射れ変わりの法則

金棒ぬめぬめ

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第1章:夏休み

第4話 真夜中の急接近。

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 なんだか、久しぶりに真面まともな食事をした気がする。片づけと歯磨きを済ませ、まったりとした時間を過ごす。時刻が二十一時になろうというとき、芽衣めいの様子がなんだかおかしくなってきた。ソワソワし出したかと思えば、しきりに時計を気にしている。


「どうかした?」
「あの……お、お風呂って、どこにありますか?」
「風呂? このアパートは風呂なしだけど」
「そ、そうなんですかっ」


 芽衣は本気で驚いたようだ。俺は二、三日入らなくても平気だが、年頃としごろの女の子にとってはつらいことかもしれない。あらかじめ共同トイレの場所は、「外の階段を降りていったところの右側、云々うんぬん……」と説明はしていたが、それと同じ感覚で、風呂場もどこかにあるのだろうと思っていたらしい。


「いつもは銭湯を使っているんだけど。ここから一番近いところは、もう閉まっちゃってる」スマホで検索し、その画面を芽衣に見せた。「次に近いところは……二キロぐらいあるけど、どうする? 行こうか?」


「……い、いえ。大丈夫です」


「そう……?」つき合わせるのを躊躇ためらったのか、それとも二キロ(三十分くらい?)を歩くのが面倒なのか、芽衣はそれ以上なにも言わなかった。もっと早く言えばよかったと、俺は謝る。「気づいてあげられなくて、ごめんね。お風呂は、明日あした行こう」


 芽衣は小さくうなずいた。それからもう一つあるようで、なにかを伝えようと口をパクパクさせている。周囲をキョロキョロと見回し、困ったような顔になった。なにか探しているのか? 風呂なら本当にないぞ。


「あ、あの……着替えたいんですけど」
「どうぞ」
 芽衣の申し出に、俺は即答した。


「あ……」自分の気持ちを上手うまく伝えられずに、芽衣は戸惑った表情を見せる。可愛い。「へ、部屋から、出ててもらえますか」


「ああ、そういうことね」
 知ってた。


 隠れ場所を探したが、ワンルームではどうしたって見えてしまう。それで意を決して「Get out!」と声を上げたのだろう。叔父おじさん悲しい、信用なくて。だけど、その判断は正しい。俺は重い腰を上げ、外に出る。少しでも衣擦きぬずれの音が聞こえないだろうかと、ドアにぴったりと耳を押しつけた。


「痛っ!」


 ほどなくして、俺は激痛にもだえた。ガンっと頭に衝撃が加わったあと、中から「えっ」という驚きの声が聞こえる。半開きになったドアの向こうには、目を丸くした芽衣の姿が見えた。


「お、終わったから、呼ぼうと思って……ごめんなさい。一言ひとこと声をかけてから開けるべきでした」
「い、いや。大丈夫」


 ドアが全開になると、少し黄ばんだパジャマが目にまった。半袖のトップスにショートパンツ。夏らしくて可愛かわいいし、芽衣に似合っている。目に焼きついたパンツのがらと、同じキャラクターのようだ。サイズが合っていないのか、下に着ている真っ白なキャミソールがちらちらと見える。


 俺の視線に気づいたか、芽衣は耳朶みみたぶを真っ赤にし、両腕を抱きかかえるように隠そうとした。だが隠そうとしたのは下着なんかではなく、彼女的にはパジャマの使用感のほうが気になったようである。


「ごめんなさい。きたなくて」


 何度も芽衣は頭を下げた。謝ってばかりだな、この子は。いやいや、それにしても。確かに汚いが、よごれているほうがむしろ「いい」。使い古された感じが、俺の中の劣情をき立てる。それを誤魔化ごまかすように質問した。


「パジャマがあるってことは、初めから泊まるつもりだったの?」
「いえ……これはパパが用意してくれたもので、わたしは宿題を取り出そうと開いたときに、パジャマが入っているのに気づいたので……」だんだんと芽衣の声は小さくなっていく。「最初からそのつもりだったのかどうかは……」


 いや、初めからそのつもりじゃねーか! 俺は心の中でツッコミながら、芽衣の父親であり、俺の兄でもある男に親指を立てた。


 パジャマにも着替え終え、寝る準備は万端ばんたん整う。二十二時にもなると、芽衣はウトウトと頭を上下に動かし始めた。普段は規則正しい生活を送っているのだろう、夏休みとはいえ、夜遅くまで起きていた経験がないのかもしれない。


 卓袱台ちゃぶだいを挟んで横になったところで、芽衣に断りを入れて俺は電気を消した。もう寝ただろうか、小さな寝息が聞こえてくると、それに対して俺の心拍はどんどん早まり、眠るどころか脳が覚醒していく。一間七畳ひとまななじょうほどの部屋では、ほんのちょっと手を動かせば、身体からだに触れることができそうだった。


 少しだけ……ほんの少しだけ……


 暗闇に乗じて俺の右手は、芽衣の身体へだんだんと近づいていく。手が届くほどの距離に、女子小学生が眠っている。卓袱台の脚と脚の間から覗く人影が、もぞもぞと動く気配があった。俺の足下を移動するその人影は、そのまま玄関から外へ出ていく。トイレだろうか、五分ほどが経って戻ってくる。


 ふらついたかと思えば、畳のへりにでもつまづいたか、俺は咄嗟とっさ掛布団かけぶとんを広げて受け止める。布団の中にくるまった状態で、芽衣は寝息を立て始めた。


 慣れない場所にきて、疲れたのだろう。自分が生まれ育った環境とはまるで違う、風呂もない掃除も行き届いてないアパートでは、そりゃそうなるだろうなと納得する。ほとんど見ず知らずの叔父おっさんと二人ふたりきりとあっては、自分で言うのも悲しいけど気が抜けないのも確かだ。


 俺はスマホの時刻を確認する。午前零時れいじ。画面の光に照らされて、芽衣の可愛い寝顔が、はっきりと見て取れる。そっと頭をでたり、ぷにぷにと頬をつついてみたりしても、起きる素振りを見せなかった。上下のパジャマの隙間から見えるキャミソールをつまみ、それをわずかに上へずらすと綺麗きれいへそあらわになる。


 こんな美少女が近くにいて、なにもしないというのはどうやら無理のようで、俺のリビドーのリミッターは、もう限界寸前だった。
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