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人の尊厳を奪う行為というのはいくつかあるけど、そういった行為はどれも等しく残酷だ。
嗜虐思考の強いDomほど、徹底的に尊厳を奪うことに拘る。単純なSMならばいいけれど、俺だって「やり過ぎだろ!!」と怒鳴り散らかしたくなることはある。
金曜日、今週最後の仕事の夜。
予定していた相手は、今回で三回目の若いDomだ。長くこんな仕事をしているけれど、未だにご新規様から連絡がくることもある。そして、何回かはリピートしてくれる。とてもありがたい。
俺はまず最初に金額の話をする。高額を承知で連絡してきてくれるのは嬉しい。最低ラインと相場を提示しても引かず、そのまま予約してくれるとこちらも楽でいい。
そうして待ち合わせのホテルで、時間通りに落ち合う。三度目のその彼は、若手起業家とか言っていた。だから本当に金払いはよかった。
二度のplayでも彼は優しかった。ちょっと物足りないな、なんて思ったくらいだ。でもちゃんと褒めてくれるし、気持ち良くもしてくれた。終わった後に体が辛くなることもなかった。
そう、完全に油断していた。
ホテルの指定された部屋に入ると、突然後ろからのしかかられて、あっという間に組み伏せられてしまった。別にそんな乱暴なことをしなくたって、Commandを言えば俺は動けなくなるのに。
大した抵抗もせず、相手がどうしたいのかわからないので様子を伺っていると、今日の相手はニヤニヤと笑いながらベッドに腰掛けていた。
「ケイくん、急で悪いんだけど、オレのnormalの友達がさ、Subがどんだけ淫乱で変態でゴミか見てみたいんだって」
意図がわかった瞬間、本気で逃げようと思った。が、どれだけ暴れても、背中に乗っているヤツを振り払えない。
「ほら、そういうSubのAVもあるじゃん。お前みたいなSubが犬みたいによがり狂ってるところをさ、実際に見たいって言うから招待してやったんだ」
室内には、Domの男の側にもうひとりnormalの男がいる。俺の上に乗っているヤツを入れると三人。
やられた、と思ったけど手遅れだ。たまにこういうイレギュラーはあるけれど、最近は付き合いが長い相手が多かったために油断していた。
背中の男がいそいそと俺の服を脱がしにかかる。だけど、それをDomの男が止めた。
「わざわざ脱がしてやらなくても、ケイくんは自分でできるよな?」
Stripと、Commandが耳に届いた瞬間、抗い難い欲求に駆られる。はぁはぁと熱い吐息を漏らして、躊躇いなく衣服を全て脱いでいく。
そんな俺を見て、normalの二人が下劣な笑い声をあげる。
「意味わかんねぇ。そんなことして恥ずかしくないのかよ」
「しかもちょっと勃ってるし」
ありえねぇとかバカにしてるけど、お前たちにこの屈辱と、それでも従うことで得られる強烈な快楽はわからない。
Subなんて、本当にクソだ。
「健気で可愛いだろ?」
続いてCrawl、Presentと立て続けに恥ずかしいCommandを投げつけてくる。
俺は歯を食いしばってCommandに従った。彼らに背を向けて床に両膝と片手をつき、空いた手で後ろの恥ずかしいところを見せる。
羞恥心の強いCommandに連続して従ったのに、Domの男は一切褒めてはくれなかった。むしろ友人達と一緒になって、淫乱犬だとかクソビッチだと言って笑っている。
こんなのはplayとは言わない!!マナーが悪すぎる!!
