雪山の少女

金棒ぬめぬめ

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【前編】

第3話 遭難

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 目の前には、硬く、ゴツゴツとした、冷酷そうな岩肌が見えている。その手前で、俺の顔を覗き込む少女の、柔らかく、なめらかで、温かそうな肌が見えた。視界に入った光が明滅を繰り返し、岩肌に染み入る水滴や、しっとりとした少女の肌をきらめかせている。


 まだ状況を呑み込めていない中、ぱちぱちとぜる、小気味の良い音が耳に届く。そこで吹き込む風に煽られ、火が揺らめいていることに気がついた。ここは天国だろうか。それとも地獄だろうか。


「あ。起きた?」少女は安心したように微笑み、テンガのような持ちやすそうな形状をしたボトルを、バーテンダーよろしく振り始めた。ローションよりもドロドロとした白濁液が、雪の結晶よりも綺麗きれいなコップへと注がれていく。「うちの里特製の栄養剤。これ飲んだら元気になるよ」


 それを、俺の口元へと持ってくる。うぐっ。吐き出しそうになり、息を止める。顎から垂れた栄養剤が、下半身をすっぽり覆った寝袋に落ちた。それを追って視線も落とすと、焚火たきびの光に照らされて、肌色成分多めの、自分の上半身が目にまる。


 意識しだすと、寝袋のナイロン生地に直接触れている部分が、いつもより敏感に擦れている肌触りを覚え、自分が全裸であることを知った。死に直面して、なんという、欲望丸出しの夢を見ているのだろう。


「お洋服は乾かしてあるよ」


 不思議と、この空間に寒さは感じなかった。


 この子が、脱がせたのだろうか。いや、それよりも、この子がここまで運んでくれたのだろうか。雪原のど真ん中で倒れたはずで、間違っても洞窟の中ではなかった。こんな、華奢きゃしゃな子が?


 袖から伸びる色白い腕は、幼女にとって必要最低限の肉づきをしていた。細すぎず太すぎず、たんまり脂肪がついているわけでもなければ、筋肉質というわけでもない。脱いだらゴリマッチョとかではなさそうだ。


 俺の身体をまたいで、少女は仁王立ちする。はだけた着物の中には、パンツすら穿いていない。にわかに、着物の帯をほどき始める。色の白い内腿うちももから、つけ根までが、一直線に露わとなった。


「ちょっ」


 あまりにも突然のことで、思わず童貞根性丸出しの反応をさらし、咄嗟とっさに顔をそむけてしまう。ふぁさっという音を立て、寝袋の上に着物が落ちる。こんな真冬に、いったいどうして、全裸になる必要が?


 心臓が高鳴るにつれ、血行の巡りがよくなったのか、身体がポカポカとしてくる。目の端には、限りなく白に近い薄橙うすだいだいが、ちらちらと見え隠れした。ドギマギしている俺に、少女は、ぴたっと身を寄せてくる。


「びしゃびしゃの服だと、あったまんないから」


 雪小屋のエロ漫画で、よく見るシチュエーションだ。でも実際には、服を脱がないほうがいい、みたいな? ことを読んだ記憶もある。乾いた替えの服があればいいが、そんなものは持ち合わせていない。体温を奪われるから、濡れた服を脱ぐのはいいとして、替えがない現状で、裸のまま過ごすのは正解の選択か?


「そ、そんなことしたら風邪ひくよ? いや、それよりももっと大変な……」


「大丈夫。平気」


 そうか、大丈夫なのか。このときの俺は当然、理性的などではいられなかった。目の前には全裸の幼女、洞窟による冷気の遮断、かれた火、そして保温性の高い寝袋のおかげで、俺の身体は火照ほてり、雪山も忘れ、寝袋のチャックに手を伸ばす。


 ふたりで寝袋へ入り、お互いの身を寄せ合った。小さな手が、背中に回された。俺の鼻息で、彼女の髪の毛がなびく。チャックを内側から閉じると、より一層の熱気を帯び、雪山であることを完全に忘れた。サウナのような蒸気に混じり、彼女の芳香が鼻腔をくすぐる。


 ここが八寒地獄で、もうすぐ鬼に拷問されることになったとしても、今この瞬間が幸せなら、それでいい。俺は、そう思った。
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