【BL】どっちかなんて言わないで【Dom/sub】

しーやん

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 その日の夜は珍しく、二人揃って帰宅してきた。

「おかえり」
「ただいま、侑李!会いたかったよ!」

 ソファに座る俺に駆け寄ってくるなり頬を摺り寄せ、抱き締めてくる輝利哉に呆れつつ、背中に腕を回して応える。

「お腹すいたよね?すぐ何か作るよ」

 一通りのスキンシップを終えた輝利哉は、鼻歌混じりにキッチンへ向かっていく。入れ替わりで朔がやって来て隣に座った。

「すまないな、迎えに行けなくて。何もなかったか?」
「うん、問題ないよ!っていうかさ、大学から帰ってくるくらい俺にもできるよ。子どもじゃないんだからさ」
「お前はガキだろ。いつまでも落ち着きがないし、甘えん坊だ」
「その上寂しがり屋だよねぇ」

 と、キッチンから輝利哉が口を挟んできた。

「はいはいもう子どもでいいです。それよりさ、明紀さん元気?」
「明紀?さあ、知らないけど」

 輝利哉は首を傾げて答える。鍋を取り出して水を入れ、それをコンロの上に置いた。

「明紀は今海外出張中だ。土産がどうとかで連絡があった」
「朔も明紀さんと知り合いなの?」
「大学の同期だ。輝利哉と同じ経済学部だった」
「へぇ、そうなんだ」

 明紀さんは俺のパパ活相手だったけれど、輝利哉と再会して以来会っていない。

「どうして急に明紀のこと気になったの?」

 料理をしながらも、若干不機嫌そうに輝利哉が言う。

「なんとなくだよ。ほら、俺明紀さんに散々貢いで貰ってたから、元気かなって気になって」
「また明紀に貢がせる気?そんなの許さないよ。もう他の人に手を出したらダメだからね!」
「もうしないよ!」

 風呂行ってくる、とソファから立ち上がり、そのままリビングを出た。ドアの横の壁にもたれて立ち、すりガラスに映らないように気をつけながら聞き耳を立てる。

 俺がいない間に、何か重要なことを話すんじゃないか、なんて思ったのだ。明紀さんの話題をふったのもその為だ。

 まあそんな上手い話はないだろうな、と思ってはいたが、どうやら直前の話題が功を奏したようだ。かすかだけど、ふたりの会話が聞こえてきた。

「侑李は気付いてないよ。常にオレたちのどっちかがそばに居るし」
「大学で関わりがあるのも、倉持葉一という三年だけだ。彼は普通の学生だ。特に気になることはなかった。彼を通じて暴行事件を知ることはないだろうな」

 しばしの沈黙。俺は自分の心臓が爆発しそうなほど鼓動を打っているのを感じていた。

 葉一先輩のこと調べたのか?なんでそこまでする必要がある?

「早くどっちか選んでくれないかな。いつまでもこのままってわけにはいかない……朔、もし侑李が朔を選んだらさ、ちゃんと幸せにしてあげてね」
「それはこっちのセリフだ。今のところお前を選ぶ可能性の方が高いだろ。経済的にもお前が有利だし飯も美味い。おれの利点は、お前より強いことくらいだ」

 まるでお通夜みたいな雰囲気だった。明るく振る舞っているけれど、どこかふたりの声には痛々しいものがあった。

「覚悟はできてるんだけどね……でも、オレは今のままの生活が続いて欲しい。侑李だけじゃなくて、朔もそばにいて欲しい」
「……わかってる。おれもそうしたい。でもあの人は何度でも向かって来る。どちらかが決着をつけなければ、侑李に未来はない」
「そうだね。あー、金ならいくらでも払ってやるのにな。ちまちまと侵入して盗むんじゃなくてさ、昔みたいに直接要求してくれれば、こっちも余計な仕事しなくてすむのにねぇ」
「今日で四件目か。おれの仕事まで増えて困る」
「ホント地味な嫌がらせだよね。まああの人らしいけど」

