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スピンオフ
聖なる夜に-2-(本間、篠原、佐古)
しおりを挟むふと目を開くと、カーテンの隙間から朝の光りがさしていた。
頬の下には、細い肩。
見上げるとそこには、幾分幼い顔をして眠る本間奈津美がいた。
両腕を回して抱きしめられた状態で眠ってしまったらしい。
こんなに深く眠ったのは久しぶりだ。
身体の中が、どこかすっきりとしていた。
ゆっくりと腕を解いてそっと起き上がると、彼女もゆっくりと目を開けた。
「・・・ん?さこさん・・・?」
まだ、とても眠そうな声だ。
彼女はここに来るために色々用意して、疲れがまだとれていないだろう。
「まだ寝てて。早いから」
「う・・・ん」
僅かに身じろぎをすると、そのまますーっと眠りへ戻っていった。
あどけない顔。
乱れかかる髪を直したあと、布団を肩まで引き上げてやり、寝室を後にした。
リビングへ出て壁に掛かる時計を見ると八時をいくぶん過ぎていた。
カーテンを開けると、空は晴れ渡り、日差しもだいぶ強くなっている。
街路樹にとまって鳴く野鳥を眺めているうちに、ふと視線を下の車道に向けた。
このあたりでは見かけない、しかし、見覚えのある高級車が停まっている。
運転席は見えづらいが、そこにいるのはおそらく自分の予想通りの人だろう。
携帯電話を取りだし、一瞬迷ったが通話ボタンを押す。
「・・・あ、もしもし。起きてた?早くに悪いけど教えてくれないかな、徹」
こんなに、自分が考えなしとは思わなかった。
フロントガラスの前にはしゃれた街路樹が広がる。
時折、野鳥たちが楽しげにツピツピと鳴き交わしているのが聞こえるが、どこにいるのかよくわからない。
ぼんやりと座ったまま前を向いていると、窓ガラスをこつんと叩かれた。
振り向くと、憎らしくなるほど甘い美貌の男が、艶やかな髪をさらりとかき上げて立っていた。
初めて会った時から、この男からただよう、甘さと柔らかさが嫌いだ。
窓を開けろとゼスチャーされて、仕方なくウインドーを下げた。
「なにしてんの、こんな所で」
解りきっているくせに、答えを求めるところも嫌いだ。
「・・・行きは断られましたが、帰りなら良いかと思って」
「なるほど。でも、まだなっちゃん寝てるけど?」
そんなことをわざわざ言いに来たのも頭に来る。
「・・・なら、待ちます」
「さっきの様子だと、まだしばらくは無理だよ。それに、ここにアンタがいると物凄く目立つんだよね」
実は、ここに停車してからおよそ1時間。
道行く人たちが時々不審そうな目を投げかけていた。
ぐうの音も出ない。
「それは・・・。失礼しました。このあたりに詳しくなくて」
唇を引き結ぶと、頭上からはーっとため息が落ちた。
「・・・ま、いいでしょ。降参」
コートに両手を突っ込んだまま、ブーツの踵を鳴らしながら、さっと前を横切り、助手席のドアを開けて滑り込む。
「この道、まっすぐ行って次の信号を右に行って」
シートベルトを装着しながら顎で示された。
「・・・は?」
「ここから一五分くらい行った山の手に、幻の名店と言われるパン屋があるから」
ほら、さっさと出る。
促されて、ドライブにギアを入れる。
「・・・で?」
「パンくらい手土産にしないと、参加できないでしょ、俺たちの朝食会」
にっこりと、綺麗に笑う。
朝日がスポットライトのように白い顔を照らし、彼の完璧な笑顔をより美しく演出した。
「・・・まっすぐ行って、右ですか」
これは慈悲なのか好意なのか。
とりあえず、彼らの食卓に招き入れてくれることだけは理解できた。
「そう。それからしばらく道沿いに行って」
「承知しました」
なめらかな動きで車が進む。
なかなか、快適ではないか。
ふっと、腹の底から暖かな笑いがこみ上げてきた。
クリスマスを、祝おう。
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