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 もう何度目かわからないけど、俺はヴラドレンに何度も何度も体を蹂躙されて、その度に血反吐を吐いて耐えた。

 でもそれも、慣れてくるとちゃんと受け入れることができるようになる。これは前回もそうだった。

 その日もヴラドレンは俺の前にやって来て、規格外のそれを口に突っ込んできた。

 必死に吐き気を堪えて、軌道を圧迫する熱いものを飲み込み、食道にまで達したそれを必死で受け入れた。

「ぅ、ガハッ、は、はぁ……ゲホッ!」

 ドクっと一度脈撃ち、大量の白濁を流し込まれて咽せる。でもそんな苦しげな俺を、ヴラドレンは不敵な笑みを浮かべて見下ろしていた。

「だいぶ慣れて来たな。ベルセリウスの第三子として悪名高いくせに、小柄で華奢で可愛らしいな。そんなところが好ましい」

 ふと、そこで思った。

「お、俺を買ったのって、結局何故なんだ…?」

 カイリやその仲間の孤児院の連中が俺を恨んでいるのはわかる。そしてその孤児院の運営に関わるヴラドレンとのつながりもわかる。

 でも、俺を買うことでヴラドレンは何故、ジークの負債を相殺してもいいと思ったのかがきになった。

「ああ、それはただの好奇心と趣味の問題だ。オレはこの通りアレがデカくて人間も同族も受け入れてもらえなかった。そんな時に、とあるパーティーでお前の存在を知った。吸血鬼たちに恐れられるベルセリウスの第三子。しかし実際は、無骨な男でもなんでもない実に華麗な姿をしていた。オレはそれが気になって、自分のものにしたくなった。吸血鬼なら、どれだけ壊しても回復するしな」

 なんて自分勝手なんだろうか。

「自分の息のかかった孤児院に、俺に恨みがあるやつが多くいた。だからカイリたちを利用したんだな……やっと繋がったよ。共感はできないけど」

 そう言うと、ヴラドレンはニッと笑った。

「そういうことだ。さ、そんな話はもうどうでもいいだろう。お前はもうここから出ることもないからな」

 ヴラドレンが俺の上にのしかかる。俺はその、狂気に満ちた顔を見上げながら、尻に入ってくる暴力的な塊を受け入れる。

 手足が小刻みに震える。それは痛みか、期待か、もうわからない。

 それで、しばし侵入に耐えると、全てを持っていかれるような快感が下肢に蓄積する。

 ヴラドレンを受け入れられるほど慣らされると、逆にこの大きさが快楽の全てに変わってしまう。

「ハッ、あああ!!ぅぐっ、あ、あたってるっ!ぎもぢいいとこ、ふああっ!!」
「お前は可愛いな。オレを受け入れても平気なのはお前くらいだ。あとは気がふれるか死んでしまったからな」

 ブシュッと、俺のものが液体を噴射する。その快感に頭がおかしくなりそうだ。

「ヒッ、ひぁああっ!!あ、あのねっ、そこ、擦って!!アンっ、きもち、い、よぉ!!はぁ、はっ!?あああっ、ダメ、浅いとこ、おかしくなっちゃ……うあああっ!!」

 ビュクッと精液がはしたなく飛び出る。その余韻にしばし震えて、ヴラドレンに翻弄さらている間に、俺はまた意識を失った。

「ルナ……悪い。おれのせいだな」

 そんな声に目を開けると、灯がすぐそばにいて、俺の髪に指を絡ませていた。

 窓の外からは夕陽が差し込んでいる。

「あの、灯、違う……俺、俺は、浮気してないよっ!?あのね、こんな、気持ちいいの……も、やめられないよ……」

 もう自分が何を言っているのかもわからなかったが、多分言わなくていいことを言っていると、自覚はあった。

「ルナ、違う。お前は何も悪くないし、悪いのはおれだから、だから、せめておれの血を飲んでくれ。じゃないとお前が弱ってしまう」
「ん…?血を、飲んでもいいの…?前はね、お、お利口にしてないと、貰えなかったの……」
「そうか。でも今はお利口だろう?お前はだれよりも優しくて良い子なんだ」

