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本、そして図書館について。『ほんはまっています のぞんでいます』より
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少し前に数年間、図書館で働いていた時期がありました。
配属されたのが運よくこどもの本に関する部署で、たくさんの本に触れることとそれらをお客さんに案内することがとても楽しく、重労働ではあるものの(本はかなり重いので)充実した日々でした。
諸事情により離れることとなりましたが、その時に触れた本についてこれから語りたいと思います。
まずは、前職つながりで図書館について語っている絵本を紹介します。
『ほんはまっています のぞんでいます』~かこさとししゃかいのほん~
かこさとし著(復刊ドットコム)
かこさとしさんと言えば、『だるまちゃんとてんぐちゃん』と『からすのパンやさん』シリーズでご存じの方は多いのではないでしょうか。
若い頃は人形劇や紙芝居制作に携わり、33歳の時に福音館から『だむのおじさんたち』が出版され、その後92歳で亡くなる直前まで子供のための本を多く生み出し作り続けておられました。
その仕事は多岐にわたり、物語だけではなく科学や社会について、子供に解るように、子供たちが興味を持ちやすいように色々な手法で絵本をつくられています。
科学について図鑑や教科書では理解しづらい子のために物語仕立てにしてみたり、視覚で印象深い構成にしてみたり。
しかし、かこさんの作品の数があまりにも多すぎて、私はとうとう在任中に全てに目を通すことができませんでした。
そんななか最も印象深かった本が、前述の『ほんはまっています のぞんでいます』です。
この十年ほどで、図書館の世の中での立ち位置が本来と違った方向へ進まされているように思います。
時代の流れなのか。
私の考えが古いのか。
どうしても、そうじゃないんだ。
図書館は・・・と言いたくなってしまうのです。
でも、自分の思う図書館とはと問われると、誰にでも理解できるような言葉を持たないと気づき、うなだれる日々でした。
そんな時、私の前に現れたのがこの本です。
『ほんはまっています のぞんでいます』
(これより、原文の引用を交えます)
本について、そして図書館について。
かこさんは、絵本を開いた人に語りかけます。
『あなたは ほんが すきですか。』
『よみたい ほんは ありますか。』(2頁)
加子さんの語りかけに、子供たちは肯定し時には反論します。
それに対し、
そうだね、そういうこともあるね。
でも、こうすればいいんじゃないかな。
と、かこさんと子供たちの討論のような形で展開していきます。
本は好きだけどお金がかかるでしょうと子供たちが言うと、
『おかねが なくても、ほんが よめるところが あります。いろいろなほんが ちゃんと そろっていて、よめるところが あります。』(8頁)
(中略)
『―――そこは としょかんです。』(9頁)
そして図書館とはどういう所なのか、どのように利用したらいいのか、優しい言葉で説明が続きます。
静かにしなければいけないし飲食禁止なのが堅苦しくて嫌ならば借りて自宅で読めばいいし、近くに図書館がないなら私設文庫や巡回図書館バスを探してみようよと、時には根気強くこんこんと。
しかし、この本の書き手はかこさとしさんです。
『からすのパンやさん』シリーズをすべて読まれている方はご存知とは思いますが、その演出と展開において、これほどロックな人はいません。
一筋縄ではいかない・・・と、物語を拝見するたびに唸ります。
なので、今回も衝撃の起承転結が用意されていました。
懇切丁寧に本について語り続けたというのに、相手は納得してくれない・・・と言う、転。
『だけどさーと、なかには いうひとが いるでしょう。
でもねーと、きっと ぐずくずいうひとが いるでしょう。』(29頁)
そして、大鉈を振るうかこさん・・・。
『わかりました。』
『あなたは
ほんを よみたいのか
よみたくないのか
どっちなんですか。
ほんを すきなのか
きらいなのか
どうなのですか。』(30頁)
正直なところ、この部分を初めて読んだときは震え上がりましたよ…。
子供たちなら、「先生がとうとう怒った・・・」って感じかな。
私なら多分、怖くてちょっと泣くと思います。
ぴしゃりと言い放ったところで、腰を据えて結論を述べます。
読みたくない人は無理に読まなくていいよ。
読みたくない時は元気に遊んだらいいんだと。
ただし、本が読みたくなったらどうしたらいいか、もうわかったよね?
