイリスに初めて交換を持ちかけてみる。

 アイリスは一瞬私を疑うように眉をひそめた後、少し考えるようにじっと私を見つめると口を開いた。


「じゃあ・・・お姉様の新しいドレスと交換ならいいわよ。」


 私のクローゼットの中のドレスは新しいドレスばかりだけど、多分アイリスが言っているドレスは私が4日後に着るためにオーダーメイドで作らせたドレスのことだと思う。

 上質な真っ赤な布にこれでもかと言うぐらいフリルと宝石が散りばめられた超高級ドレス。
 クローゼットにあるドレスの中で1番高く、私の1番のお気に入りだったドレス。
 当時の私が婚約者の王子と初対面の日に私の誕生日と婚約発表会を同時にやるもんだから、私とお母様の力の入れようが表れているドレス。

 今の私にとってあの男との最悪の出会いという思い出が詰まったトラウマドレスとなってしまった。


「もちろんいいわよ!」


 私はニカッと笑った。


「ホントぉ!?じゃあじゃあ、あの胸元がハートになってるドレスもいい?」

「いいわよ!後3枚好きなドレスを選びなさい。(そんなドレスあった?)」

「やったー!交換するー!」


 妹が初めて私に笑いかけてくれた。
 アイリスのこと大嫌いだけど、可愛い顔で笑いかけてくれると嬉しく思ってしまう。


「アンタ父親似で良かったわね。」

「は?」


 私のいらない一言でアイリスはまた不機嫌になったけど、直ぐにバタバタと走って部屋から出て私のクローゼットルームにドレスを選びにいった。


「お嬢様、新しいドレスでしたら直ぐにデザイナーを呼んで作らせますが・・・。」


 私とアイリスの会話を聞いていた長く屋敷に勤めているメイドのメルバが私に伺うように声をかけてきた。
  

「呼ばなくていいわよ。たまには妹と仲良く服を交換したい気分だったから。」


 私がそう言うとメルバがビクッと目を見開いて驚いたけど、そんなに驚くこと?
 
 そして私は初めて妹のクローゼットルームに入った。


「かわいいー!すっごいかわいいじゃない!」


 赤ばかりの私のクローゼットとは違い、白やパステルカラーのドレスや小物のかわいいで溢れてる素晴らしいクローゼットルーム。


「中身ごと交換しろ!」


 つい口から本音が出てしまった。
 長年の監禁生活は趣味まで変えてしまうから恐ろしい。


「アイリスお嬢様のクローゼットはかわいいですね~。ローズお嬢様のクローゼットなんてくど・・・なんでもないですぅ~アハハハハ!」


 ニイナからも本音が出てしまう。
 今の私で良かったわねニイナ。


「(平民に紛れるには綺麗すぎる服だけど、家出にはいいわね。)」


 こうして私はシンプルで動きやすいデザインの服5着を手に入れた。


「(後は食料と金品をまとめて真夜中に屋敷を出て逃げ切れば自由よ!)」


 そして私は厨房へ向かった。

 私の姿を見た料理長が「ヒィ!ローズお嬢様!」って震え上がったんだけど、私ってそんなに怖い?
 自分の行いのせいだけどちょっと悲しくなった。

 
 







 


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