 俺は褒められて嬉しくて、灯が差し出した手に、その親指の付け根のところに牙を立てた。

 しばらくその血を飲んで、それで、俺はまた正気を取り戻した。

「っ、ごめん!灯、大丈夫か?俺、多分お前の血をたくさんもらってるよな?」

 こうして正気に戻るたびに、灯の血の味を感じるのだ。俺はまた、意識がないままに灯の血をもらってしまった。

 灯は青い顔をしていた。俺が血をもらいすぎているのだ。

 俺がこうなって、逃げられないとわかってから、灯はこの部屋の中を自由に動き回れるようになった。

 もちろんすぐ外にはカイリやもうひとりのハーフのやつがいて、とうてい灯ひとりでは逃げることもできないからだ。

 だから灯が割と不自由なく生活しているのは知っていた。

「おれは平気だ。でも、ルナは……」
「俺も……大丈夫、だから。あ、あのね、だから、俺のこと、嫌いにならないでね……」

 そう言って、一筋流れた涙は、後から後から流れ出て来て、もう自分の意思ではとめられなくなってしまった。

 ヴラドレンに打ち勝つことができない自分の意思も、弱さも、全て灯を傷つけている。わかっていてもどうしようもなかった。

「灯、ごめんね……俺が弱いからだ……本当に、」

 ごめん、と言おうとした俺の口を、灯がそっと塞いでしまった。

「ん……ふぁ、あ」

 たまらず喘ぐ俺に、唇を離した灯は言った。

「大丈夫だから。お前は、変わらずおれの大事な人だ。生きるのも死ぬのも、共にしたいのはお前だけだから」

 すぐに泣いてしまう俺に、灯は大丈夫だと言って頭を撫で続けてくれた。

 そんな地獄のような日々は、唐突に終わりを告げる。

 その時俺は、いつものようにヴラドレンに体を弄ばれ、朦朧とした意識の中で、珍しくカイリともうひとりのハーフの奴が部屋にいるのを見ていた。

 ヴラドレンが容赦なく俺の中で欲を吐き出し、俺はまた快楽にブルブルと震えながらあらぬ方をみていたのだけど、その時、ヴラドレンが言ったのだ。

「そういえば、お前を捕えるのに奮闘してくれたカイリたちに復讐する機会を与えていなかったと思ってな」

 俺は揺れる視界の中で、か細い呼吸を繰り返しながら、ヴラドレンの言葉を理解しようとした。

 何かに気付いた灯が、やめろ!と叫んだ。

 そんな灯を見やって、カイリともうひとりが近付いてきたことに気付く。

「さて、今日はもう、お前たちの好きなようにするといい。オレはここで見ているからな」

 そう言って、ヴラドレンは灯のそばへと足を向けて、徐に立ち止まってこちらを見た。

 何が起こるのかわからず、俺はカイリたちを見た。カイリは手に小型のナイフを持っていた。

「前に言ったよね?僕の母は、自分で自分の両目をくり抜いたんだ……でも、両目を抉ってしまったら、これから起こることを見られないからさ、片方だけにしてあげるね」

 そう言うと、無邪気な笑顔を浮かべてナイフを振り上げ、それを俺の右目に突き刺した。

「ぅ、がっ、あああっ」

 神経を焼くような鋭い痛みが顔面の半分を覆った。長く生きてきた俺だけど、こんな痛みを味わったのは初めてだった。

「ひ、ぁ……はぁ、うぐっ、はぁ、はぁ……」

 呻きながら顔を手で覆った。生暖かい血が両手と顔を覆って流れる。

「ルナ!!」

 灯が俺を呼んでる。でも、そちらへ顔を向ける元気もない。

 しばらく痛みに呻いて、やっとそれが落ち着いた時、今度はもうひとりのハーフの奴が言ったのだ。

「ボクの親の話もしましたよね?高いところから落ちて、平気でいられるわけがない。そこにトドメを刺したのはあんただった。あんたも同じ目にあわせてやろうか?」

 そう言って、俺の右腕を掴んだ。

 アハハッと狂った笑い声をあげて、俺の、持ち上げた腕を思いっきり踏み抜いた。

 バキッと、太い木の枝が折れるような音がした。あまりの激痛に、俺は歯を食いしばって震えた。

「こんなもんじゃなかったんだ。ボクの母はさ、もっとぐちゃぐちゃになってた。それでも意識があって、必死に命乞いしてた。でもあんたなんて言ったか覚えてる?俺には関係ない、って、それだけだった。そんな簡単な言葉で、あんたは殺したんだ。ボクの親を、なんの感情もなければ覚えてもいないのに」

 それから、そいつは俺の、折れた腕を執拗に踏み続けた。肘の辺りから歪に折れた骨が突き出しているのは見えた。

 それでも死ぬことはないのだ。吸血鬼だから。なんて残酷なんだろう。でも俺も、誰かを、誰かの親や子を残酷に殺してきた。これはその報いなのかもしれない。

「あんたの目の前で、あんたの大事な人間を殺してやろうか?それならあんたにもぼくらの気持ちがわかる?ぼくらは生きながらに地獄を見てる。でもあんたは他人を地獄に突き落として、自分は何不自由なく裕福な暮らしをしている。そんなの不公平だろう?あんたも大切なものを失くせばいいんだ」
「や、ダメだ!!それだけはやめてくれ……俺は、俺のことはお前らの好きにすればいい。ほら、俺は死なないから。満足するまでいたぶってもいい……でも灯には手を出さないでくれ!!」

 そうやって無様に懇願した。すがりついて、泣き喚いて。

 カイリはニヤニヤと笑って、また俺にナイフを突きつけた。

「あんたが一番痛いのはどこ?大丈夫、簡単に殺しはしないから……で、この前はさ、小腸とか大腸とか、引き摺り出されても笑ってたでしょ?今度はどこを引っ張り出そうか?」
「あ、ああ、やっ、ダメだ!あんなの、何度もは耐えられない!!」
「じゃあ灯先輩に同じことをしようかな?そしたら、死んじゃうけどね」

 俺は黙った。それが意思表示になるだろうと思って。

 カイリは笑ってた。手にしたナイフを、俺の腹にそっと押し当てる。

 ツーッと赤い線が走る。はあはあと食いしばった歯の隙間から呼吸が漏れた。もうすぐもたらされる苦痛を、俺はすでに知っていたから。

 グズ、と差し込まれたナイフの冷たさと、すぐにやってきた熱い痛みに、俺は手足を震わせてもがいた。

「っ、あああっ!!ぐ、ぅぁ、ハッ、ハッ」

 もうダメだ。俺は今度こそ正気でいられない。あんなの二度も耐えられない。もうここから出られないのなら、いっそのこと狂ってしまった方が楽だ。

 そうやって諦めると、全てがどうでも良くなった。

 俺は笑ってた。

 気が付いたら、ゲラゲラとなんでか笑っていた。
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