「も、やめて……」
か細く絞り出した言葉に、相手は鼻で笑って答える。
「NGなしだろ。高い金払うのはこっちなんだぜ」
言い返せる言葉がなかった。俺が何も言えずにいると、三人が近付いてきていきなり尻をぶっ叩いた。
「口答えしたお仕置きな」
「ごめっ、ひぎっ!!」
パシンと肌が裂けるような強烈な音がした。あまりの痛みに息をするのを忘れる。さらに数回、強烈な痛みが走った。視界の隅を過ったのは、ベルトだ。
「おい、やりすぎなんじゃねぇ?」
「平気だろ。コイツ、こういうの一切拒否なしで有名だから」
話す声がボヤけて聞こえた。五感が狂って痛みしかわからなくなったみたいだ。
そうして何度もベルトを打ち下ろして気が済んだのか、誰かの手が腰に触れる。引っ張られるようにして四つん這いになると、後ろに硬くて粘ついたものがあてがわれるのがわかった。
「んぐ、ぅ、ああっ!!」
無理矢理捩じ込まれ、鋭い痛みが下半身に広がっていく。声にならない苦痛が喉から漏れ出て、それさえも彼らにとっては興奮剤になるようだった。
代わる代わる好き勝手に弄ばれ、少しでも抵抗しようとするとCommandが飛んできて動けなくされる。
一生分の命令に従ったんじゃないかと思うくらいだ。抗う術のない俺は、ただ拳を握りしめ、歯を食いしばって耐えるしかなかった。
気を失いそうになると蹴りや拳が容赦なく飛んでくる。頭の中がぐちゃぐちゃになって、そのうち痛みすら感じなくなった。
そうして、どれくらい時間が経ったかわからないが、目が覚めた時には、部屋にひとりきりだった。
安っぽい絨毯の床の上で、痛む体を労りながら身を起こす。目の前に、まるで価値のないもののように金が散らばっている。
酷く寒かった。空調が行き届いているはずの室内にいるのに、芯から凍えるような寒さを感じる。
全身が軋むように痛い。特に押さえつけられていた股関節が悲鳴を上げていて、立ち上がるまでに時間を要した。やっとの思いで歩き出し、半ば足を引き摺るようにして浴室へ向かう。
鏡に写った自分の姿は、とても痛々しいものだった。
何度もベルトで叩かれたために、皮膚が裂け、乾いた血がこびりついている。明らかに暴力を振るわれたとわかるアザがあちこちにあって、頬は赤く腫れ、唇が切れている。
弟たちに心配させてしまう。
一番に脳裏をよぎったのは弟たちことだった。
それから、足の間を伝う不快な感触が、これが現実なんだと知らしめてくるようで。
腹の中のモヤモヤしたものが急に競り上がってきて、洗面台に両手を付いて吐いた。何度も、何度も。
でもいくら吐いたって気持ち悪さは消えない。頭の中で誰かがシンバルでも打ち鳴らしているような激しい頭痛と、世界と切り離されてしまったような漠然とした不安感が襲ってくる。
Sub dropという言葉が浮かんだ。ちゃんと褒めてもらえなかったり、アフターケアをしてもらえなかかった時にSubが陥る不安定な状態のことだ。
でも俺は、今までSub dropに陥ったことはなかった。どんな相手であっても耐えてこられた。
大丈夫、大丈夫。俺はよく頑張った。ちゃんとできた。だから、お金だって払ってくれた。
そうやっていつも乗り越えて来られた。今回だってそう。運が悪かった。ウリを始めたころなんて散々な目にあっただろう?最近は良い人ばかりと会っていたから、 ちょっと忘れていただけだ。
失敗は次に活かせば良い。
そう、思うのに。
溢れてくる涙は止められなかった。
ズルズルとその場に座り込み、ひとしきり泣いた。
褒めてもらえなかった。Subとして、ちゃんとできなかったということだ。そんな自分に、価値なんてない。
でも、俺がいなくなったら、弟たちはどうなる?誰が世話してやる?葉一はしっかりしてるけど、まだ成人もしてない。香奈もよく頑張ってるけどまだ高校生だ。真梨の中学校の制服も買ってやらなきゃいけないし、海斗には大人が近くにいてやらないと。
そんなことを考えると、不思議と力が湧いてきた。
まだ、まだ頑張れる。
ふと、高城さんが言っていた言葉が過った。
この容姿であることも、Subであることも、ただの個性だ。個性なんかに負けてたまるか。
涙を拭う。立ち上がって、風呂場へ向かう。熱いシャワーを浴びてなんとか気持ちを切り替える。
服を着て、床に散らばった金を集めた。かなりの額だ。
大丈夫、大丈夫。
俺は必死に、自分自身に言い聞かせた。
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