と、これまで語ったことを反芻させる手腕はさすがと感服しました。
そして迎える結論。
すべてを引用して良いか非常に迷いましたが、この絵本の心臓ともいうべき文章なので、あえて記載します。
『ほんは いつまでも
いつまでも
まっています。』
『あなたが そばにきて
ほんを ひろげ、
なかに かいてあることを
よんでくれるのを
のぞんでいるのです』(31頁)
この絵本が作られたのは1980年代。
当時の世相に沿った説明なので、現在とはちょっと違う部分もありますが、本の存在と図書館の役割は変わらないと思います。
できれば、借りた本を読みながらアイスやチョコレートバーを食べたりするのは避けてほしいなあとと思ったりもしますが、まあそれは置いといて。
最後に32ページ目の後書きで、かこさんによる現在の日本の子供たちの読書、そして図書館の状況について問題提起がなされています。
この部分はとくに、行政や政治家のみなさんに読んで欲しいなあと思うのですが、かすりもしないから今の悲惨な現状があるわけで・・・。
なかなか難しいですね。
優しい言葉遣いと暖かくて可愛らしい挿絵についつい大人は油断しがちですが、けっこう端々にスパイスが利いているのが加古さんの作品の特徴だと思います。
子供の頃は純粋に楽しむだけで十分。
ついでに世の中の事を自然と覚えていくことでしょう。
大人になってからは、ハンマーで殴られたような衝撃を受けつつ、かこワールドにどっぷり浸かってください。
文章を綴れるのも、読んで楽しめるのも、人間ならではの能力で、権利でもあります。
たった一冊の本が、新たな世界へ連れて行ってくれることもあります。
だからとりあえず。
あなたの目に留まったその本を、今は開いてみませんか。
配属されたのが運よくこどもの本に関する部署で、たくさんの本に触れることとそれらをお客さんに案内することがとても楽しく、重労働ではあるものの(本はかなり重いので)充実した日々でした。
諸事情により離れることとなりましたが、その時に触れた本についてこれから語りたいと思います。
まずは、前職つながりで図書館について語っている絵本を紹介します。
『ほんはまっています のぞんでいます』~かこさとししゃかいのほん~
かこさとし著(復刊ドットコム)
かこさとしさんと言えば、『だるまちゃんとてんぐちゃん』と『からすのパンやさん』シリーズでご存じの方は多いのではないでしょうか。
若い頃は人形劇や紙芝居制作に携わり、33歳の時に福音館から『だむのおじさんたち』が出版され、その後92歳で亡くなる直前まで子供のための本を多く生み出し作り続けておられました。
その仕事は多岐にわたり、物語だけではなく科学や社会について、子供に解るように、子供たちが興味を持ちやすいように色々な手法で絵本をつくられています。
科学について図鑑や教科書では理解しづらい子のために物語仕立てにしてみたり、視覚で印象深い構成にしてみたり。
しかし、かこさんの作品の数があまりにも多すぎて、私はとうとう在任中に全てに目を通すことができませんでした。
そんななか最も印象深かった本が、前述の『ほんはまっています のぞんでいます』です。
この十年ほどで、図書館の世の中での立ち位置が本来と違った方向へ進まされているように思います。
時代の流れなのか。
私の考えが古いのか。
どうしても、そうじゃないんだ。
図書館は・・・と言いたくなってしまうのです。
でも、自分の思う図書館とはと問われると、誰にでも理解できるような言葉を持たないと気づき、うなだれる日々でした。
そんな時、私の前に現れたのがこの本です。
『ほんはまっています のぞんでいます』
(これより、原文の引用を交えます)
本について、そして図書館について。
かこさんは、絵本を開いた人に語りかけます。
『あなたは ほんが すきですか。』
『よみたい ほんは ありますか。』(2頁)
加子さんの語りかけに、子供たちは肯定し時には反論します。
