【本編完結】【BL】愛を知るまで【Dom/Sub】

しーやん

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 結局、海斗に手を引かれるまま、高城さんと店内を回ることになった。

「高城さんはなんでこんなところにいるんですか?」

 おもちゃ売り場で、海斗が自分のクリスマスプレゼントを選んでいる間に聞いてみる。別にどうでもいいのだけど、会話をしていないと間が持たない。

「君と同じ理由だよ。今度食事をする女性にクリスマスプレゼントを買おうと思ってね」

 なんだかイラッとする発言だ。暗に自分がモテているとでも言いたいのかよ。

「そうですか。モテる人は大変そうですね」

 俺には関係ないけど、と心の中で付け足す。

「あははっ、彼女じゃないよ?敏雄の奥さんだよ」
「どうでもいいです」
「可愛いなぁ恵介くんは」
「うるさい!」

 絶妙にイラっとする。この前はたかが風邪で死にそうになってたのに。あの時の弱った高城さんは、ちょっと可愛かったのにな。

「兄ちゃん、ぼくのはきまったよ!まりちゃんのゲームは?」

 海斗が流行りの戦隊モノのおもちゃを手に戻ってきた。

「ちょっと待ってね」

 ゲームコーナーへ向かうと、最新型のゲーム機が大々的に売り出されていた。クリスマス特価、なんて書いてあるけれど、どれも数万円する。ソフトもいることを考えるとなかなか決断できない。

「最近のゲーム機はすごいね。昔なんて白黒の小さな画面だった」
「おじさんかよ」
「残念だけど、海斗くんからしたらとてもおじさんだよ」
「確かに」

 俺だって海斗からすればおじさんという年齢だ。そう思うと悲しくなる。

「買うの?」
「うーん、ちょっと悩んでる……こういうの、今まで欲しがらなかったんだけど、やっぱり我慢してたんだよな」

 自分がこういうおもちゃで遊んだことがないからか、その楽しさもよくわからない。

「よし、僕のおすすめはこれだね。あ、でも真梨ちゃんくらいの子にはこれがいいんじゃないかな」
「ちょっと!勝手に決めんなよ!」
「この際だから恵介くんもやってみたら?大人数でできるものもあるよ」

 そう言って、最新の人気ゲーム機本体とソフトをいくつか手に、高城さんがレジへ向かう。途中で別売りのコントローラーを追加した。

「ねぇ!そんなに買えないよ!」
「僕が出すよ。真梨ちゃんへのクリスマスプレゼントなんだから、君は口出ししないで」

 なんて横暴な!これだからDomは嫌いだ。

 なんの躊躇いもなく、高城さんは高価なゲーム機と海斗のおもちゃまで支払いを済ませた。それらを入れた紙袋を手に、次は葉一くんと香奈ちゃんの分を選ぼうね、と海斗を連れて行ってしまう。

 胸が痛い。あの人は俺を心労で殺す気かもしれない。

 慌てて二人を追いかける。

 昼頃には買い物を終えることができた。高城さんには金銭感覚というものがないようで、いちいち高価なものを選ぼうとするので、途中から本気でイライラした。

 実は音楽を聴くのが好きな葉一にはワイヤレスイヤホンを、香奈には高城さんの提案でいくつかコスメを買った。どれも結局、高城さんが全て支払った。

 高城さんは敏雄さんの奥さんへのプレゼントに、品のいい香りの香水を買った。女性へのプレゼントを簡単に選べる高城さんは、なんとも頼もしくてカッコいい。彼がいなければ、香奈へのプレゼントを選べず途方に暮れているところだ。

「そうだ、ついでに昼食を食べて行こうか。海斗くんは何が食べたい?」

 俺が止める間も無く、海斗が嬉々として答える。

「ハンバーグがいい!!」
「了解!」

 もう、好きなようにしてくれ。そんな諦めが胸を支配する。

 洋食レストランへ入り、案内された席に座る。海斗は子ども用のハンバーグプレートを、俺はカルボナーラ、高城さんはハンバーグのランチセットを注文した。

「葉一くんから聞いたよ。最近は辞めてるんだって」

 それがなんのことかはすぐにわかる。

「うん。ハローワークに行ったり、無料の求人誌見たりしてる。でもやっぱ、俺にはできそうにないよ」
「諦めちゃダメだ。君は自分で自分を変えようと頑張ってる。なかなかできることじゃないよ」
「そうかな……」

 ふとした時に、もう考えるのも行動するのもやめてしまおうと思うことがある。中卒で自慢できる職歴もない。さらには体を売って生きてきたSubの俺を、誰が雇おうと思う?

「パートナー、まだみつかってないみたいだね」
「うん……それもどうしていいかわからない」
「また頭痛がするんじゃない?眠れてないでしょ」
「……うん」

 高城さんの心配そうな声に恥ずかしくなる。欲求不満なのが、見た目にはっきりわかるということだ。

「僕でよかったら、」

 と高城さんが言いかけた時、ちょうど料理が運ばれてきた。俺は、これ幸いと、聞こえなかったフリをして、海斗のために子ども用のスプーンとフォークを用意する。

 僕でよかったら、なんだ?パートナーの真似事をしてあげよう、とでも?そんなお情けなんかいらない。

 どこまで世話焼きでお節介なんだ。俺がそんなに哀れに見えるのか。そんな、金にもならない同情で触れられるくらいなら、今まで通り踏み躙られながら金を稼ぐ方がマシだ。

 その結果、Sub dropに陥って迷惑をかけてしまったけど、今度はそんなことにならないように気をつける。

 いや、多分、こういう考えがダメなんだろうな。

 最初から諦めてしまうクセがついてしまっている。潔さは最初の頃こそ役に立ったが、今となっては裏目に出ている。

 こんなに良くしてくれる高城さんを、これ以上ガッカリさせたくない。仕事のこともそうだけど、それ以上にSubの本能に乱れる自分の醜い姿なんて見て欲しくない。きっと幻滅するだろうから。