 それっきり、ふたりの会話は終わった。

 俺はそっとその場を離れ、風呂場へ向かう。手が震えていた。バカな俺だけど、“あの人”が誰のことかぐらいわかる。

 光貴だ。生きていたんだ。そして、輝利哉も朔も光貴に嫌がらせされてる。

 俺が偶然であった窃盗犯は、光貴に命令されたか、金で依頼されたものだったんだ。長谷の言っていた暴行事件も、きっと光貴の嫌がらせの一環に違いない。

 なぜ急に疎遠だった幼馴染がふたりして会いに来たのか。

 家に囲って毎日べったりなのは、光貴から守るためだったのだ。

 でも決着をつけるってなんだろう?それこそ光貴は何度でも湧いてくるウジみたいなヤツだ。異常なまでにしつこく付き纏ってくる。

 付き纏われた人間は必ず破滅する。それを見て喜ぶのが兄なのだ。一度でも目を付けられたら逃げられない。だから俺は兄を刺して逃げた。殺すつもりだった。

 死んでないとわかって、心底怖くなった。きっと物凄く怒っているハズだ。捕まったら殺される。いや、死ぬよりも酷い目に遭うだろう。

 殺すしかない、と考えて、ああそういうことかと思い至る。輝利哉も朔も、光貴を殺すつもりなのだ。決着をつけるってそういうことなんだろう。

 どちらかが光貴を殺す。手を下した方とは、確実に会えなくなるだろうから、残った方が俺を幸せにする。ふたりの計画は、俺が何も知らないうちに実行され、俺はのうのうと生きていく。

 そんなの耐えられない。

 もう長谷から聞いた話なんてどうでもよかった。

 俺は確かに恐怖を感じていたし、できることならこのまま輝利哉と朔に守られて、三人で生きていきたいと思っている。

 でもそれよりも、輝利哉と朔に対して怒りを感じている。

 なんで黙ってたんだ?

 俺の問題に関わるなよ!

 どっちか選べって、理由を知った今、そんなことできるわけないじゃん!

 なんとかしなきゃ。ふたりのどちらかだって失いたくない。俺の為に自分が犠牲になればいいなんて考えてほしくない。

 守られてブルブル震えている場合じゃない。

 急いで風呂に入り、何食わぬ顔でリビングに戻る。ちょうど出来上がった料理を前に、俺はニッコリ笑ってテーブルにつく。

 具沢山のお味噌汁に、作り置きの煮物が並ぶ。輝利哉は和食も得意なのだ。三人でいただきますと手を合わせ、いつもより少し遅めの夕食が始まる。

「ね、もうすぐクリスマスだよね?俺、ふたりにクリスマスプレゼント買いたいからさ、ひとりで出かけてもいい?あとお金ちょうだい」
「お前、プレゼントが何か知ってるか?」

 バカなのか?と朔が顔を顰めた。

「だってバイトさせてくれないからお金ないんだもん。それにプレゼントは気持ちの問題だろ?」
「そうだよ朔。侑李の気持ちをバカにしたでしょ?侑李、朔はプレゼントなんかいらないんだよ。酷いねぇ」

 朔はやれやれという顔で黙って食事を続ける。

「でも、出かけるのは構わないけど心配だなぁ」
「だから!俺はガキじゃないんだって!」

 心配の理由を知った今、ただ強がっているように振る舞うのも難しかった。本気で怖いからだ。でも兄と決着をつけるのはふたりじゃない。俺がやらないと。

「心配なのはお前の貞操の問題だ。フラフラと知らんヤツについていくかもしれないだろう」
「そんなことしませーん!!」

 ムスッとして返すと、輝利哉も朔もクスクスと笑い出した。

 こんな時間が永遠に続けばいいのに。

 でもダメだ。このままでは輝利哉の店は被害を受け続けるし、最悪の場合、輝利哉と朔自身が怪我をさせられたりするかもしれない。

 幸い出かけること自体は反対されない。

 絶対に俺がなんとかしてみせる。

 次の土日にでも。いや、もうすぐ期末試験だから、試験後にでも……クリスマスは楽しみたいから、その後にでも!!
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