それに対し、
そうだね、そういうこともあるね。
でも、こうすればいいんじゃないかな。
と、かこさんと子供たちの討論のような形で展開していきます。
本は好きだけどお金がかかるでしょうと子供たちが言うと、
『おかねが なくても、ほんが よめるところが あります。いろいろなほんが ちゃんと そろっていて、よめるところが あります。』(8頁)
(中略)
『―――そこは としょかんです。』(9頁)
そして図書館とはどういう所なのか、どのように利用したらいいのか、優しい言葉で説明が続きます。
静かにしなければいけないし飲食禁止なのが堅苦しくて嫌ならば借りて自宅で読めばいいし、近くに図書館がないなら私設文庫や巡回図書館バスを探してみようよと、時には根気強くこんこんと。
しかし、この本の書き手はかこさとしさんです。
『からすのパンやさん』シリーズをすべて読まれている方はご存知とは思いますが、その演出と展開において、これほどロックな人はいません。
一筋縄ではいかない・・・と、物語を拝見するたびに唸ります。
なので、今回も衝撃の起承転結が用意されていました。
懇切丁寧に本について語り続けたというのに、相手は納得してくれない・・・と言う、転。
『だけどさーと、なかには いうひとが いるでしょう。
でもねーと、きっと ぐずくずいうひとが いるでしょう。』(29頁)
そして、大鉈を振るうかこさん・・・。
『わかりました。』
『あなたは
ほんを よみたいのか
よみたくないのか
どっちなんですか。
ほんを すきなのか
きらいなのか
どうなのですか。』(30頁)
正直なところ、この部分を初めて読んだときは震え上がりましたよ…。
子供たちなら、「先生がとうとう怒った・・・」って感じかな。
私なら多分、怖くてちょっと泣くと思います。
ぴしゃりと言い放ったところで、腰を据えて結論を述べます。
読みたくない人は無理に読まなくていいよ。
読みたくない時は元気に遊んだらいいんだと。
ただし、本が読みたくなったらどうしたらいいか、もうわかったよね?
と、これまで語ったことを反芻させる手腕はさすがと感服しました。
そして迎える結論。
すべてを引用して良いか非常に迷いましたが、この絵本の心臓ともいうべき文章なので、あえて記載します。
『ほんは いつまでも
いつまでも
まっています。』
『あなたが そばにきて
ほんを ひろげ、
なかに かいてあることを
よんでくれるのを
のぞんでいるのです』(31頁)
この絵本が作られたのは1980年代。
当時の世相に沿った説明なので、現在とはちょっと違う部分もありますが、本の存在と図書館の役割は変わらないと思います。
できれば、借りた本を読みながらアイスやチョコレートバーを食べたりするのは避けてほしいなあとと思ったりもしますが、まあそれは置いといて。
最後に32ページ目の後書きで、かこさんによる現在の日本の子供たちの読書、そして図書館の状況について問題提起がなされています。
この部分はとくに、行政や政治家のみなさんに読んで欲しいなあと思うのですが、かすりもしないから今の悲惨な現状があるわけで・・・。
なかなか難しいですね。
優しい言葉遣いと暖かくて可愛らしい挿絵についつい大人は油断しがちですが、けっこう端々にスパイスが利いているのが加古さんの作品の特徴だと思います。
子供の頃は純粋に楽しむだけで十分。
ついでに世の中の事を自然と覚えていくことでしょう。
大人になってからは、ハンマーで殴られたような衝撃を受けつつ、かこワールドにどっぷり浸かってください。
文章を綴れるのも、読んで楽しめるのも、人間ならではの能力で、権利でもあります。
たった一冊の本が、新たな世界へ連れて行ってくれることもあります。
だからとりあえず。
あなたの目に留まったその本を、今は開いてみませんか。
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