 なんだか、俺は高城さんに嫌われたくないみたいだ。

 仮でもパートナーになんて絶対なりたくないし、いつも強引でお節介なこの人が嫌いなのに、これ以上迷惑かけたくない、頑張ってるところを褒めて欲しいなんて、まるで嫌われないように見栄を張っている気がしてくる。

 こんな感情知らない。よくわからなくてイライラする。

 高城さんとの昼食は、他愛のない会話をして終わった。

 昼食後、高城さんが寄りたい店があると言ったので着いていくと、ファッション小物がメインの小さなショップに辿り着く。

「何買うのー?」
「うーん、迷ってるんだけど、海斗くんも選ぶの手伝ってくれる?」
「いいよ!」

 もはや親子のように、高城さんと海斗が連れ立って行ってしまうので、俺は近くのベンチに腰を下ろした。

 体調の悪さは慢性的に感じているので、慣れてしまっているところもあるが、こうして長時間歩いていると少しキツい。

 こんな時に、敏雄さんが言うように誰かが突然Commandを言ったら……なんて考えて、急に目の前が真っ白になった。ショッピングモールの中にこれだけ人がいたら、何人かは第二性を持っているだろう。隣に座っている人がDomかもしれない。目の前を通り過ぎていくあの人もそうかも。

 手が震える。膝に力が入らなくて、逃げ出したくてもできなかった。呼吸がままならなくて、だんだん息苦しくなってくる。

 座っていられない、と思った。

「恵介くん!!大丈夫、こっちを見て。落ち着いて、ゆっくり息を吐いて。そう、上手にできてるよ」

 いつかのように、高城さんが俺の両頬を挟んでいた。ブルブル震える手で、高城さんの腕を掴む。視線を合わせていると、次第に呼吸が落ち着いてきた。

「はぁ、はぁ……高城さん……」
「もう大丈夫だよ。どうした?何か怖いことでもあったかな?」

 子どもをあやすような言葉にも、不思議と苛立ちはなかった。ただ、声を出すことができず、掴んだ腕をなかなか離せなかった。

「帰ろうか」

 高城さんがそう言い、俺の右手を左手で掴んだ。安心させるようにギュッと握ってくれる。俺も握り返した。反対の手を海斗が繋いできて、初めて真ん中の気分を味わった。

 そのままショッピングモールを出て駅を目指す。日差しのない冬の空と冷たい風のせいでとても寒かった。ブルブルと身震いをしていると、高城さんが急に立ち止まった。

「恵介くん、君、前にも思ったけど薄着すぎない?」
「え?」

 そうかな?と自分の格好を見下ろす。ハイネックのセーターと普通にコートを着ている。

「海斗くんには厚着させておいて、自分のことは後回しにしてるでしょう」
「まあ、そりゃ子どもに寒い思いはさせたくないし」

 下の子の用意をするのに慌ただしく、ついうっかりコートを着るのを忘れる、なんてことは確かにある。呆れた葉一が着せてくれるまで気付かない、なんてことも。

 でも今日は別に、何も忘れてない、はず。

「風邪を引いたら大変だよ。明後日のクリスマスは雪が降るらしい」

 そう言って、高城さんが最後に寄ったファッション小物の店の袋から、真っ赤な毛糸のマフラーを出す。

「僕からのクリスマスプレゼントね。海斗くんに選ぶのを手伝ってもらったんだ」
「俺に?そんなの、別に」

 いらないのに、とは言えなかった。だって嬉しかったから。家族以外に何かを貰ったのは、実は初めてだったのだ。

 ニッコリ笑顔の高城さんが、自然な動きでマフラーを巻いてくれる。暖かい。それにフワフワしてて肌感触がいい。

「君の玉のように白く美しい肌には、鮮やかな赤がとても似合うね。柄物にしなくてよかったよ。シンプルなデザインがより君の小さくて形のいい顔を引き立ててくれる」

 などと歯の浮くような言葉を垂れ流し、うっとりした目で見つめてくる。

「……寒いし臭いしキモいよ」
「いつもの辛辣な君が戻って来て嬉しいよ」

 はっはっは、と笑って、また歩き出す。俺は海斗の手を引いて、また三人並んで歩く。

「……ありがと」
「どういたしまして」

 照れ隠しの小さな感謝の言葉しかいえなかった。でも、高城さんにはちゃんと聞こえていて、それがまた恥ずかしくて俯いた。

 無事に家まで帰りつくと、高城さんがいつも通りお節介を発動。

「本当に大丈夫?体調が悪くなったら、絶対に連絡してね?」
「わかった、わかった!」
「本当に?約束だよ?」

 ショッピングモールでのこともある。高城さんがいなければ、あのまま倒れていた。

「約束するよ」
「絶対だよ!?」
「わかったって!もう、うるさい!!」

 いっときの感謝なんて吹き飛ぶくらいにしつこい。が、また迷惑をかけてしまったというのに、俺はなんて恩知らずな言い方しかできないんだろう。自分のガキっぽさに嫌気がさす。

 名残惜しそうに帰って行く高城さんの姿が見えなくなってから家に入る。

 初めてもらったプレゼントに、自然とニヤニヤ笑いをうかべてしまう。

 どうしよう。めちゃくちゃ嬉しい。

 折り畳んだマフラーを胸にだきながら、俺も何か、あの人に返したいな、なんてらしくないことを考えた。
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